ドキュメンタリー映画ご紹介の第3弾です。これまで日本のドキュメンタリー『インディペンデントリビング』、シリアのドキュメンタリー『娘は戦場で生まれた』(アカデミー賞受賞はならず。残念!)をご紹介してきましたが、今回は中国の問題を取り上げたドキュメンタリー映画です。今、「武漢肺炎」(香港での通称)で大変な状況にある中国ですが、その中でも言論の自由が侵害される事件があったりと、人権が完全に守られているとは言いがたい状況であることは皆さんご承知だと思います。『馬三家からの手紙』で取り上げられた事例も、人権迫害がある奇跡的出来事で明るみに出たというケース。その当事者が強い決意でもって監督と共に作り上げた、緊迫のドキュメンタリー作品です。まずは作品のデータをどうぞ。
マサンジャ
『馬三家からの手紙』 公式サイト
2018年/カナダ/中国語・英語/76分/原題:Letter from Masanjia/中国語題:求救信
監督・製作:レオン・リー
出演:孫毅(スン・イ)、ジェリー・キース、江天勇(ジアン・ティエンユ)
配給:グループ現代
協力:タトリ・モリ エイジェンシー
※3月21日(土)新宿K's cinemaほか全国順次公開
©2018 Flying Cloud Productions, Inc.
最初に画面に登場するのは、アメリカのオレゴン州に住む主婦のジュリー・キース。彼女が子供たちとハロウィーンを祝おうと飾り付けをしていて、スーパーで買ったグッズを手に取ったら、中に押し込まれていた手紙を見つけた、というのがこの物語の発端でした。そのハロウィーン・グッズは「Made in China」。中に入っていた手紙の現物が下の写真なのですが、このテスト用紙(右下に「分数=点数」「家長签字=一家の長の署名」とあります)に英語と一部中国語で書かれた手紙は、ジュリーを驚かせるに十分な内容でした。「これをご覧になったら、どうか世界人権機構に連絡して下さい」から始まるこの手紙は、グッズが「中国遼寧省瀋陽(市)馬三家」にある「労働教養院」で作られたことを明かし、そこの実態を述べて、自分がいかにひどい状況下に置かれているかを訴えていたのでした。「労働教養院」とは、強制労働施設に他ならなかったのです。
©2018 Flying Cloud Productions, Inc.
ジュリーはこの手紙を元に、ポートランドの税関に問い合わせたり、購入したスーパーのKマートに連絡したりして、いろいろ調べ始めます。やがて広告業界の友人を通じて、地元新聞「The Oregonian」の記者が関心を寄せ、ついには一面トップで報道されることに。これを機にアメリカの各種メディアが関心を持ち、いろんな所から取材がきて、CNNやニューヨーク・タイムズにまで取り上げられることになります。そして、この手紙を書いたのが北京のエンジニアだった孫毅(スン・イ)だと判明するのですが、スンは1997年から始めた「法輪功」が共産党政権から禁止され、その活動家と見なされて、北京オリンピックの期間を中心に、馬三家の労働教養所に2年半収容されていたのでした。人権派弁護士の江天勇(ジアン・ティエンユ)の奔走もあって釈放されたスンは、釈放から2年後に、自分の書いた手紙がアメリカで注目を集めていることを知ります。しかしそれを聞いた妻の付寧(フ・ニン)は「とても恐くなった」そうで、釈放されてもいつまた口実をでっち上げられて、当局に拘束されるかわからないのです。そのためもあって、スンは何とか自分の体験を記録化しようとし始めます。こうして紆余曲折の末に作られたのが、『馬三家からの手紙』だったのでした...。
©2018 Flying Cloud Productions, Inc.
のちにスンは、手紙を発見してくれたジュリーとインドネシアで会い、直接礼を言うことができました。その時の、自分が書いた手紙を持っているのが上の写真です。また、労働教養所は国内外世論の高まりを受けて、2013年の11月には廃止されます。下の写真、スンが立っている道の奥に、馬三家労働教養所だった建物が見えます。
©2018 Flying Cloud Productions, Inc.
ですが、本作を作るのも本当に大変で、カナダ在住の監督レオン・リーがアメリカでの報道を受けて興味を持ち、スンとやっとコンタクトできたものの、中国国内ではもちろん制作できません。スマホで隠し撮りのようにして撮った映像をカナダに持ち帰っても、その後の確認のためにスンに映像を見せる方法が難しく、あれやこれやひとかたならぬ苦労があったようです。そして、映画では最後に衝撃の事実が明かされるのですが、これは伏せておきます。
©2018 Flying Cloud Productions, Inc.
この『馬三家からの手紙』が来月の公開に先んじて、今週末に特別上映されます。そして、この大変なドキュメンタリーを撮ったレオン・リー監督が来日し、他のパネリストと共にいろいろ語ってくれるという、またとない貴重な機会も設けられています。中国の人権問題に関心のある方、奇跡のようなスン・イの物語を目撃したい方は、ぜひご参加下さい。
『馬三家からの手紙』映画上映付きシンポジウム
【日程】2月15日(土) 14:30~17:00 (14:00開場)
【会場】東京大学駒場キャンパス KOMCEE KO11(目黒区駒場 3-8-1)
【登壇】レオン・リー(監督・製作/下写真)/若林秀樹(国際協力 NGO センター事務局長)/水谷尚子(明治大学准教授)
【司会】阿古智子(東京大学准教授) 【通訳】鶴田ゆかり(ETAC 国際ネットワーク)
入場無料、要申込(先着順、定員 200 名)
※参加希望の方は、こちらのサイトの「申込、問い合わせはこちら」から、氏名、職業、人数、連絡先(メールアドレス)を明記の上、ご連絡ください。
©2018 Flying Cloud Productions, Inc.