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「So in Love with Leslie」ご来場御礼

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本日の台風による悪天候の中、「So in Love with Leslie」@東京国際フォーラムにお越し下さいました皆様、本当にありがとうございました。お陰様で、とてもいい追悼イベントとなりました。御礼申し上げます。イベント関連の写真が使えないので、中国でレスリーの業績の研究を行っている榮雪烟さんから送られてきた、レスリーの本の表紙を載せることにします。実はこの間、このイベントを紹介したブログに榮雪烟さんが送って下さった本の表紙をスキャンして載せたところ、スキャンがあまりきれいでないのがあるのと、写真撮りをした表紙があまりにも見にくいということで、わざわざメール送付して下さったのでした。

で、本日のレスリー・チャン追悼イベント「So in Love with Leslie」ですが。ちょうど台風が関東を通る時間が開場時間の午後3時半ごろ、という直撃状態。午後1時頃に楽屋入りした我々に飛び込んで来たニュースは、「大井川が警戒水位を超えたため、新幹線がストップしている!」というまさかの情報。関西や中部から来て下さるファンの方も多く、プロマックスのスタッフの方のケータイには、「動かないのであきらめて戻ります...」という悲しいメールが入ったりして、一同やきもき。というわけで、開演は10分遅れの午後4時10分となりました。

前半のパートは、予告編やPVを使ったレスリーの映画&音楽の紹介。取り上げられた映画は、『男たちの挽歌』 (1986)、『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』 (1987)、『ブエノスアイレス』 (1997)、そして『さらば、わが愛 覇王別姫』 (1994)の4本。配給会社各社が協力して下さって、なつかしい日本公開時の予告編などを見ることができました。一方PVは日本語で歌う『マシュマロ』と広東語の『紅』。そして、関谷元子さんが2002年に香港でレスリーのインタビューをした時のエピソードが披露されました。インタビューの場となった某ホリデイ・イン・ホテルは、関谷さんがインタビューのための部屋を借りる交渉をしたところ特別スイートルームを提供してくれ、レスリーの到着を最高級待遇で迎えてくれたとか。その時レスリーは、これから撮る予定の初監督作品について雄弁に語ったそうなのですが、後日その話が頓挫してしまい、「悪いけど、映画の話は載せないでくれる?」となったとか。インタビューの時はとっても上機嫌で、「終わったらみんなで食事しよう。頼む料理は任せるけど、えびチャーハンだけははずさないでね」と言ったりと、その時のレスリーは監督デビュー作の実現を露ほども疑っていなかったのに....。その後、レスリーのコンサート映像が10分余り流されました。

後半の幕開けでは、レスリーの歌「夢到河内」が流れる中、真っ白な衣裳をまとったダンサー西島千博さんが、ステージ上に作られた階段の上から登場しました。その行く手には、スポットライトに照らされたスタンドマイクが1本。西島さんは、そのマイクを見つめながら踊ります。まるでマイクの後ろには、レスリーが立っているような気配が...。これは生前のレスリーのコンサートで、実際にレスリーがマイクに向かって立っている所へ西島さんが踊る、というパフォーマンスを再現したもので、4月2日にあった香港での追悼コンサートでも演じられたそうです。そしてその後のトークでは、まず西島さんがレスリーの映画を見てファンになり、大阪でのコンサートに行ってたまたま楽屋を訪問する機会を得た時のお話が披露されました。「ぜひ一度、ご一緒に仕事をしたいです」と西島さんが言ったところ、即レスリーから連絡が入り、その大阪でPV共演の話が具体化したのだとか。あの芸術的な「夢到河内」は、そういう経緯で完成したのですね。

そして次は、昨日急遽北京から戻って出演して下さることになった衣裳デザイナーのワダエミさん。ワダさんのお車のナンバーは最後が「1000」なのだそうですが、これはレスリーの電話番号から取られたものだとか。そのレスリーから最後に電話がかかってきたのは、2003年の3月31日。亡くなる前日です。『キラー・ウルフ 白髪魔女伝』 (1993)で衣裳を担当して以来、レスリーとすっかり仲良くなったワダさんは、香港に行くといつもレスリーが「作業服(!)を着て、ジープで空港に迎えに来てくれた」そうですが、ある時レスリーの自宅に連れて行かれて、金庫の中を見せられたと言います。「壁に作られた隠し金庫でね、レスリーが開けると米ドルが30センチぐらい積んであるの。それから日本円も30センチぐらい。ああ、中国人って銀行を信用しないのね(笑)、と思ったけど、その時監督として映画を作ろうとしていたレスリーは、製作資金はあるんだよ、ということを見せたかったらしいの」。その映画製作が頓挫したのは、前にも書いた通りです。でもワダさんは、「ロケハンもやったし、私はどこまでもつきあうから。絶対映画はできるわよ」と励ましていらしたそうで、亡くなる前日にかかってきた電話でも、「この映画は必ず完成させましょう」とレスリーと話されたそうです。「今も残念です」とおっしゃっていました。

イベントの最後は、レスリーが『君さえいれば 金枝玉葉』 (1994)で歌った「追」の作曲者、ディック・リーのミニコンサート。「Modernasia」、そしてレスリーとサンディ・ラムがデュエットした「From Now On」、締めはもちろん「追」というわけで、久しぶりにディック・リーの素晴らしい歌声を聞きました。その合間のトークでは、レスリーと初めて会ったのは1983年、シンガポールの録音スタジオだったというエピソードも話してくれました。ディックがある日録音中のスタジオに出かけていくと、知らない青年がイスに座っていて、振り向いた彼に「君、誰なの? ここで何をしているの?」と言ったのが初対面だとか。まだ大ブレーク前だったレスリーは、ちょうどシンガポールに録音に来ていたわけです。その後「MONICA」が大ヒットして、その歌手を見たディックは、「この人、知ってる!」と叫んだそうです。後年、『君さえいれば』などの仕事をレスリーと一緒にすることになったディックでしたが、何と亡くなる前年、2002年の9月にバンコクのホテルで朝食をとっている時に、偶然にも同じホテルに泊まっていたレスリーとバッタリ出会い、初めてじっくりと話をしたのだとか。その時の話は3時間にも及んだそうですが、レスリーはほとんど声が出ない状態で、胃酸が逆流する病気が相当深刻だったようで「つらいミーティングだった」とディックは話してくれました。最後にディックが言った言葉、「レスリーは自分に歌うチャンスを与えてくれた。レスリー、ありがとう!」が心にしみました。

こんな風に、とっても充実した内容となったレスリー没後10年目の追悼イベント。台風による列車等の遅れがあったため、イベントの途中からの参加となった方々もいらっしゃいましたが、どの部分も濃密なレスリーへの愛が漂っていたので満足していただけたのでは、と思います。最後にみんなで歌った「月亮代表我的心」、きっと天国のレスリーに届いたに違いありません。レスリーが、大好きだった東京国際フォーラムの舞台に帰ってきてくれた2時間でした。

 


第26回東京国際映画祭記者会見報告

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本日午後、第26回東京国際映画祭の記者会見があり、上映作品のラインアップが発表されました。今年は10月17日(木)〜25日(金)の9日間という、週末は1回だけ態勢の映画祭です。場所は例年通り六本木ヒルズ中心。アジア映画の上映作品は後半に付けたリストの通りですが、まずは登壇なさった皆様のご紹介を。

今年のTIFFは昨年までのメインスポンサーTOYOTAがはずれ、ロゴも緑の地球から赤いハートと映画のリールを模したマークに変わりました。映画祭のトップも、依田チェアマンから椎名保ディレクター・ジェネラル(アスミック・エースや角川エンタテインメント等の代表を歴任)に交替しました。

「オープニング作品『キャプテン・フィリップス』では、主演のトム・ハンクスも来日が予定されています」等今年からのプログラム変更も含めて雄弁に語られました。そしてここから司会が、笠井信輔アナウンサーにバトンタッチされます。

コンペティション部門の審査員の発表。審査委員長は中国の陳凱歌(チェン・カイコー)監督で、英語によるビデオメッセージが届いていました。他の審査員は、韓国の女優ムン・ソリ、プロデューサーのクリス・ブラウン、脚本家&プロデューサーでもあるクリス・ワイツ監督、そして日本の女優寺島しのぶの各氏です。

<アジアの風>部門がなくなり、新たに設けられた監督第1作、2作目作品を対象としたコンペ<アジアの未来>の審査員3人はこちらのとおり。香港国際映画祭のキュレーターであり、友人でもあるジェイコブ・ウォンが来てくれるのが嬉しいです。

そして、矢田部吉彦コンペ部門プログラミング・ディレクターによる作品発表。矢田部さんのブログのファンも多いかと思いますが、コンペ作品上映後のQ&Aの名司会ぶりにもファンが多く、今年もまた、と楽しみにしている方もいらっしゃることでしょう。

コンペ部門に選ばれた日本映画から、ゲストが登場します。まず、『捨てがたき人々』の榊英雄監督です。

続いて、『ほとりの翔子』の深田晃司監督と、主演女優の二階堂ふみさん。

<アジアの未来>部門の発表は、おなじみ石坂健治アジアの未来部門プログラミング・ディレクターから。全体として見ればアジア映画の上映本数は減少しましたが、それでも<ワールド・フォーカス>部門にも何本か入っており、また、<台湾電影ルネッサンス2013>という特集上映もあるので、アジア映画ファンは満足できるのではないでしょうか。なお、記者発表第二部では、矢田部&石坂両プログラミング・ディレクターがそれぞれ選んだ作品について詳しく解説して下さったのですが、石坂氏によると、映画百年を迎えるインド映画を特集上映に、という案もあったとか。来年以降に実現しそうな含みを持たせた発言でした。

最後にTIFFCOM等の概要が、映画祭の母体であるユニジャパンの西村隆事務局長から発表されました。ぴあ時代からお世話になっている西村さん、今年は<台湾電影ルネッサンス2013>でモメないといいですね。

最後は、フェスティバル・ミューズの栗山千明さんの登場。美しいです〜〜〜。

そして、フォトセッションで、第一部は終了しました。

TIFFの詳しい概要は、こちらの公式サイトをどうぞ。チケットの発売は10月5日(土)からticket boardにて。

一般のお問い合わせはこちらへどうぞ。
tiffinfo2013@tiff-jp.net
03-5777-8600(日本語:8:00〜22:00)

以下は、アジア映画の上映作品一覧です。とりあえずのリストアップということで、スチールもありませんがお許し下さい。 

<コンペティション>
『ある理髪師の物語』
 2013/フィリピン/原題:Mga Kuwentong Barbero
 監督:ジュン・ロプレス・ラナ
 出演:ユージン・ドミンゴ、エディ・ガルシア、アイザ・カルサド

 『ルールを曲げろ』
 2013/イラン/原題:GHAEDEYE TASADOF
 監督:ベフナム・ベフザディ
 出演:アミル・シャアファリ、アシュカン・ハティビ、バハラン・バニ・アフマディ

 『レッド・ファミリー』
 2013/韓国/原題:붉은 가족
 監督:イ・ジュヒョン
 出演:キム・ユミ、ソン・ビョンホ、チョン・ウ

 『歌う女たち』
 2013/トルコ/原題:Sarki Söyleyen Kadinlar
 監督:レバ・エルデム
 出演:ビンヌル・カヤ、フィリップ・アルディッティ、ケヴォルク・マリクヤン

 『オルドス警察日記』
 2013/中国/原題:警察日記
 監督:寧瀛(ニン・イン)
 出演:王景春(ワン・ジンチュン)、陳維涵(チェン・ウェイハン)、(スン・リャン)

 <特別招待作品>
『マッキー』
 2012/インド/原題:Makkhi
 監督:S.S.ラージャマウリ
 出演:スディープ、ナーニ、サマンサ・ルス・プラブ

※本日は何と!マッキーが取材(?)に来ていました。上は、「よっ」と手を挙げるマッキーです。

<アジアの未来>.
『流れ犬パアト』
 2013/イラン/原題:PAAT
 監督:アミル・トゥーデルスタ
 出演:モスタファ・ササニ、サイード・ソヘイリ、ソニヤ・サンジャリ

『祈りの雨』
 2013/インド=イギリス/原題:A Prayer For Rain
 監督:ラヴィ・クマール
 出演:マーティン・シーン、ミーシャ・バートン、カル・ペン、ラージパール・ヤーダウ、タニシュター・チャタルジー

『レコーダー 目撃者』
 2013/フィリピン/原題:Rekorder
 監督:ミクハイル・レッド
 出演:ロニー・ケソン、マイク・ロレン、ロウェル・コナレス

『リゴル・モルティス/死後硬直』
 2013/香港/原題:殭屍
 監督:麥浚龍(ジュノ・マック)
 出演:錢小豪(チン・シウホウ)、陳友(アンソニー・チェン)、惠英紅(クララ・ワイ)、鮑起靜(パウ・ヘイチン)

『起爆』
 2013/韓国/들개
 監督:キム・ジョンフン
 出演:ビョン・ヨハン、パク・ジョンミン

『今日から明日へ』
 2013/中国/原題:今天明天
 監督:楊惠龍(ヤン・フイロン)
 出演:唐凱林(タン・カイリン)、舒遙(シュー・ヤオ)、王道鉄(ワン・タオティエ)

<ワールド・フォーカス>
『Jin』
 2013/トルコ=ドイツ
 監督:レハ・エルデム
 出演:デニズ・ハズギュレル

『マリー・イズ・ハッピー』
 2013/タイ/原題:Marry Is Happy, Marry Is Happy
 監督:ナワポン・タムロンラタナリット
 出演:パッチャヤー・プーンピリヤ、チョンニカーン・ネートジュイ

『北(ノルテ)―歴史の終わり』
 2013/フィリピン/原題:Norte, Hangganan ng Kasaysayan
 監督:ラヴ・ディアス
 出演:シド・ルセロ、アンジェリ・バヤニ、アーチー・アレマニア

『So Young』
 2013/中国/原題:致我イ門終將逝去的青春
 監督:趙薇(ヴィッキー・チャオ)
 出演:趙又廷(マーク・チャオ)、韓庚(ハン・ゴン)、揚子女冊(ヤン・ズーシャン)

『激戦』
 2013/香港/原題:激戦
 監督:林超賢(ダンテ・ラム)
 出演:張家輝(ニック・チョン)、彭于晏(エディ・ポン)、李馨巧(クリスタル・リー)

『愛を語るときに、語らないこと』
 2013/インドネシア/原題:Yang Tidak Dibicarakan Ketika Membicarakan Cinta
 監督:モーリー・スルヤ
 出演:カリナ・サリム、アユシタ・ヌグラハ、ニコラス・サプトラ、アングン・プリアンボド

<台湾電影ルネッサンス2013>については、拙ブログの以前の紹介記事であるこちらをどうぞ。それでは今年も、六本木でお会いしましょう! 

 

 

「ナマステ・インディア」お買い物用:インド映画最近のヒット作

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本日の早稲田奉仕園での講演には、たくさんの方にお越しいただきありがとうございました。いつものようにレジュメをお配りしたのですが、そこに載せた「2012年のインド映画ヒット作」と「2013年9月までのヒット作」に手を加えたものを、ここに掲載します。来週の週末、9月28日(土)・29日(日)に代々木公園で開催される「ナマステ・インディア」でのお買い物リストとして、皆様のお役に立てば幸いです。

【2012年のヒット作】

 

   『タイガー 伝説のスパイ』 Ek Tha Tiger (タイガーと呼ばれるエージェントの物語。日本公開済み)
     監督:カビール・カーン/主演:サルマーン・カーン、カトリーナ・カイフ

   『肝っ玉男2』 Dabangg 2 (2010年大ヒット作の続編。家庭人チュルブル・パーンデー警部の活躍)
     監督:アルバーズ・カーン/主演:サルマーン・カーン、ソーナークシー・シンハー

   『乱暴者ラートール』 Rowdy Rathore (テルグ語映画のリメイク。A・クマールが警部と泥棒の二役)
     監督:プラブ・デーヴァ/主演:アクシャイ・クマール、ソーナークシー・シンハー

   『火の道』 Agneepath (1990年のアミターブ・バッチャン主演作のリメイクで復讐譚。TIFF2012で上映)
     監督:カラン・マルホートラー/主演:リティク・ローシャン、サンジャイ・ダット、プリヤンカー・チョープラー

   *『ハウスフル2』 Houseful 2(前作とは関係なく、家と結婚を巡るドタバタ・コメディ)
          監督:サージド・カーン/主演:アクシャイ・クマール、ジョン・アブラハム、アーシン、シュレーヤス・タラプデー

  ♪『バルフィ!』 Barfi!(言葉が不自由なバルフィーと障害を持つジルミルの恋。沖縄IFFで上映)
     監督:アヌラーグ・バス/主演:ランビール・カプール、プリヤンカー・チョープラー、イリヤナ・デクルーズ

   『命ある限り』 Jab Tak Hai Jaan(ロンドンとインドを舞台にした10年恋愛。日本公開済み)
     監督:ヤシュ・チョープラー/主演:シャー・ルク・カーン、カトリーナ・カイフ、アヌシュカー・シャルマー

   『話せよ、バッチャン』 Bol Bachchan(Uターンした兄妹が地元のボスに翻弄されるコメディ)
     監督:ローヒト・シェーッティー/主演:アビシェーク・バッチャン、アジャイ・デーウガン、アーシン

   『捜査』 Talaash(謎の交通事故を捜査する警部の前に現れる美しい娼婦。サスペンス作品)
     監督:リーマー・カーグティー/主演:アーミル・カーン、カリーナー・カプール、ラーニー・ムケルジー

  *『ターバン魂』 Son of Sardar(ロンドン在住青年が帰郷し家同士の対立に直面するコメディ)
     監督:アシュヴニ・ディル/主演:アジャイ・デーウガン、ソーナークシー・シンハー、サンジャイ・ダット

  <上記に続くヒット作品>

  ♪『カハーニー/物語』 Kahaani(コルカタを舞台にしたサスペンス。アジアフォーカスで上映)
     監督:スジョイ・ゴーシュ/主演:ヴィディヤー・バーラン、ナワーズッディーン・シッディキー

  ♪『愛の申し子』 Ishqzaade(地方の町を舞台にした、政敵同士の息子と娘の複雑な恋物語)
     監督:ハビーブ・ファイサル/主演:アルジュン・カプール、パリニーティ・チョープラー

  ♪『ドナーはビッキー』 Vicky Donor(最強の精液ドナー青年の話。IFFJ2012で上映)
     監督:シュージト・シルカール/主演:アーユシュマーン・クラーナー、ヤーミー・ゴウタム

   『オー・マイ・ゴッド!』 OMG-Oh My God!(インド人の信仰の在り方を皮肉った風刺コメディ)
     監督:ウメーシュ・シュクラー/主演:パレーシュ・ラワル、アクシャイ・クマール

【2013年9月までのヒット作】

  ♪『チェンナイ・エクスプレス』 Chennai Express(南インド娘とムンバイ男の愛と冒険)
     監督:ローヒト・シェーッティー/主演:シャー・ルク・カーン、ディーピカー・パードゥコーン

   『この青春は狂おしい』 Yeh Jawaani Hai Deewani(学生時代から卒業後へと続く恋愛)
     監督:アヤン・ムケルジー/主演:ランビール・カプール、ディーピカー・パードゥコーン

   『走れ、ミルカー・シン』 Bhag Milka Bhag(実在のシク教徒アスリートの自伝的物語)
     監督:ラーケーシュ・オームプラカーシュ・メーヘラー/主演:ファルハーン・アクタル、ソーナム・カプール

  ♪『レース2』 Race 2(2008年のヒット作の続編。裏社会を舞台に、欺し欺されるサスペンス劇)
     監督:アッバース=マスターン/主演:サイフ・アリー・カーン、ジョン・アブラハム、ディーピカー・パードゥコーン

 *『愛するがゆえに』 Aashqui 2(1990年の続編。ミュージシャンと歌姫の激しい恋。歌が大ヒット)
     監督:モーヒト・スーリー/主演:アーディティヤ・ロ-イ・カプール、シュラッダー・カプール

  ♪『スペシャル26』 Special 26(捜査局員に扮した大がかりな詐欺団が裏金をかっさらう)
     監督:ニーラジ・パーンデー/主演:アクシャイ・クマール、マノージ・バージパーイー、アヌパム・ケール

   『愛しい人』 Raanjhanaa(ベナレスが舞台の一途な恋の物語。タミル語映画のスター、ダヌシュ主演)
     監督:アーナンド・L・ラーイ/主演:ダヌシュ、ソーナム・カプール、アバイ・デオル

   *印の作品は、インディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン(IFFJ)で上映予定
   ♪印はcinetamaの好きな作品(日本公開作は除く)

では、皆様、「ナマステ・インディア」も大いに楽しんで下さいね!

 

TIFF Day 8:本日は中国映画特集

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別に意図したわけではないのですが、今日は中国映画を3本見るという結果になってしまいました。まずDVDライブラリーで<アジアの未来>部門の『今日から明日へ』、そして一般上映の『So Young』、最後は<コンペティション>部門の『オルドス警察日記』です。

『今日から明日へ』は、これが長篇第1作という楊恵龍(ヤン・フイロン)監督の作品。舞台となる唐家嶺は北京の西北に位置する郊外の集落で、そこに大学卒業後正規の仕事になかなかつけない青年たちが住みついたことから有名になった町だそうです。彼らは「蟻族」と呼ばれ、本作の中では学生寮生活のような実態が描かれています。主人公は、保険会社に勤める王旭(唐凱林)と、彼の友人小杰(王道鉄)、そして小杰と同棲している冉冉(舒遥)という、またしても女一男二の組み合わせ。中国語圏映画、この黄金トリオが好きですねー。

王旭は保険会社に勤めているのですが、長時間通勤と保険の営業とで疲れ切っています。地図を見てみると、唐家嶺は中心部から結構離れていて、だからこそ家賃が安いのでしょうが通勤は大変そうです。王旭に紹介されて彼の隣の部屋に越してきた小杰と冉冉は、それまでは二段ベッドが並ぶ雑居部屋だったので、粗末な部屋ながらやっと自分たちのやりたいことをし始めます。小杰は一攫千金を夢見ており、冉冉は生地屋に勤めながら自分のデザインしたドレスの作製に取りかかりました。でも、小杰と、会社を辞めた王旭が変なネズミ講会社に軟禁されたり、冉冉は生地屋の主人にセクハラされたりと、彼らはなかなか「蟻族」から抜け出せません...。

主人公を演じる3人がイケメン&美女で、こういうショボい役よりもトレンディ・ドラマに似合いそうな感じでした。蟻族青年たちの実態は描けているものの、くすぶる青春のドラマに終わってしまっているところがちと残念な作品で、もう少し脚本がよければ、中国の今を切り取るドラマチックな作品になっていたのでは、と思いました。途中、完成したドレスを着て冉冉が踊り出し、アパートの人々がそれに参加する、というミュージカルもどきのシーンがあるのですが、あれはいったい何と解釈すればいいのでしょう? 監督に聞いてみたかったです。

続いては、中国で大ヒットした趙薇(ヴィッキー・チャオ)の初監督作品『So Young』をスクリーン2で。かなり広い会場なのですがチケットは早々に売り切れ、DVDもなかったため、本日朝30分ぐらい並んで招待券をゲットしました。ヴィッキー・チャオがゲストで来日していることもあり、会場は熱気がいっぱい。物語は、鄭薇(楊子女册)が高校時代のボーイフレンド林静(韓庚)を追ってきて大学に入る所から始まります。ところが、林静は鄭薇を振り、結局鄭薇は最初は嫌っていた陳孝正(趙又廷)とつきあうことに。鄭薇のルームメートである美人の阮莞(江疏影)はじめ、他の2人や男子学生も含めた大学生活が進行していきますが....。

前半は大学が舞台、後半はその10年後、社会に出た鄭薇たちの姿が描かれます。非常に手慣れた演出で、冒頭のファンタジー・シーンなども含め、立派に商業映画です。裏を返せば、新人監督らしいフレッシュさや冒険心は感じられず、まさにトレンディ・ドラマそのものになってしまっていました。私的には、ヒロインのキャラと彼女を演じた楊子[女册]にまったく魅力が感じられず、見ているのがとてもしんどかったです。マーク・チャオも光らず、むしろサブのヒロイン江疏影と、林静を演じた韓庚の方にオーラが感じられました。下のポスターの下2人です。

終了後、ヴィッキー・チャオを迎えてのQ&Aがあり、こちらもほとんどの観客が残って熱心に耳を傾けました。司会の石坂健治さんが、「中国からいらしている方は?」と聞くと2割ぐらいの手が上がり、質問者の中にも中国人の方がいたりして、大いに盛り上がりました。質問に答えるヴィッキー・チャオはとても気さくで、かつ真摯に答えてくれて、そのお人柄がよくわかる受け答えでした。Q&Aの模様は、写真をいっぱい付けて明日アップしますのでお楽しみに。

最後は、コンペ部門の『オルドス警察日記』。寧瀛(ニンイン)監督作品で、内モンゴル自治区のオルドスで警察署長を務めた人の伝記映画です。伝記だけの映画でした...。もっといろいろ料理できた素材だと思うのですが、まれに見る誠実な警官で殉職した人、ということから料理しにくかったのでしょうか。素材選びがまずかったのかも。寧瀛監督に我々が期待しているのは、もっと違う映画だと思うんですが。

というわけで、中国映画デーは終わり。実は今日はもう1本、別の日に半分だけ見ていた<アジアの未来>の韓国映画『起爆』もDVDで見終わりました。こちらは面白いテーマを実に巧に描いてあり、脚本のうまさに舌を巻きました。監督と脚本は、キム・ジョンフンです。

高校生の時に嫌いな教師の自動車に爆弾を仕掛け、補導されたジョング(ビョン・ヨハン/堺雅人に激似!)はその後理科系の大学に入り、今は有力な教授の研究室で、副手の仕事をしています。ワンマンで、セクハラ、パワハラしまくりの教授から目の敵にされているジョングは、不満が鬱積すると爆弾を作り、人気のない所で爆破しては憂さを晴らしています。そんな時、教授の授業で学生ヒョンミン(パク・ジョンミン)が教授にかみつき、教室から出て行きます。ヒョンミンに興味を持ったジョングは、彼に爆発物とその使用説明が入った小包を送りつけてみます。するとヒョンミンはとんでもない使い方をし、ジョングは肝を冷やします。ヒョンミンは送り主がジョングであることを突きとめ、2人は仲良くなるのですが、ヒョンミンはジョングの予想を超えた悪魔的な青年だったのです...。

途中思わぬどんでん返しもあり、スクリーンできちんと見ていたらもっとハラハラドキドキしたと思いますが、DVDの分割鑑賞でも大いに手応えを感じさせてくれた作品でした。上はプレスの一部ですが、この2人の演技がすごくて、またまた韓国映画はどえらい俳優を生み出してくれて、と「参りました!」マークをつけたくなってしまいました。キム・ジョンフン監督とビョン・ヨハンくん&パク・ジョンミンくん、しっかり名前を憶えておくからね!

明日の最終日、どの作品が<アジアの未来>で受賞するのか、まったく予断を許しません。授賞結果がわかったら、こちらに追記しておきますね。

2013.10.25追記<TIFF授賞結果>

 <アジアの未来>

 作品賞:『今日から明日へ』/スペシャルメンション『祖谷物語−おくのひと−』

<コンペティション>

 観客賞: 『レッド・ファミリー』 (韓国)
 最優秀芸術貢献賞: 『エンプティ・アワーズ』 (メキシコ=フランス=スペイン)
 最優秀男優賞:王景春(ワン・ジンチュン) 『オルドス警察日記』 (中国)
 最優秀女優賞:ユージン・ドミンゴ 『ある理髪師の物語』 (フィリピン)
 最優秀監督賞:ベネディクト・エルリングソン 『馬々と人間たち』 (アイスランド)
 審査員特別賞: 『ルールを曲げろ』 (イラン)
 東京サクラグランプリ: 『ウィ・アー・ザ・ベスト』 (スウェーデン)

<アジアの未来>は、上でけなしたばかりの『今日から明日へ』が受賞という、私としては意外な結果に。まあ、毎年、私の予想と授賞結果は相反するのが常でして。今回は受賞作を発表する青山真治監督が、「プサンと東京でアジア映画を審査のために20本見ましたが、1本もコメディ映画がなかったのが不満です」という意味のことを言ってらしたのが印象的でした。アジアの若い監督の皆さん、コメディを狙いましょう!

<コンペティション>も『オルドス警察日記』の王景春の男優賞は意外でしたが、ユージン・ドミンゴの女優賞には拍手パチパチ。このお二人、スピーチで笑わせてくれて、「最後になりますが、妻にも感謝しています。それを今ここで言っておかないと、国に帰ったら大変なことになりますからね」という王景春に対し、ユージン・ドミンゴは「フィリピンにいったん戻って仕事をしていたのですが、TIFFから手紙が来て、”朝食券も付けます”と書いてあったのでTIFFに戻ってきました」やら、「また日本に来ますとも。だって、ドンキホーテでのショッピングがまだ終わってないですからね」やら、大いに会場を沸かせました。ユージン・ドミンゴの面目躍如でした。

彼女に影響されたのか、それとも監督自身の持ち味なのか、アイスランドのベネディクト・エルリングソン監督も、馬語(?)で馬たちの受賞の喜びを表現したりして、楽しい授賞式になりました。このほか、イラン映画『ルールを曲げろ』も審査員特別賞を受賞するなど、アジア映画勢は大健闘。皆さん、おめでとうございました!

 

TIFF Day 9:昨日の続き『So Young』ヴィッキー・チャオQ&A

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本日でTIFFも終わり。今、ライブの授賞式を見ながら、このブログを書いています。でも、とても楽しい授賞式なので、ついこちらの記事がおろそかになりがち。あとでも映像が見られると思いますので、ぜひご覧になってみて下さいね。授賞結果は昨日の記事の最後に付けてあります。

さて、それで、趙薇(ヴィッキー・チャオ)の『So Young』のQ&Aです。黒いドレスで登場したヴィッキー、やはりとても華やかで、目を奪われます。通訳は、水野衛子さんでした。

石坂プログラミング・ディレクター(以下、石坂):まず、観客の皆さんにご挨拶を。

ヴィッキー・チャオ(以下、ヴィッキー):皆さん、私の初監督作品を見に来て下さってありがとう。

石坂:どうしてまた監督を?

ヴィッキー:以前から、まだやったことのないことをしてみたいと思ってました。女優だけじゃなくて、一度監督をしてみたいと思っていたんです。

石坂:監督してみて、俳優と違っていた部分は何でした?

ヴィッキー:どちらも疲れる仕事だわ、と思いました(笑)。でも、監督は病みつきになる仕事だな、とも思いました。世界の見方とかが関わってきますからね。この『So Young』についても、未だに、これでよかったのかな、とつい考えてしまいます。

石坂:この作品は、北京電影学院の卒業制作として作られたとか。ということは、審査員である先生方が点数もつけたわけですね。

ヴィッキー:先生たちはすごいですよ。だって、見てもらったのは、オリジナルの4時間あった素材なんですから。点数は99点をいただきました。学生の卒業制作でこういう作品を作ったのは初めて、という意味で下さったんだと思います。

石坂:中国でのヒットの理由は何だと思いますか?

ヴィッキー:私が初めて監督した作品だ、ということから、見に行ってやろうと皆さんが思われたのでしょう。あと、今は若い人たちの関心は経済的な面にばかり向いていて、青春をムダなことに費やしたりしていられない、という感じです。生活のために奮闘努力する、という方向にしか関心がない若い人は、この映画を見て、学生時代にこんな風な恋愛をしておけばよかった、とか思ったりしたんじゃないでしょうか。

Q(大ファンだという女性):前半と後半が全然違っていて、後半は青春はもう終わってしまった、という感じになっています。工夫した点とかがありましたら教えて下さい。

ヴィッキー:前半と後半が違っているのは、今の私の年齢のせいですね。10年あとに撮っていたら、前半と後半はもっと近づいていたのでは、と思います。私は分裂的な性格なので、ドラマチックなものを好みます。それで、今回は前半と後半をガラッと変えて撮っています。前半は1990年代の初めという設定ですが、今の中国では90年代の雰囲気を残している所がもう少なくなっていて、大学のキャンパスのシーンも4つの大学を転々としながら撮りました。だからとても時間がかかりました。撮らせてもらった大学の先生方からは、「うちの大学にはもっときれいな所があるのに、もう壊してしまおうと思っている所でばかり撮影するんだね」と言われました(笑)。

Q:以前、日本であったイベントで、監督をしたいと言ってらしたことがありましたね。

ヴィッキー:え? あなたは私の夢の目撃者ですね。心の中で密かにそう思っていたつもりだったんですが、皆さんの前でしゃべっていたとは。しかも、日本に来てまでそう言っていたなんて。

Q:女性のキャラクターがたくさん出てきましたが、ヴィッキーさんを何人かに分散させたという感じでしょうか?

ヴィッキー:今回この作品を撮ってみて、自分は真面目な女優ではなかった、ということがわかりました。今回は何度も何度も脚本を繰り返し読んでみたんですが、そうするとそれぞれのキャラクターが自分の中で活きてくるんですね。ですので、俳優たちにもいろいろアドバイスしました。特に、主人公の女の子たちを演じる4人のうち、3人は歌手ですし、しかも1人は演技も初めてなので、あれこれ言いました。

Q:次作の予定は?

ヴィッキー:次はまた女優に戻ります。香港で、關錦鵬(スタンリー・クワン)監督の映画に出る予定です。スタンリー・クワン監督は、『So Young』のプロデューサーもやってくれています。それは、次の作品で私を使うので、もっとよく私を知るために引き受けてくれたのです。私の監督作品としての次作は、青春ものではありません。青春ものはもうこれで十分です。2作目は、もう少しアート寄りになると思います。

ここで石坂さんが、「中国からいらした人は?」と質問し、2割ほどの人の手があがったため「やっぱり多いですね」と言ったところ、「少ないですよ、あ、ジョーダン、ジョーダン」と笑わせてくれるヴィッキー。

Q(中国人女性で「アイシテル」と言ったあと):ヒロインの経験は、あなた自身の経験ですか?

ヴィッキー:(質問が中国語だったので、質問を聞きながら)ノー、ノー! 違います。少しぐらいは入っているかも知れませんが。

Q:どれぐらい自分がやりたかったことを表現できましたか? 他の人の意見とかも参考にしたのでしょうか?

ヴィッキー:実際には、そんなにたくさんの方の意見は聞きませんでした。撮った映像を見せて誰かの意見を聞く、ということもあまりしませんでした。一番よく意見を聞いたのは、脚本家の李檣(リー・チアン)とスタンリー・クワン監督でした。リー・チアンも長いつきあいの友人なので、この2人が私を支持してくれて、意見をいろいろ言ってくれたことが自信につながりました。ですのでこの作品は、1970年代生まれの監督と、60年代生まれの脚本家と、50年代生まれのプロデューサーが作った作品と言えますね。

と、ここで花束贈呈が。ファンの方でしょうか。ヴィッキーは壇上にいるのが3人なので、「花束、3人にありますよね?」と細やかな心遣いを見せます。いい人ですね〜。

まだまだ質問の手が上がっていたのですが、「最後に観客の皆さんにメッセージを」と石坂さんが促します。

ヴィッキー:海外の観客と対話ができるとは思っていなかったので、今日はとても嬉しいです。TIFFのお陰です。自分が出演した作品が上映されるよりずっと嬉しかったです。アリガト!

あとはフォト・セッションとなりました。

会場から出たあとも、大勢のファンに取り囲まれていたヴィッキー・チャオ。こういうスターと会えるのも、映画祭の醍醐味ですよね。今年はたくさんのゲストが来てくれて、盛り上がった映画祭でした。

 

インド映画『祈りの雨』ラヴィ・クマール監督(上)

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今年のTIFF、皆さんはいかがでしたか? 期間中にまとめられなかった『祈りの雨』のラヴィ・クマール監督のご紹介、2回に分けてアップします。今回はまず、作品紹介と、10月22日(日)の上映終了後のQ&Aをどうぞ。

『祈りの雨』 (Bhopal −A Prayer for Rain)は、インド中部にある町ボーパール(またはボパール)で、1984年12月3日深夜にユニオン・カーバイド工場が起こした有毒ガス洩れ事故により、約1万人の死者が出た事件を描いています。詳しくはWiki「ボパール化学工場事故」の項目をご覧頂ければと思いますが、農業用殺虫剤を作るためのイソシアン酸メチル(MIC)の3基のタンクに水が流入するミスが発生、それによって生じた有毒ガスが煙突から排出されて町に拡散し、多くの人が亡くなったものです。工場は居住区に隣接しており、多数の住民が住む方へ煙が流れたため、その夜だけでも数千人が亡くなったと言われています。事故当時、写真家ラグ・ラーイが撮った埋葬される赤ちゃんの写真(右へクリックしていくと出てきます)が世界に衝撃を与え、人々の涙を誘いました。

ボーパール事件に関してはこれまで様々なドキュメンタリー映画、あるいはドキュドラマが作られてきました(例えばBBCの番組など)が、本格的な劇映画は多分この作品が初めてだと思います。今回ラヴィ・クマール監督は、インドとイギリスの会社から資金を得て、ユニオン・カーバイド社社長ウォーレン・アンダーソン(マーティン・シーン)、フランス誌のジャーナリストであるエヴァ・コールフィールド(ミーシャ・バートン)、ボーパールの地元紙のジャーナリスト、モトワーニ(カル・ペン)、リキシャーワーラー(人力車曳き)からユニオン・カーバイド工場の労働者になるディリープ(ラージパール・ヤーダウ)らが登場する壮大なドラマに仕立てました。もちろん社会派の作品ではあるのですが、サスペンスを盛り込んだ手に汗握るドラマともなっています。特に、ディリープが妻リーラー(タニシュター・チャタルジー)と共に妹の結婚式を執り行っている最中にガス洩れ事故が起きるシーンは、緊迫感に溢れていて息を呑みます。予告編はこちらです。

上映終了時には大きな拍手が起きた『祈りの雨』、続いてラヴィ・クマール監督を迎えてのQ&Aが始まりました。司会兼通訳は、TIFFのアジア映画ではお馴染みの松下由美さんです。

松下由美(以下、松下):拍手は、映画を気に入っていただけた、ということでしょうか、と監督はおっしゃってます(さらに大きな拍手)。ラヴィ・クマール監督はボーパール近郊で生まれ、医学を勉強したあとイギリスに移り、現在ロンドンで小児科医をしていらっしゃいます。まず、監督からのご挨拶を。

ラヴィ・クマール監督(以下、監督):今日は映画を見て下さってありがとうございます。主演のマーティン・シーン、ミーシャ・バートン、カル・ペンが来られなかったことを申し訳なく思っています。キャストやスタッフを代表して、私からお礼を申し上げたいと思います。今回の上映は、とても意味のあることです。というのも、インドも日本も、こういった化学工場の事故というものを経験しており、それを共有できるからです。我々にとって、日本での上映は大変重要な意味を持ちます。

松下:この作品は、これまで日曜監督だった、小児科医が本職であるラヴィ・クマール監督の第1作としてはビック・プロジェクトだったのではと思います。マーティン・シーンはアメリカ映画でよく大統領役などをやっている人ですし、カル・ペンはインド系アメリカ人の俳優で、実はオバマ政権のPRの仕事をしたりしています。まず、この配役についてうかがってみたいと思います。

監督:私はこの事故に関して書かれた本を何冊か読んだのですが、そのうちの1冊などは、まるでスリラー小説のようでした。これは映画化に向いていると感じたのです。ちなみに私は映画学校には行ったことはなくて、週末に短編映画を撮ったりしていました。
映画を作るにあたって、最初はジャーナリストを主人公にして脚本を書こうと思ったのですが、そのモデルになった人は今も元気でいて、被害にあった人ではない、ということと、彼は事故後工場には入れていないため、これでは心理的に距離感があるのでちょっとダメだな、と思いました。
主役にしたディリープは、彼に該当する人がいて、話が聞けました。映画の中ではディリープは死亡しますが、モデルになった人は生存していて、まるで自分が事故を起こしたかのようにわが身を責めていました。事故を起こしたユニオン・カーバイド社は謝罪をしていないのに、ユニオン・カーバイド社に代わって彼が傷ついている、という感じでした。それを見て、この人が主人公であれば映画ができると確信しました。
俳優を見つけるのは楽でした。というのも、一度話を聞いてもらえたら、ぜひ出演したいと皆さん言ってくれたからです。
この映画は、1980年代以降に生まれた若い人に特に見てもらいたいです。ユニオン・カーバイド社の事故のことを知らない人たちにね。忘れてしまうと、事故、過ちはまた繰り返す、と言われていますので、その教訓を学んでほしいのです。
産業界における化学的事故というのは、共通点を持っています。エクソンバルディーズ号の原油流出事故もそうですが、まず人為的なミスがあったこと、そして企業内の管理に問題があったこと、こういったことはすべてボーパール事件にも共通するものです。そういうパターンから学べるものがあるのでは、と思います。

Q:すばらしい映画をありがとうございます。質問が2つあります。
まず、マーティン・シーンが演じた社長ですが、決して単純な悪役とはなっていません。工場の視察シーンなどでも、彼自身が真摯なものを持っている、という風な描き方がしてあるのはなぜでしょうか?
もう一つは、主人公の妹の結婚式と事故とを重ねていますね。これはどうしてですか?

監督:とても大事な質問ですね。ユニオン・カーバイド社のアンダーソン会長を007の悪役のようにはしなかったのは、そうすると信憑性のない、現実味のないキャラクターになってしまうからと、プロパガンダ映画になりかねないという危険からです。アンダーソンに限らず、我々は若い時には理想に燃えていますよね。最初は社会主義的な思想を持っていたのが、だんだん共和党的になると言うか、保守的になっていくわけです。
アンダーソンと我々には違いはないと思いますが、違いがあるとすれば、彼は謝らなかった、という点でしょうか。ユニオン・カーバイド社は一切謝罪をしていません。
私がこの映画を作った大きな理由は、まだ終止符が打たれていない問題なので、それを映画によってけじめをつけたいと思ったのです。この映画は、誰が悪かったのか、と責めるために作ったのではなく、何が間違いを引き起こしたのか、という点を検証したいがために作ったのです。

2つ目の質問ですが、実はこの事故が起きた夜に、人々が住んでいるエリアで実際に結婚式があったのです。それで人が集まっていて、さらに死傷者が増える結果となりました。映画の中では描きませんでしたが、駅や、それから病院でもいろんなことが起きていました。全部盛り込むことはできなかったので、結婚式を中心にしたのです。

Q(英語による質問):とても感動しました。ご自身が小児科医ということで、医学的な正確さを期すために、医学コンサルタントの監修などはしてもらったのでしょうか?

監督:監督として、医師として、正確を期すことは医学的にも化学的にも重要だと思ったので、ボーパール在住の医師に監修をお願いしました。病院のシーンでは、私の手が何度か出演しています。注射を打つシーンとかは医師免許がある人しかできないので、私の手が出演しているわけです(笑)。

Q:昨年観光旅行で近くの町サーンチーに行ったのですが、その時ボーパールに泊まりました。今でも、1980年代に科学事故が起きた町というイメージが強いですね。監督は事故が起きた時にボーパールにいらしたのですか? それともイギリスに? その日1万人が亡くなったそうですが、その後後遺症で亡くなった人は何人ぐらいいらっしゃるのでしょうか?

監督:私が住んでいたのはボーパールから約200キロ離れた町なので、近くにいたというわけではありませんが、事件当時はインドにいました。あの事故による死亡者は、数をあげてもあまり意味はないと思います。1人だとしても、それは貴重な命に変わりはないですからね。
工場の近くに住んでいた人は、住民登録などしていない人も多かったので、はっきりした数は把握し切れていません。3,000人から10,000人の間と言えるでしょうか。
死亡者の数との関連で言いますと、ブリティッシュ・ペトロリアムのメキシコ湾原油流出事故での死亡者は11名で、海の掃除等を含む全体の補償金は420億ドルだったと言われています。1989年のエクソンバルディーズ号の時は、補償金は42億ドルが支払われました。この時は、死亡者はゼロです。ところがユニオン・カーバイド社の事件では、死亡者1人に対し、300ドルの見舞金が支払われたのみでした。

Q(英語による質問):個人的なことをお聞きしたいのですが、週末に短編を作っていたフルタイムの小児科医が、いかにしてこのような長編映画を撮って、TIFFでプレミア上映をするまでになったのでしょうか?

監督:今はもう、私には余暇の時間は全然ありません。老ける一方です(笑)。これまで5年間、パートの小児科医として週42時間勤務してきました。それで時間を作れて、短編を撮っていたわけです。
私は今、監督と名乗っていますが、私の脚本を信じて投資してくれた人々を始め、才能のある人が集まってくれて、この映画が可能になったのです。インドではサハラ・エンターテインメントという大きな映画製作会社が関わってくれましたし、プロデューサーとしてワーナーのスティーブ・クラーク・ホールなども参加してくれました。また、編集や効果などの担当者も、大変腕のいいスタッフが集まってくれました。
私の短編映画がベルリン国際映画祭やヴェネチア国際映画祭で上映されていたので、それによって信頼を得ていた、ということもあります。それらの作品も、涙を誘う作品だったんですよ(笑)。

  

 Q(英語による質問):この映画は本当に大事なテーマを伝えてくれていますね。俳優たちはこの映画の意義というか重要性を知った上で参加したのでしょうか? どのようにキャストが決まったのか、教えて下さい。

監督:まずマーティン・シーン氏ですが、彼は政治的、社会的活動を盛んにやっている人です。思想的には左寄りの人ですが、彼が最初にOKしてくれて、それで彼が核となって他の人が集まってくれました。映画を勉強している人や、映画を作る人に伝えたいのは、まずは脚本、脚本がしっかりしていれば人は集められます。
実は、ピーター・フォンダとかマイケル・ダグラスとかにもオファーを出したのですが、インドに一定期間行って撮影するというのはいろいろな調整が必要となるので、すぐに返事がもらえませんでした。それに対してマーティン・シーン氏は、オファーしてから24時間でOKしてくれたので、即彼にお願いしたわけです。編集の段階でも見て下さって、脚本についても有用なアドバイスをして下さいました。

 松下:音楽について、ちょっと変更があるんですよね。

監督:歌手のスティングが気に入ってくれて、このあとの劇場公開の時は、彼がラヴィ・シャンカルの娘のアヌシュカ・シャンカルと共演した音楽が使われる予定です。YouTubeにもアップロードする予定ですが、素晴らしい曲ですよ。
あと、配給の側からの依頼で、他にも変更があります。最後のシーン、女性ジャーナリストが何年後かにアンダーソン会長を問いつめるシーンは、カットされる予定です。このシーンに関しては、アングロサクソン系の人々にとってはあまりにもドラマチックすぎるというので、ちょっとトーンを抑えようということになりました。

ここで松下さんが、「あのシーンがあった方がいいと思う人?」と会場の観客に尋ね、監督が「ない方がいいと思う人?」と手を挙げさせたところ、会場はほぼ半々の結果に。というわけで、最後は「アメリカは民主主義の国で、大事な市場だしね」と監督がつぶやき、続いて「皆さんもこの作品をぜひ口コミで広めて下さい。今日は見て下さってありがとう」としめくくってQ&Aは終了となりました。

  

 

インド映画『祈りの雨』ラヴィ・クマール監督(下)

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前回に引き続き、ボーパール事件を描いた力作『祈りの雨』のラヴィ・クマール監督のご紹介。今回は、前回アップしたQ&A終了後にさせていただいた、インビューの報告です。通訳の松下由美さん(写真右)も同席して下さいました。

インタビューするにあたって、まずちょっと自己紹介をと思い「ヒンディー語が話せます」と言ったことから、なぜか話はインドの言語状況のことになってしまい、映画『イングリッシュ・ヴィングリッシュ』の話題などが飛び出しました。

ラヴィ・クマール監督:その映画の主演女優(シュリーデーヴィ)は、よく知ってますよ。彼女のご主人が友だちなんです。

cinetama:ああ、プロデューサーのボニー・カプールですね。そう言えば、『祈りの雨』の中では彼への謝辞が出ていましたね。

ラヴィ・クマール監督:彼が私をサハラ・エンターテインメントに紹介してくれたんです。すごくいい人ですよ。映画の予告編というか、プロモ映像ができ上がったので、映画を完成させるためとポスプロのために資金を必要としていた我々は、それを彼に見せたんです。そうしたら気に入ってくれて、自分が一緒に仕事をしているサハラに紹介してくれました。それで、サハラが製作費を出してくれることになったんです。

cinetama:ボニー・カプールの他には、俳優のリテーシュ・デーシュムクへの謝辞もありましたが。

ラヴィ・クマール監督:実は、最初ジャーナリストのモトワーニをやってくれないかとリテーシュ・デーシュムクにオファーを出したんです。でも、「自分がやるには役が小さすぎる」と断られました。アニル・カプールにもオファーしたんですが、やっぱり「役が小さい」と断られました。
そのほかイルファーン・カーンにも打診しましたが、彼からは「やるならディリープがいい」と言われて。でも私の考えでは、労働者のディリープは小柄で、ちょっとコミカルな所があり、あまりシリアスな感じがしない人がいいと思っていたのです。だから、ラージパール・ヤーダウがぴったりだったんですね。

cinetama:それで結局、ジャーナリストのモトワーニ役はカル・ペンになったのですね。

ラヴィ・クマール監督:そうです。カル・ペンはいい役者ですし、オバマ大統領のもとで社会的な活動をしているという背景もある。アメリカでは、青年層や学生たちがたくさん彼を支持しています。その点でも、私の映画の助けになりますしね。

cinetama:さっきのQ&Aで、ボーパールの近くにお住まいだったというお話が出ましたが。

ラヴィ・クマール監督:同じマディヤ・プラデーシュ州にあるジャバルプル(ボーパールの東方200キロの所にある町)です。離れてはいても、あの事件は誰にとってもすごいショックでした。事件当初はいったい何が起こったのか、正確にはなかなかわかりませんでした。でも事件の概要がわかってみると、人々は激しい怒りにとらわれました。事故を起こしたユニオン・カーバイド社に対する怒りと、政府に対する怒りです。政府は何もしてくれませんでしたからね。

cinetama:映画の中でも、州首相がワイロを受け取る場面とかが出てきますね。

ラヴィ・クマール監督:多額の金を渡していたでしょう? ユニオン・カーバイド社は判決が出たあと、インドの中央政府に4億3千万ドルの賠償金を支払ったのですが、犠牲者の遺族に渡ったのは1人あたり300ドルだけですから、残りの多額の金が不適正な使われ方に回されたわけですね。

cinetama:その時からずっと、ボーパール事件のことが頭を離れなかったのですか?

ラヴィ・クマール監督:いや、そういうわけではなくて、数年前に何冊か、ボーパール事件に関する本を読んだんです。その中で、サンジャイ・ハザリカの書いた本(※)はすごくて、まるでスリラーみたいでした。このまますぐにも映画になると思いました。
それで、3ヶ月かけて脚本を書き上げました。ジャーナリストを主人公にした、『エリン・ブロコビッチ』みたいな物語です。でも、ジャーナリストが主人公というのは、さっきもお話ししたようにうまく行きませんでした。それで、主人公を複数にした脚本に変えたのです。

※Sanjoy Hazarika "Bhopal, the Lessons of a Tragedy "1987ではないかと思われます。

cinetama:イギリスから何度もボーパールに通って、リサーチをしたわけですね。

ラヴィ・クマール監督:何度も何度も通いました。あの事件の犠牲者のうち、生き残った人々や犠牲者の家族、それに工場で働いていたチョウハーン氏にも話を聞きました。彼の名前も謝辞に入れてありますが、彼からはたくさんの情報をもらいました。他には、医師たちからも話を聞きました。ですので、この映画に描かれていることは全部真実です。

cinetama:撮影はどこで行われたのですか?

ラヴィ・クマール監督:ボーパールでは撮影できませんでした。ボーパールはアクセスが悪いのと、ユニオン・カーバイド社の工場ももうありませんでしたから。大部分は、ハイダラーバードで撮影しました。
ハイダラーバードは、大きな映画界を有していますし、イスラームの影響を受けた古い建築が多く残っています。それに、大規模な化学産業の工業地帯でもあるので、ちょうどいい工場が存在していました。それを借り上げて、ユニオン・カーバイド社に見立てたのです。おかげで、とてもリアルなセットができました。

cinetama:本当に、当時のユニオン・カーバイド社の工場そっくりでしたね。例えば、この参考文献(下写真)の中に出ている工場の図があるのですが、MIC(イソシアン酸メチル)のタンクが3つあるとか、そのままでびっくりしました。

ラヴィ・クマール監督:借り上げた工場を使い、この高い建物や3つのタンクなどは、撮影に当たって我々が作りました。プラスチック等を使って、セットを作ったんです。でも、あとの部分は本当にそっくりの工場で、シャワーとか警告灯とかはそのまま使っています。とてもいいロケ地でした。そのほか、ユニオン・カーバイド社の青いロゴとかも作りましたね。

cinetama:ボーパールでの撮影は全然なかったのですか?

ラヴィ・クマール監督:最後のヘリコプターから撮ったショットのほか、ボーパールの通りをいくつか撮りました。女性ジャーナリスト役のミーシャ・バートンがボーパールに着いて、オートリキシャに乗ってカル・ペンと話しながら行くシーンは、ハイダラーバードで走るトラックの上で撮ったのですが、それにボーパールに行って撮ったシーンを合成しました。欺してるわけですね(笑)。大通りとか、大きなモスクとかはボーパールで撮ったものです。

cinetama:ボーパールの俯瞰シーンで出てくるユニオン・カーバイド社は、あれはCGですよね?

ラヴィ・クマール監督:いや、あれはミニチュアです。『ブレードランナー』を見たことがありますか? あれと同じように、ミニチュアで作ったセットです。ヘリコプターでカメラが町を写すシーンの中心に、ミニチュアで作ったこの手のサイズぐらいの工場を合成したんです。

cinetama:てっきりCGだと思っていました。

ラヴィ・クマール監督:いやいや、CGでは現実味が出ませんからね。事故が起きて、ガスが煙突から排出されるシーンも、ミニチュアを使って撮影しました。CGを使うと、映画『ホビット』みたいに安っぽくなりますから。

cinetama:撮影とそれからポスト・プロダクションには、どのくらい時間がかかりましたか?

ラヴィ・クマール監督:撮影は8ヶ月あまりですね。ポスプロは約3年でしょうか。ミニチュア製作、CG処理、音楽、音作りなど、ポスプロはほとんど全部ロンドンでやりました。というのもロンドンでやれば、私が医師の仕事をやることも可能ですからね(笑)。

cinetama:本業は医師で、”日曜監督”だった、というのはとても信じられませんね。

ラヴィ・クマール監督:(笑って)今回も、インドで映画を撮り終えた後は働かなくてはならなかったんです。というのも、私やプロデューサー、マーティン・シーン氏らは無報酬で仕事をしていたからです。あれだけの大作なので、手持ちの資金は全部、製作費につぎ込まざるを得ませんでした。カメラマンとかのほかのスタッフも、もらった報酬はほんのちょっぴりでした。
私は今もパートタイムの医師として働いていて、今回のTIFFから戻ればすぐに職場復帰することになってます。でも、いいんです。医者は好きですし、重要な仕事ですから。私はとても腕のいい医師なんですよ。

cinetama:昔から、映画を見るのはお好きでしたか?

ラヴィ・クマール監督:そうです。今は見ている暇がありませんけどね。テレビも見ませんし、お酒も飲まないし、仕事一筋です。ですから、今回のTIFFは本当にいい休暇になりました。
昔はよく映画を見ていたし、今もいろんな作品への招待とかがやってきます。私は短編映画も撮っていましたから、それで知られているんです。

cinetama:短編の1本『Notting Hill Anxiety Festival』 (2003)はYouTubeで見ました。

ラヴィ・クマール監督:本当に!? ジュリー・デルピーが主演しているあの短編を? (松下さんが、「またまたそんなビッグネームの女優の名前が!」とびっくり)あれは彼女が脚本を気に入って、出てくれたんです。とってもいい女優さんでした。彼女にはまず、その前に私が作った短編『My Other Wheelchair Is a Porsche 』 (2001)を送って見てもらい、彼女が気に入ってくれたので、それから脚本を見せたんです。脚本はすごく大事ですよ。それ次第で、どんな俳優でも獲得できますからね。
『My Other Wheelchair Is a Porsche 』は、あちこちの映画祭で上映されてよく知られているのですが、障害を持つ青年のセクシュアリティに関する映画です。彼が若い看護師によって性的に目覚めていく姿を描いていて、情感豊かな作品になっています。彼は車椅子に乗っているのですが、強い感情に突き動かされて、車椅子をポルシェのように感じているんですね。とても短いですが、力強い作品です。私の作品は、いつも見る人を考えさせるものになってるんですよ。

cinetama:今回の作品では、すべてがリアルに作られていますね。あのユニオン・カーバイド社の制服も本物ですか?

ラヴィ・クマール監督:もちろんあとで作った物ですが、そっくりにコピーしてあります。ボーパールに行って、制服とかも全部調べて再現したんです。実物と同じでなければ、この映画では使えません。リアル感が失せますからね。ほんの小さなミスであっても、そこから全部がダメになってしまいますから。劇中で登場する紙幣も、その当時のものにしています。出てくる列車も、車体の色が今は赤色なのをブルーに塗りかえました。壁に貼ってあるポスターも、全部当時の物です。

 

cinetama:エキストラとして一般の人がずいぶんたくさん出演していますね。

ラヴィ・クマール監督:ハイダラーバードとボーパールでのロケで、たくさん出てもらいました。俳優を使うと、特に子供たちなんかはリアリティがすっかり薄れてしまいます。成人役も、専門の脇役俳優を使うとうまいかも知れませんが、どこか違ってきます。普通の人に出てもらうと、それだけでリアルさが出るんです。だから私の映画は、ボリウッド映画なんかよりずっとリアルに感じられるでしょう?

cinetama:水中に死体で浮いているというシーンもありましたね。

ラヴィ・クマール監督:あれは、アシスタントのスタッフが演じています。さすがに、一般の人にやってもらうわけにはいきませんからね。

cinetama:撮影中特に大変だったのは、どんなことでした?

ラヴィ・クマール監督:毎日、いっぱいありました。例えば、煙突のシーンですね。煙がこちらの方に流れているとすると、30分後にはそれが別の方向になってしまったりとか、コントロールするのが本当に大変でした。ずいぶん時間を取られましたね。
エキストラもたくさん出演しているので、ちょっと間違ったからもう一度やってもらおうと思っても、それがすごく大変だったり。よく気をつけていないと、ちょっとしたことで全部おじゃんになってしまうんです。
あと、写真家ラグ・ラーイが撮ったボーパール事件の有名な写真で、赤ん坊を埋葬した写真があるのですが、あれを人形を使って再現しようとしたもののうまく行かなかったりとか、撮影中は山ほどの困難に遭遇しました。

cinetama:今は、インドでの公開待ちということですね。

ラヴィ・クマール監督:そうです。まだ時期はわからないんですが、まずアメリカに行って、アメリカの配給会社と話をする予定です。それから、インドでの公開になると思います。サハラというよきパートナーがいるので、大々的に公開してくれると期待しています。

cinetama:次の作品の計画は?

ラヴィ・クマール監督:まず、この『祈りの雨』を観客に気に入ってもらわないと。ダメだったら、私は医者に戻ることになりますね(笑)。
次の作品は、コメディにしようと思っています。誰も死なない作品で(笑)、イギリスで撮る予定です。もう1本、インドでも撮る話があるんですが、そちらはアメリカ人の俳優を使った国際的な作品になると思います。

cinetama:それでは最後に、インド映画ではどんな作品がお好きか教えて下さい。

ラヴィ・クマール監督:古いボリウッド映画が好きです。1950・60年代の作品とか、まあ70年代ぐらいまでの作品で、中でもラージ・カプールとかグル・ダットの作品が好きですね。それ以外には、独立系の監督、サタジット・レイ、ムリナール・セーン、リッティク・ゴトクとかの作品が好きです。でも、ボリウッド映画もとても好きなんですよ。

cinetama:ありがとうございました。

 

チベットの映画監督ペマ・ツェテン映画祭

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珍しいチベット映画の特集上映が12月にあります。2011年の東京FILMeXで最優秀作品賞を受賞した『オールド・ドッグ』で知られる、ペマ・ツェテン監督の作品3本を集めた上映です。また、もう1本の短編作品も、日と場所をあらためて上映されるとのこと。『オールド・ドッグ』は以前香港国際映画祭で見た時にもちょっとご紹介したのですが、チベットの現在を知る上で欠かせない作品です。スチールをたくさんご提供いただいたので、ざっとご紹介しながら上映予定等をご案内しましょう。情報は主として「チベット文学と映画制作の現在」のHPからで、それぞれリンクを付けておきます。

ペマ・ツェテン 万瑪才旦 Pema Tseden 紹介

映画監督/脚本家/小説家/翻訳家
1969年中国青海省海南チベット族自治州生まれ。
<Filmography>
 2004年 『草原』 (短編劇映画/チベット語)
         『最後の防雹師』 (ドキュメンタリー)
 2005年 『静かなるマニ石』 (長編劇映画/チベット語)
 2008年 『ティメー・クンデンを探して』 (長編劇映画/チベット語)
         『バヤンカラの雪』 (長編劇映画/中国語)
         『サムイェ寺』 (ドキュメンタリー)
 2011年 『オールド・ドッグ』 (長編劇映画/チベット語)

 

ペマ・ツェテン映画祭
  2013年12月7日(土)・8日(日)
 映画美学校試写室(オーディトリウム渋谷と同じ建物の地下です) 地図

<上映作品>
 『静かなるマニ石』静静的嘛[口尼]石 The Silent Holy Stones 紹介
 (2005年/チベット語/日本語・英語字幕)

 『ティメー・クンデンを探して』尋找智美更登  The Search 紹介
 (2008年/チベット語/日本語・英語字幕)

 『オールド・ドッグ』老狗  Old Dog 紹介
 (2011年/チベット語/日本語・英語字幕)


 

<上映スケジュール> 詳細
 12月7日(土)10:30 『静かなるマニ石』
                  13:30 『ティメー・クンデンを探して』
                  16:30 『オールド・ドッグ』
 12月8日(日)10:30 『静かなるマニ石』
                  13:30 『ティメー・クンデンを探して』
                  16:30 『オールド・ドッグ』
           18:30 トーク・イベント

  入場無料/定員70名/要申し込み予約/申込者多数の場合は抽選

  ◎申し込みはこちらの一番下をクリックして下さい。


『草原』草原 The Grassland 紹介
 (2011年/チベット語/中国語・英語字幕)

 

 上映予定日:12月11日(水)18:00〜 
 上映予定場所:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所

詳細は後日こちらでご確認下さい。

※監督とプロデューサーも来日する予定とのこと。めったにない機会ですので、関心がおありの方はぜひどうぞ。

 

 


香港映画続々公開!(上)

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香港映画が、年末から年始にかけて怒涛の公開ラッシュ! 試写で見せていただいた『ネイキッド・ソルジャー』のほか、シネマート六本木で拾ってきたチラシを使いながら、ちょっとご紹介していこうと思います。

『ネイキッド・ソルジャー 亜州大捜査線』 公式サイト
  2012/香港/原題:絶色武器/NAKED SOLDIER
 監督:麥子善(マルコ・マク)
 主演:洪金寶(サモ・ハン)、謝[女亭][女亭](ジェニファー・ツェー)、貝安[王其](アンキー・バイルケ)、安志杰(アンディ・オン)、伍允龍(フィリップ・ン)、黄秋生(アンソニー・ウォン)、陳雅倫(エレン・チャン)

11月23日(土)よりシネマート六本木、12月7日(土)よりシネマート心斎橋にてロードショー
配給:彩プロ

 

日本のヴィジュアルではサモ・ハン大哥が大きく写って、やはりの貫禄を見せていますが、本当の主演はジェニファー・ツェー。下が香港版のポスターです。ジェニファー・ツェーは何と、ニコラス・ツェーの妹なんですね。現在31歳で、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学で心理学を学んだという才媛です。2005年に帰国後、モデルを経て映画界入り。『李小龍 マイブラザー』 (2010)でデビューしました。あの時は可憐な役柄でしたが、今回は大暴れ。アクションにも才能があったんですねー。複雑なストーリーは公式サイトを見ていただくとして、劇中で恋仲になる刑事役アンディ・オンとは、撮影当時ステディの間柄だったらしいです。残念ながら過去形になってしまったようですが。

そんな裏ネタをもう一つ書いておくと、サモ・ハンの長男洪天明(ティミー・ハン)も刑事役で出演してます。軽い笑いを提供する役で、なかなかいい感じです。ティミーはお父さん思いのようで、3月に香港で『ドラッグ・ウォー 毒戦』のプレミアが行われた時も、お父さんに付き添うような感じで会場のグランド・シネマに姿を見せていました。ちょっとボケボケでしかも後ろ姿の写真ですが、その時のティミー・ハン(左の帽子姿)とサモ・ハン(真ん中)です。ティミー・ハンの二枚目半的魅力、ぜひ本作でご確認下さいね。

 


冬の香港・中国エンターテイメント映画まつり

シネマート六本木 12月7日(土)〜/シネマート心斎橋 12月28日(土)〜 ※1月1日休映 詳細情報
配給:ツイン

<上映作品>
『名探偵ゴッド・アイ』
 2013/香港・中国/原題:盲探/BLIND DETECTIVE
 監督:杜[王其]峰(ジョニー・トー)
 主演:劉徳華(アンディ・ラウ)、鄭秀文(サミー・チェン)

 

『ゴールデン・スパイ』
 2013/香港・中国/原題:天機・富春山居/SWITCH
 監督:杜[王其]峰(ジョニー・トー)
 主演:劉徳華(アンディ・ラウ)、林志玲(リン・チーリン)

 

『フライング・ギロチン』
 2012/香港・中国/原題:血滴子/THE GUILLOTINES
 監督:劉偉強(アンドリュー・ラウ)
 主演:黄暁明(ホァン・シャオミン)、阮經天(イーサン・ルァン)、余文楽(ショーン・ユー)、王羽(ジミー・ウォング)

チラシを拾いながら大興奮!  こんな大作をまとめてやっちゃうなんて、ツインさん太っ腹です! そう言えば、ツイン配給の『コールド・ウォー 香港警察 二つの正義』は現在シネマート新宿で公開中で、11月9日(土)からはシネマート心斎橋で公開予定ですね。皆さん、こちらはもうご覧になりましたか? 『コールド・ウォー』の公式サイトはこちらです。

おっと、脱線しましたが、「冬の香港・中国エンターテイメント映画まつり」で楽しみなのは、アンディ・ラウ&サミー・チェン+ジョニー・トー監督の『名探偵ゴッド・アイ』。とっても見てみたい作品だったので、今から興奮してしまいます。このトリオの作品でヒットしたのが『Needing You』 (2000)に『ダイエット・ラブ』 (2001)でしたから、本当に久々のタッグです。あれから10年余り、アンディとサミーはどんな顔合わせ演技を見せてくれるんでしょうね。

『フライング・ギロチン』は昨年末に台北で見た作品ですが、かなりの迫力の時代劇。ホアン・シャオミンがキリストに見える映画、とでも言えばいいのでしょうか。ただちょっと不満も残る出来だったので、日本語字幕でもう一度見直した方がいいかも知れません...。

そして、昨年末台北で見た作品がもう1本公開されます。

『バレット・ヒート 消えた銃弾』 予告編
 2012/香港・中国/原題:消失的子弾/THE BULLET VANISHES
 監督:羅志良(ロー・チーリョン)
 主演:劉青雲(ラウ・チンワン)、謝霆鋒(ニコラス・ツェー)、楊冪(ヤン・ミー)
11月30日(土)〜12月13日(金)シネマート六本木にてロードショー
配給:MIDSHIP

これはちょっと変わったテイストの作品で、ジョニー・トー&ワイ・カーファイ監督作『MAD探偵 7人の容疑者』 (2007)にロー・チーリョン味をまぶしたとでも言えばいいのか、かなりひねってある作品です。時代も民国時代、つまり1920年前後に設定してあり、レトロな雰囲気の中で謎が謎を呼ぶ事件が次々と描かれていきます。そしてラストは「まさか!」の結末が。レトロチックなニコラス・ツェーとラウ・チンワンを見るのも、ちょっとした目の保養かも。というわけで、ツェー家の妹に始まり、兄に終わった今回のご紹介でした。

実は香港映画、まだ1本、超大物作品が公開待機中なんですねー。もう少ししたら、「香港映画続々公開!(下)」でご紹介しますのでお楽しみに〜。

 

マラヤーラム語映画上映会

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テルグ語映画の上映会が続いているのに刺激を受けてか、南西インドのケーララ州出身の皆さんが、マラヤーラム語映画の上映会を始めました。テルグ語映画に詳しいPeriploさんからいただいた情報です。


『ギーターンジャリ(Geethaanjali)』  公式サイト(FB)
 (2013/マラヤーラム語)
 監督:プリヤダルシャン
 主演:モーハンラール、キールティ・スレーシュ、ニシャーン、イノセント、シッディーキー

 ■日時:2013年11月16日(土)午後6:00〜
 ■料金:大人 2250円/11-16歳の子供1500円/6-10歳の子供1000円
 ■会場:イオンシネマ市川妙典(千葉県市川市妙典4-1-1 イオン市川妙典店2番街) アクセス
 ■字幕:なし
  ■主催者公式サイト(FB):https://www.facebook.com/Malayalam.Theatre.Tokyo
<Periploさんより>
※事前予約をお勧めします。申し込みフォームの入り口はこちら。万が一の直前の急な変更や今後の案内などもメールで受信できるようになります。

マラヤーラム語のトップスター 、モーハンラールの主演作です。監督のプリヤダルシャンはボリウッドでも活躍している大物監督。字幕がないのが残念ですね...。Periploさんの、本作ご紹介サイトはこちらです。

 

『プニャーラン線香(Punyalan Agarbattis)』 予告編 公式サイト(FB)
 (2013/マラヤーラム語)
 監督:ランジート・シャンカル
 主演:ジャヤスーリヤ、イノセント、ニラー・ウシャー、ラチュナー・ナーラーヤナンクッティ

 ■日時:2013年12月8日(日)午後5:30〜
 ■料金:大人2000円/10歳以上の子供1000円
  ■会場:東部フレンドホール(東京都江戸川区瑞江2−5−7) アクセス
 ■字幕:英語
<Periploさんより>
  ※上映に際しては10分程度のインターミッションあり。ただし食べ物のケータリングはなし。飲み物自販機は会場にあり。
 ※事前予約をお勧めします。申し込みフォームの入り口はこちらこちら(いずれも同内容)。万が一の直前の急な変更や今後の案内などもメールで受信できるようになります。

すてきなポスターですね。Periploさんの本作ご紹介サイトはこちらです。

マラヤーラム語映画はアート系作品も多くて、日本でもアラヴィンダン監督、アドゥール・ゴーパーラクリシュナン監督、シャージ・N・カルン監督らが知られています。ご興味のある方は、ぜひご予約の上お出かけになってみて下さい。


 

 

香港映画続々公開!(下)

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前回の続きです。今日ご紹介するのは、『ドラッグ・ウォー』、もちろん、杜[王其]峰(ジョニー・トー)監督の作品です。正確に言うとジョニー・トー監督と韋家輝(ワイ・ガーファイ)監督の共同監督作品なのですが、これが実にすごい! 目の覚めるような、鮮やかな手腕を感じさせる作品になっています。まずは、映画のデータのご紹介を。

 

『ドラッグ・ウォー 毒戦』 公式サイト(まだ工事中?)  日本版予告編

 2012/中国・香港/原題:毒戦/DRUG WAR/中国語・広東語

 監督:杜[王其]峰(ジョニー・トー)
 製作:杜[王其]峰(ジョニー・トー)、韋家輝(ワイ・ガーファイ)
 脚本:韋家輝(ワイ・ガーファイ)、游乃海(ヤウ・ナイホイ)、陳偉[文武](リケール・チャン)、余曦(ユ・スィ)
 撮影:鄭兆強(チェン・シウキョン)、陶鴻武(トー・ホンモウ)
 編集:デヴィッド・リチャードソン、梁展綸(アレン・リョン)
 音楽:グザヴィエ・ジャモー
 アクション監督:イー・ティンフォン

 出演:
 <ドラッグ製造>
  蔡添明(テンミン):古天樂(ルイス・クー)
  大聾(ろうあの兄):郭涛(グオ・タオ)
  小聾(ろうあの弟):李菁(リー・チン)
 <津海(モデル地:天津)警察>
  張雷(ジャン)警部:孫紅雷(スン・ホンレイ)
  小貝(ベイ)刑事 :黄奕(クリスタル・ホアン)
  徐国祥(小祥)刑事:高雲翔(ガオ・ユンシャン)
 <粤江(モデル地:香港)警察>
  郭偉軍(グオ)刑事:鍾漢良(ウォレス・チョン)
 <マフィア>
  チェンビャオ:リー・ズェンチ
  哈哈(ハハ)哥:■(赤+おおざと)平(ハオ・ビン)
  チャン:ケビン・タン
 <香港7人衆>
  肥成(ファット) :林雪(ラム・シュー)
  李亜東(ドン)  :林家棟(ラム・ガートン)
  ドンの妻、薩(サー):葉[王旋](ミシェル・イエ)
  テンミンの兄、蘇(スー):張兆輝(エディ・チョン)
  テンミンの名付け親、雀叔(チュエ):盧海鵬(ロー・ホイバン)
  仇仔       :呉廷[火華](バーグ・ン)
  黒哥       :姜皓文(フィリップ・キョン)

2014年1月11日より新宿シネマカリテ他にて全国順次ロードショー

配給:アルシネテラン

ちょっといつもと違うキャスト表にしたのは、人間関係がわかっていないと物語が楽しめないためです。物語は、テンミン(ルイス・クー/写真上)が爆発した工場から車で逃れ、嘔吐して蛇行運転を繰り返したあげく、交通事故を起こして病院に収容されるところから始まります。一方、長距離バスに乗った男女が、バスがオーバーヒートしたことで検問に引っかかり、逃げまどう姿も描かれます。実はその男女は、体内に麻薬の入ったカプセルを飲み込んでおり、結局捕まってそれを排出させられる羽目になります。その中には、潜入捜査をしていたジャン警部(スン・ホンレイ/写真下の左側)もおり、彼はテンミンも麻薬がらみだと突きとめて、彼に取引を持ちかけます。麻薬に関わった者は、中国では死刑。警察に協力すれば、死刑を逃れられると言うのです。

テンミンに課せられたのは、マフィアのボスであるチェンビャオらの逮捕への協力でした。麻薬を扱うために紹介しようとしていたハハ兄貴と、チェンビャオの甥チャンに対し、2人が互いに初対面なのをいいことに、それぞれ相手に扮したジャン警部を紹介するという危ない役回りです。綱渡り作戦ながら何とか成功し、テンミンはブツを用意するため自分の麻薬製造工場に行き、そこを仕切る耳と口の不自由な兄弟(グオ・タオ&リー・チン)に製造を急がせます。実は、最初に爆発した工場ではテンミンの妻とその兄たちが働いており、その3人は工場爆発で死亡してしまったのでした。それを聞いて、弔いの儀式をしてくれる兄弟。しかしながらその時工場はすでに包囲され、一方でテンミンが会うことになっているハハ兄貴も逮捕は目前でした。ところが作戦にほころびが生じ、警察からその責を問いつめられたテンミンは、チェンビャオらの後ろには香港7人衆がいるのだということを告白してしまいます....。

 

はい、これが香港7人衆です。1人欠けていますが、左からドン(ラム・ガートン)、ドンの妻サー(ミシェル・イエ)、チュエ叔父貴(ロー・ホイパン)、黒哥(フィリップ・キョン)、ファット(ラム・シュー)、テンミンの兄スー(エディ・チョン)です。この右に、粋に帽子を被った仇仔(バーグ・ン)がいたんですが、切れてしまってすみません。バーグ・ンも入った素顔の集合写真はこちら。ロー・ホイパンが抜けていて、代わりに右側に刑事役のウォレス・チョンがいます。これもボケててすみません...。ウォレスのファンが怒るといけないので、彼の写真だけアップを付けておきます。

この、7人が陰で糸を引いている、ということで、これは『MAD探偵 7人の容疑者』(2007)へのオマージュかしらん、と思ってしまいます。おっと、自分の監督作品でも「オマージュ」と言うのかしらん? 冗談はさておき、こういうジョニー・トー&ワイ・ガーファイのファンにはたまらないネタも満載して、ラストはものすごいアクションシーンへとなだれ込みます。予告編には「映画史に残るラスト13分」とあったので、相当長いですね。もちろん、そこへ行くまでも山場に次ぐ山場で、一瞬たりとも退屈しているヒマはありません。脇役も、全員がアクの強さ全開です。

その脇役たちが、ジョニー・トー監督&今回は製作のワイ・ガーファイ監督と、主演のルイス・クーと並んだ1枚をどうぞ。一番左にいるグオ・タオが、なかなかいい役どころを演じています。キャスティングも相変わらずうまいですねー。

今回ルイス・クーは、オーラスのシーンも含めて、ちょっとかわいそうな役回りでした。でも、兄弟が弔いの儀式をしてくれて、死者のために燃やす紙銭がないからと言って躊躇なく本物の紙幣を燃やした時、テンミンが涙をこらえるシーンにはグッときました。汚れ役を引き受けさせても、見せ場はちゃんと作ってあげるのですね、トー監督。

同じ試写で見ていた浦川とめさんが、素敵な紹介文を書いてらっしゃいます。こちらの11月6日分をどうぞ。コメントも合わせて読むととても面白いのですが、鑑賞後の方がより笑えるかも知れません。

プレスには、本作が大阪アジアン映画祭2013で上映された時のインタビューを、ミルクマン斉藤さんがまとめた抱腹絶倒のやり取りが掲載されています。同じ時のインタビューがこちらにアップされていますが、ミルクマンさんの文が面白いので引用させていただきます。

”ジョニー・トー監督:まず絶対に文句をつけられることは「ストーリーの中で、あまりたくさん死んではいけない」。・・・・いや、確かにだいぶ殺したけど(笑)、これでもかなり減らしたんだ。公安としては、自分たちの仕事がそんなに危険なものだとは思ってほしくないようだね。それと、「あまり銃を撃つな」。・・・・いや、確かにだいぶ撃ったけど(笑)、これでもカットしたんだ。”

どうです、見たくなったでしょ? あと2ヶ月、楽しみにお待ち下さいね〜。

 

インド映画のDVD続々発売

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前にもちょこっとご案内しましたが、9月以降インド映画のDVDが続々と発売されています。ここで、来春までの発売予定も入れて、ちょっとまとめておきます。

『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』 (発売元:マクザム) DVD&BD(ブルーレイ・ディスク) 9月27日発売 

恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム[DVD] クリエーター情報なし マクザム

※美麗チャプターしおり付き!

『ラ・ワン』 (発売元:マクザム) BD(ブルーレイ・ディスク) 9月27日発売

ラ・ワン[ Blu-ray] クリエーター情報なし マクザム

※美麗チャプターしおり付き!

『ムトゥ 踊るマハラジャ』 (発売元:マクザム) DVD&BD(ブルーレイ・ディスク) 10月25日発売 

ムトゥ 踊るマハラジャ[DVD] クリエーター情報なし マクザム

※とっても楽しいカタカナ歌詞ブック付き!

『スタンリーのお弁当箱』 (発売元:角川書店) DVD 11月29日発売 

スタンリーのお弁当箱 [DVD] クリエーター情報なし 角川書店

『きっと、うまくいく』 (発売元:ハピネット) DVD&BD(ブルーレイ・ディスク) 12月3日発売

きっと、うまくいく [DVD] クリエーター情報なし Happinet(SB)(D)

※チョー豪華ブックレットが付きます!

『タイガー 伝説のスパイ』 (発売元:ハピネット) DVD 12月3日発売

タイガー 伝説のスパイ [DVD] クリエーター情報なし Happinet(SB)(D)

『命ある限り』 (発売元:ハピネット) DVD 1月7日発売

命ある限り [DVD] クリエーター情報なし Happinet(SB)(D)

『闇の帝王DON ベルリン強奪作戦』 (発売元:ハピネット) DVD 1月7日発売 

闇の帝王DON ベルリン強奪作戦 [DVD] クリエーター情報なし Happinet(SB)(D)

『アラジン 不思議なランプと魔人リングマスター』 (発売元:不明) DVD 1月7日発売 

アラジン 不思議なランプと魔人リングマスター [DVD] クリエーター情報なし ビデオメーカー

元は2009年のボリウッド映画『Aladin』で、出演はアミターブ・バッチャン、リテーシュ・デーシュムク、ジャクリーン・フェルナンデス、サンジャイ・ダット。監督はのちに秀作『カハーニー/物語』 (2012)を撮ることになるスジョイ・ゴーシュです。あまりヒットしなかった作品なのですが、日本版が出るのは嬉しいですね。画像がなかったので、こちらに現地版ポスターの画像を付けておきます。

ネットに掲載されているストーリーを引用すると、”カーヒシュという町に清らかな心を持った青年、アラジンが住んでいた。ある日、クラスに交換留学生としてジャスミンという美女がやってくる。アラジンはジャスミンに一目惚れするが、近所に住むいじめっ子のカースィムも同じであった。やがてアラジンは、誕生日にジャスミンからランプを貰うが、それは魔法のランプで…。名作「アラジン」を完全映画化したアドベンチャー・アクション!”とのこと。固有名詞の表記も正確なので、字幕もしっかりしているのでは、と思います。案外掘り出し物かも。

 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆  ☆

すごいですねー、わが家の日本版インド映画DVDの棚もいっぱいになってきました。全部お求めいただくのは無理としても、レンタル店でどんどんレンタルなさって下さいね。そうするとDVDの発売会社さんが、またどんどん出す気になって下さいますので。昔上映されただけでソフト化されなかった作品がいっぱいあるのですが、DVDスルーでそういうのを出して下さる可能性もなきにしもあらず。がんばってお買いあげ&レンタルをお願いします! 

 

『神さまがくれた娘』公開日決定!

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昨年の大阪アジアン映画祭で上映されて、グランプリとABC賞をダブル受賞したタミル語映画『神さまがくれた娘』が、いよいよ来年2月15日(土)より公開となります。

『神さまがくれた娘』は、知的障害のある主人公クリシュナが、妻亡きあと周囲の協力を得ながら幼い娘を育てていくストーリーです。いわばインド版『アイ・アム・サム』ですが、笑いや歌も入れながら、クライマックスには号泣必至のシーンを用意してあるという、インド映画らしさがいっぱい詰まった素晴らしい作品でもあります。昨年の映画祭上映時の紹介はこちらです。

本作は2012年大阪アジアン映画祭終了後の5月18日(金)の深夜ABC朝日放送で放映されたのですが、びっくり仰天したのはその日、18日(金)の拙ブログへのアクセス数が1,038、そして放映直後の19日(土)のアクセス数が2,426にも上ったこと。普段は400前後のアクセス数なので、本当に驚きました。それほど、見た人の関心を呼び覚ましたのですね。首都圏で初めてご覧になる方、どうぞ大いに期待していて下さい。また、関西圏でテレビ放映をご覧になった方も、ぜひ大きいスクリーンで見直してみて下さいね。

 

『神さまがくれた娘』
 2011年/インド/タミル語/149分
 原題:Deiva Thirumagal/英語題名:God's Own Child

  監督:A.L.ヴィジャイ
 主演:ヴィクラム、ベイビー・サーラー、アヌシュカー、アマラー・ポール、ナーセル、サンダーナム

  提供:マクザム
 配給:太秦

2014年2月15日(土)より、渋谷ユーロスペース、シネマート六本木にて、3月よりシネマート心斎橋にてロードショーほか全国順次公開

実は上のチラシは、配給会社である太秦に今日納品されたばかりというできたてのホヤホヤです。今日は夜講演の仕事があり、お申し込みの人数が95名と聞いて、これは『神さまがくれた娘』のチラシをお配りせねば、と思って午後取りに行ってきたのでした。苦労(?)はしてみるもので、その時太秦の社長から耳よりなお話が聞こえてきました。実は、来年もう1本、インド映画を配給なさる予定なんだそうです。その作品は....と、言いたいのは山々なんですが、情報解禁は来年早々。思わずピューと口笛吹きたくなる作品なので、楽しみにお待ち下さいね!

それから、もう一つ耳より情報を。間もなく発売される「キネマ旬報」12月上旬号に、インド映画特集が掲載されています。超目玉は、『Shall we ダンス?』の監督であり、「インド待ち」の著者でもある周防正行監督と、『ムトゥ 踊るマハラジャ』の大ヒット仕掛け人江戸木純さんの対談です。その他内容等は次の通り。 

キネマ旬報 2013年12月上旬号 No.1651 クリエーター情報なし キネマ旬報社

「キネマ旬報」 2013年12月上旬号 No.1651
【2013年11月20日発売/890円】 

<企画・作品特集>
インド映画生誕100年記念 どうにもインド映画好きなもので。
 □対談 周防正行(映画監督)×江戸木純(映画評論家)
 □きっと、はまるインド映画 Text by 熊坂多恵
 □インド映画100年の歩み
 □インド映画の今の常識が分かるQ&A
 □REPORT 映画生誕百年祭に沸くムンバイ Photo & Text by 山下由紀子

こちらもお楽しみに〜。

 

中国語圏映画感動作シリーズ<1>『光にふれる』

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来年のお正月明け、中国語圏映画の感動作が続々公開となります。そのうちの3本を選んで、ご紹介しようと思います。

トップバッターは、台湾で作られた『光にふれる』。2012年に東京国際映画祭で上映された時、その迫力に圧倒された作品です。まずは作品データをどうぞ。

 

『光にふれる』  

 2012年/台湾・香港・中国/110分/中国語/
 原題:逆光飛翔/英語題名:Touch of the Light/日本語字幕:樋口裕子

  監督:張榮吉(チャン・ロンジー)
 提供:王家衛(ウォン・カーウァイ)
 主演:黄裕翔(ホアン・ユィシアン)、張榕容(サンドリーナ・ビンナ)、李烈(リー・リエ)、許芳宜(シュウ・ファンイー)

 提供:クロックワークス、ショウゲート
 配給:クロックワークス
2014年2月8日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほか全国ロードショー

© 2012 Block 2 Pictures Inc. All rights reserved.

物語は、裕翔(ユィシアン/黄裕翔)が大学入学のため台北へと旅立つ朝から始まります。台中の郊外で花卉栽培をしているユィシアンの家族は、両親と妹。妹と、やってくるバイクの音で誰が来たかあてっこしているユィシアンは、生まれつき目が不自由でした。しかしながら素晴らしい音楽の天分を持っているため、台北の音楽大学に入学することになったのです。

母(李烈)に付き添われて大学の寮に落ち着いたユィシアンでしたが、慣れない環境で不安がいっぱい。始まった音楽の授業では、先生はユィシアンに十分な配慮をしてくれるものの、教室移動の介助当番の学生は、面倒くさがって途中までしか同行してくれません。でも、ユィシアンは不満を母に訴えたりはしませんでした。ユィシアンには、幼い時に聞こえてきた、目の不自由な自分に対する言葉がトラウマとなっていたのです。寮の同室の相棒が気のいい朱自清(チン/閃亮)とわかったあと、母は後ろ髪を引かれる思いながら台中に戻ります。

チンはユィシアンを自分がやっているバンドSM(スーパー・ミュージック)に誘い、「おまえ、どんな女の子が好き?」と聞いたりして、ユィシアンにごく普通の友人として接してくれます。その問いに「声のきれいな人」と答えたユィシアンでしたが、その時彼の耳に、大学構内にドリンクの配達に来た小潔(シャオジエ/張榕容)の声が。シャオジエはダンスをやっている女の子で、ダンス・グループのリーダー阿嶽と恋人関係にありながらも、彼の浮気に悩まされて悶々としている最中でした。ドリンク店の店長(納豆こと林郁智)は、そんな彼女を彼独特の思いやりで見守ってくれますが、シャオジエには買い物マニアの母親もいて、彼女はストレスにさらされてイライラしていました。

ある時、道路横断ができなくて立ち往生をしているユィシアンを助けたシャオジエは、徐々に彼と親しくなっていきます。彼から受けた影響と、配達先で見つけた素晴らしいダンス教師(許芳宜)の存在によって、シャオジエの心は明るさを取り戻し、彼女は香港で行われるダンス・コンクールに出場する決心をします....。


© 2012 Block 2 Pictures Inc. All rights reserved.

本作は、張榮吉(チャン・ロンジー)監督が2008年に作った30分余りの短編映画『黒天(The End of the Tunnel)』を大きくふくらませたものです。『黒天』はYouTubeのこちらで見ることができますが、できれば『光にふれる』をご覧になってから鑑賞されることをお勧めします。裕翔の外見が違っているため、かなり印象の異なる作品になっているからです。『光にふれる』を見てから『黒天』を見てみると、この短編を見た王家衛(ウォン・カーウァイ)監督がチャン監督の才能に目をとめ、劇映画化を勧めたことがストンと納得できます。さらに、チャン監督が行った改編のうまさをも、つぶさに読み取ることができるのです。

『黒天』ではまず最初にホアン・ユィシアンありき、だったのでしょうが、日本で言えば梯剛之さんや辻井伸行さんといった感じですでに活躍しているユィシアンを、再度彼自身として『光にふれる』に起用するのは、冒険だったのではと思います。でも、チャン監督によって引き出されたユィシアンの演技力が、この映画をとても魅力的な作品にしています。前にも書いたのですが、アップで捉えられる彼の表情が実に雄弁で、映画の醍醐味を見る者に味わわせてくれます。

© 2012 Block 2 Pictures Inc. All rights reserved.

張榕容(サンドリーナ・ビンナ)が扮する小潔(シャオジエ)のパートが少し弱いと感じるのは、彼女のダンスが少々説得力に欠けるせいかも知れません。でもそれを補って余りあるのが、ダンス教師役の許芳宜(シュウ・ファンイー)の肉体表現。禁欲的なまでにコントロールされた肉体の動きで、研ぎ澄まされた美しい世界を表現して見せてくれる彼女のダンス。プレス資料によると、「台北とニューヨークを拠点に活躍する国際的に名高いダンサー。長年にわたり、マーサ・グラハム・ダンス・カンパニーの主要なダンサーの1人であった」とのことですが、ユィシアンの音楽と共に、豊かな世界が画面に広がります。

あと、私が好きなのは、寮の同室者チン君。エロ本をユィシアンの顔の前にかざしてみせて、「やっぱり見えねえか」という感じで確認してみたりと、ユィシアンの盲目というハンディキャップに同情するのではなく、それを単なる一つの現実として捉えている彼。この彼のキャラクターが、映画をさらに豊かに彩ってくれます。太ってるし、どちらかというとコミキャラなのですが、彼の存在で、最後コンテストに無理矢理出場するユーモラスなシーンも生きてきて、感動がよけいに深くなります。編集も担当している李念修(リー・ニエンシウ/ニサ・リー)の脚本、うまいですね。

何か、とても力強いものをもらった気がする『光にふれる』。あなたもぜひ、ユィシアン・ワールドを体験してみて下さい。2014年がきっといい年になりますよ。
  

 

明後日から第14回東京フィルメックス開催

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今年もあと少し、と感じるのは、毎年フィルメックスがやって来た時です。いつも11月の最終週にかかるのと、上映会場である有楽町朝日ホールのそばの宝くじセンターに、年末ジャンボ宝くじを求める長蛇の列ができるからです。有楽町マリオンの大時計も、今頃はサンタさんコスチュームに衣替えしている頃でしょう。

以前ラインアップをご紹介しましたが、もう一度私的範囲のアジア映画だけを選んでラインアップを付けておきます。私のアジア映画の範囲は、韓国からイランまで、中央アジアは除く、なので、ぐっと少なくなっています。見たい作品、人気作等には、ちょこっとコメントを付けておきました。前売り券をお求めの方はお急ぎ下さい。

第14回東京フィルメックス  公式サイト  チケットぴあ前売り券サイト

 11月23日(土)〜12月1日(日)
 有楽町朝日ホール、TOHO シネマズ日劇

<コンペティション>
『カラオケ・ガール』
 2012/タイ、アメリカ/原題:Sao Karaoke
 監督:ウィッサラー・ウィチットワータカーン

『ILO ILO(英題)』
 2013/シンガポール/原題:[父+巴]媽不在家
 監督:アンソニー・チェン(陳哲藝)
 配給:アステア

※カンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞した本作は、配給が決まっているのに大人気。あっという間に後方の一部を残して前売り券が売り切れました。というわけで、11月29日(金)午前10:00より追加上映があります。残念ながらアンソニー・チェン監督によるQ&Aはありませんが、ゆったりご覧になりたい方はこちらをどうぞ。

『トランジット』
 2013/フィリピン/原題:Transit
 監督:ハンナ・エスピア

『夏休みの宿題』
 2013/台湾/原題:暑假作業
 監督:チャン・ツォーチ(張作驥)/主演:鄭人碩、楊亮兪、管管

※久しぶりのチャン・ツォーチ監督作品。祖父役の管管は有名な詩人なのですが、もうかなりのお年のはず。どんな方なのか、見るのが楽しみです〜。

『見知らぬあなた』
 2013/中国/原題:陌生
 監督:チュエン・リン(権聆)/主演:陶虹、郭暁冬、子義

 

※香港国際映画祭で見たのですが、中国の長江沿い地方都市を舞台に、家族が抱える負の感情をうまく描いた作品でした。女性監督チュエン・リンの感性が生きています。

<特別招待作品>

・オープニング作品
『A Touch of Sin(英題)』
 2013/中国、日本/原題:天注定
 監督:ジャ・ジャンクー(賈樟柯)/主演:姜武、王宝強、趙涛
 配給:ビターズ・エンド、オフィス北野

※チケットは見事完売。公開されたら見ることにします。

・クロージング作品
『THE MISSING PICTURE(英題)』
 2013/カンボジア、フランス/原題:L'image manquante
 監督:リティ・パニュ
 配給:アステア

※これもチケットは、後方座席を残して完売。配給会社がついているので、こちらも公開されるはず。最終土曜日はNGということもあって、私は来年まで待つことにします。

『微笑み絶やさず』
 2013/イギリス/原題:Ongoing Smile
 監督:モフセン・マフマルバフ

※上の写真の後ろ姿は、釜山国際映画祭の前ディレクター、キム・ドンホさん。とてもすてきなおじ様で、プサンを国際映画都市にした功労者でもあるので、これはぜひ見たい! キム・ドンホさんは、イ・ジョンジェ主演作『情事』(1998)にもカメオ出演しておられます。

『閉ざされたカーテン』
 2013/イラン/原題:Parde
 監督:ジャファル・パナヒ、カンボジヤ・パルトヴィ

『ピクニック』
 2013/台湾/原題:郊遊
 監督:ツァイ・ミンリャン(蔡明亮)/主演:李康生、陸[亦+廾]静

もうご覧になる作品は決まりましたか? それでは、有楽町でお会いしましょう!

 


「スクリーン」誌にも注目!

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先日、「キネマ旬報」誌のインド映画特集をご紹介しましたが、「スクリーン」誌にも、あら!のグラビアが。ただ今発売中の新年号のP.120&121です。

SCREEN (スクリーン) 2014年 01月号 [雑誌] クリエーター情報なし

近代映画社

「ボリウッドの人気スターカタログ」というタイトルで、あの方やこの方がご出演。<ボリウッド4>で上映された作品がDVDやBD化されるのを機会に特集が組まれたとのことですが、何と!ナン子ちゃんも出演してます。「インド映画応援隊長ナン子ちゃん」とのことで、タージ・マハルと象を従えて登場。隣にいるのが超美人のあの方なのでちょい分が悪いですが、応援ご苦労様です。

この「スクリーン」誌、編集部のNさんがわざわざ送って下さったのですが、写真のセレクションがセンス抜群。カラーページで、嬉しい特集となっています。ボリウッドスターのファンの方はお見逃しなく。

そして、ここで紹介されている『きっと、うまくいく』と『タイガー 伝説のスパイ』ソフトのサンプル盤も、早くも拝見する機会に恵まれました。『きっと、うまくいく』は、前にも書いたように豪華特製ブックレット付きです。特別にナイショで(笑)、ブックレットの表&裏表紙をお見せしてしまいます。写真があまりよくないのですが、実物はもっときれいですよ〜。

小さなサイズながら、全20ページのブックレットには写真と情報がチョー満載。キャスト&スタッフの詳しい紹介のほか、暉峻創三さんの「アジア映画の新しい国境の越え方」、高倉嘉男さんの「スターを越えたスター:アーミル・カーン」などの読み応えのあるエッセーも収録。映画館のパンフレット顔負けです。また、未見の写真がたくさん収録されているのも、『きっと、うまくいく』ファンには堪えられません。この、アーミルとマーダヴァンが鼻をつまんでいる写真はなに???

発売元ハピネットの方のお話によると、「インドのように作品が多いと、時間の経った作品は素材集めが本当に大変で、殆どケンカになるまで交渉して頑張りました。この作品は、もちろん配給会社始め、宣伝の方々のがんばりのお陰で世に出たのですが、広めて下さったのは観客の皆さんで、そういうこの作品を愛してくださる方々が大事にして下さるようなブックレットにすることで、少しでも感謝を表したかったのです。」だそうで、くぅぅぅ、泣かせます。

ご予約済みの皆様、楽しみにお待ち下さいね。ご予約がまだの方は、今からでも遅くありません。ブックレットが手に入るのはソフトを買った方だけです。とはいえ、あまりに素晴らしいブックレットなので、「市販なさいませんか〜」とも提案しているのですが、やっぱり無理だろうなあ...。はい、ご予約はこちらからどうぞ。12月3日にはお手元に届きます。

きっと、うまくいく [Blu-ray] クリエーター情報なし Happinet(SB)(D)

 

きっと、うまくいく [DVD] クリエーター情報なし Happinet(SB)(D)

「キネマ旬報」新年号の特集「どうにもインド映画好きなもので。」も、もうご覧いただけましたか?

江戸木 正直、僕も「きっと、うまくいく」はあまり好きじゃない(笑)。

周防  なんかね、きっと、うまくいきすぎ(笑)。

という屈折した(笑)会話も交わされていますが、江戸木純さんと周防正行監督の対談は面白いです。ちょっと江戸木さんの勘違いでは? という所が1箇所あるので、あとでメールしておかなくちゃ。皆さんもぜひ、お手に取ってじっくりお読みになってみて下さいね〜。

 

第14回東京フィルメックス始まりました!

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今年で14回目を迎える映画祭<東京フィルメックス>が昨日より始まりました。オープニング作品であるジャ・ジャンクー(賈樟柯)監督の『罪の手ざわり』 (2013/中国、日本/原題:天注定)は見られなかったのですが、それに続く上映作品、モフセン・マフマルバフ監督の『微笑み絶やさず』 (2013/イギリス/原題:Ongoing Smile)を見てきましたので、簡単にご報告を。

この作品は、釜山(プサン)国際映画祭(PIFF)の元ディレクター、キム・ドンホ(金東虎)氏を追いかけたドキュメンタリー映画です。キム・ドンホ氏はPIFFの1996年第1回から2011年まで、15年間ディレクター(組織委員会執行委員長)を務めました。まさにPIFFの顔と言っていい人です。下の写真は、1997年1月にインドのトリヴァンドラムで行われたインド国際映画祭でお会いした時のキム・ドンホ氏です。左に写っているのは、インドの大御所映画監督ムリナール・セーンです。

 

本作は、キム・ドンホ氏がディレクターを辞めたあとの生活を追っています。まず、朝もまだ暗いうち、午前5時頃にキム・ドンホ氏が起床するところから、カメラは自宅に入り込みます。朝の1時間近いジョギングというかウォーキングのあと、かなりヘビーな朝食を食べながら新聞に目を通すキム・ドンホ氏といったプライベートな映像と共に、映画祭の会場でしょうか、キム・ギドク監督を始めとする映画人が丁寧に彼に挨拶する映像が映し出されます。そしてそれに、キム・ドンホ氏の英語によるナレーション「私は1937年に江原道(カンウォンド)で生まれ、5歳の時にソウルにやってきました...」がかぶります。それを見ながら、日本統治時代に生まれ、その後解放を経て朝鮮戦争を十代で体験した、キム・ドンホ氏の青春時代はどんなだったのだろう、と思ったりしました。

ただ、本作はそういう深い追求はせず、その後公務員となり、検閲の仕事に携わったあとPIFFのディレクターを務め、現在は短編映画の監督としてもデビューしようとしているキム・ドンホ氏の日常の断片を写していきます。そして、PIFFのプログラミング・ディレクターのキム・ジソク氏、香港の映画評論家ロジャー・ガルシア氏といった人々に、キム・ドンホ氏を巡るいろんなエピソードを語らせます。ジュリエット・ビノシュに乞われてダンスをするシーンも登場し、有名人から一般の観客まで分け隔てなくつきあっていくキム・ドンホ氏の姿が描かれていくのです。

彼の初監督作である短編映画は『審査員』というタイトルだそうで、映画祭の審査員になった5名(アン・ソンギやトニー・レインズなどの顔が見えます)が意見の相違でつかみ合いのケンカをする、という結構刺激的な作品のようです。「映画監督の仕事は、私の新しい地平を切り開いてくれた」というキム・ドンホ氏の言葉は、70歳を過ぎても若々しい精神を保つ彼の姿をよく伝えています。「私の人生には3つの段階があって、1.役人の段階、2.映画祭ディレクターの段階、そして今は3.アーティストの段階なんだ」というキム・ドンホ氏。ますますお元気で、と思ってしまいましたが、映画自体もそこでとどまっている感じのドキュメンタリーでした。

上映終了後、モフセン・マフマルバフ監督によるQ&Aが行われました。司会はフィルメックスのディレクターの1人、林加奈子さん、通訳は日本におけるイラン映画の母とも言えるショーレ・ゴルパリアンさんです。

林ディレクター「この映画を作ったのはどうしてですか?」

マフマルバフ監督「キム・ドンホさんは私の師匠なんです。私自身の人生のモデル的存在であり、その人の人生を皆さんとシェアしたかったんですね。
そして、私の感謝の気持ちも、この作品で伝えたいと思いました。アート系の映画はいろいろ紹介されるのですが、その映画を支えている映画祭のことは、誰も紹介したことがなかった。そういう映画祭への感謝の気持ちをこめて、本作を作りました。
あと、現在は寿命が長くなっています。年を取った人が多くなった現在の世界で、キム・ドンホさんは彼らのモデルになれると思ったのです。キム・ドンホさんはシンプルな生活をしながら、活躍している。それを見ると感銘を受けます。
もう一つ、お金がなくても映画を作れることを示したかった、ということもあります。カメラがあり、自分と子供がいれば映画は作れる。前の作品『庭師』も予算ゼロでした。プロデューサーが見つからない時は、カメラをペンのように使って作るのだ、ということを私は訓練しているのです」

林ディレクター「はい、では会場からのご質問を受け付けます」

マフマルバフ監督(会場からなかなか手が上がらないのを見て)「皆さんの質問の答えを、私が全部しゃべってしまったかな(笑)」

Q「マフマルバフ監督はキム・ドンホさんを自分の先生だとおっしゃってますが、キム・ドンホさんは役人から映画祭に入った人、監督は投獄されたりという人生を歩んでこられました。お二人の共通点は、どういうところにあるのですか?」

マフマルバフ監督「彼は60歳で役人をリタイアして、プサン映画祭に加わっています。その生活を見てみると、打ち合わせをしながらご飯を食べたりととても忙しい。今は映画祭からも身を引いて、奥さんの収入で生活してるんですが、今でも人々と会って、彼らを結びつける仕事をしています。マネジメントが上手なんですね。そして、どんな人に対しても尊敬の念をもって接しているという、モラルを持っている人でもあります。マネジメントの手腕とモラルとを兼ね備えている人として、私は自分のモデルにしたいんです。彼はまた、役人時代に検閲をなくした人でもありますしね。刑務所にいた時代、検閲のせいで刑務所に入れられた芸術家たちをたくさん見てきました」

林ディレクター「キム・ドンホさんはとてもユニークな方で、映画祭のディレクターがみんなこうだと思われると困ります。あの方と私の共通点は、ご飯を食べるのが早いというぐらいです(笑)。この作品は、何日ぐらいかけて撮ったんですか?」

マフマルバフ監督「『庭師』のポスト・プロダクションで韓国にいた時、キム・ドンホさんが短編映画を撮る、ということを聞き、メイキングのようなものを撮ることにしました。その後、釜山国際映画祭があった時もカメラを回しました。私はキム・ドンホさんとはまったく似ていないので、彼になりたくて撮っているという面があります。この作品を彼に見せたら、”僕はぶさいくで、英語も下手だねえ”という感想をもらいました。とても謙虚な人なんです」

林ディレクター「キム・ドンホさんがジュリエット・ビノシュさんと踊る所がありますが、映画祭のディレクターは打ち上げとかで必ず踊らされる宿命にあるんです。私も踊ったことがありますが、その時のお相手はアミール・ナデリ監督でした(笑)」

Q「撮影のクレジットに息子さんのお名前がありましたが、監督ご自身がカメラを回したのはどのくらいですか? キム・ドンホさんはカメラを意識していましたか?」

マフマルバフ監督「カメラはメインが息子で、リアクション・ショットが私です。キム・ドンホさんの日常はずっと走っている感じで、追いかけるのにヘトヘトになりました。この映画には奥さんがまったく写っていませんが、それは”私は写さないで”と言われたからです。”夫の陰にいる存在として写されるのはイヤ”ということで、写るなら自分個人として、ということでした」

林ディレクター「次回作についても聞かせて下さい」

マフマルバフ監督「次はビッグ・プロジェクトで、グルジアで撮る予定です。英語映画で、テーマはデモクラシーです。12月中に準備し、1月から撮影に入る予定です」

フィルメックスは初参加というマフマルバフ監督、大いに語ってくれました。こういう監督のお話が至近距離で聞けるのも、フィルメックスのいいところ。会期は12月1日までです。ぜひ一度、会場に足を運んでみて下さい。公式サイトはこちらです。

マフマルバフ監督は審査委員長なので、コンペ作品の上映時には真ん中の段の席に座っている可能性大。お邪魔にならないような時をみはからって、「アッサラーム・アレイクム(こんにちは)。ハーレ・ショマー・クーベ(ご機嫌はいかがですか)? ヘイリー・コシュハーラム・ケ・ショマー・ラー・ミービーナム(お目にかかれて嬉しいです)」と言ってみて下さいね。サインをもらった時は「ヘイリー・モタシャッキラム(ありがとうございます)」です。がんばって下さい!

 

中国語圏映画感動作シリーズ<2>『グォさんの仮装大賞』

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感動作シリーズ第2弾は、これも2012年の東京国際映画祭で上映された作品『グォさんの仮装大賞』です。TIFFでは『老人ホームを飛びだして』のタイトルで上映されました。下のポスターは現地版のもので、左のポスターの一番前にいるのが周(チョウ)さん(呉天明)、その右が葛(グォ)さん(許還山)です。

『グォさんの仮装大賞』 公式サイト
2012年/中国/北京語/104分/原題:飛越老人院/英題名:FULL CIRCLE

監督・脚本:張揚(チャン・ヤン)
出演:許還山(シュイ・ホァンシャン)、呉天明(ウー・ティエンミン)、李濱(リー・ビン)、顔丙燕(イエン・ピンイエン)、王徳順(ワン・ダーシュン)、蔡鴻翔(ツァイ・ホンシアン)、江化霖(チャン・フアシュン)、高歌(ガオ・グー)、陳坤(チェン・クン/特別出演)、スーチン・ガオワー(斯琴高娃/特別出演)

配給:コンテンツセブン
宣伝:ポイント・セット

2014年お正月第2弾、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国ロードショー

© 2012 Desen International Media Co., Ltd

<ストーリー>

老人ホームでは、チョウさん(呉天明)がパフォーマンス中。イリュージョンかと思うような達者な芸を披露し、「こんなのやってみたくないかい? 仮装大賞を目指そうよ」とみんなを誘います。その頃、チョウさんとバスの運転手時代同僚だったグォさん(許還山)は、再婚同士だった妻を亡くし、妻の実子に住居を譲り渡して、かなりの代価を手にしたあと家を出たところでした。グォさんはその足で孫(高歌)の結婚式に行くのですが、過去にいろいろいきさつがあってグォさんを恨んでいる息子は父を許そうとせず、お金を受け取ることも拒否します。チョウさんを頼って老人ホームにやってきたグォさんは、自分の惨めな老後に涙するのでした。

でも、だんだんと老人ホームの生活に慣れていき、チョウさんの企みによる仮装大賞参加のプロジェクトが動き出すと、グォさんはもちろん、チョウさんを夫と思いこんでいるリー夫人(李濱)ら老人たちはいきいきとしてきます。この老人ホームは、院長(顔丙燕)を始め職員もみんないい人ばかりなのですが、それだけに老人たちを心配し、危険なことはさせてくれません。何かあったら老人たちの家族から非難されるのも恐いし、という職員の目を盗んで、着々と仮装大賞の準備を進めるチョウさんたち。実は、チョウさんには、どうしても仮装大賞に出て優勝し、日本で行われる本選に行きたいわけがあったのでした。さらにチョウさんは、もう一つ重大な事実をみんなに隠していました。

そんな波乱含みの仮装大賞出場。チョウさんはオンボロ・バスを買い込み、老人ホーム飛び出し作戦を練っていますが、果たしてみんなは無事、遠い天津で行われる中国大会に出場できるのでしょうか。そして、グォさんと家族の和解は....。

© 2012 Desen International Media Co., Ltd

最初はしょぼくれていた老人たちが、仮装大賞という目標を持ったとたん、腰はしゃんと伸び、頭の回転は速くなり、様々なエクササイズにも軽やかに取り組んでいく、という姿が、見ている者を笑わせ、勇気づけてくれます。その一方で、老人たちの本音や老い衰えた姿もかなりストレートに描かれており、熟年&老年世代は身につまされるかも知れません。この、暖かさ&ユーモアとリアリズム&ペーソスとの上手な配分は、張揚監督ならでは。そして、老俳優たちが、監督の意図を見事に体現してくれます。エンドクレジットでは、演じた俳優たちが実際の年齢と共に登場しますが、そんなにお年だったんだ〜、と思う人もいれば、え、まだ60代だったの、と思う人もいて、演技力にあらためて敬意を表したくなります。最後の最後まで満足させてくれる作品です。

ところで、 ストーリーを引っ張っていくのはグォさんよりもチョウさんで、なぜ日本語タイトルが『チョウさんの仮装大賞』にならなかったのか、というのは疑問が残るところです。ただ、最後まで見れば、なるほど、最後に仮装大賞のパフォーマンスの中心となるのはグォさんだからなのねー、と納得できるはず。日本でも人気のある「欽ちゃん&香取慎吾の全日本仮装大賞」は中国でも放送されているようで、それでこんなアイディアが映画に取り入れられたのですね。皆さんの麻雀パフォーマンス始め、最初の写真にあるような三面鏡パフォーマンスも、出場すれば絶対合格間違いなし、という出来でした。

© 2012 Desen International Media Co., Ltd

試写の時配られるプレスにあった石坂健治さんの評論「チャン・ヤン監督の成熟と中国映画界の至宝たちの共演」も、示唆に富むものでした。石坂さんは、「ああ、またひとつ中国から”老人映画”の傑作が誕生したな」と感じたとして、過去の作品、『北京好日』(93)、『ガジュマル(榕樹)の丘へ』(98)、『胡同の理髪師』(06)、『再会の食卓』(10)、『女人四十』(95)、『生きていく日々』(08)、『タオ(桃)さんのしあわせ』(11)等の名前を挙げています。そして、「『グォさんの仮装大賞』はこれらの系譜につながりつつも、新たな地平を切り開く一本といえる」と、中国語圏の”老人映画”がさらに多様化し、進化していることを教えてくれます。

また、石坂さんは「日本との意外な交流がみられる点が興味深い」として、「実は2012年の東京国際映画祭は尖閣問題の余波のなかで行われ、ピリピリした雰囲気もあったのだが、この仮装大賞のくだりで自然に起こった笑いと、先に述べたエンディングの大きな拍手は、そんな空気を和ませるひと幕であり、エンターテインメントを媒介として両国が深く結びついていることを確認する貴重な機会だった」とも書いています。私もその上映時に会場にいたので、感動の拍手をこちらでレポートしました。今また日中間が防衛識別圏問題で緊張をはらんでいる時、この作品は両国の結びつきを考え直す素材となってくれるかも知れません。 

その日中関係を考える上で参考になるのが、下の劉文兵先生の著作「中国抗日映画・ドラマの世界」です。

 

ずっと前にご恵存いただきながら、なかなかご紹介する機会がなくて、この機に乗じてちょっとご紹介する次第です。本書は1932年の上海事件を描く作品から始まって、2012年の作品『一九四二』までを取り上げて抗日映画の歴史とその変化をつぶさに紹介しています。新書なのでページ数が十分になく、1本1本の作品紹介が短いのが残念ですが、”抗日”から”娯楽”へと重点が変わっていく時代の流れを俯瞰的に見ることができて、中国社会の変化も追うことができます。

また、最後の章「テレビ時代の抗日ドラマ」は、本年6月初めに中国政府と中国共産党が荒唐無稽な抗日ドラマの規制に乗り出したことの背景を説明してくれます。まさに、映画とドラマで、日中の時代の変化を読んでいく好著となっているのです。『グォさんの仮装大賞』をご覧になる機会に、ぜひ目を通していただきたい1冊です。

中国抗日映画・ドラマの世界(祥伝社新書) 劉文兵 祥伝社

そうそう、最後にもう一つ追記を。これもプレスにあった井上俊彦氏の「一見素朴な老人ホームの面々は、実は中国映画史を彩る老戯骨(ラオシーグー)たち。」という文にあったのですが、チョウさんたちが天津に行く途中に内蒙古自治区を通るという設定は不思議ではない、とのこと。チョウさんたちの老人ホームは寧夏回族自治区にある設定になっているようで、そこから地図でほぼ東に一直線にある天津へは、「河北省の石家荘などを通る南のルートより、オルドス、フフホトを経由する北のルートの方が早く到着(おんぼろバスでなければ17時間ほど)できるようです」とのことです。途中、斯琴高娃扮するモンゴル族一家のゲルに招待されて、みんな馬乳酒と羊肉でいい気分になる、というのも、彩りのために挿入されたエピソードではなかったのですね。

なお、陳坤は天津の病院の医師として登場します。ファンの方はお見逃しなく。2014年旧正月(元旦は1月31日)のお楽しみはこれ!ですね。

 

第14回東京フィルメックスの日々

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今回の東京フィルメックスはなかなか毎日通えないのですが、それでも2日か3日に一度の割合で出勤しています。というわけで、11月27日(水)と本日29日(金)のレポートをまとめてアップします。まずは、東南アジア三部作(?)のご紹介を。

『カラオケ・ガール』
 2012/タイ、アメリカ/原題:Sao Karaoke
 監督:ウィッサラー・ウィチットワータカーン

ドキュドラマとでも言うべき作品で、実際にカラオケ・バーに勤めるサーという女性を主人公に起用し、彼女自身を演じさせている斬新な試みの映画です。登場する実家の両親や伯母、弟妹たちは”リアル”で、彼女とつきあっているバーテンダーはどうやら俳優が演じているようでした。濃い化粧でテーブルを回っていくサーですが、帰省した時に見せる素顔はまるで別人。実家には「工場に勤めている」と言っているようで、病気の父の治療費など、すべてが彼女の肩にかかってきます。最初にアカペラで歌われる「私は慰み者のカラオケ・ガール...でも、私は自分自身だけのもの」という歌が印象的でした。女性監督ウィッサラー・ウィチットワータカーンは、最初サーの家に同居して数週間過ごし、姉妹のようになってから脚本を執筆したとか。

『トランジット』
 2013/フィリピン/原題:Transit
 監督:ハンナ・エスピア/主演:イルマ・アドラワン、ピン・メディナ、メルセデス・カブラル

イスラエルを舞台にしたこの物語は、4つのパートに分かれています。イスラエル人と結婚したものの、離婚して今は滞在ビザも切れているフィリピン女性ジャネット(イルマ・アドラワン)、ジャネットの弟で幼い息子ジョシュア(マーク・ジャスティン・アルバレス)を抱え介護士として働くモイゼス(ピン・メディナ)、フィリピンからやってきてジャネットを頼るティナ(メルセデス・カブラル)、そしてジャネットの混血の娘ヤエル(ジャスミン・カーティス)です。モイゼスは以前フィリピン女性と結婚していたのですが、彼女は彼の元を去り、今はイスラエル人の妻となっています。映画は、”5歳以下の子供は本国に強制送還する”というイスラエルの法律をかいくぐり、ジョシュアと一緒に暮らそうとするモイゼスの緊張の毎日を中心に、それぞれに問題に直面している女性たち3人の日常を描いていきます。

終了後Q&Aがあり、ハンナ・エスビア監督とプロデューサーのポール・ソリアーノが登壇しました。監督はどこにも居場所がない人々について映画を撮りたいと思っていたところ、偶然テルアビブからマニラへ行く飛行機でイスラエル在住のフィリピン人と乗り合わせ、イスラエルが移民を増やさないために5歳未満の子供を強制送還していることを知ったのだとか。2009年にできた子供の強制送還の法律は2011年から施行されたのですが、人々の抗議を受けて、1.イスラエルに5年以上住んでいる、2.ヘブライ語を流暢に話す、3.イスラエルの学校に通っている、4.親が正式のビザを持っている、という条件で子供の滞在が認められるようになったそうです。

劇中の出演者たちは、ヘブライ語も上手にしゃべります。それに関しては、まず脚本を英語で執筆、その後俳優が自然にセリフが言えるようタガログ語に直し、さらにそれを全部ヘブライ語に直してもらったそうです。その上で6週間俳優にヘブライ語の特訓を施し、全員がしゃべれるようになったのだとか。ジョシュア役の俳優は実際には8歳だったそうですが、ヘブライ語を流ちょうにしゃべっています。監督はもともと編集を本職としており、撮影後にこのように複数の人間の視点から物語る構成にしたそうで、数台のカメラを使って撮影したため十分なフッテージがあってよかったと語っていました。 

『ILO ILO(英題)』
 2013/シンガポール/原題:[父+巴]媽不在家
 監督:アンソニー・チェン(陳哲藝)/出演:ヨー・イェンイェン、チェン・ティエンウン、アンジェリ・バヤニ、コー・ジアルー
 配給:アステア

カンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞しただけあって、期待に違わぬ出来でした。先日台湾で行われた金馬奨でも、作品賞、助演女優賞、新人監督賞などを受賞しています。助演女優賞を受賞したのは主人公の少年の母親役を演じたヨー・イェンイェンですが、『歌え!パパイヤ』のビッグ・パパイヤだった彼女が大きなお腹をして登場し、息子の問題児ぶりにいら立つ閉塞感溢れる共働き女性を好演しています。妊婦姿がどうも演技ではないように思われ、帰宅後調べてみると、実際に妊娠していた彼女を使っての撮影だったようです。最後の出産シーンは、きっと”リアル”の場面だったのですね。

1997年、アジア通貨危機に見舞われたシンガポール。夫は株に手を出して失敗、セールスマンとして勤めていた会社も止め、禁煙していたタバコにまた手を出すようになります。息子は宝くじの当選番号を集めることに熱心で、学校ではクラスメートとケンカしたりして問題児扱い。妻は「希望はあなた自身に存在する」と唱えるあやしげな自己啓発セミナーに大金を投じるようになります。そんな家庭にフィリピン人のお手伝いさんがやってきて、またいろいろな波風が立ちます。ですが、彼女の存在によって一家のほころびは修復され、彼女が去ったあと一家は再生の道を歩み始めるのです。緊張をはらむ、無駄のない脚本が素晴らしく、俳優たちの演技とあいまって、秀作が誕生していました。日本公開が待たれます。

 『夏休みの宿題』
 2013/台湾/原題:暑假作業
 監督:チャン・ツォーチ(張作驥)/主演:楊亮兪(ヤン・リャンユー)、管管(クァンクァン)

台北に住む10歳のバオ(ヤン・リャンユー)は、夏休みに父に連れられ祖父(クァンクァン)の住む田舎へやって来ます。その一夏の間に友人の死や台風など、バオが多くのことを体験する物語です。久々のチャン・ツォーチ監督作で期待していたのですが、ちょっと平板でいまひとつ。でも、主人公のバオを演じたヤン・リャンユー君がゲストとして来日してくれたのは大きなサプライズでした。

今は12歳というヤン君、映画よりちょっぴり大きくなっていて、態度も落ち着いています。通訳の樋口裕子さんとは、まるで母子のようでした。

司会は、フィルメックス事務局の岡崎匡さん。普段ですとディレクターの林加奈子さんか市山尚三さんが司会を担当するのですが、今回はめずらしく岡崎さん。岡崎さんは「ちいさなひとのえいががっこう」という子供向けの映画講座も手がけていたりするので、それを見込まれての司会かも知れません。ヤン君の堂々たる回答ぶりに、岡崎さんもすっかり感銘を受けたようでした。

ヤン君の話によると、最初監督はかつての台北県、現新北市の学校を回って主演の子供たちを探したそうで、「ちょっと遊んでて」とか言いながらカメラに収め、それを見てヤン君を主演にキャスティングしたのだとか。共演の子供たちも、みんなそうやって選ばれたとのことです。撮影時には場面やセリフを説明してくれ、「こうこうだけど、自分のアドリブを加えてもいいからね」と言ってくれたそうです。

ヤン君はこれが初めての演技経験だそうで、その後も俳優としての仕事はしていないとのこと。「でも役者になりたいので、大学を出たあといっぱいいっぱいいい演技をしたいと思います」

終了後、ロビーではヤン君のサイン会が。台湾映画関係者の日本の方(右側/『KANO』というのがチラと聞こえたような...)と記念撮影もしたりして、大人気でした。左側はヤン君のお父さんです。

こんな風に、ゲストとの距離が近い東京フィルメックス。そのほか、観客の中に知り合いも多く、会場に行くのが楽しみなフィルメックスでもあります(りからんさん、久々にお目にかかれて嬉しかったです!)。本日は、中国インディペント映画祭で『卵と石』が上映される黄驥(ホアン・ジー)監督にもお目にかかり、先日ご主人の大塚龍治さんとお会いしたのと合わせて、素敵な出会いとなりました。映画祭は残すところあと2日ですが、さらなる出会いを期待したいと思います。

 

 

東京フィルメックス最終日

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11月23日から始まった第14回東京フィルメックスも本日が最終日。例年ですと最終日にコンペ部門の結果発表があるのですが、今回は昨日に結果発表と授賞式がすでに終了しています。受賞結果は次の通りです。

最優秀作品賞: 『花咲くころ』 (グルジア、ドイツ、フランス)
            監督:ナナ・エクチミシビリとジーモン・グロス
審査員特別賞: 『ハーモニー・レッスン』 (カザフスタン、ドイツ、フランス)
            監督:エミール・バイガジン
スペシャル・メンション: 『カラオケ・ガール』 (タイ、アメリカ)
                監督:ウィッサラー・ウィチットワータカーン
                『トーキョービッチ,アイラブユー』 (日本)
                          監督:吉田光希
観客賞: 『ILO ILO』』 (シンガポール)
      監督:アンソニー・チェン
学生審査員賞:ハンナ・エスピア監督(フィリピン)

最終日の今日は、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督作品『ピクニック』を見に行って来ました。

『ピクニック』
 2013/台湾/原題:郊遊
 監督:蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)/主演:李康生(リー・カンション)、陸[亦+廾]静(ルー・イーチン)、楊貴媚(ヤン・クイメイ)、陳湘[王其](チェン・シャンチー)

 

ツァイ・ミンリャン監督のミューズ、総出演作品ですが、ピカ一のミューズはやはりリー・カンション(上写真左)。雨中にビニールかっぱを着て、マンションの看板を持って道端に立つ男と、どうやら彼の子供らしい少年と幼い少女のホームレスのような生活を描きつつ、どうやら過去の幸せな家庭の様子がそれにカットバックされる....。「どうやら」ばかりなのは、何も説明がないためです。これに、スーパーの冷凍食品売り場主任の女性(ルー・イーチン)がからむのですが、嵐の中子供を船に乗せて漕ぎ出ようとする父親から子供2人を救う、というシーンがあるものの、それがラストではなく...、という、かなり難解な作品でした。異常なくらい長い長回しが何カ所もあって、画面の登場人物が数分間動かないというカットもあったりします。なぜこんな作品を? という問いに対する答えは、本日の上映前にサプライズで登壇したツァイ・ミンリャン監督の挨拶に答えを見つけられるかも知れません。

監督「私の新作を見に来て下さってありがとうございます。この作品は、4年前の『ヴィザージュ』に続く作品ですが、実は『ヴィザージュ』を撮ったあと、もう映画を撮るのはやめようと思いました。ですので、『ピクニック』は計画外に出来上がった作品です。

ある台湾の大学教授が本を出版したのですが、彼はその本を書くに当たって私にインタビューに来ました。そのインタビュー方法は、これまでの私の作品のハイライトを私に見せながらインタビューする、というやり方でした。ハイライトは特に、私の作品のミュージカル部分を中心に構成されていました。そういうハイライトを見ることで、私は自分の作品をあらためて見直し、自分は何と素晴らしい作品を撮ってきたことか、と思ったのです(笑)。特に、ミュージカル部分は楽しく見ました。

『ピクニック』に関して言えば、歌と踊りはありませんが、これはいい作品です。なぜなら、リー・カンションが演技をしているからです(笑)。私はこの20年映画を撮ってきましたが、『ピクニック』は特別な作品だと言えます。これは、リー・カンションの顔を撮るための作品です。リー・カンションは私に、映画とは何かを考えさせてくれる存在なのです。20年間にわたる映画製作は、映画の持っているものを捨て去る、という形での製作でした。でも、時間だけは捨て去ることができません。リー・カンションの顔は、その時間の流れを刻んでいると思うのです。

フィルメックスには感謝しています。この作品を選び、上映して下さったからです。また、観客の皆さんにも感謝しています。リー・カンションと同じく、私と共に歩んできてくれたからです。私にとって映画を撮るということは、収穫と同じです。また、映画を見るということも、収穫と同じだと思います。今夜は、この収穫をお互いにシェアしましょう。

人間は年老いていくものです。でも、老いることを恐れる必要はありません。私は、この『ピクニック』が私の最後の作品であることを願っています。私はこの20年間、映画を撮り続けたことで十分楽しんできました。20年間に撮った10本の映画は、どれもいい作品だったと思います。

でも、私は疲れを覚えるようになりました。だからもう、映画は撮りたくないと思うのです。とは言っても、安心して下さい。天の神は、どんな裁定を下されるかはまだ不明です。何年か経って、私が新作を撮っても変に思わないで下さい。その時は、今日ここでこう言ったことは、もう思い出さないで下さいね(笑)」

何だか、聞きようによっては監督としての遺言とも聞こえる言葉ですね。それにしては『ピクニック』は、気力に溢れる、鬼気迫る作品でした。ただ、ツァイ・ミンリャン監督とリー・カンションの「二人世界」で作品が作られている感じがビンビンして、とても入り込むことができないという思いもしました。

            ☆  ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆ 

フィルメックスも終わり、いよいよ師走となります。有楽町マリオンの時計も、少し前からクリスマス仕様に衣替え。天使たちがサンタ姿になっています。

それでは忙しい師走の時期、皆様もお体に気をつけてお過ごし下さい。私は<中国インディペンデント映画祭>も<ペマ・ツェテン映画祭>もあるので、まだまだ映画漬けです〜。

 

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