本日も力作インド映画を2本、見てきました。平日の昼間でも皆さん結構足を運んでいらっしゃいます。明日からの4連休は座席争奪戦が厳しくなるかも知れませんので、ぜひネット予約をしてからお出かけ下さい。キネカ大森は発券マシーンが1台なので、お早めに劇場にいらして発券を済ませて下さいね。<インディアンムービーウィーク/IMW>の公式サイトはこちらです。
『お気楽探偵アトレヤ』(原題:Agent Sai Srinivasa Athreya/ 2019 年/ テルグ語/145分)
監督:スワループ R. S. J.
出演:ナヴィーン・ポリシェッティ、シュルティ・シャルマー
先日公開された『きっと、またあえる』(2019)で、アシッド役を演じていたナヴィーン・ポリシェッティ作品だというので、楽しみにして出かけました。お話はアトレヤ(ナヴィーン・ポリシェッティ)が母の死を知らされ、アーンドラ・プラデーシュ州のネッルールに近い村に帰ってくるところから動き出します。帰ったらすぐ葬儀か、と思いながら実家に着いたアトレヤは、そこに伯父しかいないのでびっくり。母の遺体がすでにどこかへ持ち去られていた、というこの時の出来事が、あとあとの謎に繋がっていきます。それから3年経って、アトレヤはネッルールの町で探偵事務所を開設しますが、やることと言ったら、若い女性アシスタントのスネーハ(シュルティ・シャルマー)に欧米のサスペンス映画を見せてはうんちくをたれ、探偵(エージェント)はまず形から、とばかりコートにソフト帽、手にはコーヒーのテイクアウトカップ、という格好で、友人の新聞記者シリーシュからたれ込みがあると殺人現場へ赴く、というもの。もちろん殺人現場では警察の人間に怒られ、バカにされて追い出されるのですが、それでも犯人と間違われて留置場にブチ込まれたりしているうちに、警官たちとも何となく知り合いになっていきます。その頃さかんに発生していたのは、線路脇に遺体が放棄されている、という事件でした。アトレヤたちがそれを追いかけていくうちに、とんでもない凶悪犯罪の実態が見えてくることになるのですが...。
前半は、コメディタッチというかこだわり満載のカルト作品というか、かなりクセのある作り方でなかなか映画の意図するところがわからなかったのですが、死体遺棄の連鎖から犯罪の実態が見えてくると、びっくり仰天の内容になっていきます。実際にインドで起きた事件なのでしょうか、最後に新聞報道なども登場するのですが、それにしても、いやー、それは無理だろう、あのインドじゃ遺体はすぐ腐敗するだろうし...と半信半疑のまま見終えることになりました。それに、あまりにもたくさんの名前が被害者側&犯罪者側&アトレヤ側の人間として飛び交うので、誰が誰やらわからない、というのも、この映画を十分に楽しめなかった原因です。でも、インドでは非常に評価が高く、「ここ最近では最高のコメディー・サスペンス映画」等々絶賛されていて、映画賞も獲得しています。ヒットにもなったので、シリーズ化が考えられているとのことですが、ナヴィーン・ポリシェッティの当たり役となるのでしょうか、エージェント・アトレヤ。アシッド・ファンは楽しみにして待っていて下さい。
『伝説の女優 サーヴィトリ』(原題: NadigaiyarThilagam/ 2018 年/ タミル語/167分)
監督:ナーグ・アシュウィン
出演:キールティ・スレーシュ、ドゥルカル・サルマーン、サマンタ・アッキネーニ
こちらは実在した女優サーヴィトリ(1936?ー1981)の一代記です。物語はかつては超有名な女優だったサーヴィトリ(キールティ・スレーシュ)が倒れて病院に担ぎ込まれた1980年8月11日から始まるのですが、彼女の容体を取材してこい、と命じられた駆け出しの女性新聞記者ワーニ(サマンタ・アッキネーニ)の物語との入れ子構造になっています。ワーニはカメラマンのアントニー(ヴィジャイ・デーワルコーンダー)と共に編集長に命じられて、あまりよく知らない往年の女優サーヴィトリをフォローするのですが、やがてサーヴィトリの幼なじみと知り合ったりして、徐々にサーヴィトリの生き方に惹かれていきます。幼児期に父を亡くし、母と共に母方の伯母の家で暮らすようになったサーヴィトリは、幼い頃から舞台女優として人気者になり、やがて伯父に伴われて当時のマドラスの撮影所へ赴きます。失敗も重ねながら映画デビューを果たし、人気女優の座へと駆け上っていくサーヴィトリ。そんな撮影所で知り合ったのが、やはり当時売り出し中の男優ジェミニ・ガネーサン(ドゥルカル・サルマーン)でした。やがて二人は恋に落ちますが、ジェミニ・ガネーサンにはすでに妻がおり、娘も何人かいました。それでもジェミニ・ガネーサンはサーヴィトリとの結婚を実行し、世間に非難されながらも二人は大邸宅で暮らし始めます。二人の間には、女の子に続いて男の子も生まれて、一見二人は幸せそうに見えたのですが、金銭問題やスターとしての人気の差など、小さなほころびから破局が見え始めます...。
テルグ語版『Mahanati(大女優)』のポスター
ジェミニ・ガネーサンはヒンディー語映画界では「女優レーカーの父」として知られている男優です。それでは、レーカーはサーヴィトリの子? それとも、最初の妻の子? と疑問が出てくるわけですが、実はこの二人の妻のほかに、プシュパワッリという女優とも恋愛関係にあったジェミニ・ガネーサンは、プシュパワッリとの間にレーカーとその妹という二人の娘ももうけているのです。人々は彼のことを「King of Romance(ロマンスの王)」と呼んだそうですが、ここまでくると「不倫の王」と呼びたくなりますね。このややこしい関係をちょっと年表にしておきましょう。参考にしたのはWikiの各項目と、ジェミニ・ガネーサンの娘で「Times of India」の記者だったナーラーヤニ・ガネーシュが書いた本「Gemini Ganesan」(Roli Books, 2011)↓です。
1920.11.17 ジェミニ・ガネーサン、現在のタミルナードゥ州に生まれる
1936.12.6? サーヴィトリ、現在のアーンドラ・プラデーシュ州に生まれる
1940.6.30 ジェミニ・ガネーサン、最初の結婚~妻Alamelaとの間に女児4人
1947 ジェミニ・ガネーサン、端役で映画デビュー
1951 サーヴィトリ、ダンスシーンの踊り子で映画デビュー
1952 サーヴィトリ、テルグ語映画とタミル語映画で初めて主演、人気者に
サーヴィトリとジェミニ・ガネーサン結婚~娘と息子が誕生
1953 ジェミニ・ガネーサン、初めての主演作を撮る
1954 ジェミニ・ガネーサン、既婚の女優プシュパワッリとの間に娘レーカーが誕生~さらにもう1人女児が誕生(結婚はせず、愛人関係のまま)
1968 サーヴィトリ、監督デビュー
1971 サーヴィトリ、タミル語映画では最後の主演作に出演、以後脇役に
1980.8.11 サーヴィトリ、倒れて昏睡状態になる
1981.12.26 サーヴィトリ、16ヶ月の昏睡を経て逝去
2005.3.22 ジェミニ・ガネーサン逝去
前述の本のP.100に、サーヴィトリとジェミニ・ガネーサンの写真がありましたので、引用させてもらいました。この映画は、1940年代~80年代のタミル語映画界のことを知っているととても興味深いのですが、それだけでは現代の人々にアピールしないだろう、という配慮からか、前述のワーニとアントニーという1980年代の恋が挿入されていて、これがなかなか効いていました。『マッキー』などで日本でも知られているサマンタ・アッキネーニが、メガネ女子で吃音もあるという地味な娘に扮し、サーヴィトリを見事に演じたキールティ・スレーシュと並ぶぐらい、印象的でした。とはいえ、キールティ・スレーシュの熱演は特筆すべきもので、サーヴィトリを少女時代から貫禄十分な中年になるまで再現した裏には、大変な努力があったものと思われます。映画自体と共に、彼女自身もたくさんの映画賞を受賞したのも、当然と言っていいでしょう。その他、プラカーシュ・ラージやナーガ・チャイタニャなど、カメオ的な出演者も豪華です。日本公開は少々難しいと思いますので、インド映画の歴史に興味がある方は、この機会にぜひお見逃しなく!