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輝く香港の女性たち<その1>『人生の運転手(ドライバー)~明るい未来に進む路~』

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10月と11月に、香港の魅力的な女性たちを描く作品が3本公開されます。今日ご紹介する『人生の運転手(ドライバー)~明るい未来に進む路~』(2020)に、サミー・チェン(鄭秀文)主演の『花椒(ホァジャオ)の味』(2019)、そして、アン・ホイ(許鞍華)監督の歩みを辿るドキュメンタリー映画『わが心の香港 映画監督アン・ホイ』(2020)です。それぞれに味わいが違う作品ですが、香港女性らしいたくましさとしなやかさを感じさせてくれて心に響きます。ではまずは、意外な展開で面白かった『人生の運転手(ドライバー)~明るい未来に進む路~』からどうぞ。

『人生の運転手(ドライバー)~明るい未来に進む路~』
  2020年/香港/広東語・北京語/105分/原題:阿索的故事/英題:The Calling of A Bus Driver
 監督:パトリック・コン(葉念琛)
 主演:イヴァナ・ウォン(王菀之)、フィリップ・キョン(姜皓文)、エドモンド・リョン(梁漢文)、ジャッキー・ツァイ(蔡潔)
 配給:武蔵野エンタテインメント株式会社
※10月1日(金)よりシネマカリテほか全国順次公開

©2020 Media Asia Film Production Limited. All Rights Reserved.

主人公の阿索ことソック(イヴァナ・ウォン)は本名蒋九索、伝統的なチリソースを作って販売する小さな会社「陳三益」で働いています。現在の社長陳志高ことジーコウ(エドモンド・リョン)の片腕として、古くからいる従業員たちと共に彼を支えているのですが、ジーコウはいまいち頼りないため、ソックがいろいろと仕切る毎日。そんな「陳三益」に、中国本土のバイヤーである若い女性程琪琪ことケイケイ(ジャッキー・ツァイ)がやってきて、中国本土への進出を強く勧めます。ジーコウはケイケイの言葉に乗せられて本土との取引を始め、やがてその心も、結婚を約束していたソックからケイケイへと移ってしまいました。「陳三益」をやめたソックにはジーコウとケイケイから結婚式の招待状が届き、ソックはもうわだかまりがないことを示すために出席しますが、そこで騒動に巻き込まれてしまいます。

©2020 Media Asia Film Production Limited. All Rights Reserved.

騒動を起こしたのは、ケイケイの元カレの李振民/レイ・ザンマン(フィリップ・キョン)で、バスの運転手に転職したソックを訪ねてきたザンマンは、ソックにある計画を提示します。ソックがバスの運転手に新たな活路を見出したのは、以前通勤時に知り合った運転手から味わい深い言葉を教えられたからでした。「人生はバスに似ている。乗り間違えることがあったとしても大丈夫、降りて正しいバスに乗り換えればいいんだ。そうすると、必ず目的地に着く」それを支えに、「陳三益」の時に取得していた大型車運転免許を生かして運転手採用試験にも合格したソックでしたが、ザンマンの強引な勧誘に遭って、ジーコウとケイケイへの復讐計画に引き入れられていきます...。

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香港のバスはたいていが、イギリス時代から引き継いだスタイルの二階建てバス。広東語では雙層巴士(ソンチャンバシ)というのですが、狭い香港の道路を大きな車体のバスがすいすいと縫っていく様は、香港の風物詩となっています。私はあの2階の最前列に乗るのが好きで(香港人の知人からは「危ないのに~」と顔をしかめられた)、そういうバスの走る風景がいっぱい見られる作品だろうと思っていたところ、予想を覆されました。バスは主人公たちの生き方のメタファーで、もっと人間くさい数々のドラマが本作では展開されていくのです。その多くは男女の愛憎に関するドラマですが、主人公たちだけではなく、バスの乗客も巻き込んで実に盛りだくさん。クスッと笑えるシーンもあちこちにあり、久々に庶民もの香港映画を楽しませてもらいました。

©2020 Media Asia Film Production Limited. All Rights Reserved.

主人公のソックを演じるイヴァナ・ウォンは、主演作を初めて見たのですが、コメディ女王のサンドラ・ン(呉君如)にちょっと似た風貌で、今後下町映画のヒロインとして活躍しそうな予感がします。本職は歌手で、作曲家としても活躍しているそう。本作に出演するために大型の運転免許を取り、バスの運転手試験に合格したという根性のある人で、そのメイキング動画はずっと前にYouTubeで見て、どんな作品なのかなあ、と思っていたのでした。それにしても、「九索」という名前は、女の子の名前としてはいかがなものかと思います。麻雀の索子の竹が9本並んだ牌のことですよね。ラストのオチに使いたかったからとしても、脚本も担当するパトリック・コン監督、大胆すぎるのでは。ラストのオチには、同じく麻雀牌の名を持つ男性が登場するのですが、それを演じている方力申(アレックス・フォン)はパトリック・コン監督お気に入りの俳優です。ゲスト出演の水泳王子、久しぶりに見ました。

©2020 Media Asia Film Production Limited. All Rights Reserved.

久しぶり、と言えば、ソックの家族は両親と祖母(邵音音/スーザン・ショウ)で、父親はレトロなレコード店を経営し、音楽に夢中でろくに家にも帰ってこない、という設定なのですが、その父親役でダニー・サマー(夏韶聲/ハー・シウシン)が登場した時にはびっくり仰天! ダニー・サマーは1980・90年代は”香港ロックの父”と呼ばれたロックの神様的存在の人で、香港高山劇場でのコンサート(*)に行ったこともあります。劇中で「ジミ・ヘン(ジミ・ヘンドリックス)よりすごかった」というようなセリフがあるのですが、彼自身を反映したようなキャラを演じていて感激でした。このレコード店のシーンでは、レスリー・チャン(張國榮)の「為妳鍾情」のアルバムもさりげな~く写り込んでおり、パトリック・コン監督の昔日香港への思い入れが感じられます。

©2020 Media Asia Film Production Limited. All Rights Reserved.

こんな風に、香港カルチャー好きには応えられない作品ですが、中国本土との関係も深読みすれば...という筋立てになっていて、先に書いたバスの話もなかなかに意味深です。それと、もう1本筋が通っているのが、香港女性に対するフェミニズムの視点。ソックの母(文雪児/キャンディ・チャン)が自由奔放に生きる夫に対抗して、自分も自由に生きようとオーロラを見に海外に行ってしまう話や、娘のソックに「女も”ノー”と言えるのよ」と諭すエピソードは、見終わったあと心に残りました。いろんな要素を持つ本作、ユニークな香港映画として、多くのアジア映画好きの皆さんに見ていただきたいと思います。イヴァナ・ウォンの、とっても上手な日本語メッセージが付いた予告編を付けておきますので、劇場へぜひどうぞ。

映画『人生の運転手~明るい未来に進む路~』イヴァナ・ウォン コメント付予告編

 

*【オマケ】1993年3月のダニー・サマーのコンサート画像

©Tamaki MATSUOKA


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