東京フィルメックスは本日が最終日でした。最終日にとてもいい作品を2本見たのですが、本日はその中で新作のドキュメンタリー映画『時代革命』をご紹介します。この作品は当初プログラムの中に入っていず、上映スケジュールでは「特別上映A」と書かれていただだけでした。ただ、上映時間に「150分」とあったので、勘のいい人は「ひょっとしてこの作品では?」と思っていたそうです。事務局からお知らせが来たのが昨日、11月6日(土)の午前中で、「第22回東京フィルメックスも8日目を迎え、明日で最終日となります。明日11月7日(日)の12:40より上映する『特別上映A 』の上映作品についてお知らせします。本プログラムの上映作品につきましては、諸般の事情により、タイトルの発表を控えておりました。しかし、無事に上映素材も到着し準備が整ったと判断致しまして、遅ればせながら発表することと致します」とあって、『時代革命』の紹介が付けられていたのでした。というわけで、このお知らせを昨日自宅で受け取った私はすぐに席を予約したのですが、端の席はすでに抑えられていて、端から2つめの席となりました。とはいえ、プレス席もその時点ではまだまだ空いていたのに、今日会場に行ってみてびっくり、プレス席はもちろんのこと、一般発売の席もほぼ埋まっていて、満員だったのです。フィルメックスのファンはすごい!と感激してしまいました。こんな作品なので、まずはフィルメックス事務局からのメールに書かれていた紹介を下にコピペします。
『時代革命』 Revolution of Our Times
香港 / 2021 / 152分
監督:キウィ・チョウ(Kiwi CHOW/周冠威)
2019年の「逃亡犯条例」改正案は、香港を中国の権威主義的支配に対する戦場へと変えてしまった。本作は、その法案が提出されて以降の香港市民による抵抗運動を、その歴史的背景を踏まえつつ、最前線で戦う若者たちの姿を中心に描いたドキュメンタリー作品だ。監督は『十年』の中の1篇『焼身自殺者』のキウィ・チョウで、他の制作スタッフの名は安全上の理由のため、明かされていない。2019年以降の抵抗運動は、「分権化されたリーダーシップ」、柔軟な戦術を意味する「水になる」、領土全体を使った運動を展開する「どこでも開花する」などの特徴や指針を持っていたが、本作は役割やリーダーシップが分散化された運動家たちのいくつかのグループや個人を追い、この運動の多様な動きの全体像を捉えようとして
監督プロフィール:キウィ・チョウ(Kiwi CHOW/周冠威)
香港演芸学院を卒業し、美術の学士号と修士号を取得した。初の長編映画となった『A Complicated Story』(2013)は第37回香港映画祭に出品され、2014年の香港芸術開発賞を受賞。多くの賞を受賞し話題となった『十年』(2015)の一遍『焼身自殺者』を監督。同作は第35回香港電影金像奨の最優秀作品賞を受賞し、中国の国営メディアから猛烈な批判を浴びた。『十年』は香港でカルト的な人気を博し、現在はNetflixで配信されている。2020年夏、長編監督作『幻愛』が香港で劇場公開され、興行的にも成功し、第57回台北金馬奨の最優秀脚色賞を受賞したほか、第39回香港電影金像奨で6部門にノミネートされた。
監督ステートメント
大きな出来事の中における、デモ参加者たちのショート・ストーリーがこのドキュメンタリーには編み込まれています。世界中のデモの歴史でも珍しく、この活動にはリーダーはいません。皆がこの活動にとって大切なのです。一人一人が勇敢な心を持っています。前線に立つマスクを付けた活動家はドキュメンタリーという媒体を通して思っていることを打ち明けることができます。観客は彼らの顔を見ることはできませんが、心に触れて、活動家の勇ほ敢で儚い魂を見ることができます。2019年に香港の人々は逃亡犯条例改正案に対して立ち上がりました。そして2020年、政府は代わりにより厳しい国家安全法を立ち上げました。恐怖の中、インタビューを受ける人はマスクを付け、製作陣は名前を伏せ、この映画は香港では政府による厳しい検閲によって劇場公開されることはないという事実を受け入れなければいけません。インタビューを受けた一部の人たちは亡命や刑務所に入れられ連絡が取れなくなりました。この波乱の時代に香港の人々は色々なものを諦めてしまいました。映画監督として、この反対運動をリスクを冒してでも記録することは私の責任だと思います。時代は私たちを選びませんでした。しかし、私たちは時代を変えることを選んだのです。
映画の冒頭、断り書きが出ます。出演してくれた人たちの顔の部分にモザイクや黒い影がかけてあること、また、音声も変えてある人があることへの断り書きです。取材後に連絡が取れなくなった人たちがいたり、顔が特定されると逮捕に繋がったりする恐れがあるためで、モザイクが結構ゆるいものもあるため、反対に見ている側が心配になるほどです。2019年6月の「逃亡犯条例」反対デモから始まった本作は、膨大な映像を要領よく編集してあって、我々の記憶を呼び覚ましてくれると共に、そんなこともあったのか! という場面も見せてくれます。例えば「逃亡犯条例」反対運動の中で、立法会(香港の国会に当たる)前での抗議行動では、「特首」こと香港特別行政区行政長官である林鄭月娥の写真の下に「自分の身を引き渡せ」と書かれているポスターが見えるなど、その機知に感心するようなシーンもありました。つまり、「あんたが一番の罪人でしょうが」というわけですね。余談ながら、「林鄭月娥」という名前は、「林=結婚後の姓」「鄭=旧姓」「月娥=ファーストネーム」ですが、お月様と嫦娥をくっつけたこのファーストネームは一発で憶えてしまえます。
とのんきに見始めたらとんでもない、ものすごい身を張った闘争の約1年間を描いたものでした。最初の頃の立法会占拠のパートからして、警察官が撃ったゴム弾で目を負傷した血まみれの人の姿や、参加者を捉えて警棒でなぐり、足で蹴る警察官の姿が続々登場し、日本の学生運動でもこんな荒んだ警察官の姿は見たことがない、とショックを受けました。そして、黄色いレインコートに遺書を書き残し自殺した若者のエピソードが続き、6月16日のデモには香港人口700万人のうち200万人が参加したというのにその力が無視されて、やがて「勇武派」と呼ばれる実力行使派の人々が中枢になっていく様が描かれます。こうして第1章「終わりの始まり」から第10章「始まりの終わり」で「国家安全法」が2020年6月に成立するところまで、様々な人が登場して証言し、様々なシーンが記録されていくのです。
「勇武派」の活動に呼応するようにして、いろんな戦術やアフターケアの方法が考え出され、立法会を占拠した人たちが撤退するためにどんな工夫がなされたのかとか、5年前の雨傘革命の時に出逢った人たちが再会した話や当時使っていたグッズがまた役に立った話、警官隊の弾圧情報をいろんな形で迅速に拡散させていくやり方がみるみるうちに上達していく場面など、中に入って取材した人にしか捉えられないシーンも多くて引きつけられました。ポストイットをべた貼りした「レノン・ウォ-ル」、それに小学生までもが自分の意見を書いて貼っている様子、一方で高齢者の「陳おじさん」が最前線に立って若者を守ろうとする様子など、印象的なシーンはもう書き切れません。
中でも胸を突かれたのが、香港中文大学での闘いのシーンでした。香港理工大学での闘争は、先日山形国際ドキュメンタリー映画祭で上映され、グランプリを獲った『理大囲城』でかなりつぶさに見られたのですが、それに先だっての中文大での道路封鎖などの闘いがここで見られて、あ、あそこはいつも学校帰りにバスに乗って下った道だ(1993年に4ヶ月間語学留学していたのです)、とか胸がさらに締め付けられるようでした。上の写真は、それに先だって獅子山ではないかと思うのですが、山頂にスローガンを点灯させてアピールした時のものです。現在は「国安法」と共に、「コロナ禍」も口実にされてデモや集会がまったく行えない香港。「光復香港、時代革命」というスローガンも人々が心の中で叫ぶだけになってしまったわけですが、いつか「光」が戻ることを信じていたいと思います。これもぜひ、日本公開が実現してほしい作品でした。