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Channel: アジア映画巡礼
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TIFF&FILMeX:DAY 8 『魔法使いのおじいさん』

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昨日のFILMeXのもう1本は、デジタルリマスター化されたアラヴィンダン監督の名作『魔法使いのおじいさん』の上映でした。1979年に作られたこの作品は、日本でも1982年の<国際交流基金映画祭 南アジアの名作をもとめて>で初上映され、以来日本全国を回り、また川崎市民ミュージアムがアラヴィンダン監督作品を収集してくれたこともあって、多くの人の目にふれた作品となっています。

当時はもちろんプリントの状態での上映で、インドのプリントはネガ傷・映写傷などあって当たり前、ニュープリントだとしても完璧に無傷の状態で見られることはまれでした。それが今回、デジタルリマスター版として修復され、非常にきれいな映像で見ることができたのは至福の経験でした。なぜかネガ傷が1箇所だけ残っていたのですが、色調もとてもきれいで、デジタルリマスター版を見た時よく感じる「あまりにも鮮やかすぎる!」「コントラストが強すぎる!」というような不満も一切感じず、心地よく作品の世界を楽しめました。まだご覧になったことのない方のために、ストーリーをちょっと詳しくご紹介しておきましょう。(下はアラヴィンダン監督が描いた『魔法使いのおじいさん』のポスターです。今は国立民族学博物館にあります。また使ったスチールのうち、白黒の場面写真は私の手元にあったものです)

『魔法使いのおじいさん』
 インド/1979/マラヤーラム語/90分/原題:Kummatty കുമ്മാട്ടി/英題:The Bogeyman
 監督:G.アラヴィンダン
 出演:ラームンニ、アショーカン、ヴィラーシニ・リーマ

映画のオープニングは、朝焼けに染まる遠くの山から聞こえてくる、「♪むかし むかし そのむかし♪」という歌(音楽を担当したうちの1人、カーヴァーラム・N・パニッカルの歌声です)。南インドのケーララ州の村に暮らすチンダン(アショーカン)の家は、父、母(ヴィラーシニ・リーマ)、妹の一家4人。小学生のチンダンは、朝ご飯を食べると飼っているオウムに挨拶し、野原を横切って友だちと一緒に村の小学校に通います。小学校では選挙制度の意義など難しいことも学びますが、チンダンたちの関心は遊ぶことばかり。魚採りや水浴び、時にはインド将棋をしたり、寺院の下働きのおばあさんをからかったりもします。いたずらっ子のチンダンたちにおばあさんは、「しょうがない子たちだね。クンマッティに来てもらうよ」と怒ります。

そんなある日、遠くから歌声が聞こえ、クンマッティのおじいさんが姿を現しました。大きな袋と動物の仮面をぶら下げた棒を肩に掛け、チムター(手に持っている楽器はチムターの一種だと思うのですが、固有名があるかも知れません)を振りながら歌ってやってきます。魔法使いが本当にいたと知って、チンダン達はおっかなびっくり。でも、この魔法使い、煙草は吸うは、床屋さんにひげそりはしてもらうは、沐浴はするは、で、普通の人間とちっとも変わりません。チンダンにお菓子をくれた時も、空中から取りだしたように思われたのに、友だちと一緒に行ってみると、袋の中からお菓子をいっぱい取り出すし...。

おまけに、病気にまでなってしまうのですから、これはもう、普通の人間としか思えません。子供たちの心が安心と失望と半々になった頃、病気が治ったおじいさんは村を出て行くことになりました。チンダンと仲間たち10人ぐらいが、村はずれの野原まで送っていきます。するとおじいさんは、肩にかけていた動物のお面を次々と子供たちに被らせて行きました。そしてチムターを一振りするとあ~ら不思議、みんなそれぞれの動物になってしまったのです。

チンダンは白い犬になりました。しばらく動物の姿で遊ぶと、おじいさんはまた元の姿に戻してくれたのですが、チンダンだけがそうしてもらえませんでした。と言うのも、白い犬になったチンダンの所に、以前通学時に石をぶつけた黒犬がやってきて、チンダンの犬を追いかけ回し、チンダンの犬は遠くまで逃げてしまったからです。かわいそうにチンダンの犬は、その後各地を放浪することになります。一度は大金持ちの家のお嬢さんに気に入られ、そこで飼ってもらえそうになるのですが、一家の主人がブランド好きで、血統のしっかりした犬しか飼わない方針のため、また捨てられたのです。

そうして長い時間がかかって、やっとチンダンは村まで戻ってきました。お母さんは一目見るなりチンダンとわかり、何とか元の姿に戻せないかとお父さんや妹も心配します。でも、どんなお祈りも効き目がありませんでした。

するとある日、遠くから魔法使いのおじいさんの歌声が聞こえてきました。すっ飛んで行くチンダンの犬。魔法使いのおじいさんも一目でチンダンと分かり、すぐに元の姿に戻してやります。そして、人間の姿に戻ったチンダンは、籠の中からオウムを取りだし、大空に放ってやるのでした...。

こんな風にストーリーを書くと、よく「ネタばれだ」と非難されるのですが、このアラヴィンダンの作品始め多くの映画は、文字で読んだストーリーなどでは想像もつかない映画表現を備えていて、ストーリーをあらかじめ知っていても何の支障もありません。ぜひ、この作品がどういう映画世界に仕上がっているのか、ご覧いただければと思います。というわけでこのデジタルリマスター版、国立映画アーカイブか福岡市総合図書館かが買って収蔵して下さることを切に望みます。

フィルメックスの公式サイトやカタログには、監督紹介のところに上の写真が使ってあるのですが、左がアラヴィンダン監督、右は撮影監督のシャージ・N・カルンです。アラヴィンダン監督は「G.アラヴィンダン」と書かれていますが、「G」は実はアラヴィンダンのお父さんの名前「ゴーヴィンダン」の略称です。アラヴィンダン監督自身から聞いたところによると、アラヴィンダンが名前なんだけど、同じ名前の人がいて区別がつかないと困るので、「ゴーヴィンダンのところのアラヴィンダン」と言う意味で「G.アラヴィンダン」にしている、とのことでした。「でも、アラヴィンダンだけでいいよ」と言うので、拙稿ではいつも「アラヴィンダン」と表記していました。毎年1月にインドで行われるインド国際映画祭でよく顔を合わせていたので、彼の写真もいっぱいありますが、地元のトリヴァンドラム(ティルヴァナンタプラム)での映画祭では、こういうドーティー姿も見せてくれました。

1991年に56歳で急死してしまうのですが、今は息子さんのラームーさんが映画の権利などを統括しているようです。今回のプリントの冒頭には、修復にあたって全編をチェックした撮影監督のシャージ・N・カルンの名前と共に、「R.アラヴィンダン」という名前が出ていましたが、ラームーさんのことです。そして今回の修復にはもう1人、中心となってプロジェクトを進めてくれた人がいます。ムンバイのフィルム・ヘリティッジ・ファウンデーションのシヴェーンドラ・シン・ダンガルプルさんです。

インドには国立映画アーカイブもあるのですが、そこがお役所仕事しかできていないのに対し、シヴェーンドラさんの所は積極的に資料収集と古い作品の修復を行っていて、インド映画史研究の希望の星となっています。ご興味のある方はHPを見てみて下さいね。今回はこの活動に東京フィルメックスが呼応して下さって、日本の観客の皆さんに蘇った『魔法使いのおじいさん』を見ていただくことができ、本当に良かったです。私も、見たのは1994年の<G.アラヴィンダン映画祭>以来ではと思うので、実に27年ぶり。この機会にDVD化されないかなあ、とも思うのですが、いかがでしょう、配給会社様。ぜひよろしくご検討下さいませ。

 


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