韓国映画は男の映画を撮らせたら実にうまい! そんな映画が2本、昨日から公開されています。本当なら公開前にご紹介すべきでしたのに、遅くなってしまい、配給会社様、宣伝会社様、すみません。この2週間、各方面に遅れをお詫びしてばかり.....。いやいや、気を取り直して力作2本をご紹介しましょう。
まずは、東野圭吾原作の父親ドラマ『さまよう刃』から。基本データをどうぞ。
『さまよう刃』 公式サイト
2014年/韓国映画/カラー/韓国語/122分
原作:「さまよう刃」東野圭吾(朝日新聞出版)
監督・脚本:イ・ジョンホ
出演:チョン・ジェヨン、イ・ソンミン、ソ・ジュニョン、イ・ジュスン、イ・スビン
配給:CJ Entertainment Japan
※9月6日(土)より角川シネマ新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷にてロードショー中
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主人公は、冴えない中年のサラリーマンで、繊維工場に勤めるサンヒョン(チョン・ジェヨン)。妻を亡くし、中学生の一人娘スジン(イ・スビン)と2人暮らしですが、年頃の娘は父親にとっては何かと扱いにくい存在。その日も、朝出かける時に娘の機嫌をそこねてしまい、夜は夜で「駅まで迎えに来て」という娘の頼みに残業で応えられず、後ろめたいサンヒョンは大きなケーキを買って帰宅したのでした。
ところが、スジンはまだ戻っていません。連絡もなく帰宅が遅くなることなど初めてで、夜が更けるにつれてサンヒョンは居ても立ってもいられなくなります。結局一睡もできず、憔悴して出勤したサンヒョンのもとへ、警察から電話がかかってきます。スジンが、公衆浴場跡で遺体となって発見された、という知らせでした。スジンはレイプされており、薬物摂取のあともあって、どうやらムリヤリ薬物を取らされ、そのショックで死に至ったようでした。担当刑事(イ・ソンミン)はサンヒョンに同情しますが、サンヒョンは自分を責めて、立ち直れなくなってしまいます。
そんな時、サンヒョンの携帯に事件に関する情報を知らせるメールが飛び込んできました。誰ともわからない差出人の指示に従い、あるアパートに行ったサンヒョンは、忍び込んだその部屋でスジンがレイプされている映像を見つけてしまいます。レイプしていたのは、その部屋に住む高校生チョリョンと、彼やその仲間を手下のように使っている同じ高校のドゥシク(イ・ジュスン)でした。サンヒョンの頭の中は真っ白になり、ちょうどその時帰ってきたチョリョンをバットで殴り殺してしまいます。
サンヒョンは被害者の父親から、殺人者へと変貌を遂げ、警察から追われる身となります。サンヒョンの願いはただ一つ、ドゥシクを殺して娘の仇を取ることでした。謎の通報者に助けられ、サンヒョンはドゥシクがいると思われるスキー・リゾート地へと向かいますが....。
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東野圭吾の原作を、基本プロットを生かしながら、うまく韓国に置き換えてあります。原作ではかなり重要な登場人物となるペンション経営の女性は登場せず、その分よけいな感情が入りこまなくて、緊迫感が持続する優れた脚本です。それに応えて、父親役のチョン・ジェヨンが素晴らしい演技を見せてくれ、最初から最後まで、映画をぐいぐいと引っぱってくれます。原作では、父親と同じくらいの存在感があった刑事側ですが、本作ではちょっと影が薄く、それもチョン・ジェヨンの熱演の影響かも知れません。
さらに、レイプ犯人役のイ・ジュスンの演技にも目を見張らされます。映画の撮影時は24歳だったのでは、と思いますが、彼が演じる小ずるく残酷で、卑怯者、それでいながら頭がよく回るハイティーンの姿は、観客を父親の強力な味方にしてしまう力を持っています。見ていて、こんな役を演じたら街を歩いていても後ろ指を指されるのでは、と心配になる程でした。また、サンヒョンと偶然に会った時に浮かべる幼い表情は、「この子、改心するのでは?」と一瞬思わせられたりもして、すっかり映画に引き込まれました。イ・ジュスンはインディーズ系作品のスターとして知られているそうで、将来が楽しみです。
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上の写真は、ちょっと影の薄かった刑事2人組。原作をすでにお読みの方にとっても見応えのある作品です。「男の映画」となっている韓国版『さまよう刃』、ぜひご覧になってみて下さい。
『チング 永遠の絆』 公式サイト
2013年/韓国映画/カラー/韓国語/122分/英語題:FRIEND:The Great Legacy
監督:クァク・キョンテク
出演:ユ・オソン、キム・ウビン、チュ・ジンモ、チョン・ホビン、チャン・ヨンナム
配給:東京テアトル/日活
宣伝:スキップ
※9月6日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿、シネマート六本木ほか全国ロードショー中
『チング 永遠の絆』は、説明するまでもなく、2001年に韓国で大ヒットした『友へ チング』の続編です。「チング」は漢字にすると「親旧」となり、「友、親友」という意味になります。『友へ チング』では、1970年代に小学生だった釜山の幼なじみ4人組、ヤクザの父親を持つジュンソク(ユ・オソン)、葬儀屋の息子ドンス(チャン・ドンゴン)、優等生のサンテク(ソ・テファ)、お調子者のジュンホ(チョン・ウンテク)が、高校卒業後に辿るそれぞれの運命を描いています。もちろん中心となるのはジュンソクとドンスで、ジュンソクは父の跡を継ぎ、一方ジュンソクとの対立を深めていくドンスは敵対する組に入って、最後にはジュンソクに命じられた男によって命を奪われます。
『チング 永遠の絆』は、ジュンソクが実刑判決を受けて服役しているところから話が始まり、その出所と、出所後の権力闘争が描かれていきます。ジュンソクの属している組の会長(キ・ジュボン)は、ジュンソク不在中にのしあがって副会長になったウンギ(チョン・ホビン)に実権を奪われており、出所したジュンソクを見て、男気があったジュンソクの亡き父(チュ・ジンモ)を懐かしく思い出します。
ジュンソクは、高校時代の女友達ヘジン(チャン・ヨンナム)の息子で、刑務所で面倒を見てやったソンフン(キム・ウビン)に、「オレと一緒に釜山を獲らないか」と持ちかけます。暴れ者として有名だったソンフンは、ジュンソクの右腕として活躍し始めますが、実はソンフンの父親はドンスだったのでした....。
単なる続編ではなく、ドンス殺害の謎を解き明かすと共に、ジュンソクと若きソンフンとの関わり合いをしっかりと描いていて、優れた人間ドラマになっています。サスペンスも適度に盛り込んだ脚本が、単なるヤクザの抗争映画に陥るのを最後まで防いでおり、見事などんでん返しとも言えるクライマックスは、前作とは違うテイストの『チング』が誕生したことを教えてくれます。ジュンソクの父親パートはむしろなくてもいいぐらいなのですが、やはりユ・オソンと新人のキム・ウビンだけでは地味、ということで、チュ・ジンモの出演となったのでしょうか。
ユ・オソンは最近ヒット作がなく、オーラが薄れているのではと心配しながら見たのですが、どうしてどうして。おっさん度がアップした分、ヤクザが骨の髄まで染み込んだジュンソクという人物を、貫禄と陰影を加えて見せてくれてチャーミングでした。また、ちょっと驚いたのはキム・ウビンのハマり具合で、写真で見るといかにもモデルといった印象なのですが、映画の中での存在感はなかなかで、演技も遜色なし。これは楽しみなスターがまた一人出てきました。ちょっとキツい顔立ちなので、ラブロマンスとかは似合うかどうかわかりませんが、男くさい役柄ならピッタリです。次作を楽しみにしていましょう。
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試写にちょっと行けていないのですが、韓国映画はまだまだ力作の上映が続きます。韓国映画はこの秋も、日本のスクリーンを騒がせてくれそうです。