2015年9月に開催された、「シーズン・オブ・レイ」。本ブログでもこちらでご紹介したのですが、インドの偉大な映画監督サタジット・レイの作品2本、『チャルラータ』(1964)と『ビッグ・シティ』(1963)を日本で再び公開する、というもので、デジタル処理された美しい画面は新たなサタジット・レイ・ファンを生んだのでは、と思います。
その「シーズン・オブ・レイ」が帰ってきました。しかも首都圏では、横浜と早稲田、2箇所での上映となります。
『チャルラータ』
1964年/インド/ベンガル語/119分/B&W/原題:Charulata
監督・脚色・音楽:サタジット・レイ
原作:ラビンドラナート・タゴール
主演:マドビ・ムカージー、ショウミットロ・チャタージ、ショイレン・ムカージ
サタジット・レイ監督は、タゴールの原作で3本の作品を作っています。『三人の娘(Teen Kanya)』(1961)、『チャルラータ』、そして『家と世界』(1984)ですが、そのほかにドキュメンタリー作品として『詩聖タゴール』(1976)も撮っており、タゴールへの深い理解と心酔を感じさせます。これらの作品は『三人の娘』以外はすべて日本公開されており、サタジット・レイとタゴールというベンガル文化二大巨人の顔合わせが、日本の観客にも大きくアピールしました。『チャルラータ』はタゴールの原作では「毀れた巣」というタイトルになっていて、日本でも「タゴール著作集第四巻」に大西正幸さんの訳で収められています。
『ビッグ・シティ』
1963年/インド/ベンガル語/131分/B&W/原題:Mahanagar/英語題:The Big City
監督・脚色・音楽:サタジット・レイ
原作:ナレンドラナート・ミットラ
主演:マドビ・ムカージー、アニル・チャタージー、ジョーヤ・バドゥリ
こちらは、サタジット・レイのモダンな側面が出た興味深い作品です。女性が外で働くということを巡って、本人の内面や家族の間で起きる葛藤、妥協、意識の目覚めといったものが、うまく描かれています。ここに描かれる現象は、当時アジアのいろんな国で起こっていたことでは、と思いながら以前見たのですが、昨年見直してみて気がついたのは、ヒロインの同僚となるアングロ・インディアン(イギリス人の血が入った人々)の女性は常に偏見の目で見られている、というところ。19世紀をピークに、1911年に都がデリーに移るまで英領インドの中心地だったベンガル地方にはアングロ・インディアンが多く住んでいて、彼らを主人公や脇役にした作品が何本もあるのですが、『ビッグ・シティ』もその系譜に入れていい作品かも知れません。
プレイタイムの配給による「シーズン・オブ・レイ」、公式サイトはこちらですが、今回は下の2箇所で上映されます。
●シネマ・ジャック&ベティ アクセス
1月23日(土)~2月5日(金)
1日1回、両作品が日替わりで上映されます。詳しいスケジュールはこちら。
1月31日(日)の『チャルラータ』上映(14:10~16:15)後には、cinetamaが短いトークをさせていただくことになっています。お近くの方はぜひお運び下さい。昔ながらの良き映画館の雰囲気を持つ、素敵なミニシアターです。下の写真は、12月28日にイラン映画『ボーダレス ぼくの船の国境線』(すごく見応えのある作品でした!)を見に行った時にパチリしました。
●早稲田松竹 アクセス
1月30日(土)~2月5日(金)
こちらは1日まるまる「シーズン・オブ・レイ」で、『チャルラータ』が3回、『ビッグ・シティ』が2回上映されます。詳しいスケジュールはこちら。
最後に、『チャルラータ』の中で出てくる歌「Ami Chini Go Chini Tomare, O Go Bideshini(あなたのことを知っていますよ、他国から来た娘さん)」のシーンを付けておきます。映画の中ではいくつか、タゴールの詩に曲を付けた歌(「タゴール・ソング」と呼びます)が出てきますので、どうぞお楽しみに。
AMI CHINI GO CHINI - CHARULATHA
<追記>
この歌詞の訳がどうなっているのか、「シーズン・オブ・レイ」のパンフレットでちょっと調べてみました。このパンフには、両作品の再録シナリオが掲載されているのです。「私は知ってる 異国から来たお嬢さん」となっていました。
あと、最初に日本で公開された時のパンフを見てみると(これにもシナリオが採録されています。岩波ホールでの上映作品は、全部かどうかはわからないのですが、パンフにシナリオが掲載されているのでとても助かります)、何と歌の部分には音譜の記号が! というわけで、「♬ 私は知っている 外国生まれの娘さん」となっていました。1975年の初公開当時、パンフを見た時にはこんな配慮に全然気がつかなかったのですが、今見ると「その音譜の記号にザブトン1枚!」という感じですね~。