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張國榮(レスリー・チャン)十三周忌

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香港の歌手・映画俳優として活躍した張國榮(レスリー・チャン)が亡くなって、今日で丸13年になります。SARS(重症急性呼吸器症候群)のさなかにあった暗黒の香港で、2003年4月1日の夕方レスリー・チャンが命を絶った出来事は、時が経っても忘れることはできません。

(1990年1月のさよならコンサートでのレスリー・チャン)

香港の人々も同じ気持ちのようで、香港国際映画祭(HKIFF)ではあれ以来、毎年レスリー・チャンの作品を上映しています。今年は「花様的年華 澤東25」という特集が組まれ、1991年に王家衛(ウォン・カーウァイ)監督と劉鎮偉(ジェフ・ラウ)監督によって設立された澤東製作有限公司の14作品が上映されましたが、その中でレスリー・チャンの主演作が何本か上映されました。上映日は3月29日と30日で、映画祭側の配慮が感じられます。このプログラムで上映されたレスリー・チャン主演作は、次の3作品です。

『大英雄(原題:射[周鳥]英雄傳之東成西就)』(1993)/監督:ジェフ・ラウ

『楽園の瑕 終極版(原題:東邪西毒之終極版)』(2008)~1994年作品の別編集ヴァージョン。監督:ウォン・カーウァイ


『ブエノスアイレス(原題:春光乍洩)』(1997)監督:ウォン・カーウァイ


さらに、特別上映として、製作からちょうど30年となる『男たちの挽歌(原題:英雄本色)』(1986)も本日上映されました。この作品の監督は呉宇森(ジョン・ウー)です。

このほか今回の映画祭では、レスリー・チャンを強く思い出させてくれる作品がありました。それが、昨日ご紹介した『美好合一2016』の中の關錦鵬(スタンリー・クワン)監督の作品「是這様的(One Day in Our Lives of...)」です。レスリー・チャンのファンの方ならおわかりのように、『欲望の翼(原題:阿飛正傳)』(1990)の中で使われた曲のタイトルが短編映画の題名となっているのです。ラストの梁朝偉(トニー・レオン)演じるギャンブラーが登場するシーンでメロディーが流れ、続いてエンドタイトルで梅艶芳(アニタ・ムイ)の歌で流れるあの主題歌です。『欲望の翼』はウォン・カーウァイ監督作品ですが、製作会社が影之傑製作有限公司であるため今回の上映には入っていないものの、こんな形で縁が繋がっていました。アニタ・ムイの歌う「是這様的」のMVをまずどうぞ。

是這樣的 梅艷芳

スタンリー・クワン監督の「是這様的」の方は、このアニタ・ムイの曲をカヴァーすることになった歌手(葉童/イップ・トン)が編集されたMV映像に合わせ、歌を吹き込んでいく半日を物語にしたものです。昔は有名な歌手だったらしい彼女は当時のままのコケティッシュな振る舞いをしますが、録音に使われているスタジオは、中環か上環のビル内にある小さな貸スタジオ。プロデューサーや監督、その助手ら数人に見守られ、なかなか決まらない録音を繰り返しているうちに、ビルの下に記者たちが集まってきます。何事か、と思ったら、その歌手の恋人である映画男優が、別の女性との結婚を発表したことによるパパラッチでした....。


ちょっと滑稽で哀惜感漂う落ち目の歌手を、イップ・トンがいかにもの演技で演じています。歌も彼女自身が歌っていて、アニタ・ムイに負けない情感たっぷりの歌声を聞かせてくれます。


イップ・トンもかつては、『レスリー・チャン 嵐の青春』(1982)や『偶然』(1986)などでレスリー・チャンと共演し、青春の息吹に満ちた作品を世に送り出してくれました。今はしっとりした大人の魅力に溢れる女優となっていますが、彼女のような存在を生かす香港映画が作られないため、ここ10数年は数えるほどの作品にしか出ていません。そんな香港映画の現状を思う時、レスリー・チャンの早すぎる死も今日の現状を見据えた運命的なものだったのかも、と思ったりします...。生きていれば、今年の9月12日で還暦を迎えたはずのレスリー・チャン。彼の冥福を祈るばかりです。

(スチールはすべてHKIFF提供)

 


「スペース・アーナンディ/インド映画特別講座」にキャンセルが出ました

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「インド映画完全ガイド」発売を記念して、スペース・アーナンディで進行中のインド映画特別講座。4月23日(土)には第2回講座の追加講座を開催しますが、現在のところ数名のキャンセルが出ています。詳細は次の通りですので、ご希望の方はスペース・アーナンディのHPからお申し込み下さい。

「インド映画完全ガイド」発売記念:インド映画を極める!

<第2回>インド映画のファッションを読み解く:追加講座

 日時:2016年4月23日(土) 15:00~17:00

 場所:スペース・アーナンディ(東急田園都市線高津駅<渋谷から各停で18分>下車1分)

 定員:20名

 講座料:¥2,000(含む資料代)

 講師:松岡 環(「インド映画完全ガイド」監修者&編集者)

 TEXT:原千香子「インド映画の美を支えるファッションのパワー」(P.144~「インド映画完全ガイド」のページ数です)

2月に開催した<第2回>の初回は、お話と映像に加えて、インド映画に登場する記号的役割を果たすファッション・グッズをいろいろ見ていただけたのが特徴でした。婚姻を表す女性のアクセサリー、マンガルスートラやターリ、シャンクの腕輪、そして『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』に出てきた「エーク・チュトキー・シンドゥール(ひとつまみの紅粉)」のシンドゥールなどは、実物を目になさった方は少ないはず。また、これがボリウッド・セレブ仕様のサリー、という細かい刺繍のサリー(実は、カリーナー・カプールやランビール・カプールの祖母であるラージ・カプール夫人からもらったもの)なども好評でした。ご要望があればサリー着付けもやりますので、興味がおありの方はぜひどうぞ。

YouTubeにアップされているインドのファッションショーのうち、先日アップされたばかりのマニーシュ・マルホートラーのショー@「ラクメ・ファッション・ウィーク」を付けておきます。インドで最も人気のあるデザイナー、マニーシュ・マルホートラーのことは、今度の講座でも取り上げます。

UNCUT - Lakme Fashion Week 2016 | Opening Show | Arjun Kapoor | Jacqueline | Manish Malhotra

では、皆様とお目にかかれるのを楽しみにしています。ささやかなインド土産もありますので、お楽しみに~。


4月のインド映画自主上映会『Sardar Gabbar Singh』

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Periploさんから寄せられた情報です。

『Sardar Gabbar Singh(サルダール・ガッバル・シン)』

Sardaar Gabbar Singh.jpg

2016/テルグ語/165分/英語字幕

 監督:K.S.ラヴィーンドラ
 主演:パワン・カリヤーン、カージャル・アグルワール、シャラド・ケールカルほか

■日時:2016年4月9日(土)午後 5:30~
■会場:埼玉県川口市、SKIPシティ・彩の国Visual Plaza アクセス
■料金:大人2,600円
■主催:インドエイガ・ドットコム HP 予約

Periploさんの詳しいご紹介ページはこちらです。


何だかパワン・カリヤーン劇場みたいな雰囲気のポスターですね...と思い調べてみたら、2012年に『Gabbar Singh(ガッバル・シン)』という彼の主演作が作られて、大ヒットしていました。その続編のようです。Periploさんの上記ご紹介ページによると、前作の『ガッバル・シン』は『ダバング 大胆不敵』(2010)の大胆なリメイク(つまり、忠実なリメイクではなく勝手なリメイク)なのだとか。というわけで、今回も型破りな警官ガッバル・シンが大暴れするお話らしいです。予告編はこちらです。

Sardaar Gabbar Singh Official HD Theatrical Trailer || Power Star Pawan Kalyan, Kajal Aggarwal

ボリウッド映画ファンにとっては、「ガッバル・シン」と聞けば『炎』(1975)に出てくる盗賊(インドではダコイト、ダークーと呼ぶ)の頭目の名前なので、すぐにあのアムジャド・カーンの顔(下のポスター右端)が浮かびますね。彼のセリフはいくつもが名セリフとして観客に記憶されているのですが、たとえばこんなセリフだと、ボリウッド映画ファンなら誰でもがすぐ口にできます(YouTubeでは、こちらでそのシーンを見ることができます)。


Gabbar : Kitne aadmi the?
ガッバル:相手は何人だったんだ?
Daku : Sardar, do aadmi.
手下:2人です、親分
Gabbar : Do aadmi.(間)Suar ke bachcha!
ガッバル:相手は2人だと.....このクソ野郎!
Woh do the, aur tum teen. Phir bhi waapas aa gaye, khali haath?
    向こうは2人、お前たちは3人。それでも逃げ帰ってきたのか、しかも手ぶらで
(中略)
Gabbar : Tera kya hoga, Kaliya?
ガッバル:お前はどうかな、カーリヤー
Kaliya : Sardar, maine tumhara namak khaya, sardar.
手下カーリヤー:親分、俺はあんたの塩を喰ったんだ(忠実な子分だった)
Gabbar : Ab goli kha.
ガッバル:今度は銃弾を喰らえ

この中で、手下がガッバル・シンに「サルダール(頭目、親分、親方、大将、司令官、などの意味。シク教徒に対する呼称としても使います)」と呼びかけていることから、今回の作品の題名には「サルダール」が付いたのだとか。でも、名前に付く「サルダール」は、インドの人にとっては独立運動期の政治家「サルダール・パテール(本名ヴァッラブバーイー・パテール)」を連想させるので、この題名はひょっとして、パワン・カリヤーンの政治家志向を象徴しているのかも。兄チランジーヴィと共に、政界進出にも大いに意欲を見せるパワン・カリヤーン。まずは、画面で大暴れの巻、のようです。   



ジャ・ジャンクー監督の新しい地平『山河ノスタルジア』

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賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督の新作『山河ノスタルジア』が、4月23日(土)より公開されます。 昨年の東京フィルメックスで上映されて以降公開が待たれていた作品で、これまでのジャ・ジャンクー監督作品とはひと味違った、新しい地平が切り開かれている意欲作です。まずは基本データをどうぞ。 

『山河ノスタルジア』 公式サイト


(C)Bandai Visual,Bitters End, Office Kitano

2015年/中国=日本=フランス/125分/原題:山河故人

 監督:賈樟柯(ジャ・ジャンクー)
 主演:趙涛(チャオ・タオ)、張譯(チャン・イー)、梁景東(リャン・ジンドン)、董子健(ドン・ズージェン)、張艾嘉(シルヴィア・チャン)
 配給・宣伝:ビターズ・エンド

※4月23日(土)より Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

(C)Bandai Visual,Bitters End, Office Kitano 

主人公は、山西省汾陽(フェンヤン)に住むタオ(チャオ・タオ)。1999年、小学校教師をしていたタオには、2人の男友達がいました。どちらも幼馴染みである、炭鉱労働者のリャンズー(リャン・ジンドン)と実業家のジンシェン(チャン・イー)です。リャンズーは秘かにタオに思いを寄せ、ジンシェンはあからさまにアタックをしますが、タオは態度をはっきりさせません。彼女にとっては、3人で仲良くつるんでいるいまの時間が大切なのでした。そんな中でリャンズーの炭鉱はジンシェンに買収され、ジンシェンは彼を追い出してしまいます。結局タオもジンシェンを受け入れ、二人は結婚し子供をもうけることに。その子は金銭欲の強いジンシェンにより、「ダオラー(ドル)」と名付けられました。

(C)Bandai Visual,Bitters End, Office Kitano 

その15年後、2014年。河北省の炭鉱で働いていてリャンズーは体を壊し、妻や幼い子供と共に汾陽に戻って来ます。その頃タオはジンシェンと離婚し、女性実業家としての地歩を築いていました。別れた夫ジンシェンは幼い息子と共に上海に移り、今では再婚もしています。ジンシェンの仕事も順調で、息子のダオラーを上海の国際学校に通わせるなど、羽振りのよさも昔のまま。タオの父が急逝した時、汾陽に一人帰ってきたダオラーは、タオのことを「マミー」と呼ぶのでした。自分と息子の間の距離の広がりを感じたタオは、あえて鈍行列車で息子を上海まで送っていきます。その時タオが聞き、またダオラーに聞かせた曲は、葉蒨文(サリー・イェ/サリー・イップ)の「珍重」でした。

(C)Bandai Visual,Bitters End, Office Kitano 

そして、さらに11年が経った2025年。ジンシェンは息子ダオラー(ドン・ズージェン)と共にオーストラリアに移住していました。19才になったダオラーは英語にはまったく不自由しないものの、中国語がきちんと話せないため、父との意思疎通もままなりません。ダオラーは中国語のクラスに通い、そこで教師のミア(シルヴィア・チャン)と出会います。ダオラーは、親子以上に年の差があるミアに引かれていき、またミアも、ダオラーが彼女に父との通訳を頼んだことで、この青年の孤独と焦燥感を理解し、徐々に彼に心を寄せていくのでした。そのミアがダオラーに聞かせた曲もサリー・イェの「珍重」で、その曲はダオラーにノスタルジアを呼び起こします。その頃汾陽に暮らすタオは...。

(C)Bandai Visual,Bitters End, Office Kitano 

物語は、過去・現在・未来にまたがり、人の生が描く軌跡を丁寧に追って行きます。友情、男女の愛、親子愛など、様々な形の人と人との結びつきが描かれ、それが崩壊していく様もまた、冷徹な眼差しで見据えられ描かれていきます。本作でジャ・ジャンクー監督は初めて未来を描きましたが、26年という人の生き様の延長線上にあるのが未来だ、ということを観客に教えてくれているかのようです。ただ、未来編では、オーストラリアに渡ったジンシェンの人生ががらりと変わったものになっているなど、中国と中国人の未来を予見したような描写も見て取れます。このあたり、ジャ・ジャンクー監督も一歩踏み込んだというか、新しい世界を描く冒険に踏み出した感があります。

(C)Bandai Visual,Bitters End, Office Kitano

26年というへだたりを一番上手に体現しているのは、やはりジャ・ジャンクー監督のミューズ、チャオ・タオでしょう。外見の変化だけでなく、1999年の20代では声のピッチを上げ、体の動きも軽やかに表現し、2014年のアラフォー期は自信と貫禄を身にまとってみせ、そして、老境の入り口にさしかかった2025年では、20代と同じ曲を踊っても体の動きぶりを変えるなど、細かく演じ分けています。その彼女に寄り添って時代性を伝えるのが、上で述べたサリー・イェ(北京語読み)/サリー・イップ(広東語読み)の歌です。台湾生まれでカナダ育ちのサリーの歌は、1987年に「甜言蜜語」がヒットし、その後「祝福」(1988)、「珍重」(1990)とヒットが続くのですが、いずれも広東語曲でした。そして1991年には、「瀟灑走一回」という北京語の大ヒット曲が生まれます。ジャ・ジャンクー監督は以前の作品『プラットホーム』(2000)で「瀟灑走一回」を使っていたと思いますが、中国語版ウィキ「葉蒨文」によると、今回『山河ノスタルジア』に「珍重」を使ったのも、「彼女の歌は多くに人にとって、ある時代の象徴となっているからだ」とジャ・ジャンクー監督は語っているとか。タオやミアと同様に、「珍重」を聞くとジャ・ジャンクー監督にも昔の感情がよみがえって来るのでしょう。

(C)Bandai Visual,Bitters End, Office Kitano 

『山河ノスタルジア』では、チャオ・タオと共に強い印象を残してくれた俳優が2人います。リャンズー役のリャン・ジンドンと、成長後の息子ダオラー役のドン・ズージェンです。リャン・ジンドンは『プラットホーム』にも出ていたとのことですが、当時は全然気がつきませんでした。本作では、気弱そうに見えて芯の強い炭鉱男を演じていて、ジンシェン役の人気者チャン・イー(『最愛の子』にも出演)よりも光っています。もう一人のドン・ズージェンは、昨年の東京国際映画祭で主演作が2本上映されたように、若手の売れっ子です。東京国際映画祭の作品『少年バビロン』と『少年班』ではあまりいいとは思えなかった彼ですが、本作ではシルヴィア・チャン相手に堂々たる演技を見せてくれて、違った印象を与えてくれました。英語も達者なので、今後は国際派の俳優としても活躍するかも。このように俳優のアンサンブルも素晴らしい『山河ノスタルジア』、冬季に凍ってしまう河など、中国内陸部の目を奪われる景色も見られますので、ぜひ大きなスクリーンでどうぞ。

(C)Bandai Visual,Bitters End, Office Kitano 

なお、本作では、途中で画像のサイズが変わるという、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督作『黒衣の刺客』のような処理がされている部分があります。その理由は...。ぜひパンフレットを買って、種明かしをお読み下さいね。「そうだったの~」と驚かれること請け合いです。

映画『山河ノスタルジア』予告編


で、ここでちょっと追記を。先日の香港国際映画祭レポートで、『美好合一2016』のことをこちらで取り上げ、オムニバス4作のうちの1作がジャ・ジャンクー監督作品だとお伝えしました。下は、その時の舞台挨拶に登場したジャ・ジャンクー監督とチャオ・タオです。


ジャ・ジャンクー監督作品「營生(生計を立てる)」は、中年男3人が主人公。演じるのはリャン・ジンドン、『長江哀歌』の韓三明(ハン・サンミン)、そして原文倩(ユン・ウェンチン)という、ジャ・ジャンクー作品お馴染みの3人組。3人は職場は違えども同じ工場で働いていたのですが、警備室にいるのに惰眠をむさぼったり、食堂での仕事がのろかったりしてクビになってしまいます。3人はスマホであれこれ職探しをした結果、「ジャ社長(ジャ・ジャンクー自身が演じています!)が用心棒を募集しているぞ」と求人に応募。でも、年齢制限の24才を超えているし、武術の心得もないし、で3人とも不採用という結果に。結局地元の観光課が募集した、汾陽の歴史を再現するドラマの役者として採用されます。でも、演じている最中に「皇帝はニヤニヤするな」と怒られたジンドンが「皇帝に会ったことあるのかよ」と口答えしたり、サンミンがタバコを吸ったり、「兵士の衣裳は明朝なのに、皇帝の衣裳は清朝だし、変だよ」と文句を言ったりして結局クビに....。

提供:香港国際映画祭

上は、皇帝役の扮装をしたリャン・ジンドンです。3人とも『山河ノスタルジア』に出ていたので、何となく『山河ノスタルジア』の裏版というニオイもするこの短編映画、「仲良しさんたちが作っている映画」という感じで実にほほえましく、ジャ・ジャンクー作品の好きな人には大いにウケること間違いなし。『山河ノスタルジア』の勢いをかって、ぜひ日本でも『美好合一2016』を公開してほしいですね。 


インド映画特別講座<第3回>開催のご案内

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第2回の追加講座をご案内した前の記事に引き続き、第3回講座のご案内です。実はこの第3回は、2月に開催した第2回に参加して下さった方がほとんど全員申し込まれたため、追加募集をしない予定でした。このたび、やはり数名のキャンセルが出たことから、あらためてご案内する次第です。お申し込みいただくスペース・アーナンディのHPはこちらですので、ご希望の方はお早めにお申し込み下さい。

スペース・アーナンディー/インド映画特別講座
「インド映画完全ガイド」発売記念:インド映画を極める!

 

<第3回>インド社会とインド映画

昨年10月に「インド映画完全ガイド」が世に出たのを記念して開催している、本書の第5章をテキストにした連続講座ですが、第3回は少し固いテーマを取り上げます。アルカカットこと高倉嘉男さんが担当した2つのテーマ「宗教」「観客と国民性」を元に、インド社会におけるインド映画の現在形を考えます。

 日時:2016年5月21日(土) 15:00~17:00

 場所:スペース・アーナンディ(東急田園都市線高津駅<渋谷から各停で18分>下車1分)

 定員:20名

 講座料:¥2,000(含む資料代)

 講師:松岡 環(「インド映画完全ガイド」監修者&編集者)

 TEXT:高倉嘉男「多様な宗教のもと、融和を訴えるインド映画」(P.152)
     高倉嘉男「”マス”と”クラス”の二極化を越えて」(P.160)~カッコ内は「インド映画完全ガイド」のページ数です

インド社会とおつきあいする時に、「宗教」ははずせないテーマです。映画の登場人物たちの宗教はどうやって見分けられるか、また、そこに込められている意味をどうやって読み解くか--これが自然にできるようになると、インド映画への理解はさらに深まります。また、宗教問題を扱った『pk』のような作品が最近は目立ちますが、それを後押しする、経済発展に伴う映画の二極化、その鑑賞の場の二極化についても考えてみたいと思います。


ご予約は、上でもご案内したように、スペース・アーナンディのHPからどうぞ。ご予約下さった方には、ご予約確認と共に、スペース・アーナンディの地図をメール送付致します。このスペースは床におザブトンをひいて座っていただく形になりますので、楽な服装でお越し下さい(申し訳ないのですが、場所の関係上イス席はご用意できません。悪しからずご了承下さい)。
皆様とお目にかかれるのを楽しみにしております。

[講師紹介]
まつおかたまき。1949年兵庫県生まれ。麗澤大学、国士舘大学非常勤講師。大阪外国語大学(現大阪大学)でヒンディー語を学び、1976年からインド映画の紹介と研究を開始。1980年代にインド映画祭を何度か開催したほか、様々なインド映画の上映に協力している。『ムトゥ踊るマハラジャ』『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』『きっと、うまくいく』『女神は二度微笑む』など、インド映画の字幕も多数担当。著書に、「アジア・映画の都/香港~インド・ムービーロード」(めこん/1997)、「レスリー・チャンの香港」(平凡社/2008)、「インド映画完全ガイド」(世界文化社/2015/監修)など。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

今回の「インド映画完全ガイド」を記念しての講座は、この第3回で最終回となります。第3回では、お話ししたいことがたくさんありますし、また、受講者の方も、お尋ねになりたいことがたくさんあるのでは、と思います。これまで疑問に思っておられたあのシーン、このセリフ、わかる限りお答えしますので、ご質問も持ってご参加いただければ幸いです。

'Bhagwan Hai Kahan Re Tu' FULL VIDEO Song | PK | Aamir Khan | Anushka Sharma | T-series

最後に、『pk』の中の、様々な宗教が出てくるソングシーンを付けておきます。上の映像中には、ヒンドゥー教、イスラーム教、キリスト教、ジャイナ教、シク教に関連する映像がたくさん出てくるのですが、ちょうど1分ぐらいのところに登場するヒンドゥー教の宗教行事が、どこの寺院の何という行事なのかわかりません。ご存じの方は、ぜひコメントでご教示下さい。なお、寺院の中庭をゴロゴロ転がったり、木に赤い糸を結びつけているシーンは、マハーラーシュトラ州ナーシクにあるカーラーラーム(黒いラーマ神)・マンディル(寺院)でのロケだそうです。ムハッラム(アラビア語、ペルシャ語では”アーシューラー”。イスラーム教シーア派のフセインの死を悼む行事)にpkが参加しているシーンは、もしかしてCG合成でしょうか....。


「私も特別出演しておりますぞ」 by タイのバンコク郊外のガネーシャ像


インド映画特別講座<第3回>追加開催のご案内

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一昨日、この講座のキャンセル補充募集をアップしましたら、早くも満席になり(ありがとうございました!)、キャンセル待ちの方が数人出てしまいました。というわけで、この<第3回>も追加開催を致します。追加開催日は6月18日(土)となりますので、5月21日(土)は都合が悪くて...と思っていらした方がいらっしゃいましたら、ぜひこちらにお出かけ下さい。

スペース・アーナンディ/インド映画特別講座
「インド映画完全ガイド」発売記念:インド映画を極める!

<第3回>インド社会とインド映画
追加講座のご案内

5月21日(土)に予定している<第3回>講座を、もう一度日を改めて開催することにしました。「インド映画完全ガイド」の第5章をテキストにした連続講座の<第3回>で、少し固いテーマとなりますが、これぞインド映画理解のキモとも言える部分です。アルカカットこと高倉嘉男さんが担当した2つのテーマ「宗教」「観客と国民性」を元に、インド社会におけるインド映画の現在形を考えます。 

 日時:2016年6月18日(土) 15:00~17:00

 場所:スペース・アーナンディ(東急田園都市線高津駅<渋谷から各停で18分>下車1分) 

 定員:20名

 講座料:¥2,000(含む資料代)

 講師:松岡 環(「インド映画完全ガイド」監修者&編集者) 

 TEXT:高倉嘉男「多様な宗教のもと、融和を訴えるインド映画」(P.152)
     高倉嘉男「”マス”と”クラス”の二極化を越えて」(P.160)~カッコ内は「インド映画完全ガイド」のページ数です。また、下の諸作品は、P.152/153で取り上げられている作品です。 

 Hanumanfilm.jpgOMG Poster.pngKhan, as the title character PK, stands nude on the railroad tracks, looking into the camera while obscuring his genitals with a cassette tape player.

Bombayposterfilm.jpgLagaan.jpgMy Name Is Khan film poster.jpg

インド社会とおつきあいする時に、「宗教」ははずせないテーマです。映画の登場人物たちの宗教はどうやって見分けられるか、また、そこに込められている意味をどうやって読み解くか――これが自然にできるようになると、インド映画への理解はさらに深まります。前回のご案内ページで、宗教問題を扱った『pk』に関するご質問がコメントで寄せられていましたが、ヒンドゥー教、イスラーム教、ジャイナ教、シク教、仏教、インドのゾロアスター教(パールシー)等々に関する基礎知識があると、インド映画を見る時の「?」の数が減ります(笑)。さらに、最近の経済発展が後押ししてか、上記の文中にアルカカットさんが言及しておられるような、批判的眼差しを有する作品も増えてきています。その経済発展に伴う映画の二極化、あるいは鑑賞の場の二極化についても、今回は考えてみたいと思います。下の写真左は、ニューデリーの巨大ショッピングモールにあるシネコンPVR、右は、ムンバイにある昔ながらの映画館エドワード・シアター(ヒンディー語の劇場名は「エドワード・トーキーズ」)です。

 

ご予約は、スペース・アーナンディのHP「受講申し込み」からどうぞ。ご予約下さった方には、ご予約確認と共に、スペース・アーナンディの地図をメール送付致します。床におザブトンをひいて座っていただく形になりますので、楽な服装でお越し下さい(申し訳ないのですが、スペースの関係上イス席はご用意できません。悪しからずご了承下さい)。皆様とお目にかかれるのを楽しみにしております。

[講師紹介]は一昨日の記事<第3回>の案内をご覧下さい。

最後に、宗教を扱った問題作『OMG Oh My God(おお、神よ)』の予告編を付けておきます。こちらも、『pk』に劣らぬ面白い作品です。

OMG Oh My God - Official Trailer - Akshay Kumar and Paresh Rawal

 

タイ映画2連チャン<ヌン>『アタック・ナンバーハーフ・デラックス』

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タイ映画ファンの皆様、お待たせしました~。お待ちになったかいがありましたよ、タイ映画が2本続けて公開されます。まず、『アタック・ナンバーハーフ・デラックス』が4月30日(土)から、そして『すれ違いのダイアリーズ』が5月14日(土)からの公開です。どちらも2014年の作品で、ジャンルも違えば作品のカラーも違うものの、2本ともタイ映画の楽しさを思う存分満喫させてくれる作品です。というわけで、まずは『アタック・ナンバーハーフ・デラックス』からご紹介。行ってみよう! ヌン・ソーン・サーム(1・2・3)!


『アタック・ナンバーハーフ・デラックス』 公式サイト 
2014年/タイ/タイ語/111分/原題:สตรีเหล็ก ตบโลกแตก 

 監督:ポット・パセート
 主演:ラッタプーン・トーコンサップ、ウォラチャイ・シリコンスワン、スダーラット・ブットプロム、パランユー・ロジャナワティタムカン、パドゥン・ソンセーン 

 配給:アクセスエー、シネマハイブリッドジャパン
 配給協力:ニチホランド
 宣伝:村井卓実/長村亜紀

※4月30日(土)シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次アタックロードショー

 

(c) 2015 Phranakorn Film

お話は現在から始まります。冒頭、主人公たちが見ているのは、タイVS.日本の女子バレーの試合。ところが、みんなは試合そっちのけで、シワが目立ってきたなどと大騒ぎ。リーダーのムイ(ラッタプーン・トーコンサップ)にシワ取り注射を勧めるのは同性愛者のトム(バッダナイ・セートスワン)、注射は任せてとばかり注射器を握りしめるのは個性的すぎるメガネのノイナー(パドゥン・ソンセーン)....。みんなは10年前、ムイがチームのみんなを引っ張って、全国大会への出場を目指していた頃のことを思い出します。

1996年、ムイの元にビー監督(スダーラット・ブットプロム)から電話が入りました。バレーボール・チーム「サトリー・レック/鋼鉄の淑女」を再結成することにした、というものでした。その頃ムイは高校の体育教師として男子バレーボール・チームのコーチもしていました。ビー監督はムイと共に、かつての教え子でおかっぱ頭のジュン(ウォラチャイ・シリコンスワン)とかわい子ちゃんのダオ(キティパット・サマンタラクンチャイ)に、チームメートを集めるよう依頼します。

(c) 2015 Phranakorn Film

こうして、市場で野菜運びをしているお騒がせおネエのカントーク(パランユー・ロジャナワティタムカン)、中華系の薬屋の一人息子で、祖母と母の期待を一心に背負ったトム、ニューハーフ・ショーで中国美人に扮して大人気のパーン(ウォンサパット・タンニヨム)、性格美人コンテストに出たものの1位を逃したマッチョ美人のヌ(チャイワット・トンセーン)、チンピラたちに襲われてその道に目覚めてしまったノイナー、そして唯一ストレートだったチャート(アルサマン・ジッタシリ)らが集まってきます。こうしてランパーン県代表チームが結成され、猛特訓が始まります。チェンマイ・チームとの戦いでは、相手チームのレギュラーの1人がダオにメロメロになるハプニングも起きて、新生サトリー・レックは順当に勝ち進んでいくのですが....。

(c) 2015 Phranakorn Film

とにかく、けたたましくて賑やか。キャラ立ち度も以前の作品『アタック・ナンバーハーフ』(2000)と『アタック・ナンバーハーフ2全員集合!』(2002)を遥かに超えて、迫力倍増となっています。その原因の1つが、マッチョボディのイケメンたちがニューハーフの主人公たちを演じていることで、特にムイ、ヌ、カントーク(下の写真を見て下さい!)の3人は、その迫力にスクリーンがビリビリと裂けそうなぐらいです。また、ダオは本当にかわいいし、ノイナーは常軌を逸していると言っていいぐらいぶっ飛んでいるし、と、1人1人が個性的で見ていて飽きません。いや、飽きている隙も与えてもらえないほど、観客に向かって濃~いキャラが弾丸のように降り注ぐ、とでも言えばいいでしょうか。

(c) 2015 Phranakorn Film

迫力倍増と言えば、今回の『アタック・ナンバーハーフ・デラックス』では、バレーボールの試合がとても見応えのあるものに変化しています。前作の、どちらかと言うとマンガチックなプレーは影を潜め、「バーン!」という音が体育館内にこだまするような、ガチの試合シーンが続きます。昔、大学の授業で『アタック・ナンバーハーフ』を見てレポートを書いた学生が、「大変面白かったが、自分は中・高とバレー部だったので、あの試合シーンだけは納得できなかった」といろいろダメ出しをしてきたことがありましたが、今度の『アタック・ナンバーハーフ・デラックス』なら、彼も文句は言わないのではと思います。

(c) 2015 Phranakorn Film

そのほか、ポット・パセート監督はなかなか細かいところにも凝る人のようで、ジュンとダオが暮らす部屋はじめ、室内シーンのインテリアがどこもオシャレ。タイ映画のポスターがさりげなく飾ってあったり(『早春譜』だったような気が...)、かわいい水玉ふとんが登場したりと、そのあたりもチェックをするのが楽しい作品でした。なお、サトリー・レックの皆さんの顔と名前を憶えていくと、映画がもっと楽しくなること請け合いです。下の予告編や、公式サイトのキャスト一覧でぜひ予習をしてからお出かけ下さいね。

三ツ矢雄二ナレーション 映画『アタック・ナンバーハーフ・デラックス』予告編



 

タイ映画2連チャン<ソーン>『すれ違いのダイアリーズ』

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2本目は、2014年の東京国際映画祭で上映された『すれ違いのダイアリーズ』です。映画祭の時のタイトルは英語題名「Teacher's Diary」を直訳した『先生の日記』でしたが、公開にあたってより内容をわかりやすく伝える邦題に変更になりました。では、基本データからまずどうぞ。

 

『すれ違いのダイアリーズ』 公式サイト
2014年/タイ/タイ語/110分/原題:คิดถึงวิทยา(Khid thueng withaya/キトゥン・ウィッタヤー/恋しい学校) 

 監督:ニティワット・タラトーン
 主演:ビー( スクリット・ウィセートケーオ)、プローイ( チャーマーン・ブンヤサック) 

 配給・宣伝:ムヴィオラ
※5月14日(土)より、シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

©2014 GMM Tai Hub Co., Ltd.

舞台となるのは、山の中の湖に浮かぶ、上の写真のような小学校。この湖に暮らす人々の子供たちが通ってくる学校で、週日は子供たちは学校に泊まるため、一種の寄宿制学校のようになっています。そこに赴任してきたのが、ソーン先生(ビー/スクリット・ウィセートケーオ)。なかなか教師の職に就けないでいたソーンは、元レスリング部のガッツと「水泳できます」を見込まれて、この水上小学校なら空きがあるからと赴任させられたのでした。同棲していた恋人に未練を残して、ソーンは電気も水道もない湖の小学校にやってきます。

©2014 GMM Tai Hub Co., Ltd.

小学校の生徒は全部で4名。「僕の名前は”2(ソーン)”で~す!」と生徒の笑いを取ろうとしてもスベる一方で、なかなか子供たちはなついてくれません。そんな時ソーンは、教室の黒板の上に置き忘れてあった、前任教師エーン(プローイ/チャーマーン・ブンヤサック)の日記を見つけます。開いてみると、ここに赴任してからのエーンの気持ちが率直に綴られていて、ソーンは大いに共感します。だんだんとこの日記を読み進むにつれ、書き手のエーンに惹かれていくソーンでしたが、学校では毎日のように何かしら事件が起きて、ソーンはそれに振り回されます....。

©2014 GMM Tai Hub Co., Ltd.

まず、脚本が実に巧みです。最初映画祭で見た時はまったく予備知識なしで見たため、韓国映画『イル・マーレ』のような、超時空もののストーリーかと思ったほど。赴任早々奮闘するソーン先生の描写の合間に、エーン先生が日記に書いたエピソードを上手に挟み込み、まるで裏と表から水上小学校の日常を見るような気持ちにさせて、見る者を作品の中にぐぐっと引き込んでいきます。ユーモアのちりばめ方や、最後まで観客を引っ張っていく、ソーン先生とエーン先生は会えるのか、というサスペンス風味の配分もうまくて、観客を飽きさせません。

©2014 GMM Tai Hub Co., Ltd.

さらに、山の中の湖にある水上小学校という舞台装置が十二分に生かされているのも魅力的。東京国際映画祭の時に配られた「魅惑のタイ」特集上映のパンフレットによると、脚本も共同で担当したニティワット・タラトーン監督があるプロデューサーから聞いた2つの実話が元になっているそうで、新しいオフィスに越してきた人が机の中から日記帳を見つけ、それを書いた女性に恋してしまう話と、チェンマイのハウスボートの上にある学校の先生の話なのだとか。

©2014 GMM Tai Hub Co., Ltd.

そういった2つの実話を上手に脚色したニティワット・タラトーン監督ですが、配役も実に的確で、それも映画を素晴らしいものにしています。ソーン役のスクリット・ウィセートケーオは”ビー”のあだ名を持つ人気ポップスターだそうで、こちらのメイキング映像の1分ぐらいの所に出てくる舞台姿を見てみると、カッコよすぎて別人のようです。前髪のカットの仕方だけで、こんなに印象が変わるのですね。『すれ違いのダイアリーズ』の中では、ドジで決断力もいまいちの青年役ですが、あの素顔からこのキャラを引き出した監督の演出力には脱帽です。

©2014 GMM Tai Hub Co., Ltd.

一方、これが映画初出演というソーン役のスクリット・ウィセートケーオとは違い、エーン役の”プローイ”こと チャーマーン・ブンヤサックはすでに20本以上の映画に出演しています。その中には、ペンエーグ・ラッタナルアーン監督作で、浅野忠信が主演した『地球で最後のふたり』(2003)や、『ミウの歌~Love of Siam~』(2007)も入っていますが、『すれ違いのダイアリーズ』では自己主張がしっかりしたエーン先生を、しゃきっとした演技でチャーミングに演じています。ソーンが日記を読んだだけで惹かれていくという存在にふさわしい、魅力的なキャラクターのエーン先生には、ちょっと「あらま」の軟弱エピソードも加えられていて、このあたりも脚本のうまさというところですね。

©2014 GMM Tai Hub Co., Ltd.

ニティワット・タラトーン監督は、2003年に『フェーンチャン ぼくの恋人』の共同監督の1人としてデビュー。そして、第2作『早春譜』(2006)が大ヒットして、人気監督として一本立ちをします。音楽高校を舞台にした『早春譜』は日本では映画祭上映のみですが、タイ青春映画の傑作と言え、『すれ違いのダイアリーズ』がヒットしてこちらにもスポットが当たらないかしら、と秘かに願っている私です。最後に、これもヒットした本作主題歌「マイ・ターン・ガイ(逢わないよ)」のMVを付けておきます。歌っている25 hoursのヴォーカル担当のお髭がちょっと冗談みたいで気に入らない(笑)のですが、こちらも美しいバラードです。

MV ?????????? (OST.???????????)

バンコク西南のマレー半島の根元にあるケーンクラチャン国立公園で撮られた湖の景色や、チェンマイの風景も美しい『すれ違いのダイアリーズ』。ぜひ劇場でご覧下さいね。

 

 


ピクサーのインド人アニメーター

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先日、ディズニーのアニメ映画『アーロと少年』(2015)を見てきました。普段はめったに欧米作品を見に行かない私なのですが、一つには近くの二子玉川に新しいシネコンができたのでそれをチェックするためと、もう一つは『アーロと少年』(公式サイトはこちら)の前に上映される短編アニメが見たかったからです。

その短編アニメの題名は、『サンジャイのスーパーチーム(Sanjay's Super Team)』。まずは予告編をどうぞ....と思ったのですが、Youtubeの画像のうちどれが公式予告編なのかわからず、これは公式らしいと思われるメイキング映像を代わりに付けておきます。アニメ画像も一部引用されているので、感じがおわかりいただけると思います。

The Making of "Sanjay's Super Team" - Now Playing

監督であるサンジャイ・パテールが語っているように、この短編アニメは自身の体験を元にしたもの。お父さんとサンジャイ君の写真も、このメイキング映像と共に本編の中にも登場します。ロンドン生まれで4歳の時アメリカに移住したインド人二世のサンジャイ君と、敬虔なヒンドゥー教徒であるお父さんとの物語は、達者なアニメーションで描かれたインドの神様のアクションシーンと共に、世界中の子供のハートを掴むに違いありません。のちに発売されるであろう『アーロと少年』(このアニメ映画も迫力満点で楽しかったです!)のDVDに入っていたら、買っちゃおうかと今から考えています。

長編アニメでは、アメリカ人の女性監督ニナ・ペイリーによる『シーター姫はブルースを唱う(Sita Sings the Blues)』(2008)という名作アニメがあるのですが、短編にも面白いインド・ファクターの作品が出始めましたね。なお『サンジャイのスーパーチーム』は、アカデミー賞の短編アニメ部門にもノミネートされたそうです。またこのほか、どうもロシア製らしい短編アニメで、インドの神様を素材にしたものも発見しました。

Pixar - The God

ナタラージャこと踊るシヴァ神の像が一匹のハエごときに....と笑えますね。インド映画『マッキー』とも通じるところがありますが、金属というかブロンズ像がハエと戦う質感が、おかしみを倍にしてくれます。

サンジャイ・パテール監督は、1996年からピクサーで働いているそうで、もうアニメ制作者歴20年。こういう人がインドに戻って、インドのアニメ界を活性化してほしいものですね。

 

『暗殺』はチョン・ジヒョンが凄い!

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2015年韓国映画興行成績第2位の『暗殺』が、いよいよ日本でも公開されます。『10人の泥棒たち』(2012)のチェ・ドンフン監督作で、前作に負けない豪華キャストが話題になった作品です。公開は7月16日(土)と少し先なのですが、『ビッグ・スウィンドル!』(2004)以来のチェ・ドンフン監督ファンである私は、1回目の試写に飛んで行って見てきました。


『暗殺』 公式サイト(のちほど)

2015年/韓国/韓国語・日本語・中国語他/139分/原題:암살

 監督:チェ・ドンフン
 主演:チョン・ジヒョン、イ・ジョンジェ、ハ・ジョンウ、オ・ダルス、チョ・ジヌン、チェ・ドクムン、イ・ギョンヨン
 配給:ハーク
 宣伝:菅野祐治、田中館紫恵子

※7月16日(土)よりシネマート新宿、7月23日(土)よりシネマート心斎橋他全国順次公開

(c)2015 SHOWBOX AND CAPER FILM ALL RIGHTS RESERVED.

物語は、1911年の京城(キョンソン/現ソウル)から始まります。日本が韓国を併合したのが1910年で、反発する独立運動家たちは初代の朝鮮総督寺内正毅の暗殺を計画していました。日本側に取り入ろうとする実業家カン・イングク(イ・ギョンヨン)が寺内らを接待している時、暗殺の実行者ヨム・ソクチン(イ・ジョンジェ)が現れ、寺内を狙います。カン・イングクは寺内をかばってその場から連れ出し、暗殺は失敗に終わりますが、カン・イングクが帰宅してみると、何と妻が暗殺者ヨム・ソクチンを自宅にかくまっていました。ヨム・ソクチンを逃がすため、双子の赤ん坊を連れて実家に帰る人力車を仕立てる妻。乳母も連れて妻が出て行ったあと、カン・イングクは配下の者に妻の殺害を命じます。「子供たちだけ連れて帰ってこい」しかし、妻の殺害とヨム・ソクチン逮捕には成功したものの、片方の赤ん坊は乳母と共に逃れ、子供は1人だけしか戻ってきませんでした。

(c)2015 SHOWBOX AND CAPER FILM ALL RIGHTS RESERVED.

それから22年、1933年の中国南部杭州の町。ここには日本からの独立をめざす韓国臨時政府が置かれ、党首キム・グ(金九)は警務局の隊長となったヨム・ソクチンらと共に活動を続けていました。そこを訪ねた独立運動家のキム・ウォンボン(チョ・スンウ)は、キム・グ党首と共に京城での大物暗殺計画を立案します。実行者には、中国大陸にいる射撃の名手アン・オギュン(チョン・ジヒョン)、”速射砲”のあだ名があるチュ・サンオク(チョ・ジヌン)、爆弾作りが専門のファン・ドクサム(チェ・ドクムン)が選ばれ、ヨム・ソクチンが彼らの連れ出しに向かいます。こうして3人は、まず上海へとやってきました。

(c)2015 SHOWBOX AND CAPER FILM ALL RIGHTS RESERVED.

上海で3人が聞かされたターゲットは、朝鮮駐屯軍の田口司令官と親日派の実業家カン・イングクでした。ですが、実はこの暗殺計画は日本側に漏れていました。日本側は3人を抹殺してこの暗殺計画を阻止するため、ハワイ帰りの朝鮮人殺し屋”ハワイ・ピストル”(ハ・ジョンウ)と、彼が”爺や”と呼ぶヨンガム(オ・ダルス)のコンビを高額報酬で雇い入れます。アン・オギュンは滞在するフランス租界のホテルで偶然ハワイ・ピストルと出会い、フランス官憲の目を騙すため夫婦のふりをするのですが、その後全員が京城に移ったあとも、2人は何度も顔をあわせることになるのです....。

(c)2015 SHOWBOX AND CAPER FILM ALL RIGHTS RESERVED.

と、ここまでが前半で、その後舞台が京城に戻ってからは、独立運動の拠点となるカフェのマダム(キム・ヘスク)らも登場し、ストーリーはますます緊迫度を高めます。とはいえ、随所にユーモアを入れるのが上手なチェ・ドンフン監督のこと、とぼけたハ・ジョンウやオ・ダルスの演技に笑わせられ、それからこれは監督の意図するところではないのですが、ちょっと珍妙な日本人ファッションや日本語にも「おやおや」を感じながら、クライマックスまで一気に持って行かれてしまいます。相変わらず脚本がうまくて、『ビッグ・スウィンドル』や『タチャ イカサマ師』(2006)のチェ・ドンフン監督らしい騙しのテクニックも潜ませてあるため、上映時間139分があっという間。俳優たちの見事なアンサンブルも、見逃せません。

(c)2015 SHOWBOX AND CAPER FILM ALL RIGHTS RESERVED.

俳優の面々は、まず『タチャ イカサマ師』のチョ・スンウ、そして『10人の泥棒たち』からはチョン・ジヒョン、イ・ジョンジェ、オ・ダルス、キム・ヘスク、チェ・ドクムンと、チェ・ドンフン監督作品をよく知るメンバーが参加。チェ・ドンフン組初参加のハ・ジョンウは、ダンディながらちょっと泥臭いアメリカ帰りの殺し屋を飄々と演じていて、オ・ダルスとも名コンビになっています。それにしてもオ・ダルス、誰とでもすぐいいコンビを作ってしまえる、相棒役の名手ですね。なお、途中でハ・ジョンウ演じるハワイ・ピストルが日本軍人に化ける場面があるのですが、日本語も達者で感心してしまいました。

(c)2015 SHOWBOX AND CAPER FILM ALL RIGHTS RESERVED.

イ・ジョンジェは、登場する1911年のシーンが学生服姿ということもあってか、かなり減量したようです。プレスには、「役作りのため2ヶ月で15キロ減量し撮影に挑んだ」とあったのですが、それがわかる超スリム体型で様々なファッションを着こなします。中国の長袍姿、三つ揃いの背広、軍服、労働者姿等々いずれもよく似合い、ファンの私としては一瞬ストーリーを忘れるほど。ネタバレになるので言えませんが、あれはCG?と思う格好のシーンもあり、役者魂も存分に発揮しています。

(c)2015 SHOWBOX AND CAPER FILM ALL RIGHTS RESERVED.

そして、何よりも素晴らしいのが、ヒロインであるチョン・ジヒョンの演技です。狙撃の名手としてアン・オギュンが使っている銃は、バカでかくてずっしりと重みがあるもの。重量は5キロもあったそうで、それを抱えて屋根に飛び移ったりするアクションもこなしており、『10人の泥棒たち』に劣らぬチョン・ジヒョンのアクション見せ場が揃っています。また、近視という設定になっていて、丸メガネをかけた姿が見られるのもご愛敬。メガネ女子ながら実力は暗殺者3人の中でトップなので、隊長と呼ばれて暗殺現場では瞬時に状況を見極めるなど、男前なシーンの数々にも拍手パチパチです。チョン・ジヒョン劇場と言ってもいいぐらい、この作品では縦横無尽の活躍を見せてくれます。そうそう、彼女も韓国語以外に日本語、中国語などをしゃべるのですが、どれもとても上手だったことを書き添えておきましょう。

(c)2015 SHOWBOX AND CAPER FILM ALL RIGHTS RESERVED.

この多言語使用に関しては、チェ・ドンフン監督、前作『10人の泥棒たち』から引き続いてのリアリティ追求手法のようで、日本語が飛び交う画面も多く出て来ます。そういった時、エキストラには日本人がいたようできれいな日本語が聞こえるのですが、韓国人俳優が演じている日本人キャラの日本語は、やはりいま一つ。主要日本人役は日本人俳優を起用した方がよかったのでは、という気もします。しかしながら、軍人役では日本人の若い俳優が演じてしまうと背が丸まっていたりして、当時の軍人の雰囲気がまったく出ないため、姿勢のいい韓国人俳優が演じた方がいい場合もあるんですけどね...。 

(c)2015 SHOWBOX AND CAPER FILM ALL RIGHTS RESERVED.

そんなことを考えたのも、映画の余韻に浸りながら帰る道すがら。まず何よりも、たっぷり楽しめるエンターテインメント作品として極上の出来なので、ぜひ大きな画面でお楽しみになって下さい。日本版予告編がまだのようなので、韓国版を付けておきます。

[動画] チョン・ジヒョン&イ・ジョンジェら主演「暗殺」メイン予告編




5月のインド映画自主上映会『Sarrainodu』

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Periploさんからいただいた情報です。今回は、テルグ語映画のスター、アッル・アルジュンの作品となっています。

『Sarrainodu(正義の男)』

Sarrainodu-Telugu poster.jpg

2016年/テルグ語/159分/英語字幕/題名英語訳:The Right Man
 監督:ボーヤパーティ・シュリーヌ
 主演:アッル・アルジュン、ラクル・プリート・シン、キャサリン・トレーサ

■日時:2016年5月1日(日)午後 1:30~
■会場:埼玉県川口市、SKIPシティ・彩の国Visual Plaza アクセス 
■料金:大人2,400円
■主催:インドエイガ・ドットコム HP予約サイト

 

Periploさんの詳しい解説はこちらですが、上映会情報と一緒に書き送って下さった解説が大変興味深いので、ご了承をいただいて引用します。

♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪

<Periploさんのメールより>

主演のアッル・アルジュンについては、これまでご紹介したことがなかったように思います。
チランジーヴィ一族の有力なメンバーの一人ですが、メガスターの妻の甥であるため、チランジーヴィと血のつながりはありません。
父のアッル・アラヴィンドはテルグ映画界でトップクラスのプロデューサーです。
一番の売りはダンスで、NTRジュニアの古典をベースにした踊りとは異なる、モダン一辺倒のパフォーマンスを得意としています。
プラバースやラーナーに先んじて、「脱ぎ」を芸風として打ち出しました(これはテルグスターとしては珍しいことでした)。
人生を舐めきったようなクソガキ風キャラに定評があります。 

面白いのはケーララでの妙な人気です。
ケーララ市場に関して言えば、マヘーシュもNTRジュニアもアルジュンに勝てないのです。
ケーララ人ファンにとっては、見た目がまるでマラヤーリー、でもマラヤーラム映画の俳優が持っていないファッションセンスや踊りの上手さが魅力であるらしいです。
今回の『Sarrainodu』も、テルグ語オリジナル版と同日にマラヤーラム語吹き替え版が(マラヤーラム語吹き替え版だけが)公開されました。
でありながら、ケーララの主要芸能メディアはほぼこれを無視するという、お約束の面白い現象が起きています。

 ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪

Allu Arjun Sarainodu Movie First Look HD Posters, WallPapers

上はカッコよすぎるイラスト・ポスターですが、カッコよすぎる予告編はこちらです。

Allu Arjun's Sarrainodu theatrical trailer | Sarainodu theatrical trailer - idlebrain.com



『若葉のころ』の台湾

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もうすぐ5月ですが、5月にピッタリの台湾映画が公開されます。原題を「五月一號(5月1日)」という作品で、日本語タイトルは『若葉のころ』。「あれ?」と思われた方は、かつてビー・ジーズのファンだったか、あるいはマーク・レスター主演の映画『小さな恋のメロディ』(1971)が好きだった方では、と思います。『小さな恋のメロディ』で流れたのがビー・ジーズの歌う歌「First of May」で、日本では「若葉のころ」というタイトルで発売され、この映画の主題歌「メロディ・フェア」と共に当時の洋楽ヒットチャートを賑わしました。映画『若葉のころ』は、「First of May」の曲が重要なモチーフになっているのです。では、まずは作品のデータをどうぞ。

©South of the Road Production House

『若葉のころ』 公式FB 

2015年/台湾/中国語・台湾語/110分/原題:五月一號

 監督:周格泰(ジョウ・グータイ)
 主演:程予希(ルゥルゥ・チェン)、任賢齊(リッチー・レン)、石知田(シー・チーティエン)、邵雨薇(シャオ・ユーウェイ)、鄭暐達(アンダーソン・チェン)、賈靜雯(アリッサ・チア)

 配給:アクセスエー、シネマハイブリッドジャパン
 配給協力:ニチホランド
 宣伝:村井卓実/梶谷有里/佐々木瑠郁

※5月28日(土)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開

©South of the Road Production House

ストーリーは現在から始まります。あるクラシック音楽のコンサートに、ピアノ教師の王蕾/ワン・レイ(賈靜雯/アリッサ・チア)は高校生の娘白白/バイ(程予希/ルゥルゥ・チェン)と共に出かけていき、会場で高校の同級生だった林克銘/リン・クーミン(任賢齊/リッチー・レン)を見かけます。クーミンが若い女性と一緒だったので声を掛けずに帰ってきたレイでしたが、離婚して娘や年老いた母と暮らすレイの心には、初恋の人である彼の姿が焼き付きました。クーミンにメールを書いてみたレイでしたが、それを出さないままキープしているうちに、レイは交通事故に遭い意識不明状態で入院することになってしまいます。母のパソコンにキープされたメールを見つけたバイは、それをクーミンに送信してみます。

©South of the Road Production House

クーミンは建築家として成功を収め、若い恋人もいるのですが、彼女に結婚を迫られると煮え切らない態度をとってしまいます。そんな時、初恋の人ワン・レイからのメールが突然届いたのでクーミンは驚いたものの、彼女と会ってみることにしました。ところが、待ち合わせ場所にやってきたのは、高校時代のレイ(ルゥルゥ・チェン二役)にそっくりの彼女の娘バイ。クーミンはレイを病室に見舞いますが、彼女は目を覚ましそうにありません。クーミンは、高校時代の甘酸っぱい初恋の日々を思い出します。

©South of the Road Production House

1982年、高校生のクーミン(石知田/シー・チーティエン)は英語が得意だったのですが、英語スピーチコンテストで一位を獲ったのはワン・レイで、それ以来クーミンは彼女を意識するようになります。若い女性の英語教師陳/チェン先生が、ビー・ジーズの曲「若葉のころ」を訳してみては、と言ってくれたことがきっかけで、クーミンはレイへの思いを込めて訳文を仕上げました。「.....いつか、ほかの誰かに心奪われて、すべては思い出になる。でも、僕は君を忘れない。」ところが、クーミンと友人たちが反発心を抱く生活指導のうるさい教師張/チャン先生(庹宗華/トゥオ・チョンホア)を巡り、ある事件が起きたことから、クーミンはレイと離れざるを得なくなってしまったのでした....。

©South of the Road Production House

台湾映画は、個人史を描く作品が本当に上手です。特にそれが青春時代を振り返ったものだと、もう他国の追随を許しません。これまでにも、1994年~2005年を描いた『あの頃、君を追いかけた』(2011)、1996年を描く『九月に降る風』(2008)、そして1986年を舞台にしたちょっと異色の青春映画『モンガに散る』(2010)など、このジャンルでいくつものヒット作を出しています。今回の『若葉のころ』では1982年が舞台に設定されていますが、その頃の台湾をスクリーンに再現し、俳優たちもその時代の雰囲気をまとった若手を起用して、観客を思いっきりノスタルジアに浸らせてくれます。

©South of the Road Production House

1982年は台湾にとって、その後にやってくる本格的な民主化を準備する、夜明け前のような時期でした。中国との戦闘状態は継続しているものの、文革後の中国は1972年に日本と、さらに1979年にはアメリカと国交を正常化し、日米両国は台湾とは断交状態になります。これにより台湾、つまり中華民国では「大陸反攻(武力による中国大陸の領土奪還)」が非現実的なものとなり、金門島と対岸の中国大陸との間で行われていた「単打双不打(月水金は砲撃し、火木土は砲撃しない)」という形骸化した砲撃合戦も終わりを迎えました。戒厳令下という緊迫感は残りつつも、人々の心は解放に向かい、若者文化も形成され始めて、映画では台湾ニューシネマの時代がやって来ます。本当の意味での民主化が成し遂げられるのは、1987年の戒厳令解除と翌1988年の蒋経国総統(蒋介石の息子)の死去以降ですが、80年代は少しずつ扉が開き始めた時期なのでした。


『若葉のころ』でも、訓導と呼ばれる生活指導の居丈高な教師に対し、クーミンと友人たちが反抗するシーンが出て来ますし、男女交際も開放的になりつつある様子が描かれています。そして、その頃の思い出が現在40歳代後半の主人公たちに強く残っているのも、時代の変化の中にいた記憶が刻み込まれているからではないかと思います。建築事務所を主宰するクーミンは、高校時代の同級生とよく痛飲しますが、当時「死黨(大親友)」であった彼らには忘れられない時代だったのでしょう。なお、訓導を演じているトゥオ・チョンホアと、クーミンの親友を演じている孫鵬(スン・ポン)は80年代の青春映画によく出ていた男優で、こういった配役も台湾の観客にとってはたまらないところです。

©South of the Road Production House

一方で、若手女優の成長株ルゥルゥ・チェンが現代の高校生(こちらにも、いろんなエピソードが詰め込まれています)と、1982年の高校生を演じ分けているのも話題です。上の写真のように髪型もちょっと変えてあり、態度はもちろん大違いの2つの時代の女子高生は、30年の時を経た両方の『若葉のころ』を活き活きと見せてくれます。1982年のクーミンを演じるシー・チーティエンは、大阪アジアン映画祭で上映された『軍中楽園』(2014)にも出演していたそうですが、モデルをしているだけあってとてもカッコよく、この若手二人は今後要チェックです。予告編を付けておきますので、顔を憶えて下さいね。

映画『若葉のころ』予告編 (原題:5月一号)

 ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪

ところで、上の文中でも言及した、台湾ニューシネマの時代を振り返ったドキュメンタリー映画も間もなく上映されます。台湾ニューシネマは、1982年のオムニバス映画『光陰的故事』と1983年のやはりオムニバス映画である『坊やの人形』がその出発点と言われ、そこで作品を発表した楊徳昌(エドワード・ヤン)、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)、萬仁(ワン・レン)、張毅(チャン・イー)、柯一正(クー・イーチェン)らが活躍していくのですが、ドキュメンタリー映画『台湾新電影(ニューシネマ)時代』(2014)では、彼らの作品に影響を受けた世界の映画監督にインタビューして、台湾ニューシネマの精神を浮かび上がらせて来ます。ニューシネマ作品の映像も随所に使われ、その全貌の一端がわかるドキュメンタリーとなっています。


上の写真は左から、脚本家としてニューシネマに貢献し、のちに監督になった呉念眞(ウー・ニエンチェン)、ホウ・シャオシェン、エドワード・ヤン、ニューシネマより一歩遅れて監督としてデビュー、現在はプロデューサーとして手腕を発揮している陳国富(チェン・クォフー)、作家・評論家であり、プロデューサーでもあった宏志(ジャン・ホンジー)です。まさにニューシネマの監督たちの「若葉のころ」の写真なのですが、この中でエドワード・ヤンだけが鬼籍に入ってしまい、本当に残念です。なお、ドキュメンタリーの中でインタビューに答えている監督たちの名前は、以下のデータでご参照下さい。こちらも予告編を付けておきます。 

『台湾新電影(ニューシネマ)時代』

2014年/台湾/タイ語・中国語・日本語・英語その他/109分/英語題:Flowers of Taipei: Taiwan New Cinema 

 監督:謝慶鈴(シエ・チンリン)
 出演(順不同):侯孝賢(ホウ・シャオシェン)/宏志(ジャン・ホンジー)/蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)/賈樟柯(ジャ・ジャンク―)/劉小東(ルオ・シャオドン/画家)/王兵(ワン・ビン)/楊超(ヤン・チャオ)/田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)/艾未未(アイ・ウェイウェイ)/応亮(イン・リャン)/舒(シュー・ケイ)/黒沢清/是枝裕和/浅野忠信/佐藤忠男(評論家)/市山尚三(映画祭ディレクター)/アピチャッポン・ウィーラセタクン/オリヴィエ・アサヤス/トニー・レインズ(評論家)/マルコ・ミュラー(映画祭ディレクター) 他

 配給:オリオフィルムズ
 宣伝:トラヴィス

※4月30日(土)~6月10日(金)、新宿K's cinemaで開催の「台湾巨匠傑作選2016」で上映/上映スケジュールはこちら。 

【映画 予告編】 台湾新電影(ニューシネマ)時代

 


『PK』の意味

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インド映画『PK』の今秋公開が、すでにいろんな所で発表されています。公式サイト公式ツイッター公式FBもいち早く設営され、またネット記事でもこちらのように取り上げられるなど、インド映画ファンとしては嬉しい限りです。

邦題の表記は、大文字の『PK』になったのですね。「キネマ旬報」の3月下旬号で紹介した時、大文字にしといてよかったです。


(インド版DVDジャケットより)

 ところでこの『PK』の意味なのですが、もちろんサッカーの「PK戦」とも、伊坂幸太郎の著作の題名「PK」とも関係はありません。アーミル・カーン演じる主人公があまりにも突拍子もないことを言うので、周りの人から「PK hai kya?/ピー・ケー・ハイ・キャー?(PKなのか?)」と言われ続け、ついには「PK」を自分の名前にしてしまうところからついた題名です。では、この場合の「PK」とは?

これはヒンディー語(ローマナイズ)で書くと「pi/ピー(飲ん)+ ke/ケー(で)」のことで、それを英語の「for you」を「4 U」と書く感覚で「PK」と表記したものです。「~ke/ケー」は「~kar/カル」と同じ言葉で、「~して」という意味ですね。

日本語でも「飲む」=「酒を飲む」となることがよくありますが、ヒンディー語でもそれが当てはまるようで、「Pi ke aaye ho kya?/ピー・ケー・アーエー・ホー・キャー?」と人に聞かれた場合は、「(お酒を)飲んで来たの?」の意味、しかもちょっと非難がましいニュアンスになるようです。

「pi ke」だけの使い方、あるいは映画の中でみんながPKに対して言う言い方、「Pi ke hai kya?/ピー・ケー・ハイ・キャー?(PKなのか?=飲んでるのか?)」は本当は文法的に正しくないのですが、この映画での造語として使われ、映画のヒットと共に市民権を得たようです。「PK」だけで名詞と考えると、「ヨッパライ」「酔漢」「大トラ」というような意味になるでしょうか。

でも、英語字幕では「tipsy」が「PK」の訳語として使ってあり、これは英語に詳しい人によるとかわいい感じのする言葉だそうで、辞書では「ほろ酔いの、千鳥足の」というような訳語が出て来ます。確か「ナマステ・ボリウッド」では、以前『PK』の訳を『千鳥足』としてあったように思いますが、こういった訳も含めて、いろいろ邦題が検討されたのでしょうね。

さて、これからどんな宣伝が展開されるのか、楽しみです。そのうち詳しくご紹介できると思いますので、しばらくお待ち下さいね。

 

インド映画自主上映会:タミル語映画『24』

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Periploさんからいただいた情報です。今回上映されるのはタミル語映画の『24』。どこかのテレビドラマと同じタイトルですが、内容は関係ないようです。日本でもお馴染みのコリウッド・スターたちが出演してるのですが、英語版Wikiを見ると、どうやら主演のスーリヤは三役を演じる模様。そのあたりは、Periploさんの詳しいご紹介ページをどうぞ。なお、上映は日時と場所を変えて、2回行われます。

24 (2016 film) poster.jpg


『24』

2016年/タミル語/118分?/英語字幕
 監督:ヴィクラム・クマール
 主演:スーリヤ、サマンタ、ニティヤ・メーノーン、ギリーシュ・カールナード

【一回目】
■日時:2016年5月7日(土)午後 2:00~
■会場:神奈川県海老名市、イオンシネマ海老名 アクセス 
■料金:大人2,500円
【二回目】
■日時:2016年5月8日(日)午後 1:00~
■会場:埼玉県川口市、SKIPシティ・彩の国Visual Plaza アクセス
■料金:大人2,500円

■主催:Madras Movies Japan HP 予約


何だか謎に満ちた作品のようです。最後にご紹介する予告編を見ると、いくつものお話が勝手に作れてしまいそうな....。ちょっとバカでかいのですが、ポスターをいろいろ付けておきます。

Actor Suriya Sivakumar tweeted: Happy new year! May all dreams come true!! # 24.

Suriya's 24 New Terrific Poster

24 is an upcoming Tamil science fiction thriller Tamil film written and directed by Vikram Kumar and Produced by Suriya and KE Gnanavel Raja. Starring Suriya, Samantha and Nithya Menen in the leading roles, while Ajay, Sathyan, Saranya Ponvannan, Girish Karnad, Mohan Raman, TS Ranganathan and Natarajan Balakrishnan appear in supporting roles.

Music composed by AR Rahman. This movie is scheduled for 2016 Summer release worldwide.

ヒロインは、『マッキー』のサマンタ(サマンサ・ルス・プラブ)と『OK Darling』のニティヤ・メーノーン。さて、2人がどういう風にスーリヤとからむのか、楽しみですね。予告編はこちらです。スーリヤのダンス、相変わらずのカッコよさ!

24 Official Trailer - Tamil | Suriya | Samantha | AR Rahman | 2D Entertainment | Vikram K Kumar

では、引き続き楽しい連休を、と言いつつ、月曜日は通常勤務の私です....。


韓国の秀作ドキュメンタリー『あなた、その川を渡らないで』

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次々と面白い作品が公開される韓国映画ですが、ちょっと味わいの違う作品もやって来ました。一昨年韓国で大ヒットとなったドキュメンタリー作品『あなた、その川を渡らないで』です。韓国のドキュメンタリー映画と言えば、やはり韓国で記録的な興行成績を残した『牛の鈴音』(2008)や、性表現が問題となった『死んでもいい』(2002)などが思い出されますが、『あなた、その川を渡らないで』を含めていずれも老夫婦が主人公。今回のご夫婦は、98歳と89歳です。

© 2014 ARGUS FILM ALL RIGHTS RESERVED.

『あなた、その川を渡らないで』 公式サイト 

2014年/韓国/韓国語/86分/原題:님아, 그 강을 건너지 마오

 監督:チン・モヨン
 ドキュメンタリー出演者:おじいさん/チョ・ビョンマン、おばあさん/カン・ゲヨル

 配給:アンプラグド
 宣伝:山本(アンプラグド)・高田理沙/伊坂(NPC)/平井直子

※7月、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

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『あなた、その川を渡らないで』の舞台となるのは、江原道(カンウォンド)の小さな村。人里からちょっと離れた家に住むのは、98歳のおじいさん、チョ・ビョンマンさんと、その連れ合いである89歳のおばあさん、カン・ゲヨルさんです。近くには川が流れ、離れがあるお宅は広々とした表庭を持ち、犬も飼っています。2人はいつも身ぎれいに暮らし、市のある日や老人会の遠足にはお揃いの美しい韓服(伝統服)を着て、仲良く手を繋いで出かけていきます。時には雪合戦をしたり、咲き始めた花を互いにプレゼントし合ったりと、とても仲のいい夫婦です。

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夫婦の子供たちはみんなすでに独立して、離れた町に暮らしています。子供は12人生まれたのですが、6人は夭折してしまい、今の子供は男女3人ずつ。息子や娘たちは、お正月や両親の誕生日になると孫を連れて帰省し、その時は家も賑やかになります。こんな幸せなおじいさんとおばあさんですが、日々の悩み事はつきません。飼い犬ゴンスンがよその犬の子をはらんだり、帰省した息子と娘がケンカになったり....。でも、その一方で、ゴンスンの仔は生まれてみるとかわいくて、「オスとメス3匹ずつね、私と一緒だ」と思わず頬がゆるむおばあさん。子供たちのケンカも、両親を思えばこそなのです。秋、冬、春、夏と季節は巡り、美しい自然が目を楽しませてくれますが、おじいさんとおばあさんは自分たちの老いとも向き合わなくてはならなくなります....。

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このドキュメンタリー映画が生まれたのは、チン・モヨン監督が撮りたい素材を探している時に、この2人を扱ったテレビのドキュメンタリー番組「人間劇場(インガングクチャン)」を見たことから。KBSの長寿番組「人間劇場」は、月曜日から金曜日まで放送されている40分の番組で、いろんな人を毎回取り上げ、その生き様を見せてくれます。10数年前韓国の男優をインタビューしていた時に、演技の参考としてよく見ていると言って「人間劇場」を挙げてくれた人が2人あり、驚いたことがありました。チン・モヨン監督によると、「人間劇場」ではおじいさんとおばあさんをある季節に捉えていただけだったので、監督としてはじっくりと腰をすえて2人の真摯な愛を撮りたいと思い、こんな形の作品になったそうです。

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というわけで、足早に2人の人生を追いかけるのではなく、15ヶ月間にわたって季節の巡りを背景に、2人の生き方や考え方を捉えていくという、ちょっと映像詩のような造りになっています。もちろん悲しいことも起こるのですが、それでも全編から「人間が生きることの素晴らしさ」が伝わってきて、とても暖かい気持ちにさせられます。高齢でもしゃっきりと暮らしていけるのはご夫婦が互いに支え合っているからとも言えますが、それだけではない生き方の秘密を静かに探らせてくれる秀作ドキュメンタリーです。

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本作は、韓国では3,732,439人の観客を動員して、2014年韓国映画の動員数第9位となりました。公開時には、しばしば興行収入の週間第1位を獲得、低予算映画興収記録をうち立てた作品としても知られています。韓国での観客は、20代の若者が4割を占めたといいますが、日本でもぜひ若い皆さんに見てもらいたい作品です。

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ひとつ驚いたのは、中華圏ではよく行われる風習ですが、天国での生活に不自由しないように、身の回りの品々を火にくべて死者に届けようとする風習が韓国にもあること。しかも、中華圏では実物ではなく紙で作ったもの--家や自動車、服、家具など--を火に投じるのですが、本作のおばあさんは、かつて亡くなった子供に天国で着せるため、実際の服をかまどで焼いてしまうのです。これは韓国では一般的に行われている風習なのでしょうか。

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題名になっている『あなた、その川を渡らないで』は、まさに彼岸に行ってしまう愛しい人を押しとどめる言葉だと思いますが、人が川を渡るまでの生が淡々と、かつ細やかに描かれていて、その輝きがいつまでも心に残ります。見る世代によって感想は違ってくるでしょうが、70年余りを共に楽しく生きる夫婦のb秘訣が見つかる、優れた恋愛映画と言ってもいいかも知れません。予告編を付けておきますので、ドキュメンタリー映画と尻込みなさらずぜひどうぞ。

「あなた、その川を渡らないで」予告編




高架鉄の千葉旅行

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連休中の休日は仕事やら片付けやらに追われ、どこにも出かけなかったので、本日遠出をしてみました。行き先は千葉市。千葉モノレールに乗りに行ったのです。ルートは、行きは東京駅から京葉線で千葉みなと駅へ、帰りは千葉駅から総武線快速に乗って帰ることにしました。東京から千葉みなとまでは、これも快速だと40分弱で行ってしまいます。早いですね~。


千葉みなと駅は、JRとモノレールと両方が隣り合っています。すぐモノレールに乗るのももったいないので、千葉ポートタワーに行ってみることにしました。途中、クルーズ船の乗り場でお昼を食べたりして、駅から徒歩10分ぐらいのポートタワーまで1時間ほどかけてぶらぶらと。ここのポートタワーは、オベリスクみたいな建物が建っている、ちょっとユニークなタワーで高さは125メートル。110メートルぐらいの所にある展望台への入場料は420円と良心的なお値段でした。


ところが行ってみてびっくり。展望台前の広場に、大きな猫が香箱座りしています。これには、かわいい坊やを連れたお父さんもちょっと引き気味。「ほら、猫だよ」とかお子さんに言っていましたが、あまりの猫の迫力に坊やの目もまん丸になっていました。何せ、この貫禄ですからねー。


展望台に上がると、千葉港と千葉市中央区あたりが一望のもとに見渡せます。海の中に製鉄所があったり、ガスタンクが並んでいたりと、昼間は美しいとは言えませんが、エレベーターを操作してくれた職員の人によると夜景はとてもステキなんだとか。近くにある県立美術館も、建物デザインがよく見えました。それにしても、マンションがにょきにょきとできていますね。ポートタワーは30年前にできたのだそうですが、その頃は周辺には何もなかったそうです。


さっき上から見た県立美術館の前を通り、京葉線の高架に突き当たって左折したら、インド料理店がありました。


「ビンディ」という名前なんですが、ローマ字では「BHINDI(オクラ)」なのに、デーヴァナーガリー文字では「BINDI(額に付ける印)」になっています。どちらが正しいの??? 両方を兼ねている、と言うには、「DI」の音も違うのでちょい無理がありますねえ。

さて、いよいよ千葉モノレールの千葉みなと駅にやってきました。千葉モノレールは、ちょっと珍しい懸垂式、つまりレールから車両がぶら下がる形のモノレールです。大船から出ている湘南モノレールも懸垂式ですが、これに対して、下でレールを挟むようにして移動する型は跨座式と呼ばれ、日本ではこちらの方が多数を占めるのではと思います。羽田へ行く東京モノレールや多摩モノレール、大阪の万博公園に行く大阪モノレールも跨座式です。


千葉モノレールでは新型らしき車両が走っており、幸運にも千葉みなとから県庁前まで乗ったのがその車両でした。座席もしゃれていますし、運転席の仕切りに透明部分が多く、また車両前部も透明度が高くて、前方の景色がよく見えるのです。これで大阪モノレールみたいに、客車の一番前に正面向いて座れる鉄ちゃん席が作ってあったら、もう最高なんですが。


県庁前まで行く路線は、線路高も高く、スリリングなカーブもいっぱいあって、楽しかったです。あの、ぎゅん!という感覚が味わえないと、高架鉄としては物足りませんからね。


県庁前駅は、改札を出たところが円形歩道橋になっていて、とても便利な駅でした。県庁前というだけあって、県庁がすぐそこに。遠くにはお城も見えます。あれ?千葉にお城なんてあったっけ、と思ってあとで調べたら、確かに昔、千葉城はあったのですが、この建物自体はその城郭遺構に戦後しばらくたってから建てられたものだとか。それも、昔の千葉城を再現したものではなく、郷土博物館として建てたもののようで、評価はいまひとつ。


県庁前駅からは、千葉駅に引き返し、別の路線、千葉みなと&千城台を結ぶ長めの路線に乗り換えました。


残念なことに、なかなか新型車両にはあたらず、運転席からの眺めもいまいちで、その上こちらの路線は直線が多いのと線路高が低いのとで、迫力にも欠けます。ペイントしたかわいい車両も走っていたのですが、高架鉄の萌え~ポイントはそこじゃないんですねー。


というわけで、千葉駅近くの路線が重なる場所のダイナミックなフォルムを楽しんだりしながらも、ちょっと物足りなかった千葉モノレールの旅でした。

あと、東京ディズニーランドやディズニーシーを回る路線も全線乗っていないため、そのうちに制覇しに行こうと思います。あそこなら、見物だけの1周切符とかがあるかな? いちいち駅で降りて改札出るのも、結構面倒なんですよね。ほかに関東地方で、楽しい高架鉄道があったらぜひ教えて下さい。


中国ドキュメンタリー映画上映@専修大学

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専修大学で中国のドキュメンタリー映画の上映が行われます。ずっと中国のドキュメンタリー映画の研究を続けておられる土屋先生からのご案内で、胡傑監督作品が何本か上映されるのですが、中でも興味深いのが『文革宣伝画-紅色美術』という作品です。文革=プロレタリア文化大革命期(1966~1976)に描かれた独特の宣伝画について、多角的に分析がなされているようです。この作品を中心とした討論会もありますので、ご興味がおありの方はぜひどうぞ。チラシをそのままスキャンして貼り付けておきます。

うちの書庫にも、文革当時に出版された映画関連本があるのですが、絵柄が独特です。下に、3冊ほど挙げておきましょう。それぞれ、出版年と出版社、簡単な説明も書いておきます。

「讃彩色影片《智取威虎山》」(1970年/香港三聯書店)~ツイ・ハーク監督の『タイガー・マウンテン 雪原の死闘(原題:智取威虎山)』(2015)の元ネタとなった映画の評論集。


「紅色小号手」(1973年/上海人民出版社)~表題作を初めとするアニメ7作品のストーリー集。原画がそれぞれ挿絵として使ってあって楽しい、というか勇ましい。


「閃閃的紅星」(1975年/広西人民出版社)~脚本のノベライズと評論集。挿入歌の楽譜も入っている。


こんな時代のプロパガンダ美術が、「文学宣伝画-紅色美術」の中ではどのように紹介されているのでしょうね。私は残念ながら最終土曜日なので参加できないのですが、中国映画史に興味のある方は特にお見逃しなく。


インド映画自主上映会:タミル語映画『Jambulingam 3D』

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Periploさんからいただいた情報です。『24』に続き、タミル語映画がもう1本上映されます。自主上映会初の3D上映になる模様です。

『Jambulingam 3D』

Jambulingam 3D Movie Paper Posters - 1

2016/タミル語/?分/日本語字幕/3D上映

 監督:ハリ・シャンカル&ハリーシュ・ナーラーヤン
 主演:ゴークルナート、アンジャナーほか

■日時:2016年5月15日(日)午後 3:00~
■会場:イオンシネマ市川妙典 アクセス
■料金:大人2,200円
■主催:セルロイド・ジャパン HP FB 予約

Jambulingam 3D Movie Paper ad Poster 03 May - Jambulingam 3D Movie Paper Posters

日本ロケの作品のようですが、何かちょっとポスターからして、ムニャムニャ.....。それから、「日本語字幕」とありますが、これに関してもある噂が....。というわけで、歯切れ悪くご紹介しておきますので、ご自身でご判断の上、お出かけ下さいね。ソング・プロモ映像を付けておきます。YouTubeにアップされていたので貼り付けたのですが、こちらも何か問題があるようで...。ご興味がおありの方は、YouTubeで映画のタイトルを入れて探してみて下さい。

JUMBULINGAM 3D TAMIL MOVIE SONG OFFICIAL PROMO


インド映画の「ビジランテ・ムービー」?

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この間毎日新聞の「余録」欄に、「ビジランテ・ムービー」という言葉が紹介されていました。5月11日の朝刊です。冒頭を引用してみます。

”悪の集団と戦うハリウッド映画のヒーローは頼りにならない法や警察とも対立する。この手の映画は「ビジランテ・ムービー」と呼ばれる。ビジランテとは開拓時代の自警団で、犯罪者や無法者とみなした連中に私刑を加えるのを常とした”

「ビジランテ」の綴りはvigilanteで、この単語はスペイン語が語源のようですが、英語の単語としても「vigil(徹夜、寝ずの番)」「vigilance(用心、警戒)」「vigilant(油断がない、寝ずの番をする)」等が元々あったようです。表記にこだわる人なら「ヴィジランテ」と書くところですが、映画業界は「v」音を「b」音で表すことが多いため、「ビジランテ」で定着した模様です。

Gabbar is back first look.jpg

で、どうしてこの言葉に反応したかというと、連休中に浴びるほど見たインド映画の中に『Gabbar Is Back(ガッバル再来)』(2015)があったからです。これは、役人や警官の汚職に怒った主人公(アクシャイ・クマール)が「ガッバル(1975年の大ヒット映画で今やカルト作品となっている『炎』の悪役の名前)」と名乗って彼らに鉄槌を加える、というもので、具体的には仲間の助けを借りて汚職の証拠を掴み、汚職役人を誘拐して見せしめのために殺害、汚職の証拠と共に街に吊す、というストーリーになっています。いわば法の裁きに信頼が置けず、自らの手で悪を裁いてしまう、というヒーローで、こいうやり方をヒンディー語では「Qanoon(Kanoon) ko apne haath mein lena/カーヌーン(法律)・コー(を)・アプネー(自らの)・ハート(手)・メーン(に)・レーナー(取る)」という表現をします。

Gabbar Is Back (Uncut Official Trailer) | Akshay Kumar, Kareena Kapoor

上に予告編を貼り付けた『ガッバル再来』は、最終的には法律を尊重する地点に着地してエンディングを迎えるのですが、最近はサスペンス映画が多いこともあって、このような「法をわが手に握る」作品がインド映画には増えています。正当防衛や、警察機構が味方になってくれなくてやむなく、というエクスキューズが付いていたとしても、主人公が復讐や自己防衛のために人の命を奪ってしまう作品は、『復讐の町(Badlapur)』(2015)や『国道10号線(NH10)』(2015)、それから主人公ではないのですが、悪の一味に対抗して村人が彼らを私刑に処する『Jai Gangajal(ガンジス川の聖水万歳)』(2016)など、たくさんあります。荒唐無稽な作品ではそれほど気にならなくても、最近のサスペンス映画は筋立てもリアルなので、「そこで殺してしまうのか!」と気になっていました。こういう「法をわが手に握る」映画群は、一つのジャンルと呼んでもいいかも知れない、と前から考えていたため、「ビジランテ・ムービー」という名前でくくれるのでは、と思った次第です。

Badlapur Poster.jpgOfficial release posterJai Gangaajal poster.jpg

インド映画がこのように「ビジランテ」化したのは割と最近のことで、1970~90年代はむしろ、「Qanoon ko apne haath mein mat lo(法をわが手に握ってはいけない)」あるいは「Mujrim ko qanoon ki hawale kar do(罪人を法の手に委ねよ)」という表現がよく聞かれました。『炎』のラストに近いシーンでも、以下のような展開がありました。

盗賊の首領ガッバル・シン(アムジャド・カーン)が主人公ヴィールー(ダルメーンドル)とジャイ(アミターブ・バッチャン)の活躍で捕らえられますが、ジャイは途中で犠牲になり、そのためヴィールーがジャイの仇としてガッバルを殺そうとします。ですが、タークル(サンジーウ・クマール)が以前からの契約をタテにとって、ガッバルを自分に引き渡させます。タークルは息子の嫁(ジャヤー・バードゥリー=ジャヤー・バッチャン)を除く家族全員をガッバルに殺され、自らもガッバルに両手を切り落とされたため、その復讐を誓って、雇った流れ者の二人ヴィールーとジャイに「ガッバルを生きたまま捕らえろ」と命じていたのでした。ガッバルが「俺が両手を切り落としたその体で、どうやって戦うというんだ」とバカにするのに対し、タークルは蹴りや頭突きでついにガッバルを打ち据え、その頭を足で踏みつけようとしますが、その時警官隊がかけつけて来ます。そして警部が、「Mujrim ko sazaa dena qanoon ka kaam hai(罪人に罰を与えるのは法の役目です)」と言ってタークルを下がらせるのです。このようなエンディングで、観客は十分に満足して帰途についたのでした。

Sholay

ところが、今回この文を書くに当たっていろいろ調べてみると、当初ラメーシュ・シッピー監督は別のエンディングを用意しており、それを中央検閲委員会(CBFC=Central Board of Film Censors)で通そうとしたところ、描写が暴力的すぎるとして変更を迫られたのだとか。それ以前のシーンにもいろいろダメが出ており、それらは何とか最終的にOKが出たものの、このエンディングを変えない限り上映は難しいという判断から、シッピー監督は撮り直したのだそうです。こちらのインタビューで、公開までの数日間に撮り直したというエピソードを語っています。撮り直す前のシーンは何とYouTubeに誰かがアップしており、ガッバルがタークルの攻撃を受けて、最終的に死に到るという描写を見ることができます。

THE SHOLAY CLIMAX YOU NEVER SAW!

今、このオリジナル・エンディングを見直してみると、こちらだと『炎』は名作になったかどうか、少々あやしいと思ってしまいます。当時の検閲による結果にせよ、『炎』は現在の形の方が後味がいいことは確かです。

『炎』以降、悪人が死ぬことによってエンディングとなる、という作品は見かけましたが、検閲がそこでも働いたのか、主人公が積極的に相手の命を奪う、という展開はあまり見られませんでした。ですので、『ガッバル再来』と似た内容の『インドの仕置人』(1996)を見た時は、正義のためとはいえ多くの人(息子まで!)を殺した主人公を最後まで生き延びさせるのか、と驚いたものです。現在、サスペンス映画ブームも手伝って、暴力描写が過激な作品やビジランテ映画が増えているインド映画界ですが、この連休にそういった作品も含めてサスペンス映画を4、5本見たら、いいかげんうんざりしてしまいました。ほかに見た作品も、インド映画らしい勢いやサービス精神が感じられないものがほとんどで、インドの観客にも不満がくすぶっているのでは、と思ってしまいます。思いがけず楽しめたのは、昨年の興収第3位『Prem Ratan Dhan Payo(愛という豊かな宝を得よ)』だけでした。

Prem Ratan Dhan Payo Official Trailer | Salman Khan & Sonam Kapoor | Sooraj Barjatya

でも、こういう低調期は、えてして次の脱皮への準備期間になっていることもあります。2,3年後には、1990年前後にあったような転換点が再びやってくるのでは、と思っているのですが、さてどうなりますか。

 

 

インド映画自主上映会:テルグ語映画『Brahmotsavam』とマラーティー語映画『Sairat』

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Periploさんからいただいた情報です。在日インド人の方々がやっているインド映画の自主上映会、いろんな言語が入り乱れて賑やかなことになっていますが、マラーティー語映画も上映が続いて、定着する様相を見せてきました。

『Brahmotsavam(大祭)』

Brahmotsavam poster.jpg

2016年/テルグ語/?分/英語字幕

 監督:シュリーカーント・アッダーラ
 主演:マヘーシュ・バーブ、サマンタ、カージャル・アグルワール、サティヤラージ、レーヴァーティ

■日時:2016年5月28日(土)午後 3:00~
■会場:千葉県市川市、イオンシネマ市川妙典 アクセス
■料金:大人3,000円
■主催:インドエイガ・ドットコム HP FB 予約

Brahmotsavam Official Theatrical Trailer | Mahesh Babu | Samantha | Kajal Aggarwal | PVP Cinema

上が予告編ですが、Periploさんが書いて下さった解説がとっても興味深いので、下に引用しておきます。

♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪

”20日に現地封切りであるため、ストーリーの詳細は分かっていません。予告編などを見た限りで期待させられるのは以下の点です。

1.マヘーシュがヴィジャヤワーダっ子をやるらしい。アーンドラ・プラデーシュ州第三の都市ヴィジャヤワーダは、ムスリム文化のハイダラーバードに対して、バラモン主導の伝統的なテルグ文化の中心地と言われています。伝統舞踊クーチプーディの発祥もこの地方です。この町に住む中産階級の家庭が舞台のメロドラマなのではないかと予想されます。

2.サティヤラージ、レーヴァティ、サヤージ・シンデーなどテルグ映画界外から客演の俳優たち。

3.『Seethamma Vakitlo Sirimalle Chettu』(参照サイトはこちら)で大ヒットを飛ばしたシュリーカーント・アッダーラによる、バイオレンス要素の少ないファミリードラマであるということ。『Seethamma Vakitlo Sirimalle Chettu』は2013年を代表するヒットとなり、またミッキー・J・メイヤーによるソングも大変に好まれました。3年ぶりの本作でも同じ作曲家が起用され、メロディアスでキラキラしたサウンドがいい感じです。

4.一番最初に現れたポスター(上)でマヘーシュが跪いて挨拶している人物が気になります。普通に考えれば一番の大物脇役であるサティヤラージなのでしょうが、テルグの衆ならばそこにマヘーシュの父クリシュナ(Wikiはこちら)を見るのではないかと思います(クリシュナが特別出演するということではないようですが)。クリシュナは1970年代に活躍した俳優で、ここのところ半引退状態が続いていましたが、今年久しぶりにリベンジ・アクションの主演作が公開されることになっており、期待と不安を呼んでいます。1960年代までがNTRとANR、70年代がクリシュナとショーバン・バーブ、80年代からがチランジーヴィというのが、20世紀のテルグ映画スター変遷史です。

♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪  ♪

上の挨拶は皆さんご存じのように、「チャランスパルシュ」と呼ばれる、目上の人の足(チャラン)に触れて(スパルシュ)挨拶をするとっても丁寧な形の挨拶ですね。映画を見ると、この人物が誰か謎が解けるはず。お楽しみに~。



もう1本のマラーティー語映画は、国立民族学博物館や東京外大のTUFSシネマで上映された『ファンドリー』(2013)の監督、ナーグラージ・マンジュレーの第3作です。

『Sairat(強情)』

2016年/マラーティー語/174分/英語字幕

 監督:ナーグラージ・マンジュレー
 主演:リンクー・ラージグルー、アーカーシュ・トーサル

■日時:2016年5月29日(日)午後1:00~
■会場:千葉県市川市、イオンシネマ市川妙典 アクセス
■料金:大人2,200円
■主催:Tokyo Talkies FB 予約


『ファンドリー』は秀作でしたが、本作も今年のベルリン国際映画祭で上映されたり、インドの国家映画賞(National Film Award)でも受賞したりと、すでに高く評価されています。また、4月29日に公開されたあと興行的にもめざましい数字を上げており、2週間で6億ルピー(約10億円)近く稼いでマラーティー語映画の興収記録を塗り替えました。今回の自主上映会で上映されてしまうと、日本では映画祭上映や公開に向けてネックになっててしまうのがちょっと残念ですが、『ファンドリー』を気に入られた方はぜひどうぞ。予告編を付けておきます。

Sairat Official Trailer 2016 | Ajay Atul | Nagraj Manjule | Rinku Rajguru, Akash Thosar


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