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「サタンジャワ SETAN JAWA」公演のお知らせ+α

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インドネシアのガリン・ヌグロホ監督を柱とする公演「サタンジャワ」が7月2日(火)に行われます。ちょっと珍しい、サイレント映画と立体音響パフォーマンスのコラボ公演で、どんな感じになるのか、想像がつきません。初体験イベント、いかがでしょうか。以下に、主催者からいただいたお知らせをそのままお載せしておきます。

☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆ 

響きあうアジア2019
サタンジャワ  SETAN JAWA
サイレント映画 + 立体音響コンサート A silent film with a live 3D sound concert
ガリン・ヌグロホ×森永泰弘×コムアイ
7月2日 有楽町朝日ホール 2回公演

 

■公演概要
 事業名:『サタンジャワ』 サイレント映画+立体音響コンサート
 日時:2019 年 7 月 2 日(火)14:00 開演/19:00 開演 (2 回公演、各回 30 分前開場)
    ※ポストパフォーマンストーク有
 音楽・音響デザイン:森永泰弘
 舞台出演:コムアイ(水曜日のカンパネラ)、日本・インドネシア特別編成音楽アンサンブルほか
 会場:有楽町朝日ホール
 チケット発売日:4月 13 日(土)10:00 発売
 料金:前売一般 3,000 円、当日一般 3,500 円、25 歳以下 2,000 円(当日要証明書)(税込)
 上映作品:『サタンジャワ』SETAN JAWA/2016 年/70 分/モノクロ/サイレント
 映画監督:ガリン・ヌグロホ
■クレジット
 主催:国際交流基金アジアセンター
 共催:公益財団法人ユニジャパン
 後援:駐日インドネシア大使館
 音楽・音響製作:concrete
 制作:(株)オカムラ&カンパニー
 映画『サタンジャワ』
  映画製作:Garin Nugroho Workshop, Turning World
 共同製作:AsiaTOPA - Arts Centre Melbourne, Melbourne Symphony Orchestra, Esplanade Theatres on the Bay, Singapore
■チケット取扱い
 チケットぴあ Tel. 0570-02-9999 http://t.pia.jp(P コード:148522)
 e+ (イープラス) http://eplus.jp
 Peatix(ピーティックス)https://setanjawa.peatix.com
※未就学児のお子様の同伴、入場はご遠慮ください。
※やむを得ない事情により、プログラムや出演者が一部変更になる場合がございます。
※車イス等でお越しの方は事前に Tel. 03-6804-7490(オカムラ&カンパニー)まで ご連絡ください。
■会場 有楽町朝日ホール
 〒100-0006 東京都千代田区有楽町 2-5-1 有楽町マリオン 11F Tel. 03-3284-0131
 JR 有楽町駅中央口/東京メトロ有楽町駅 D7出口/東京メトロ銀座駅(丸ノ内線・銀座線・日比谷線)C4出口 徒歩2分
■一般の問い合わせ
 オカムラ&カンパニー内 サタンジャワ事務局 Tel. 03-6804-7490 contact@setanjawa.jp
■国際交流基金アジアセンター 公式サイト

☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆ 

ガリン・ヌグロホ監督と言えば、香港国際映画祭でも1本、彼の監督作を見ました。ついでに、と言っては何ですが、ちょっとご紹介しておきます。 

『Memories of My Body(わが身体の記憶)』
2018年/インドネシア/インドネシア語/106分/原題:Kucumbu Tubuh Indahuku


冒頭、上の写真で踊っているダンサー(男性ですが、ジェンダーを超えたような不思議な雰囲気を持つ人です)が、普段着姿で家の前に出て来ます。「これが私の家、家は私の体」と語り出すと、画面は40年ほど前にさかのぼり、少年の彼を映し出します。たにしを獲って油で揚げ、それを串に刺して道端で売る、というごく普通の貧しい少年だったジュノが、最初に出会った不思議体験は「穴」。ジャワ島の舞踊レンゲルの師匠である老人から、「お前の体は舞踊に向いている」と言われ、連れて行かれた彼の家で、老人は若い嫁らしき人を使ってジュノに「穴」の意味を教えたのでした。しかし、この「穴」は悲劇を引き起こすものでもありました。そしてジュノも、2人暮らしだった父親がジュノを見捨てて出奔する、という悲劇に見舞われます。ジュノは親戚のおばさんに引き取られることになりますが、やがて彼は雌鶏の「穴」を見て卵の産み具合がわかるようになり、重宝されるのですが...。こうして、ジュノの数奇な運命が転がり始めます。


次にジュノが見せる不思議な能力は、見ただけで他人の体のサイズがわかってしまうこと。ハイティーンになったジュノは仕立て屋で働かされるのですが、この特殊能力が幸いして、次々と仕事をこなしていきます。その中に、ボクサーの結婚衣装を作る仕事があり、試着の時花嫁衣装を着てみたジュノは、やがて本格的な女性舞踊のダンサーとなっていきます。人間の身体と性を、あるダンサーの肉体を通して重層的に描いてみせた作品でした。昨年のヴェネチア映画祭で上映された作品のようですが、最初の「穴」はどこへ? という流れとか、目で採寸ができる、というのは何を象徴しているのか、とか、一筋縄ではいかない作品で、消化するのが難しかったです。


さて、ガリン・ヌグロホ監督、「サタンジャワ」では何を見せてくれるのか、楽しみです。



インド映画自主上映会:マラヤーラム語映画『Lucifer』

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Periploさんから、マラヤーラム語映画上映会のお知らせをいただきました。私も注目していて、少し前に予告編をチェックしたりした『Lucifer(ルシファー)』です。どうして私が注目したかと言うと、一つには『秘剣ウルミ バスコ・ダ・ガマに挑んだ男』(2011)などの主演男優、プリトヴィーラージ(ヒンディー語での音引きはこれなのですが、下ではPeriploさんの表記は「プリトヴィラージ」となっています。マラヤーラム語だと、こちらなのかも知れません)の初監督作品だということ。もう一つは、漫画などでお馴染みの名前「ルシファー(悪魔、堕天使などの意味が付される)」がタイトルになっていることからです。しかも、主演がプリトヴィーラージ自身に加えて、マラヤーラム語映画の大御所モーハンラールに、最近ボリウッド映画界では冷や飯喰ってるヴィヴェーク・オベロイ(正確に音引きを付けると「オーベーロイ」なんですが、「ォベロイ・ホテル」が定着しているので、いつも音引きを省略しています)、さらには、プリトヴィーラージの兄まで出演している、というので興味を抱いたのでした。怠け者の私は彩の国までなかなか行けないのですが、ご興味がおありの方はぜひどうぞ。

『Lucifer(ルシファー)』

2019/マラヤーラム語/174分/英語字幕
 監督:プリトヴィラージ・スクマーラン
 主演:モーハンラール、ヴィヴェーク・オーベローイほか
■日時:2019年4月14日(日)午後 2:00~
■会場:埼玉県川口市SKIPシティ、彩の国ビジュアルプラザ  アクセス
■料金:大人2,000円
■主催:セルロイドジャパン HP

 Lucifer film poster.jpg

Periploさんの詳しいご紹介はこちらです。お知らせの時にいただいたメールによると、”プレビューにも書きましたが、プリトヴィラージの監督デビュー作ということで大いに話題になりました。興味深いのは、この人が俳優デビューした2002年ごろに盛んに作られていた「大スターのマス映画」というのをスケールアップして再現したという点です。こうした作品群は、一定の興行収入を上げながらも、意識高い系観客からは「なぜタミルやテルグの猿真似をしなければならないのか」と悪評ぷんぷんでした。その後2010年代からニューウェーブが台頭して席巻することになるのですが、両方の時代を経験しているプリトヴィラージが敢えて逆を張るようなものを出してきて、しかもそれが大成功を収めているというのが面白いです。”のだそうです。


ここのところ南インド映画界では、政治劇にファミリー内紛がからんだ作品が目立ちますね。N.T.ラーマラーオの伝記映画がいっぱい上映されたのでそんな印象を受けるのかも知れませんが、そのあたり、脳天気に「モーディー首相、ヨイショ!」映画を作っているボリウッドとは一線を画している感じです。ところでさっき、「最近ボリウッド映画界では冷や飯喰ってるヴィヴェーク・オベロイ」と書きましたが、そのヴィヴェーク・オベロイがモーディー首相を演じる『PM Narendra Modi(ナレーンドラ・モーディー首相)』が4月11日から公開されます。この日からインド総選挙が始まるのですが、そんな時に特定政党のトップの伝記映画なんて上映してもいいのか、と思ったのがボリウッド映画界脳天気説の根拠です。さすがに公開が問題になって、最高裁に訴えが出され、当初の公開予定日よりは遅くなったようですが、その前の『Mere Pyare Prime Minister(僕の敬愛する首相様)』といい、何やってんの、ボリウッド、という感じです。

おっと、本題から逸れてしまいました。『Lucifer』の予告編を付けておきます。

Lucifer Official Trailer | Mohanlal | Prithviraj Sukumaran | Antony Perumbavoor | Murali Gopy


必見!韓国映画『神と共に』の大迫力を体感せよ!!<序章>

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以前にもこのブログで取り上げた韓国映画の二部作『神と共に』。本日その試写を見せていただいてきました。試写は何度か行われるのですが、配給のツインさんの粋な計らいで、本日とあと1回、第一章と第二章を続けて見られるよう、上映が組んである日があります。やはり一挙に見たい、と考える方が多いのか、今日の試写室は超満員。続けてご覧になった方がそのうちの7~8割、という感じでした。しかしこの作品、実はインド映画並みに上映時間が長くて、第一章が2時間20分、第二章が2時間21分という長尺ぶり。というわけで5時間近く、『神と共に』の世界にどっぷりと浸ってきたのでした。公開がまだ少し先なので、ストーリーや詳しい見どころ等はあらためて書くことにして、基本データと映画の簡単な構成を記しておきます。


『神と共に 第一章:罪と罰』

 2017年/韓国/韓国語/140分/原題:신과함께: 죄와 벌
 監督:キム・ヨンファ
 出演:ハ・ジョンウ、チャ・テヒョン、チュ・ジフン、キム・ヒャンギ、イ・ジョンジェ、ド・ギョンス(D.O.)
※5月24日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー 

『神と共に 第二章:因と縁』

 2018年/韓国/韓国語/141分/原題:신과함께:인과 연
 監督:キム・ヨンファ
 出演:ハ・ジョンウ、チュ・ジフン、キム・ヒャンギ、マ・ドンソク、キム・ドンウク、イ・ジョンジェ、ド・ギョンス(D.O.)
※6月28日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー

 配給:ツイン


物語の基本的な主人公は、冥界で働く3人の使者たち。リーダーである弁護士のカンニム(ハ・ジョンウ)、警護役であるヘウォンメク(チュ・ジフン)、そして唯一の女子である補助弁護士のドクチュン(キム・ヒャンギ)。彼らは死者を迎え入れ、49日の間に冥界を巡らせて、生まれ変わらせるのか、あるいは地獄のどこかに止めおくのか、閻魔大王(イ・ジョンジェ)を始めとする冥界の大王たちや判官たちの判断を仰ぎます。そこにやって来るのが、火事の現場で人命救助をして亡くなった消防士キム・ジャホン(チャ・テヒョン)や、その弟で、軍隊での勤務中に部下の誤発砲で亡くなったキム・スホン(キム・ドンウク)らです。第一章はまさに「地獄巡り」ですが、その間にジャホンの複雑な人生が暴かれていき、弟の死もからんできます。第二章では弟スホンの死の真相究明と平行して、現世になぜか居座るソンジュ神(マ・ドンソク)と使者たちとの不思議な交流が描かれます。

 

© 2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved

何よりもすごいのは、CGやVFXで作り上げた冥界と、現世でも発揮される冥界パワー表現の数々。こちらで紹介したように以前一度見ているのですが、2回見てもまだまだ見足りない、と思わせられてしまいます。さらに今回気がついたのは、それにかぶさる音楽もド迫力なこと。見終わるとどっと疲れます。1カ月ずれて公開されることから、2本一気見なさる方はないかと思いますが、これは1本ずつ見た方がかしこいようです。まずは5月24日(金)の『神と共に 第一章:罪と罰』の公開を、楽しみにしてお待ち下さいね。

 

スペース・アーナンディ/インド映画連続講座「地理を読む!」追加開催

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いつもスペース・アーナンディの「インド映画連続講座」にお運び下さり、ありがとうございます。今週末は「インド映画を読む!<第2回>カーストと宗教を読む!」の3回目を開催するのですが、それに続いて4月20日(土)に1回目を開催する「インド映画を読む!<第3回>地理を読む!」が、1回目、2回目とも満員となりました。そのため、急遽3回目を開催することに致しました。

 

スペース・アーナンディ/インド映画連続講座第Ⅲ期
「インド映画を読む!」
<第3回>地理を読む!~北インド・南インド・東インド~

 スペース・アーナンディでは、毎年1つのテーマで行う「インド映画連続講座」を開催中ですが、第Ⅲ期は「インド映画を読む!」と題して、インド映画を深く読み込むための様々なトピックスを取り上げることにしました。
 好評だった<第1回>の「ジェスチャーを読む!」と<第2回>「カーストと宗教を読む!」に続き、<第3回>では「地理を読む!」と題して、インドを大ざっぱに3つに分け、それぞれの土地が映画の中にどう描かれているかを見ていきます。今回参照する作品は、北インド&東インドが登場するシャー・ルク・カーン主演作『ラジュー出世する』(1992)と『ディル・セ 心から』(1998)、さらに、コルカタを描く『女神は二度微笑む』(2012)などですが、『ディル・セ』にはケーララ州も登場。南インドはラジニカーントとヴィクラム主演作、さらには『世界はリズムで満ちている』(2018)等々から、日本人がインドの地理を認識する手がかりを探っていきます。その他、できれば「『バーフバリ』の地理」についても見てみたいのですが、これは当日のお楽しみ、ということで。
 なお、メインの講座と抱き合わせで開催してきた「映画で学ぶヒンディー語塾」では、実際に映画で使われた会話を学びます。ほんの1、2分の会話なのですが、今回もシャー・ルク・カーン作品からの一節ですので、シャー・ルクになった気分でしゃべってみて下さい。ヒンディー語が初めての方でも大丈夫、カタカナ書きが付いているので、その通り読めば意味が通じてしまいます。30分間の濃密なヒンディー語学習体験をどうぞ。

 日時:2019年 4月20日(土) 15:00~17:30 ⇒ 満員、キャンセル待ち
        5月18日(土) 15:00~17:30 ⇒ 満員、キャンセル待ち
        5月25日(土) 15:00~17:30 予約受付中
 場所:スペース・アーナンディ
    (東急田園都市線高津駅<渋谷から各停で18分>下車1分)
 定員:20名
 講座料:¥2,500(含む資料&テキスト代)
 講師:松岡 環(まつおか たまき)
ご予約は、スペース・アーナンディのHP「受講申し込み」からどうぞ。ご予約下さった方には、ご予約確認と共に、スペース・アーナンディの地図をメール送付致します。床におザブトンをひいて座っていただく形になりますので、楽な服装でお越し下さい(申し訳ないのですが、スペースの関係上イス席はご用意できません。悪しからずご了承下さい)。
皆様とお目にかかれるのを楽しみにしております。(松岡 環)

[講師紹介]
1949年兵庫県生まれ。麗澤大学、国士舘大学非常勤講師。大阪外大(現大阪大)でヒンディー語を学び、1976年からインド映画の紹介と研究を開始。1980年代にインド映画祭を何度か開催したほか、様々なインド映画の上映に協力している。『ムトゥ踊るマハラジャ』『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』『きっと、うまくいく』『パッドマン 5億人の女性を救った男』など、インド映画の字幕も多数担当。著書に、「アジア・映画の都/香港~インド・ムービーロード」(めこん/1997)、「インド映画完全ガイド」(世界文化社/2015/監修)など。

Jiya Jale (HD) Full Video Song | Dil Se | Shahrukh Khan, Preeti Zinta | Lata Mangeshkar

『ディル・セ 心から』に登場するケーララ州

なお、今月と来月はインド土産月間として、先日のインド旅行で買ってきたインド映画ポスターを、毎回抽選で(というか、ジャンケンで^^)2名の方にプレゼント致します。ご参加の皆様はお楽しみに。


インド映画公開作追加!『あなたの名前を呼べたなら』

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インド映画『あなたの名前を呼べたなら』の試写状をいただきました。昨年のカンヌ国際映画祭で注目を浴びた作品で、原題は『Sir』。詳しくはまたのちほど画像をいただいてからご紹介しますが、まずは試写状にあった基本データとストーリーを書いておきましょう。

『あなたの名前を呼べたなら』
 2018年/インド、フランス/ヒンディー語、英語、マラーティー語(試写状は「ラマーティー語」と誤記されていますが、正しくはこちらですので、ライターの皆様ご訂正下さい)/99分/原題:Sir
 監督:ロヘナ・ゲラ
 出演:ティロートマ・ショーム、ヴィヴェーク・ゴーンバル、ギーターンジャリ・クルカルニー
 提供:ニューセレクト
 配給:アルバトロス・フィルム
※8月2日(金) Bunkamuraル・シネマ他全国順次公開

経済発展著しいインドのムンバイ。農村出身のメイド、ラトナの夢はファッションデザイナーだ。夫を亡くした彼女が住み込みで働くのは、建設会社の御曹司アシュヴィンの新婚家庭・・・・のはずだったが、結婚直前に婚約者の浮気が発覚し破談に。広すぎる高級マンションで暮らす傷心のアシュヴィンを気遣いながら、ラトナは身の回りの世話をしていた。ある日、彼女がアシュヴィンにあるお願いをしたことから、2人の距離が縮まっていくが....。

Sir Official International Trailer | Rohena Gera (2018) (Eng Subs)

日本版予告篇のアップはまだなので、インターナショナル版の予告篇を付けておきましたが、これをご覧になれば邦題の意味もおわかりになるはず。

ヒロインのラトナを演じているのは、ミーラー・ナーイル監督作『モンスーン・ウェディング』(2001)のアリス役でデビューしたティロートマ・ショーム。アジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映された『シャンハイ』(2012)でも、暴漢に襲われた政治指導者の妻役で出演していましたが、何と言っても印象に残るのは、ウェディング・プランナー役のヴィジャイ・ラーズと”マリーゴールド婚”をしたアリスの役です。以後、主としてアート系作品に出演しており、演技力には定評があります。


アシュヴィン役を演じるのは、ヴィヴェーク・ゴーンバル。上の写真は、2017年夏『裁き』(2014)が公開された時にいろいろやり取りをし、その中でヴィヴェークが送ってきてくれた写真です。『裁き』では人権派弁護士役でしたが、体重を数キロ増やして髭も生やし、育ちはいいけどダサい印象をふりまいていましたね。今回の『あなたの名前を呼べたなら』でもやはりお金持ちの坊ちゃん役ですが、インド人には珍しい物静かな青年役。娯楽映画の俳優たちとはひと味違う、落ち着いた魅力を発揮しています。

他には、『裁き』の女性検事役や『ガンジスに還る』(2016)で一家の嫁役を演じたギーターンジャリ・クルカルニーも出演、見応えのある作品に仕上がっています。少し先の夏休みの公開ですが、どうぞお楽しみに。


週一『SANJU/サンジュ』<1>ラージクマール・ヒラニ監督とサンジャイ・ダット

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ラージクマール・ヒラニ監督最新作『SANJU/サンジュ』が6月15日(土)から公開されます。作品情報等は以前こちらでお伝えした通りですが、ちょっと残念なのは、『SANJU/サンジュ』はマスコミ試写が行われないことで、第一報がネットの映画サイトなどに一斉に出たものの、その後の露出が極端に少なくなりそうです。特に新聞、雑誌等の紙媒体にはほとんど取り上げられないまま初日を迎えるのでは、と思われ、こんないい作品なのに本当にもったいない限りです。そこでせめてこのブログだけでも、しつこく取り上げて皆様の注意を喚起しようと思い、本日から毎週1回、『SANJU/サンジュ』の紹介にページを割くことにしました。まず本日は第1回、「ラージクマール・ヒラニ監督とサンジャイ・ダット」です。


日本で大ヒットした『きっと、うまくいく』(2009)の前に、ヒラニ監督は2本の作品を撮っています。2003年のデビュー作は『Munna Bhai M.B.B.S.(医学生ムンナー・バーイー)』、そして2006年に撮ったのが『Lage Raho Munna Bhai(その調子で、ムンナー・バーイー)』でした。タイトルからもわかるように、Munna Bhai(ムンナー・バーイー/ムンナー兄貴)を主人公にした正・続編です。ムンバイの下町を仕切るヤクザのムンナー(サンジャイ・ダット)と、その片腕サーキット(アルシャド・ワールシー)が活躍する物語で、「バーイー」というのは「兄」という意味ですが、ここでは特にヤクザの兄貴分や親分を呼ぶ時に付ける敬称として使われています。

『医学生ムンナー・バーイー』では、恐いものなしのムンナー・バーイーが唯一怖がるのが田舎にいる父親(スニール・ダット/サンジャイ・ダットの実際の父親が演じています)。その父親がムンバイに出てくるというのでさあ大変、実はムンナー・バーイーは父親に、「医者になるために医大で勉強している」と偽っていたのです。あわててニセ学生として医学部に潜り込むムンナー・バーイーでしたが、中に入ってみると、医学部や大学病院の矛盾がいろいろと見えてきます。父の旧友の医師(ボーマン・イーラーニー)と対立したりしながら、ムンナー・バーイーは医学部の改革に乗り出しますが...、というのがストーリー。『その調子で、ムンナー・バーイー』の方は、ムンナー・バーイーに憧れの女性DJ(ヴィディヤー・バーラン)ができ、彼女が祖父やその友人たちと暮らす建物を手に入れようとする金持ち(ボーマン・イーラーニー)と闘うことになりますが、祖父たちとマハートマー・ガーンディーについて語るためガーンディーについて調べたムンナー・バーイーは、なぜかガーンディーが実際に眼前に見えるようになってしまいます....という、寓意あふれる物語です。『その調子で、ムンナー・バーイー』の方は、脚本本も出版されています。


この2作により、ヒラニ監督はサンジャイ・ダットという人物に強く惹かれたようで、その後『PKピーケイ』(2014)でもサンジャイ・ダットを起用し、主人公である宇宙人PK(アーミル・カーン)が「兄貴」と慕う村人を演じさせました。そして続いて、今回の『SANJU/サンジュ』が世に出たわけですから、ヒラニ監督は「サンジャイ・ダットという生き方」によほど魅力を見出したようです。

1990年代のサンジャイ・ダット(Photo © R. T. Chawla)

サンジャイ・ダットに関する詳しい紹介は次回に譲るとして、この伝記映画は「意思が弱かったが、自分に正直に生きた人間サンジャイ・ダットと、彼を支えた人々の物語」と言うことができます。キャスティングも実に巧みで、サンジャイ・ダットには、『PKピーケイ』の最後でPKと共に地球にやってきた青年を演じたランビール・カプールが起用されました。最初に付けたポスターのように、『Rocky(ロッキー)』(1981)でデビューした20代の頃から、50代になった今日までのサンジャイ・ダットを、見事なメークと演技力で見せてくれます。ランビール・カプールの出演作は、『バルフィ!人生に唄えば』(2012)と『若さは向こう見ず』(2013)、そして『PKピーケイ』が日本で公開されていますが、『SANJU/サンジュ』はこれまでのイメージを一新してくれることでしょう。

©Copyright RH Films LLP, 2018

ご存じの方も多いと思いますが、ランビール・カプールの祖父で監督、俳優、プロデューサーだったラージ・カプールは、サンジャイ・ダットの母ナルギスを自分の作品のミューズとしていた時期があり、多くの作品で共演すると共に、私生活でも深い関係にあったのでした。そんな因縁のナルギスを、そっくりさんメイクでマニーシャー・コイララ(上写真前列の真ん中)が演じています。また、ラージ・カプールと別れたナルギスの心を射止めたスニール・ダット役は、名脇役パレーシュ・ラーワル(同後列真ん中)によって演じられており、こちらもギロッとした目、悠揚迫らぬ歩き方など、よく似ています。スニール・ダットが『Rocky』などの監督をしていたことは知っていたのですが、映画の中ではセンスのいい監督として描かれていて、認識を改めました。前列のナルギスの両側に座っているのは、サンジュの2人の妹です。

ほかに、以前にも書いたように親友カムレーシュにはヴィッキー・カウシャル(上写真後列左端)が扮していますが、一方悪友というかサンジュにクスリを教えるズービン・ミストリー(パールシー教徒の名前ですね)役にはジム・サルブが起用されています。ジム・サルブ、『パドマーワト 女神誕生』(2018)にも出演していますし、以前映画祭上映された『ニールジャー』(2016)のハイジャック犯テロリスト役でデビューして以来、日本での紹介率の高い俳優となっています。

©Copyright RH Films LLP, 2018

他の出演女優は、サンジュの妻マニャター・ダットにディヤー・ミルザー、サンジュに伝記本の執筆を頼まれるライター、ウィニー・ディアス役にアヌシュカー・シャルマーが顔を見せています。アヌシュカー・シャルマーは『PKピーケイ』でお馴染みですが、今回は上写真のようなカーリーヘアのセミロングで、ぐっとフェミニンな感じのファッションで出てきます。導入部のガイド役となるのが彼女なのですが、サンジュとのやり取りは面白く、ラスト近くでも再び登場して素晴らしい場面を演出するという、とってもいい役です。ファンの方はお楽しみに。また、もう1人、重要な登場人物がいるのですが、ソーナム・カプールが扮する彼女の紹介は後日詳しくすることにしましょう。

ほぼすべての登場人物が実在の人物で、かつほとんどが存命ということから、作りにくかったのではと思われる『SANJU/サンジュ』ですが、ヒラニ監督の演出の冴えはそんなことをまったく感じさせません。ボリウッドの内幕もちょっぴり覗かせてくれるものの、それ以上に人間の真実を見る者に突きつけてくれて、ハッとさせられます。あと2カ月、公開をどうぞお楽しみに。

 

『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』がステキすぎる!

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『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』、インド、フランス、ベルギーの国際共同製作によるダヌシュ(日本公開に当たっては「ダヌーシュ」という表記が当てられてしまいましたが、音引きを入れるのは間違いなので、このブログでは「ダヌシュ」で表記させていただきます)主演作です。しかし、タイトルが長い! 長すぎる! 変換しようとしたら、「修飾語が多い」という警告が出ました。でも、仕方がないんですね。この作品には原作があり、それがこういう長ったらしいタイトルなのです。ちょっと並べて書いてみましょう。

原作本原題:The Extraordinary Journey of the Fakir Who Got Trapped in an Ikea Wardrobe
原作本邦題:IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅
映画原題:The Extraordinary Journey of the Fakir
映画邦題:クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅

原作の翻訳本については、小学館文庫(吉田恒雄訳)をただ今注文&お取り寄せ中なのですが、「ファキール」がわかりにくいと考えられたのか、「サドゥー」になっていますね。「神父」を「お坊さん」と訳すような力業ですが、「ファキール」には「イスラーム教の修行者、托鉢僧、物乞い、一文無しの人」というような意味があります。一方「サドゥー(サードゥー)」は、もっぱらヒンドゥー教徒やジャイナ教徒の修行者に使う言葉です。と、ついインド関係者はそういうところにこだわってしまうのですが、ここでこだわらないといけないのは実は「IKEA」。そう、ご承知のように北欧スウェーデン発の大規模家具店です。「IKEA」が小説では実名で登場するようなのですが、それだと映画は「冠スポンサー映画」になってしまうので、映画の原題は原作本タイトルの関係代名詞「who」以下がごっそり削られています。ですが邦題は、原作本の邦題も一部生かして、『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』と長めのタイトルになったようです。チラシを見ると、「ツイッターclotabi_movie #クロ旅」とあるので、ここでは省略形の『クロ旅』を使わせていただきましょう。まずは、『クロ旅』の基本データをどうぞ。

 

『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』 公式サイト

2018年/フランス、ベルギー、インド/96分/英語/原題:The Extraordinary Journey of the Fakir
 監督:ケン・スコット
 原作:ロマン・プエルトラス「IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅」(小学館文庫/吉田恒雄訳)
 出演:ダヌシュ、ベレニス・ベジョ、エリン・モリアーティ、バーカッド・アブディ、ジェラール・ジュニョ
 配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
※6月7日(金)より全国公開

 ©2018 Copyright BRIO FILMS-SCOPE PICTURES-LITTLR RED CAR-TF1 AUDIOVISUELS-SONY PICTURES ENTERTAINMENT FRANCE All rights reserved. Brio Films ©Sébastien

アジャことアジャンターシャーストルー(ダヌシュ)は、ムンバイの下町で暮らす青年。ある時彼は警察署に呼ばれ、3人の不良少年を前に自分の過去の冒険を語ることになります。生い立ちから語り始めたアジャの物語は、とんでもなく奇想天外なものでした。アジャはシングル・マザー家庭で育ちましたが、母親はムンバイの洗濯場で一生懸命働いて、スラム街の中にある学校にも行かせてくれました。アジャは賢い男の子に育ち、手品も憶えます。アジャの関心事は「自分の父親は誰か」ということで、しょっちゅう母親に「あの人が僕の父さん?」と聞いては困らせていました。アジャのもう一つの関心事は、お医者さんの待合室で見つけたきれいな雑誌。それは家具を紹介するカタログで、アジャは夢中になって家具のシリーズのネーミングを憶えました。こうして賢い青年に成長したアジャでしたが、母親が急死し、残されていた父親の手紙と偽の500ユーロ札を手にアジャは、父親を探しにパリに飛ぶことを決意します。飼っていた牝牛モヒニ(モーヒニー)に別れを告げ、アジャは一路パリへ。

 ©2018 Copyright BRIO FILMS-SCOPE PICTURES-LITTLR RED CAR-TF1 AUDIOVISUELS-SONY PICTURES ENTERTAINMENT FRANCE All rights reserved. Brio Films ©Sébastien

パリに着いたアジャは、親切そうな、でもその実外国人をカモにするタクシー運転手(ギュスターヴ)に頼んで、あこがれの家具店に連れて行ってもらいます。カタログで見た素敵な家具に次々と出会い、大興奮のアジャをさらにハイにしたのは、かわいいアメリカ人女性マリー(エリン・モリアーティ)との出会いでした。アジャの空想ごっこにも付き合ってくれるマリーに、一目で恋してしまったのです。アジャは次の日のエッフェル塔での再会を約束し、その夜はこっそりIKEAのクローゼットにもぐりこんで、家具店お泊まりを決め込みます。ところが真夜中、そのクローゼットが運び出され、ロンドンへの納品のためにトラックに積まれてしまったからさあ大変! 道中で目を覚まし、そのトラックに不法移民でロンドンをめざすウィラージ(バーカッド・アブディ)らも乗っていることを発見したアジャは、検問所を前にして彼らと逃げることになり、さらなる冒険へと巻き込まれて行くのでした...。

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これまでに見たことのないダヌシュが登場します。ドタバタしたり、騒いだりするのはいつものダヌシュらしいのですが、何だかスッキリしていて、とってもさわやか。特に、警察署で3人の少年たちに自身の体験を語るシーンは、惚れ惚れとしてしまうぐらいステキです。監督の演出の違いでしょうか。クラブで踊るシーンなどでは、あ、ダヌシュだ、と思ってしまうものの、それ以外のシーンでは初めて見るダヌシュの姿に1分毎に惚れ直す、という感じでした。ストーリー自体も、荒唐無稽でありながら、欧州の難民問題を上手に織り込んでいたり、インドの貧困もさらりと見せたりと、押しつけがましいところがまったくないのに、じんわりとこちらの胸に響いてくる作りになっています。ケン・スコット監督は、インド映画と言えばミュージカル、という点もちゃんと意識していて、前述のいかにもインド映画らしいクラブでの群舞シーンのほか、アジャを捕まえた警官が踊り出すシーンなども用意しています。サービス精神旺盛ですね。

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アジャの冒険は、パリ⇒ロンドン⇒スペイン⇒ローマ⇒リビア....と転がっていき、ローマでは女優ネリー(ベレニス・ベジョ)とのデート場面も登場します。最後のリビアでは思わぬ再会とクライマックスが待っていて、奇想天外の極めつけが見られます。そしてラストは....と、上映時間は96分なのに、2時間半のインド映画を見たぐらいの充足感があった『クロ旅』でした。インド・ロケのパートも、「それはナイナイ」がちょっとあるものの(スラムの小学生の制服が立派すぎ。だのに、路地の地べたに座って授業だなんて...)、子役を始めとする出演者(+出演牝牛)のしっかりした演技で欧州パートに劣らない見応えとなっています。特にアジャの子供時代を演じたハーティー・シン君、君の将来が楽しみです。ぜひ劇場で、このステキすぎる『クロ旅』をたっぷりとお楽しみ下さい。下に予告編を付けておきます。そうそう、IKEAのカタログで各シリーズを予習していけば、もっと楽しいかも知れませんので念のため。

『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』予告編



5月と6月は『神と共に』<その1>『第一章:罪と罰』

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間もなく4月も終わりですね。ということは、元号で言うと「平成」が終わるわけですが、新たに「令和」(さすがに古いパソコン、変換がイッパツではできません)となる時にふさわしい、大作が韓国からやってきます。以前にもちょこっとご紹介した、『神と共に-ALONG WITH THE GODS-』二部作です。『神と共に 第一章:罪と罰』が5月24日(金)に「転生ロードショー」と銘打って公開、そして『神と共に 第二章:因と縁』が6月28日(金)にこちらは「輪廻ロードショー」と銘打って公開されます。勝手な解釈なのですが、「令和」という字を見た時、真っ先に浮かんだのはこの映画でした。公式見解とは違うのですが、字から受けるイメージ「令(命令、規則)に拠り和す」が、まさしくこの映画そのものだったからです。それが当たっているか否かはご覧になって判断していただくとして、まずは『第一章:罪と罰』をご紹介しましょう。

『神と共に 第一章:罪と罰』 公式サイト
 2017年/韓国/韓国語/140分/原題:신과함께: 죄와 벌
 監督:キム・ヨンファ
 出演:ハ・ジョンウ、チャ・テヒョン、チュ・ジフン、キム・ヒャンギ、イ・ジョンジェ、ド・ギョンス(D.O.)
 配給:ツイン
※5月24日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー


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物語の始まりは、ある高層住宅の火災現場。燃え広がった炎の中から、消防士キム・ジャホン(チャ・テヒョン)は女の子を助け出すのですが、はしご車が届かず女の子を抱えたまま地上に落下してしまいます。女の子が無事だと知って安心したジャホンは、「よかったね。何て言う名前なの?」と尋ねますが、女の子はジャホンの声が聞こえないかのように無視して、心配して待っていた母親に抱きつきます。何か違和感を感じたジャホンが見回すと、何と地面に自分が横たわっており、同僚の消防士たちが必死で救命措置を施していました。そのジャホンの前に現れたのは、若い男(チュ・ジフン)とハイティーンの女の子(キム・ヒャンギ)。彼らは冥界から来た「使者」と名乗り、ジャホンを冥界に連れて行くために来たと言います。名前はヘウォンメクとドクチュン。使者はもう1人いるのですが、その使者カンニム(ハ・ジョンウ)は葬儀の場所でご馳走を味見中。こうして3人の使者に伴われ、ジャホンは冥界の門から中に入っていきます。

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冥界には7つの地獄があって、それぞれに閻魔大王(イ・ジョンジェ)ら7人の裁判長がおり、死者を吟味して、転生させるに値する人間かどうかを見定めます。検察官役の判官(オ・ダルス、イム・ウォニ)が罪状を述べるのに対し、使者のリーダーであるカンニムは弁護を担当し、ドクチュンはその助手、そしてヘウォンメクは警護役でした。ジャホンの認識カードには「貴人」と書いてあり、これは問題なく転生できる死者だと思われたのですが、地獄を次々と巡っていくとジャホンの思わぬ過去が暴かれていき、3人の使者は焦ります。というのも、彼らは過去1,000年の間に47人を転生させた実績を誇っており、49人を転生させれば彼ら自身も人間に生まれ変わることが約束されていたからでした。その大事な48人目のジャホンなのに、どうやら兵役についている彼の弟スホン(キム・ドンウク)と後輩兵士ドンヨン(ド・ギョンス(D.O.))との間で何かがあったらしく、それが悪影響を与えているようです。冥界と下界を行ったり来たりしながら、3人の使者は奮闘しますが....。

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人間が死んだ後、霊魂が49日間留まる中天という場所がある、という考えに基づくチョン・ウソン、キム・テヒ主演作『レストレス 中天』(2006)を見た時、「四十九日」という仏教思想を映像化するとは韓国映画はすごいなあ、と思った憶えがあるのですが、本作もまた、その思想に基づいています。わが家は浄土真宗なのであまり馴染みがなかったのですが、今回いろいろ調べてみると、こちらのサイトに「四十九日は仏教用語のひとつで、死後49日目のことをいいます。宗派によって若干違いはありますが、この49日の間に、極楽浄土に行けるかどうかの『お裁き』が行われるといわれています。この『お裁き』は一度ではなく、7日ごとに7回あります」とあり、なるほど、それを描いたのが『神と共に』なのか、と納得しました。続けてこのサイトでは、「遺族は7日ごとの追善法要のときに中陰壇の前に座り、故人が極楽浄土に行かれるように供養します。(中略)浄土真宗は『臨終と同時に極楽浄土に往生する』、つまり、臨終と同時に成仏するという教えのため、四十九日は供養ではなく、故人を偲び、仏教に親しむ期間とされています」と書いてあり、浄土真宗ではそういうお説教を聞いたことがなかったわけがわかりました。

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本作では、まさしくその7回の裁きが描かれ、上写真の閻魔大王(イ・ジョンジェがこの姿や髪を束ねない長髪姿で登場して、深くてよく響く声で裁定を申し渡します)が最終的な言い渡しをするのですが、それぞれの裁きが「ウソ」「裏切り」「怠惰」等の地獄と結びつけられていて、そのヴィジュアル化に感心してしまいます。中には意外な俳優が大王として登場する地獄もあり、よくぞ考えたものよ、と脱帽ものでした。本作のキム・ヨンファ監督は、前作こそCGでゴリラを生み出し、野球選手として大活躍させた『ミスターGO!』(2013)でしたが、その前は『国家代表!?』(2009)、『カンナさん、大成功です!』(2006)、『オー!ブラザーズ』(2004)という現代劇の秀作コメディを作っている人だけに、こんな壮大なファンタジーが撮れる監督とは思いませんでした。いつものように、脚本もキム・ヨンファ監督自身が書いています。

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途中、ちょっと詭弁に思われるシーンや、後味のあまりよくないシーンもあるのですが、考えているうちに次のトンデモなシーンが登場して、あれよあれよという間に地獄巡りが進行していきます。それと、使者3人のそれぞれの演技が素晴らしい上、アンサンブルが見事と言っていいほどよくて、ハ・ジョンウ、チュ・ジフン、そしてキム・ヒャンギを見ているだけで大いなる充足感が得られるため、少々の齟齬はどうでもよくなります。中でもチュ・ジフンの、ちょっといいかげんで軽めのキャラなのに、熱いものがほとばしるような一途さは、ものすごく魅力的。なぜこの「ヘウォンメク(本作が大ヒットした香港では”解怨脈”という字が当ててありました)」が「熱い」のかは、『第二章:因と縁』を見ると説明がつくのですが、それなら「いいかげんで軽い」ところは冥界に来てから習得したのか、とか、すっかりこの映画世界にハマり込んで見てしまいました。

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ご覧になる方はきっと、一度見ただけでは満足できないと思います。チャ・テヒョン演じるジャホンの物語だけにフォーカスしてまず1回、3人の使者に密着して2回目、そして地獄の描写とその合間に現れるものに目をこらして3回目...と、たっぷり3回は楽しめる『神と共に 第一章:罪と罰』。『神と共に 第二章:因と縁』を見る日のためにも、ぜひ複数回ご覧になっておいて下さい。『第一章』の予告編を付けておきます。

 映画『神と共に 第一章:罪と罰』予告編

 


週一『SANJU/サンジュ』<2>サンジュ=サンジャイ・ダットって誰?

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6月15日(土)から公開されるインド映画『SANJU/サンジュ』。タイトルとなっている「サンジュ」は、主人公であるサンジャイ・ダットの愛称です。インドでは語尾を少し長くして「サンジュー」という発音になります。このサンジャイ・ダット、インドではよく知られている大スターの1人なのですが、日本では公開作品が少なくて、あまり馴染みがないと思います。というわけで、今回は「サンジャイ・ダットって誰?」というご質問にお答えすることにしましょう。

Dutt posing for the camera in a black T-shirt, also carrying a strap bag

最近のサンジャイ・ダットの顔をWikiからコピペしましたが、何だかコワもてですね。腕には入れ墨があるし.....。昔の顔はこんな顔、という写真も付けておきます。1990年ごろに出回っていた、ポストカードのブロマイドです。では、サンジャイ・ダットの経歴を、少し長くなりますが紹介したいと思います。

 

サンジャイ・ダット(Sanjay Dutt)
1959年7月29日ムンバイ生まれ。父は俳優、監督で、のちに国会議員になるスニール・ダット。母は当時のトップ女優だったナルギス。
スニール・ダットとナルギスは1958年に結婚しましたが、それ以前、ナルギスは当時のトップ男優で監督、プロデューサーでもあるラージ・カプールと深い関係にあったと言われています。『放浪者』(1951)や『詐欺師』(1955)に代表されるように、ラージ・カプールとナルギスはゴールデン・カップルでした。ナルギスは当初、妻子のあるラージが離婚し、自分と結婚してくれると思っていたようですが、ラージ・カプールはその道を選択せず、2人は別れることに。その頃、『Mother India(インドの母)』(1957)でナルギスと共演したスニール・ダットが求婚し、2人は結婚することになったのです。結婚後の2人は仲むつまじく、長男のサンジャイのほか、プリヤー、ナムルターの2人の娘も生まれました。
サンジャイはスターの子としてちやほやされて育ったことから、父は将来を心配し、幼い時から寄宿学校に入れて教育を受けさせます。そしてカレッジまで進むのですが、サンジャイはまったく勉強には興味を持てずにいました。それどころかクスリを覚え、いっぱしの不良になっていたのです。
カレッジを中退したサンジャイは、父の指示で俳優の訓練を受け、やがて1981年に父の監督作品『ロッキー』でデビューします。その当時、父と同じ時代に人気スターだったラージェーンドル・クマールの息子クマール・ゴゥラヴや、少し遅れてダルメーンドルの息子サニー・デオルもデビューし、二世スターブームが起きていました。

©Copyright RH Films LLP, 2018

『ロッキー』の公開直前に母ナルギスをガンで亡くす不幸に見舞われながらも、サンジャイはその後順調にキャリアを重ねていきます。名女優ヌータンの息子役を演じた『Naam(名前)』(1986)の演技は高く評価されましたが、その一方で多くの女優とのゴシップも書き立てられました。
そんな女性関係を整理するかのように、サンジャイは女優のリチャー・シャルマーと1987年に結婚します。ですがその後も、『サージャン 愛しい人(Saajan)』(1991)で共演したマードゥリー・ディークシトとの関係が噂され、2人の共演作でサンジャイの主演映画としては一番のヒット作となる『Khal Nayak(悪役)』(1993)が製作される頃には、すっかり「サンジャイ・ダット=悪者」のイメージができていたのです。
そして、そのイメージがさらに強固になったのが、1993年3月に起きたムンバイ(当時はボンベイ)での一連の爆破事件の時でした。1992年12月のバーブリー・モスク破壊に端を発したヒンドゥー教徒とイスラーム教徒の衝突の中で起きた事件で、この時サンジャイは、「家族を守るため」と称して自宅に武器を隠し持つことにしたのです。
これが発覚し、1993年4月に武器不法所持で逮捕されたサンジャイは、武器の入手先が爆破事件の黒幕と言われるボンベイ・マフィアのダウード・イブラヒムと繋がる人物とされたことから、テロおよび破壊活動防止法違反でも告発されます。この時から、長く続く司法との戦いが始まったのです。最初の逮捕後、保釈と収監を繰り返し、テロおよび破壊活動防止法違反はえん罪だとして疑いを晴らそうとします。プネーのヤルワダー(イェールワラー)刑務所を何度か出入りし、最終的には武器不法所持のみでの5年の刑期を全うして、釈放されたのが2016年の2月25日でした。
その間、最初の妻リチャー・シャルマーが1996年に脳腫瘍で死去。次に1998年に結婚したリア・ピッライとは、父スニール・ダットが急死する2005年にはすでに関係が破綻し、2008年に離婚が成立します。それを待って現在の妻マニャターと結婚、2010年には男女の双子も生まれ、現在は幸せなスター&家庭人として暮らしている、というわけなのでした。

 

©Copyright RH Films LLP, 2018 

映画『SANJU/サンジュ』では、周辺の登場人物には脚色がかなり加えられていますが、サンジャイら家族と彼らの行動はほぼ事実に基づいているようです。宣伝文句にあるように「まさに”映画より奇なり”の、ジェット・コースター人生だった」わけで、それが159分にぎっちり凝縮されています。ぜひ、この破天荒なスターの人生を辿ってみて下さい。
サンジャイ・ダットの出演作は150本以上ありますが、その中で、日本で公開・映画祭上映・テレビ放映・ソフト化された作品、日本では紹介されていないながら重要な作品のリストを下に付けておきます。予習ご希望の方は、DVDを見てみて下さいね。なお、サンジャイ・ダットについてもっと知りたい方は、下記の本が出ていますのでご参考までに。出版社はJuggernaut Books, New Delhiで、出版年は2018年です。

 

日本での公開・上映・放映・ソフト化作品(邦題が先に書いてあるもの)と、彼にとって重要な作品(原題が先に書いてあるもの)
1981『Rocky(ロッキー)』
   監督:スニール・ダット
   共演:ティナ・ムニーム
   ※大人の俳優としてのデビュー作
1986『Naam(名前)』
   監督:マヘーシュ・バット
   共演:クマール・ゴゥラヴ、ヌータン、プーナム・ディッローン、アムリター・シン
1991『サージャン 愛しい人(Saajan)』~テレビ放映(NHK)
   監督:ローレンス・デスーザ
   共演:サルマーン・カーン、マードゥリー・ディークシト
1993『Khal Nayak(悪役)』
   監督:スバーシュ・ガイー
   共演:ジャッキー・シュロフ、マードゥリー・ディークシト
1999『Vaastav: The Reality(真実)』
   監督:マヘーシュ・マーンジュレーカル
   共演:ナムルター・シロードカル
2000『アルターフ~復讐の名のもとに~(Mission Kashmir)』~DVD発売
   監督:ヴィドゥ・ヴィノード・チョープラー
   共演:リティク・ローシャン、プリーティ・ジンター
2002『トゲ(Kaante)』~映画祭上映(第16回東京国際映画祭2003)
   監督:サンジャイ・グプター
   共演:アミターブ・バッチャン、スニール・シェーッティー、マヘーシュ・マーンジュレーカル、クマール・ゴゥラヴ、ラッキー・アリー
2003『レッドマウンテン(LOC: Kargil)』~DVD発売
   監督:J.P.ダッター
   共演:アジャイ・デーウガン、サイフ・アリー・カーン、スニール・シェーッティー
2003『Munna Bhai M.B.B.S. (医学生ムンナー・バーイー)』
   監督:ラージクマール・ヒラーニー
   共演:アルシャド・ワールシー、スニール・ダット
2006『Lage Raho Munna Bhai(その調子で、ムンナー・バーイー)』
   監督:ラージクマール・ヒラーニー
   共演:ディヴィヤー・バーラン、アルシャド・ワールシー
2007『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』
   監督:ファラー・カーン
   主演:シャー・ルク・カーン、ディーピカー・パードゥコーン
   ※ソング&ダンス・シーンにカメオ出演
2009『アラジン 不思議なランプと魔人リングマスター(Aladin)』~DVD発売
   監督:スジョイ・ゴーシュ
   共演:リテーシュ・デーシュムク、アミターブ・バッチャン、ジャクリーン・フェルナンデス
2011『ラ・ワン(Ra.One)』
   監督:アヌバウ・シンハー
   主演:シャー・ルク・カーン、カリーナー・カプール
   ※冒頭の夢のシーンにプリヤンカー・チョープラーと共にゲスト出演
2012『火の道(Agneepath)』~映画祭上映(第25回東京国際映画祭2012)
   監督:カラン・マルホートラー
   共演:リティク・ローシャン、プリヤンカー・チョープラー
2014『PKピーケイ(PK)』
   監督:ラージクマール・ヒラーニー
   共演:アーミル・カーン、アヌシュカー・シャルマー
2018『SANJU/サンジュ(Sanju)』
   監督:ラージクマール・ヒラーニー
   共演:ランビール・カプール、ヴィッキー・カウシャル
   ※自身の伝記映画で、エンドロールのソング&ダンスシーン↓にゲスト出演

Baba Bolta Hain Bas Ho Gaya Full Video Song | SANJU | Ranbir Kapoor | Rajkumar Hirani | Papon


東京と大阪でナンディタ・ダース監督作『マントー』を上映

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TUFS Cinemaの萬宮健策先生から、ご案内をいただきました。標記の作品『マントー(原題:Manto)』(2018)の上映と、監督ナンディタ・ダースによるワークショップのご案内です。ナワーズッディーン・シッディーキー(『女神は二度微笑む』や『バジュランギおじさんと、小さな迷子』で名脇役ぶりを見せた男優)が主演した『マントー』は、著名な作家サアーダト・ハサン・マントーを主人公にしたもので、マントーの作品は下のご案内にもあるように日本語訳も何冊か出ています。まずは、一斉メールで届いたご案内を貼り付けておきましたのでご覧下さい。

(画像は市販DVDカバーより。ポスターと少しデザインが異なっています)

ナンディタ・ダース氏招聘および国際ワークショップ開催、

映画『マントー(Manto)』上映

 今年2019年7月に、東京外国語大学TUFSCinemaとFINDASは、インドを代表する映画監督の1人であるナンディタ・ダース氏を招聘し、国際ワークショップを開催するとともに、同氏の代表作である映画『マントー(原題:Manto)』(2018年インド=フランス/日本語字幕付/118分)を上映いたします。みなさまのご参加をお待ちしております。

 ナンディタ・ダース氏(1967-)は、インドを代表する映画監督であると同時に、俳優、社会活動家など多くの側面を有しています。今回の滞在中、同氏の社会活動及び映画製作に焦点を当て、ワークショップを開催いたします。ダース氏は、インドにおいてWomen of Worth (Dark isbeautiful)という活動に積極的に関与するなど、社会運動家として非常に有名です。氏の活動をとおして、現代インドが抱えているさまざまな社会問題にあらためて目を向ける機会を設けることには大きな意義があると考えます。
 また、ダース氏監督最新作である映画『マントー』(2018)(2018年Asia Pacific Screen Awardで、主演俳優ナワーズッディーン・シッディーキーがBest Performance by an Actorを受賞)を上映し、現代インド文学を代表する作家であるサアーダト・ハサン・マントー(1912-55)の生涯を振り返るとともに、現代インド文学におけるマントーの位置づけを改めて考える機会としたいと思います。2018年カンヌ映画祭では、本作品がプレミア上映されています。
 ダース氏は、初監督作品である『Firaaq』(2008)以降、映画を通して南アジアにあるさまざまな社会問題を提起しています。監督業だけでなく、『Fire(映画祭での上映題名「炎の二人」)』 (1996)や、『1947 Earth 』(1998)、『Ramchand Pakistani』(2008)をはじめとする作品に出演し、俳優としても一目置かれる存在です。2005年にはカンヌ映画祭で審査員を務めた経験も有することからも、世界的に注目されている監督、俳優と言えます。

1.ワークショップ開催
テーマ: 現代インド女性をめぐる問題:女優として、活動家として
日時:2019年7月9日(火)18:00から
場所:東京外国語大学(東京都府中市朝日町3-11-1)100番教室(定員60)
使用言語:英語(通訳なし)、入場無料、予約不要、先着順

2.映画『マントー(Manto)』上映(インド=フランス/日本語字幕付/上映時間118分)
(1)東京
日時:2019年7月4日(木)18:00から、および同7月7日(日)16:00から
場所:東京都府中市朝日町3-11-1 東京外国語大学アゴラ・グローバル内プロメテウス・ホール(定員501)
どちらの回も予約不要。入場無料。先着順。
(2)大阪
日時:2019年7月5日(金)18:00から
場所:大阪大学中之島センター(大阪府大阪市北区中之島4-3-53)(定員192)
大阪会場については、入場無料、事前予約制といたします。
予約専用メール・アドレス: manto2019osaka@gmail.com (おひとりさま2席まで)

どの回も、映画上映終了後、ダース監督による解説(通訳付き)を実施します。

映画についての詳細は、以下のウェブサイトをご参照下さい。
https://www.imdb.com/title/tt6923462/
https://www.youtube.com/watch?v=QFbUei2DDhc

 なお、映画を見る前には、作家マントーの作品に触れることを強くお勧めいたします。日本語訳された作品は、大同生命国際文化基金のウェブサイトから電子書籍の形で読むことができます。
http://www.daido-life-fd.or.jp/business/publication/ebook

主催: 東京外国語大学南アジア研究センター(FINDAS)、東京外国語大学TUFS Cinema
共催: 大阪大学外国語学部ウルドゥー語専攻
後援: 大阪大学21世紀懐徳堂
協賛: VIACOM 18、全日本空輸(ANA)、ホテルマネージメントインターナショナル株式会社(順不同)

  سعادت حسن منٹو    سعادت حسن منٹو    سعادت حسن منٹو   سعادت حسن منٹو    سعادت حسن منٹو

ナンディタ・ダース監督は、1989年にプラカーシュ・ジャー監督作『Parinati(変容)』でデビュー、その後ディーパー・メーヘター監督の『炎の二人(Fire)』(1996)で、自分勝手な兄弟のもとに嫁ぎ、シャバーナー・アーズミー演じる長男の嫁と慰め合う次男の嫁を演じて、一挙に注目されました。二人の関係がレズビアンともとれるような描写があったことでもセンセーショナルな関心を集めた『炎の二人』でしたが、ナンディタ・ダースの演技は高く評価され、「フィルムフェア」誌の新人女優賞を受賞したりしました。その後、アート系作品を中心に、娯楽映画にも出演するようになり、ヒンディー語映画界以外でも南インドや東インドの諸言語の映画で活躍を始めました。そんな頃、2001年秋に撮ったナンディタ・ダースの写真がこちらです。


デリーの友人宅でたまたま出会い、友人も交えて一緒におしゃべりしたのですが、自分の主張をしっかり持っている聡明な人、という印象を受けました。その後、2008年には初の監督作品『Firaaq(別離)』を発表、2002年にグジャラート州で起きた列車焼き討ち事件によって運命に翻弄される市井の人々を描き、高い評価を得ました。『マントー』は長編監督作品としては2本目で、上記のようにカンヌ映画祭で上映されるなど、こちらも高く評価されています。この機会にぜひご覧下さい。また、ナンディタ・ダース監督の活動の全貌を知るためにも、ワークショップへのご参加もお薦めします。

上のご案内にもアドレスが付いていますが、『マントー』の予告編を下にも付けておきます。

Manto - Official Trailer | Nawazuddin Siddiqui | Nandita Das | In Cinemas 21st September 2018


目撃!中国インディペンデント・ドキュメンタリー<第14回>徐辛監督『馬皮』上映

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専修大学の土屋先生からお知らせをいただきました。いただいたご案内をそのまま貼り付けておきます。添付ファイルがうまく開けず、画像がなくてすみません。

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目撃!中国インディペンデント・ドキュメンタリー 第14回

徐辛監督『馬皮』(2002年撮影、80分)

江蘇省のある村での民間の祭礼を、準備から実施まで記録したドキュメンタリー。人類学の資料として撮影したのではなく、宗教と政治の関わりを考ようとしています。村民の自治的な活動がいかにして地区の祭礼を成り立たせるか、党政府とどのように折り合うか、文化大革命以来の毛沢東思想の宗教化、伝統的な民間信仰の法師の活躍などなど、宗教と政治の複雑な様相を丹念に追った作品です。
  
日時:2019年5月11日(土)
    14:45~16:15上映
    16:30~解説と意見交換
場所:専修大学神田校舎1号館3階301教室(九段下・神保町)

主催:専修大学視覚文化研究会、時代映像研究会
問合せ:土屋昌明 tuwuchangming@yahoo.co.jp
参加無料、予約不要

 

週一『SANJU/サンジュ』<3>もう1人の主役・父スニール・ダット

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6月15日(土)より公開されるインド映画『SANJU/サンジュ』。公式サイトはこちら、これまでの拙ブログでのご紹介はこちらとかこちらとかこちらですが、この映画の主人公はインドの人気男優サンジャイ・ダット。でも、この映画ではサンジャイ・ダット以外にも、2人の登場人物が強い印象を残します。その1人がサンジャイ・ダットの父、スニール・ダットです。演じているのは、名脇役として活躍し、時には主役、悪役もこなす男優パレーシュ・ラーワルで、あとで説明しますが、これはもうドンピシャのキャスティングと言わざるを得ません。パレーシュ・ラーワルはさておき、スニール・ダットを全然知らない方も日本の観客には多いと思うので、少しインド映画史をさかのぼってスニール・ダットがどういう男優だったのかもお伝えしながら、『SANJU/サンジュ』の中のスニール・ダットをご紹介しようと思います。

Courtesy:National Film Archive of India (NFAI)

上の写真は、出世作となった『Mother India(インドの母)』(1957)の中のスニール・ダットです。1929年6月9日にインド西方の現パンジャーブ州に生まれたスニール・ダットは、5歳の時に父を亡くし、その後1947年のインド独立時の混乱等で何度か住む場所を変えたりしながら、最終的にはラクナウに落ち着き、学業を終えます。続いてムンバイのカレッジに進み、赤いバスで有名な運輸会社ベストでの勤務を経て、ラジオの仕事に就きます。ラクナウにいたスニール・ダットがきれいなウルドゥ語を話すことが評価されたためで、やがて当時の人気ラジオ局「セイロン・ラジオ」(Radio Ceylonという局名ながら、当時南アジアで一番の人気局として、インドの古典音楽を流したり、ヒンディー語映画曲のベストテン番組を放送したりしていました)で働くようになりました。やがてヒンディー語映画界に入ったスニール・ダットは、1955年の『Railway Platform(鉄道のホーム)』で俳優としてデビューします。そんな彼の出世作となったのが、マハブーブ・カーン監督の『Mother India』でした。

Courtesy:National Film Archive of India (NFAI)

結婚時の借金で金貸しに搾取され続けた農民の夫(ラージ・クマール)が片腕を失って姿を消し、残された農婦ラーダー(ナルギス/上写真右)が2人の息子を支えに生き抜こうとする話で、スニール・ダットは金貸しに反抗し、ついには盗賊に身を投じる弟ビルジュー(上写真左)を演じました。孝行息子の兄を演じたのがラージェーンドル・クマール(上写真真ん中)で、後年サンジャイ・ダットと同時期にデビューしたラージェーンドル・クマールの息子クマール・ゴゥラヴは、サンジャイの妹、つまりスニール・ダットの長女ナムルターと結婚することになるのですが、そのあたりの因縁話はまたのちほど。『Mother India』は、最後、金貸しの娘をかどわかそうとしたビルジューは諭す母ラーダーの言うことをきかず、娘と共に馬で逃げようとしますが、ラーダーは息子を撃ち殺します。この強烈な「インドの母」像が『Mother India』を大ヒットに導き、現在に到るまで、「インド映画百選」というような企画があると必ずランクインする作品として人々に愛され続けています。


そういった大作に、すでに名声を確立したナルギスと共に出られただけで、新人だったスニール・ダットにとっては幸運だったのですが、撮影中に2人を結びつける大きな事件が起きました。火事のシーンでナルギスが火の中に取り残されてしまい、それをスニール・ダットが助けて大やけどを負うのです。上の写真は、先日コメントを寄せて下さった方が言及して下さったサンジャイ・ダットの妹2人による著書「MR. AND MRS. DUTT Memories of our Parents」(Roli Books, 2007)のカヴァー裏側なのですが、やけどを負ったスニール・ダットをナルギスが看護する様子が記録されています。インド映画ファンの方なら、この話を読んですぐピン!と来たと思いますが、そうです、『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』(2007)の中で、オーム(シャー・ルク・カーン)とシャンティ(ディーピカー・パードゥコーン)が演じていたあのシーンですね。あそこでは、オームの友人パップーが「顔をやけどしてたら、ホラー俳優に転向だった」と言うシーンがありましたが、スニール・ダットは顔にもやけどを負い、ナルギスが必死で看病したと言われています。


こうして2人は急接近、ナルギスはイスラーム教徒、スニール・ダットはヒンドゥー教徒という宗教の違いとか、その他いろいろ障害があったものの(『SANJU/サンジュ』の中でも、ナルギスのコワいファンから呼び出されたエピソードが紹介されています)、火事事件のあったほぼ1年後の1958年3月11日に2人は結婚します。そして、1959年7月29日にサンジャイが、1962年1月5日には前述の長女ナムルターが、さらに1966年8月28日には、父の死後跡を継いで国会議員となる次女プリヤーが誕生します。結婚後ナルギスは女優業をほとんどストップし、家庭に入りますが、反対にスニール・ダットはどんどん実力を発揮、多くの作品に出演します。中でも注目されたのが、『Sadhna(サードナー)』(1958)、『Sujata(スジャーター)』(1959/下写真。右は「不可植民」の娘役のヌータン)などのヒロインを輝かせる作品や、フィルムフェア誌賞の主演男優賞を受賞したワヒーダー・ラフマーンとの共演作『Mujhe Jeene Do(私を生きさせて)』(1963)や『Khandan(家柄)』(1965)などの作品でした。

Courtesy:National Film Archive of India (NFAI)

やがて、スニール・ダットは監督業にも進出します。1964年の初監督作品『Yaadein(思い出の数々)』は登場人物がスニール・ダット演じる主人公だけ、という意欲的な作品で、ナルギスとまだ幼かったサンジャイがシルエットでは登場しますが、まさにワン・マン映画として、高い評価を受けました。その後は、自身とワヒーダー・ラフマーンの共演に加えて、アミターブ・バッチャン、ヴィノード・カンナー、ラーキーといったこれからのスターをキャスティングした『Reshma Aur Shera(レーシュマーとシェーラー)』(1971)が大コケし、プロデューサーでもあったスニール・ダットは痛手を受けました。ですが、息子サンジャイがデビューを果たす時には、『Rocky(ロッキー)』(1981)を自ら監督して彼を映画界に送り出します。この時の親子の姿は、『SANJU/サンジュ』の中で印象的に描かれます。『Rocky』の公開直前に最愛の妻ナルギスをガンで失い、サンジュの薬漬けに悩まされ...と苦労の多かったスニール・ダットですが、彼にはもう一つ、政治家としての道が開けていきます。


Photo by R.T. Chawla

上の写真は、1990年代後半と思われますが、何かの行事の時に主賓として招かれたスニール・ダット(中)とサンジャイ(右)、そしてヴィノード・カンナー(左)です。1982年、スニール・ダットはマハーラーシュトラ州からSheriff of Mumbaiに任命されます。これは名誉職のようなもので、1年の任期で卓越した市民が任命されることになっています。スニール・ダットの2年前には、彼よりも一世代上のスター、ディリープ・クマールが任命されており、それに続くものでした。その任期が終わった後、スニール・ダットは国会議員選挙に出て見事当選、1984~1996年、1999~2005年と国会議員として熱心に活動します。2005年5月25日の心臓発作による急死でこの活動は途絶えますが、その後娘のプリヤー・ダットが議席を継承し、2014年までの二期、議員を務めました。

(撮影者不明。お心当たりの方は、コメント欄を通じてご連絡下さい)

実は、国会議員になったのは妻のナルギスの方が先で、1980年に選ばれています。それ以前から社会活動をいろいろとしていたナルギスですが、1981年に亡くなってのちそれらはスニール・ダットに引き継がれ、やがて彼も国会へと進出したのでした。中でもスニール・ダットは平和運動に熱心で、こちらのコメントでお知らせ下さった方が書いておられる通り、1988年夏には来日して、平和行進に加わっています。上の写真は、実は日印協会関係のどなたかからずっと以前にいただいたもので、確か来日した時に機内で撮った、とうかがった憶えがあります。でも、きちんと記録を写真の裏に書いておかなかったため、下さった方のお名前も覚えていません。この機会にアップして、お申し出がないか問いかけてみることにします。このほかにもスニール・ダットは、1984年のインディラー・ガーンディー首相がシク教徒のボディガードによって暗殺された事件に関し、それに先立つシク教総本山ゴールデン・テンプルへの政府軍攻撃事件と、首相暗殺事件後のシク教徒への報復による故郷パンジャーブ州の荒廃を憂えて、町や村を巡る行進を提案したことがありました。自身の属する会議派からは「スタンドプレーだ」と白い目で見られたようですが、人々の訴えを聞き、共に涙を流した1987年のこの行進も、社会活動家としてのスニール・ダットを育てたようです。

©Copyright RH Films LLP, 2018

息子サンジャイがデビューしてからのスニール・ダットは、『SANJAY/サンジャイ』の中で詳しく描かれています。自身も国会議員であるパレーシュ・ラーワル(所属はBJP=インド人民党、2014年当選)は、政治家としてのスニール・ダットも見事に表現し、血の通った父親像を創り出しています。じっくりと、パレーシュ・ラーワルの演技を楽しんでみて下さい。最後に予告篇を付けておきます。

「SANJU/サンジュ」予告編

 

映画サイト「BANGER!!!」にインド映画紹介記事続々登場

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10連休、皆様いかがお過ごしですか? 関東地方は3日ほど雨が続きましたが、今日は午後から晴れてきて、明日以降は好天に恵まれるようです。私はと言えば、ちょっとドジを踏んでしまい、小さな傷を化膿させて、それが治るまでは家に引きこもり状態。おかげで、途中まで読んでいたいろんな本を読み終えたり(6月7日公開作品『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』の原作である小学館文庫、ロマン・プエルトラス作「IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅」はとっても面白かったです! 映画ではあちこち上手な変更が入っていて、これまたうまい演出だなあ、と原作を読んであらためて思いました)、レンタルした『ボヘミアン・ラプソディ』のDVDを見たり(当時の機材をみんな揃えてあるんだ~、と感心)と、のんびり過ごしています。

そんなのんびりの中、「BANGER!!!」の映画サイトを見てみたら、安宅直子さんの記事を発見。

Bangalore Naatkal Tamil poster.jpg

「南インドの大都会を舞台にした『バンガロール・デイズ』と変わりゆく恋愛観や家族観」というこちらの記事で、CSのムービープラスでタミル語映画『バンガロール・デイズ』(2016)が配信されるのに合わせてのご紹介です。これは、カルナータカ州の州都バンガロールを舞台にした男女の若者たちの群像劇なのですが、そのうちの1人を演じているのが何と『バーフバリ』のバラーラデーヴァ役のラーナー・ダッグバーティ。眼鏡姿も決まっているビジネスマンは、あの悪王とは全然違うキャラクターで、ファンなら二度惚れすること請け合いです。そのほかのご紹介は、ぜひ安宅さんの記事をご覧下さい。なお、『バンガロール・デイズ』のオリジナル版は2014年に作られたマラヤーラム語映画で、こちらにはドゥルカル・サルマーン、ファハド・ファーシルらが出演しています。両方を見比べてみるのも面白いのですが、まずはタミル語版の『バンガロール・デイズ』をお楽しみ下さい。予告編はこちらです。

Bangalore Naatkal Official Theatrical Trailer | Arya | Bobby Simha | Sri Divya | Gopi Sunder

なお、安宅さんの執筆記事では、「アヌシュカ&ラーナー・ダッグバーティ共演『ルドラマデーヴィ 宿命の女王』に込められた現代的メッセージ」というこちらの記事もあります。ちょうどインドにいてご紹介できなかったので、ついでにリンクを張っておきます。

Rudrama Devi Poster.jpg


それから、拙文「インド3大俳優が王座から凋落!?興収トップ10から見る傾向【インド映画NOW】」もこちらにアップされています。この【インド映画NOW】、続きもありますので、そちらも後日チェックしてみて下さいね。ただ、拙ブログをいつも見て下さっている方には、情報的には既知の内容が多くてすみません。

この記事で最後にご紹介している『Andhadhun(盲目のメロディー)』は本当に面白いです。監督は、『エージェント・ヴィノッド 最強のスパイ』(2012)や『復讐の町』(2015)を撮ったシュリーラーム・ラーガヴァン。主演はアーユシュマーン・クラーナー、タッブー、ラーディカー・アープテーで、こちらの短編フランス映画『L'accordeur/The Piano Tuner』(2010)からアイディアを得ていますが大幅にストーリーは膨らまされ、秀逸なサスペンス・コメディとなっています。先日開催されたロサンゼルス・インド映画祭ではオープニング作品に選ばれて、タッブーがゲストに招かれていました。予告編を付けておきます。

AndhaDhun | Official Trailer | Tabu | Ayushmann Khurrana | Radhika Apte | 5th October

「BANGER!!!」のサイト、ほかに谷垣健治さんの香港映画裏話的記事などもありますので、ぜひチェックしてみて下さい! 


『バーフバリ』好きなら必読! 『マハーバーラタ』が読みやすい2巻本で発売中!!

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10連休の最終日、東洋文庫ミュージアムで開催中の「インドの叡智展」に行ってきました。(5月19日まで。HP参照)古代から近代に到るまでの、インド文化の様々な「叡智」をわかりやすい展示にして並べたもので、東洋文庫所蔵の文献資料をフル活用する展示となっています。インド関連資料だけでなく、浮世絵(国芳の作品があって嬉しい❤)や歴史地図など様々な資料が引っ張ってこられていて、さらに地味な印象を払拭するためか、サリーやヒンドゥー教の神々のマンガチックなイラスト図等々も登場していました。「Kalia Mardan(クリシュナが毒蛇カーリヤを退治する)」の絵図が2箇所で使い回されていたりとか、ちょっと残念な点もあったのですが、よく考えられた展示でした。

 

その中に、やはり登場していました「マハーバーラタ」と「ラーマーヤナ」の本。展示されていた「マハーバーラタ」は1931-33年にマドラス(現チェンナイ)で刊行された18巻本で、やはり「インドの叡智」の代表格なんだなあ、とあらためて思った次第です。そんな「マハーバーラタ」ですが、実は最近、とても読みやすい「マハーバーラタ」全編網羅訳本が出ました。次の本です。

デーヴァダッタ・パトナーヤク[文・画]、沖田瑞穂[監訳]、村上彩[訳]「インド神話物語 マハーバーラタ」(上・下)原書房、2019.各1,900円+税

上の写真でおわかりになると思いますが、原本は「Devdutt Pattanaik "JAYA  An Illustrated Retelling of the Mahabharata" Penguin Books India, 2010」で、その全訳となっています。アマゾン沼でのサイトはこちらです。原題の「ジャヤ」は、「ヴィヤーサは物語を『ジャヤ』、”勝利の物語”と名付けた」と文中にもあるように、「マハーバーラタ」の作者とされる聖仙の命名した書名から取られています。本書には、作者パトナーヤクによるマンガチックなイラストがふんだんに使われていて、それだけでも読み進むのが楽しいのですが、途中に登場人物の家系図やコラムが入り、退屈しないで読めるようになっています。デーヴァダッタ・パトナーヤク、なかなかの作家ですね。訳もこなれた日本文で読みやすく、さすがご恵存下さった沖田先生が、「インド神話を専門とする研究者である沖田と、翻訳家の村上先生が協力して翻訳にあたった、研究者+翻訳家による英語の翻訳出版という、おそらく、これまでにあまりなかった方向性で(中略)、仕上がりは非常に満足のいくものとなりました」とおっしゃるだけのことはあります。映画『バーフバリ』のファンの方で、「マハーバーラタ」を読みたいけれど...、と思っていらした方には、まさに福音のようにやってきた「マハーバーラタ」翻訳本と言うことができます。


沖田瑞穂先生は前後して、「マハーバーラタ入門 インド神話の世界」(勉誠出版、2019、1,800円+税)という本も出しておられるので、上の本を読んだ後はこちらも読んで、いろんなことに「そうだったのか!」と目からウロコ体験をしてみるのも面白いと思います。「マハーバーラタ」の「18」の謎(18個の謎があるのではなくて、なぜか「18」という数字がまとわりついているんですね、「マハーバーラタ」には)、なんて、読むとそれだけで推理に夢中になりそうです。「マハーバーラタ入門」でも主要なストーリーは押さえてあるので、ダイジェスト版としてこちらから読む、というのもアリですし、さらに「マハーバーラタ入門」には索引が付いているので、これも大いに役立ってくれます。アマゾン沼のサイトはこちらです。


『バーフバリ』シリーズのほか、「マハーバーラタ」をベースにして現代の物語にしたインド映画では、古くはシャーム・ベネガル監督作『Kalyug(末世)』(1981)や、マニラトナム監督作でラジニカーントが主演した『ダラパティ 踊るゴッドファーザー』(1991)がありますし、割と最近では、プラカーシュ・ジャー監督作でランビール・カプールが主演した『Raajneeti(政治)』(2010)があります。この『Raajneeti(ラージニーティ)』、珍しくメイキング&脚本収録の豪華ムック本(上)も出ていて、ヒンディー語を学ぶ人にもありがたい資料となっています。インド映画ファンなら押さえておいて損はない「マハーバーラタ」、この機会にぜひお読みになってみて下さい。

 

スペース・アーナンディ/インド映画連続講座「歴史を読む!」6・7月に開催

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お陰様で好評をいただいている、スペース・アーナンディでの「インド映画連続講座」。現在開催が続いている「インド映画を読む!」シリーズでは、下にも書いたように<第1回>「ジェスチャーを読む!」、<第2回>「カーストと宗教を読む!」、<第3回>「地理を読む!」と毎回たくさんの方が受講して下さり、工夫をこらしたレジュメ&画像を楽しんで下さっています。5回連続予定のこの講座もいよいよ後半に入りますので、ご興味がおありの方はぜひどうぞ。

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スペース・アーナンディ/インド映画連続講座第Ⅲ期
「インド映画を読む!」<第4回>

歴史を読む!~ムガル時代・英領時代・独立インド~

 スペース・アーナンディでは、毎年1つのテーマで行う「インド映画連続講座」を開催中ですが、第Ⅲ期は「インド映画を読む!」と題して、インド映画を深く読み込むための様々なトピックスを取り上げることにしました。
 好評だった<第1回>「ジェスチャーを読む!」、<第2回>「カーストと宗教を読む!」、<第3回>「地理を読む!」に続き、<第4回>では「歴史を読む!」と題して、特に映画によく登場する3つの時代を取り上げたいと思います。日本の時代に当てはめれば、背景は全然違いますが、江戸時代・明治&大正時代・戦後の昭和時代、という感じでしょうか。インドの歴史映画は日本では少ししか公開されていないのが残念ですが、現代を描く作品の中にもよく言及があったりしますし、インド人にとってはmustの知識なので、この際インドの歴史を振り返って見てみたいと思います。『偉大なるムガル帝国』(1960)、『ラガーン』(2001)、『Thugs of Hindostan』(2018)、『ガンジー』(1982)、『ガダル~憎しみを超えた絆~』(2001)、『ミルカ』(2013)などが参考作品となります。
 なお、メインの講座と抱き合わせで開催してきた「映画で学ぶヒンディー語塾」では、実際に映画で使われた会話を学びます。ほんの1、2分の会話ですが、今回は『ミルカ』から。ヒンディー語が初めての方でも大丈夫、カタカナ書きが付いているので、その通り読めば意味が通じてしまいます。30分間の濃密なヒンディー語学習体験をどうぞ。


 日時:2019年 6月15日(土) 15:00~17:30   どれでも
        6月22日(土) 15:00~17:30  }  ご都合のいい日を
        7月13日(土) 15:00~17:30   お選び下さい。
 場所:スペース・アーナンディ
    (東急田園都市線高津駅<渋谷から各停で18分>下車1分)
 定員:20名
 講座料:¥2,500(含む資料&テキスト代)
 講師:松岡 環(まつおか たまき)
ご予約は、スペース・アーナンディのHP「受講申し込み」からどうぞ。ご予約下さった方には、ご予約確認と共に、スペース・アーナンディの地図をメール送付致します。床におザブトンをひいて座っていただく形になりますので、楽な服装でお越し下さい(申し訳ないのですが、スペースの関係上イス席はご用意できません。悪しからずご了承下さい)。皆様とお目にかかれるのを楽しみにしております。(松岡 環)

[講師紹介]
1949年兵庫県生まれ。大阪外大(現大阪大)でヒンディー語を学び、1976年からインド映画の紹介と研究を開始。1980年代にインド映画祭を何度か開催したほか、様々なインド映画の上映に協力している。『ムトゥ踊るマハラジャ』『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』『きっと、うまくいく』『パッドマン 5億人の女性を救った男』など、インド映画の字幕も多数担当。著書に、「アジア・映画の都/香港~インド・ムービーロード」(めこん/1997)、「インド映画完全ガイド」(世界文化社/2015/監修)など。

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それから、<第3回>「地理を読む!」があと2回開催されるのですが、まだ若干、お席に余裕があります。4月に開催した第1回目では、苦労して作成した『バーフバリ』の国土地図をカラーコピーしてお配りすることもでき、実際のインド地理を読むだけでなく、「想像上の地理を読む!」もできて大満足でした。なお、この「地理を読む!」講座では、3月に行ったインドのお土産として、映画ポスターのプレゼントがあります。6月15日公開の『SANJU/サンジュ』、シャー・ルク・カーン主演作『Zero』、昨年の興収トップ作品であるラジニカーント主演作『2.0』などのポスターを、両回とも2種類各1枚ずつ、じゃんけんでプレゼント致しますのでお楽しみに!

 

スペース・アーナンディ/インド映画連続講座第Ⅲ期
「インド映画を読む!」<第3回>
地理を読む!~北インド・南インド・東インド~

  スペース・アーナンディでは、毎年1つのテーマで行う「インド映画連続講座」を開催中ですが、第Ⅲ期は「インド映画を読む!」と題して、インド映画を深く読み込むための様々なトピックスを取り上げることにしました。

 好評だった<第1回>の「ジェスチャーを読む!」と<第2回>「カーストと宗教を読む!」に続き、<第3回>では「地理を読む!」と題して、インドを大ざっぱに3つに分け、それぞれの土地が映画の中にどう描かれているかを見ていきます。今回参照する作品は、北インドが登場するシャー・ルク・カーン主演作『ラジュー出世する』(1992)と『DDLJ』(1995)、さらにコルカタを描く『女神は二度微笑む』(2012)や『バルフィ! 人生に唄えば』(2012)などですが、ちょっと珍しい作品も登場。南インドはラジニカーントとヴィクラム主演作等から、日本人がインドの地理を認識する手がかりを探っていきます。その他、地理がワープするソング&ダンス・シーンや、「『バーフバリ』の地理」についても見てみたいと考えています。

 なお、メインの講座と抱き合わせで開催してきた「映画で学ぶヒンディー語塾」では、実際に映画で使われた会話を学びます。ほんの1、2分の会話なのですが、今回は『バジュランギおじさんと、小さな迷子』(現在、鵠沼海岸にあるユニークなシアター「シネコヤ」で上映中)から、地名がいっぱい入った部分を取り上げます。やさしい会話なので、ヒンディー語が初めての方でも大丈夫。テキストにはカタカナ書きが付いていますので、その通り読めば意味が通じてしまいます。30分間の濃密なヒンディー語学習体験をどうぞ。

 

 日時:2019年 5月18日(土) 15:00~17:30 ⇒ お二人分キャンセルが出ました
        5月25日(土) 15:00~17:30 予約受付中
 場所:スペース・アーナンディ
    (東急田園都市線高津駅<渋谷から各停で18分>下車1分)
 定員:20名
 講座料:¥2,500(含む資料&テキスト代)
 講師:松岡 環(まつおか たまき)
ご予約は、スペース・アーナンディのHP「受講申し込み」からどうぞ。ご予約下さった方には、ご予約確認と共に、スペース・アーナンディの地図をメール送付致します。床におザブトンをひいて座っていただく形になりますので、楽な服装でお越し下さい(申し訳ないのですが、スペースの関係上イス席はご用意できません。悪しからずご了承下さい)。皆様とお目にかかれるのを楽しみにしております。(松岡 環)

[講師紹介]
1949年兵庫県生まれ。大阪外大(現大阪大)でヒンディー語を学び、1976年からインド映画の紹介と研究を開始。1980年代にインド映画祭を何度か開催したほか、様々なインド映画の上映に協力している。『ムトゥ踊るマハラジャ』『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』『きっと、うまくいく』『パッドマン 5億人の女性を救った男』など、インド映画の字幕も多数担当。著書に、「アジア・映画の都/香港~インド・ムービーロード」(めこん/1997)、「インド映画完全ガイド」(世界文化社/2015/監修)など。


インド映画『Secret Superstar』公開日&邦題決定!

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配給会社フィルムランドから、試写状をいただきました。8月公開と聞いていたインド映画『Secret Superstar』、なかなか試写が始まらないのでやきもきしていたところでした。邦題も決定し、公開日も8月9日(金)に決まったようです。というわけで、邦題は....


じゃーん! 「原題カタカナ書き」方式になりました。『シークレット・スーパースター』です(英語綴りが先に来るのでしょうか? その場合はフィルムランド様、お手数ですがご指摘のコメントをお寄せ下さいませ)。ハリウッド映画にはこの方式が多いことは、皆さんご存じだと思いますが、インド映画も特に最近英語でタイトルを付ける作品が多くなっているため、今後この方式が定着するかも知れません。「シークレット」も「スーパースター」も、日本語としてもなじんでいる単語なので、覚えやすいですね。それと、この作品が中国で公開される時に「フォーブズ」の日本語サイトでも2、3度取り上げられたのですが、こちらの記事のようにタイトルを『シークレット・スーパースター』にしてあったので、「ああ、あの映画か」という反応も多く寄せられることと思います。

試写状にあった、キャッチコピーと紹介文もちょっと引用しておきましょう。


少し補足すると、主演のザイラー・ワシームは、『ダンガル きっと、つよくなる』(2016)で、アーミル・カーン演じるスパルタ父さんにしごかれる姉妹のうち、姉ギータの子供時代を演じた女の子です。三つ編みおさげの長い髪を切られて、少年みたいにされて泣いていた子ですね。『シークレット・スーパースター』ではちょっぴり大人になって、ハイティーンの女の子として登場します。日本版ヴィジュアルは上のように彼女の後ろ姿ヴァージョンを使っているのですが、こちらのインド版ポスターはあまり使われず、よく目にしたポスターは下のような感じでした。

Secret Superstar - Poster 3.jpg

中国版や台湾版もこんな感じです。アーミル・カーンの知名度が高く、『ダンガル きっと、つよくなる』も大ヒットしたので、アーミル・カーンが目立つものが選ばれていますね。


私もまだ見ていない作品なので、ちょっと不確かなのですが、『シークレット・スーパースター』は必ずしも主人公の少女のサクセス・ストーリーが描かれて万々歳、という作品ではなく、彼女の家庭が抱える問題もかなり深刻に描かれているとか。それを考えると、日本版の後ろ姿のヴィジュアルは意味深でピッタリなのでは、と思います。試写で拝見したら、また詳しくご紹介しますので、しばらくお待ち下さいね。下に、インド版の予告編を付けておきます。

Secret Superstar - Official Trailer | Zaira Wasim | Aamir Khan | Superhit Hindi Movie

日本版公式サイトはまだできてないようですが(こちらの公式ツイッターも4月1日から不動のまま...)、宣伝活動が早く本格化することを願っています~。


 

週一『SANJU/サンジュ』<4>サンジュの母ナルギスはインド版原節子

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『SANJU/サンジュ』の公開日6月15日まであと1カ月余り。先週の「父スニール・ダット」に続き、今週はサンジュことサンジャイ・ダットの「母ナルギス」をご紹介しましょう。下の写真は、日本でも上映されたことのあるインド映画の名作『詐欺師(原題:Shri 420)』(1955)の一場面です。ナルギスは女優としての存在感から言えば、日本映画界では原節子に当たると言ってよいと思います。モノクロ映画の中で輝きを放ち、ある監督のミューズとしても存在した、一時代を画した女優ーそんなナルギスを、『SANJU/サンジュ』をご覧になるための予備知識として、ご紹介しておきましょう。

『詐欺師』Courtesy:National Film Archive of India(NFAI)

ナルギス(意味は”水仙”)は、1929年6月1日にイギリス領インドのカルカッタ(現コルカタ)に生まれます。本名はファーティマー・ラシドで、その名前からもわかる通りイスラーム教徒ですが、父親は元々はヒンドゥー教徒で、パンジャーブ州のラーワルピンディー出身のバラモンでした。母親はジャッダンバーイーと言い、古典音楽やセミ・クラシック畑の人気歌手であり、女優としても活躍していました。ジャッダンバーイーのことを書き始めると長くなってしまうのですが、彼女はインドの初代首相ジャワーハルラール・ネルーの父モーティーラール・ネルーが、ジャッダンバーイーの母と関係してできた子供と言われています。それを証明するように、養育費がモーティーラール・ネルーからずっと送られてきていたそうで、成人していわばインド版「芸者」になったジャッダンバーイーですが、ネルー首相との関係は周知のものであったようです。そんなジャッダンバーイーは2度結婚して2人の男児を授かるのですが、3度目の結婚で生まれたのがファーティマー、のちのナルギスでした。ヒンドゥー教徒だった父は結婚時にイスラーム教徒に改宗し、アブドゥル・ラシドという名前になっていたので、ファーティマー・ラシドと名付けられたのです。

Taqdeer 1943.jpg

ナルギスが生まれたあと、1931年に一家は現在はパキスタンとなっているラホールに移り、やがて母のジャッダンバーイーは舞台から映画にも出演するようになります。4年間のラホール生活の後、一家はボンベイ(現ムンバイ)へとやってきて、ジャッダンバーイーは歌手や女優としてだけでなく、プロデューサー、監督としても活躍を始めます。一等地マリーン・ドライブのアパートに住居を構えて、先の結婚で生まれた息子たちやまだ幼いナルギスも子役として映画に出演させるようになります。ナルギスの映画デビューは1935年の映画『Talashe Haq(権利の希求)』でした。そして1943年、14歳のナルギスは大人の女優として、マハブーブ・カーン監督作『Taqdeer(運命)』(上のポスター)に出演し、以後インド独立までに4本の映画に出演します。独立後は当時の人気男優ディリープ・クマールの相手役が多かったのですが、1948年、運命的な作品に出演します。ラージ・カプールの初監督作品『火(Aag)』で、主演もラージ・カプールでした。

『雨季』Courtesy:NFAI

『火』以降、ラージ・カプールは続く自分の監督・主演作品『雨季(Barsaat)』(1949/上写真)、『放浪者(Awara)』(1951/下写真)、『詐欺師(Shree 420)』(1955)のすべてにナルギスを相手役にします。そして、そのどれもがヒットし、中でも『放浪者』と『詐欺師』はインド以外の国々、特に当時のソヴィエト連邦や東欧諸国、中国などでも大人気となりました。ラージ・カプールの監督作以外でも、マハブーブ・カーン監督の『Andaz(スタイル)』(1949)など、ラージ・カプールとナルギスの共演作が数多く作られたため、2人はゴールデン・コンビともてはやされました。やがて、映画界の人々だけでなく、一般のファンも2人が特別な関係にあることに気づくことになっていきます。

『放浪者』Courtesy:NFAI

しかしながら、ラージ・カプールはすでに1946年に結婚しており、子供たちも生まれていました(1947年ランディール(カリシュマーとカリーナーの父)、1948年娘リトゥ(息子の嫁がアミターブ・バッチャンの娘)、1952年リシ、その下に娘リーマー、そして1962年ラージ-ゥ)。ラージ・カプールの妻クリシュナーは、『火』以降多くのラージ・カプール作品に出演している俳優プレームナートの妹であり、後年ラージ・カプールの周囲の人々から「バービー・ジー(兄嫁さん)」と慕われるようになる彼女は、ラージ・カプールにとって理想的な妻でした。そのため、1949年頃から始まったと思われるナルギスとラージ・カプールの関係は、ナルギスの母ジャッダンバーイーを除き、誰もが認めていませんでした。そんな中で2人の関係は続いたのですが、ナルギスが密かに期待していたラージ・カプールの離婚は、彼自身が望んでいないことがだんだんとわかってきます。なのにラージ・カプールが、自分の会社R.K.フィルムズの作品以外には出演しないようナルギスに言ったり、その一方で自分は新たなヒロインを求めたりすることに対し、ナルギスはだんだんと嫌気がさし始めます。そうしてナルギスは、ラージ・カプールから離れることを決意したのでした。2人の最後の共演作となったのは、ナルギスがゲスト出演したR.K.フィルムのラージ・カプール主演作『目をさまして用心しろ(Jagte Raho)』(1956/下写真)でした。

『目をさまして用心しろ』Courtesy:NFAI

その後、ナルギスが出演したのは、前回の記事でも書いたスニール・ダットとの共演作『Mother India(インドの母)』(1957)だったのです。それ以降のことは前回の記事を見ていただくとして、2人の生涯をたどった本で「Mr. & Mrs. Dutt」以外にも参考になる本「Darlingji: The True Love Story of Nargis & Sunil Dutt」(Kishwar Desai著、HarperCollins Publishers India, New Delhi, 2007)の表紙と裏表紙の一部を付けておきます。多くの写真に、スニール・ダットとナルギス一家の幸せそうな姿が写っています。

前回の記事にも書きましたが、ナルギスは1980年に国会議員になります。その時にナルギスのある発言が物議をかもしたことがありました。それは、ナルギスがサタジット・レイ監督を「インドの貧困を世界に喧伝している」と非難した発言でした。ナルギスはまた、「サタジット・レイ監督の作品は商業的には成功していない。あれは賞を取るためだけの作品だ」と言ったとも伝えられますが、国会での発言だったことから、世間を騒がせることになりました。上記の本ではナルギスの意図は、「我々はもっとインドの映画作家を援助しないといけません。サタジット・レイは海外に向けて”貧困”ばかり描いています。そういう貧困層を楽しませようとしているのは、マヌモーハン・デサイらのような映画人です」ということで、当時のボンベイやマドラスの映画人をバックアップしようとしたのだ、と述べています。しかし、ナルギスはこの騒ぎのあと間もなく膵臓ガンが発見され、アメリカに治療に赴いたりしたため、結局彼女の過激な発言という形で映画史に残ることになってしまいました。

©Copyright RH Films LLP, 2018

『SANJU/サンジュ』では、『ボンベイ』(1995)や『ディル・セ 心から』(1998)で日本人観客を魅了したマニーシャー・コイララがナルギスを演じています。上のスチールはニューヨークの病院で入院中に写した家族写真(1人、家族ではない人が後列左端に写っていますが、この青年カムリーはナルギスの大ファンで、そっと病室にお見舞いに来たところをサンジャイに見つかり、紆余曲折ののちに親友となって家族同然の存在となる、という設定です)ということで、マニーシャー・コイララのナルギスはかなりやつれた顔をしていますが、撮影中に出回った写真はナルギスにそっくりの美しさでした。マニーシャー・コイララは彼女自身が卵巣ガンからのサバイバーで、そんな彼女をキャスティングしたラージクマール・ヒラニ監督の意図は、マニーシャーに対する励ましの意味もあったのかも知れません。


ナルギスは、1981年5月3日に亡くなります。まだ51歳という若さでした。上の本は1994年に出版されたナルギスの伝記本ですが、スニール・ダットが2005年に亡くなったあと、2007年に別の出版社で再版されたものです。ナルギスは亡くなる2年ほど前から体調を崩していたものの、インドの医者はガンを発見できず、発見した時は手遅れで、スニール・ダットがニューヨークのガン専門病院に入院させたのですが、その後小康を得た時にインドに帰国するのがやっとで、帰国後間もなく亡くなった、と上記の本は伝えています。それはサンジャイ・ダットの初主演作『Rocky(ロッキー)』公開の直前で、映画に主演するサンジャイを見ることと、下の娘2人の花嫁姿を見ることを支えに闘病してきたナルギスには、苛酷な結末となりました。おまけに、この頃まだサンジャイは薬物依存から立ち直っておらず、ナルギス亡き後のスニール・ダットは本当に大変だったようです。『SANJU/サンジュ』でも、ナルギスの逝去時のことが印象的に描かれています。そこで立ち直っていれば、サンジャイ・ダットはまた違った人生を歩んでいたと思うのですが...。

『Mother India(インドの母)』(1957)のナルギスとラージ・クマール。Courtesy:NFAI

『SANJU/サンジュ』の公式サイトはこちらです。まだまだ続く『SANJU/サンジュ』話、次回と次々回は「ページ3」、つまりゴシップ欄もどきのお話となりますので、ご期待下さいと言うべきか、ごめんなさいと言うべきか...。次回は、「ダット家とカプール家の因と縁」(韓国映画『神と共に』からイタダキました;;)です。

 

【緊急告知!】インド映画自主上映会:テルグ語映画

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Periploさんからお知らせをいただきました。2本の上映会をお知らせいただいたのですが、まずは明日に迫っているテルグ語映画(しかも、マヘーシュ・バーブ主演作!)の方だけ取り急ぎ。

Maharshi poster.jpg

『Maharshi(マハリシ)』
2019/テルグ語/178分/英語字幕
 監督: ヴァムシー・パイディパッリ
 主演:マヘーシュ・バーブ、プージャー・ヘグデほか
■日時:2019年5月12日(日)午後 1:30~
■会場:埼玉県川口市SKIPシティ、彩の国ビジュアルプラザ HP 
■料金:大人3,000円
■主催:インドエイガドットコム HP

Periploさんの詳しいご紹介はこちら。おお、マヘーシュ・バーブが田植えをなさっています!(ちょっとへっぴり腰。これでは後で腰が痛んだのでは...)相手役のプージャー・ヘグデ(ヒンディー語版Wikiを見ると「ヘーグレー」のようですが、元々カルナータカ州の名前のようなので「ヘグデ」なのでしょう)は、2016年の大作ながら大コケしてしまった『Mohenjo Daro(モヘンジョ・ダロ)』で、リティク・ローシャンの相手役を務めた美女。今回は美男美女の取り合わせですね。予告編を付けておきます。

#MaharshiTrailer | Mahesh Babu, Pooja Hegde, Allari Naresh | Vamshi Paidipally | DSP | 4K

もう1本のマラヤーラム語映画(ドゥルカル・サルマーン主演)も5月18日(土)の上映なので、可及的速やかにアップします。少しお待ち下さい。


インド映画自主上映会:マラヤーラム語映画『Oru Yamandan Premakadha (大いなる愛の物語)』

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Periploさんからいただいたお知らせの続きです。今度はマラヤーラム語映画で、『チャーリー -CHARLIE-』(2015)、『OK Darling』(2015)などに主演した、ドゥルカル・サルマーンの『Oru Yamandan Premakadha(大いなる愛の物語)』です。


 『 Oru Yamandan Premakadha (大いなる愛の物語)』

2019/マラヤーラム語/165分/英語字幕
 監督:B.C. ナウファル
 主演:ドゥルカル・サルマーン、ニキル・ヴィマルほか
■日時:2019年5月18日(土)午後 2:00~
■会場:埼玉県川口市SKIPシティ、彩の国ビジュアルプラザ HP 
■料金:大人2,000円
■主催:セルロイドジャパン HP


Periploさんの詳しい解説サイトはこちら。その中に「yamandan」はスラング、ということでその由来が書いてある頁にリンクするようになっているところがあるのですが、この「ばかでかい、パワフルな」という意味のスラングが生まれたエピソード、ちょっとよくわかりません。音もずれてるし...。でも、こういうスラングを使うのが「ナウい」(死語?)んでしょうね。予告編を付けようと思ったのですが、短いティーザーしかアップされていないようで、その3連発です。

Oru Yamandan Prema Kadha Official Teaser | Dulquer Salmaan | B C Noufal

Oru Yamandan Prema Kadha Official Teaser 2 | Dulquer Salmaan | B C Noufal

Oru Yamandan Prema Kadha Official Teaser 3 | Dulquer Salmaan | B C Noufal

昨年はヒンディー語映画にも出演したりしていたドゥルカル・サルマーンですが、「やはり、マラヤーラム語映画のドゥルカル・サルマーンが一番いい!」と言えるような作品だといいですね。乞うご期待! 


追悼:ラクシュミーダル・マーラヴィーヤ先生(Dr. Lakshmidhar Malaviya)

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ヒンディー語の恩師、ラクシュミーダル・マーラヴィーヤ先生が逝去されました。5月10日(金)朝のことで、数日前からちょっとご体調がすぐれず、寝ておられる間にそのまま亡くなられたようです。インドのサイトに載ったヒンディー語の追悼記事によると、低血糖症によるもの、とありました。この記事にはお写真も掲載されていて、何十年ぶりかで先生の笑顔を拝見しましたが、私たちが教えていただいていた1970年頃とまったく変わらないお顔で、髪や髭は白くなられたものの、教室で授業をして下さっていたお姿をまざまざと思い出してしまいました。別のサイトに1934年生まれとあったので、享年は84か85でいらしたのでは、と思います。

私が大阪外国語大学--現在は場所も箕面市に変わり、大阪大学に統合されてしまっていますが、その頃は大阪市天王寺区上本町八丁目にあった大阪外大に入学したのは1967年。確かマーラヴィーヤ先生も、その年から大阪外大の客員教授として赴任なさったのでは、と思います。従って日本語はまったくと言っていいほどおできにならず、1年生である我々にとっては先生の授業は五里霧中状態でした。当時の我々は、ヒンディー語はもちろんのこと英語もまったく話せず、マーラヴィーヤ先生も英語での説明はなさろうとはせず、というわけで、毎回ヒンディー語だけの授業は「何が何やら...」という感じでした。

今でも憶えているのは、ある時間に、次の例文が出てきた時のことです。「Talab mein machhli hai./ターラーブ・メーン・マチュリー・ハィ」この例文を黒板に書いて何度か読み上げられた先生は、しきりに中庭の方を指さされます。中庭には何があるのか、というような先生のしぐさに、我々も池があることに気がつき、「”ターラーブ”は池やで~(ほとんどが関西出身の学生でした)」とささやき合いました。「メーン」は「~の中に」、「ハィ」は「~である、~がある、~がいる」というのはもう習っています。「”マチュリー”て、何やねん?」「ボウフラとちゃうか?」

ちょっと弁明しておくと、当時の大阪外大は国立大とは言っても、予算は全国立大の下から3番目だったか4番目だったかで、街中の狭いキャンパスに大正時代から残る校舎もまだ使っていた、という貧乏大学でした。前述の中庭は生協食堂に降りる所にあって、小さな小判型の池があったものの、お世辞にもきれいとは言えず、我々の印象では「防火用水」という感じでした。というわけで、「”マチュリー”は”ぼうふら”」という連想をしてもおかしくなかったのです。結局、学生の反応が変だ、と思われたマーラヴィーヤ先生のおかげで、最後に「マチュリー」=「魚」(そう言えば、池には赤い金魚が数匹いました)とわかるのですが、何となく気まずいまま終わったこの授業は、あとあとまでずーっと心にひっかかっていたのでした。

池のあった狭い中庭に模擬店を出した大学祭(1967年か1968年)

後年、自分がヒンディー語を教えたりする立場になるたびにこの時の授業を思い出し、マーラヴィーヤ先生に申し訳なく思っていましたが、こんな学生たちだったにもかかわらず、先生はいつも一級の授業をして下さいました。特に文学を朗読なさる時は、うっとりしたような声の調子で読んで下さり、こちらの心にもその言葉の意味がよく響いたものです。何の詩だったか、「sansanana/サヌサナーナー」という言葉が野原を吹き渡る風の音として使われているくだりが出てきた時には、「サヌー、サヌー!」と片手で風を切るしぐさをしてこの音を発音して下さり、崖の上の野原に一人立っているような気分を味わいました。マーラヴィーヤ先生のほか、古賀勝郎先生、谷村干城先生にヒンディー文学を指導していただいたおかげで、私の心はだんだんとヒンディー文学に傾いていったのです。

で、結局、当初は卒業後中学か高校の国語か英語の教師になろうと思っていたのに、それをやめて大学院に進むことにするのですが、大阪外大の大学院はできたばかりで誰も学生がいないから、ということで東京外大の大学院に進むよう勧められ、1971年に当時は北区西ヶ原にあった東京外大の大学院に入りました。すると、その年からだったと思うのですが、マーラヴィーヤ先生も東京外大に異動していらしたのです。国立大学の外国人客員教授の任期が4年とかに決められていたのかも知れません。当時、インドから優れた客員教授を招聘するのは簡単ではなく、優秀な人材ということで東京外大に請われて、さらに日本に滞在なさることを承諾なさったのでは、と思います。

東京外大では、主として土井久彌先生と田中敏雄先生に教えていただき(土井先生は私がインド娯楽映画と出会うきっかけを作って下さいましたし、田中先生には今も何かにつけてお世話になっています。本当に、師に恵まれている私です)、マーラヴィーヤ先生の授業は、学部の3、4年生との合同授業でした。確か、5限目とかの遅い時間にある授業だったと思います。授業が終わるとマーラヴィーヤ先生は我々の何人かを誘って下さり、都電で西ヶ原4丁目から大塚駅まで行って、「駅前会議」を開いて下さいました。その頃には結構日本語もお上手になっていて、「エキマエ・カイギ」と言っておられたと思うのですが、駅の売店から缶ビールを買ってきて、我々にご馳走して下さるのです。代金を払おうとすると、「いや、これは君たちにおごるわけじゃない。私から君たちへの投資だから」といつもおっしゃり、学生の心の負担を軽くして下さいました。大塚駅南口の、退勤の人たちが行き交う広場でビール片手にあれこれおしゃべりをして、夕方の一時を過ごしたことは忘れられません。

マーラヴィーヤ先生、あの先生の投資のお陰で、私は今でもヒンディー語に関わる仕事をしています。この40数年間、今、あの時の教室に座っていたら、もう少しマシな学生として先生とお話ができたのに、と思う機会が何度かあり、ヒンディー語を教えていただいたことをたびたび感謝しました。そんな御礼を直接お伝えできず、本当に申し訳ありません。

東京外大の任期を終えてから、また関西に戻られたマーラヴィーヤ先生は、それからずっと関西で暮らされたようです。ご自身の研究もたゆまず続けられ、何冊かの本を出しておられることは、今回インドのサイトを検索してみて知りました。12日のご葬儀はご親族だけで行われたそうで、ご遺志なのか、お香典も供花もご辞退、とうかがいました。不肖の弟子は、心の中で手を合わせて感謝し、ご冥福をお祈りするばかりです。श्रद्धांजलि  |

 

 亡き人を想いガンジス河に流した花輪

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