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『シークレット・スーパースター』本ヴィジュアル解禁!

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インド映画ファンの皆様、先日の『シークレット・スーパースター』公開情報について、ビビッドな反応をして下さりありがとうございました。いつもの倍のアクセスがあって、驚きました。ところが、あれはちょっと先走りすぎたようでして、本日正式なヴィジュアルが宣伝会社さんから到着しました。こちらです!


ちょっと哀愁漂うヒロインの後ろ姿ではなく、制服姿で歌っているヒロイン+ファンが喜ぶアーミル・カーンの笑顔、というデザインになりました。皆さんを惑わせてすみませんでした~。

なお、公開劇場も決まり、8月9日(金)から新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショーとなります。公式ツイッターも動きだしましたので、どんどんご訪問下さいね&情報拡散、よろしくお願い致します。では、作品の詳細はまたのちほど~。

 


重厚な歴史劇映画『パドマーワト 女神の誕生』

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珍しいインドの歴史劇映画『パドマーワト 女神の誕生』が6月7日(金)から公開されます。私の個人的分類では、過去の出来事を描くのが歴史劇映画、そして1858年にインド大反乱が終息してイギリス領インドが成立するまでを中世と考えているので、それ以前を描く作品を歴史劇の中でも「時代劇」と呼んでいます。時代劇は衣装やセットなどに相当お金がかかるため、インド映画全体としても数が少ないのですが、2000年代に入ってからだと本作『パドマーワト 女神の誕生』を始め、同じくサンジャイ・リーラー・バンサーリー監督の『Bajirao Mastani(バージーラーオとマスターニー)』(2015)、アーシュトーシュ・ゴーワリカル監督の『Jodha Akbar(ジョーダーとアクバル)』(2008)などが作られています。日本での上映作では、サタジット・レイ監督作『チェスをする人』(1977)や、特別上映された『偉大なるムガル帝国』(1960)、『アショカ大王』(20019)などがありますが、やはり数が少ないですね。『バーフバリ』2部作や『カーマ・スートラ 愛の教科書』(1996)のような作品は時代劇とは言いがたいため入れていませんが、そんなわけでインド映画の時代劇作品の公開は大変貴重でもあります。

(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

『パドマーワト 女神の誕生』のサンジャイ・リーラー・バンサーリー監督は、前作『Bajirao Mastani(バージーラーオとマスターニー)』では18世紀前半のマラーター王国(現マハーラーシュトラ州)を舞台に、ペーシュワー(宰相)であるバージーラーオと彼をめぐる2人の女性、妻カーシーバーイーと王女マスターニーとの愛と信頼の絆を描いて見せました。本作ではもう少し時代をさかのぼり、13世紀末が舞台となっています。1206年~1526年の間、デリー・スルターン朝と総称される時代が続き、5つの王朝が興亡を繰り広げますが、その2番目の王朝ハルジー(またはヒルジー、キルジー。アラビア文字で書かれたخلجیの読み方の違いによる/1290~1320頃)朝が舞台です。その後デリー・スルターン朝は、1526年にパーニーパットの戦いで中央アジアからやってきたバーブルの軍に敗れ、以後はムガル朝が隆盛を極めることになります。

(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

と一応歴史を辿ることができるのですが、実は本作は16世紀に詩の形式で書かれた歴史物語『パドマーワト』に依拠しています。物語なので、歴史的事実をかなり膨らませて詩形式で綴ってあるそうで、従って本作も時代考証をしっかりと行った歴史映画というよりは、この歴史物語から想像を膨らませたフィクションとも言える作品です。そのためにインドではいろいろ問題が起こったのですが、それはまた後述するとして、まずは映画のデータをどうぞ。

(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions 

『パドマーワト 女神の誕生』 公式サイト 
2018年/インド/164分/ヒンディー語/原題:Padmaavat
 監督:サンジャイ・リーラ・バンサーリー
 出演:ディーピカー・パードゥコーン、ランヴィール・シン、シャーヒド・カプール、アディティ・ラーオ・ハイダリー、ジム・サルブ
 配給:SPACEBOX
※6月7日(金)より全国順次ロードショー

(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

デリー・スルターン朝で最初に成立したのが奴隷王朝と呼ばれる王朝でしたが、その奴隷王朝の武将であったジャラールウッディーン(ラザー・ムラード)は、自らの属するアフガニスタンのハルジー族を率いて奴隷王朝を倒し、1290年にハルジー朝を樹立します。そして、甥のアラーウッディーン(ランヴィール・シン)と娘のメヘルンニサ(アディティ・ラーオ・ハイダリー)を結婚させ、自分の意のままにあやつろうとしますが、自分がスルターンになる野望を抱いたアラーウッディーンは、1296年に義父ジャラールウッディーンを暗殺し、スルターンの座に就きます。

 

(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

同じ頃、ラージャスターン地方南部にあるメーワール王国の若き王ラタン・シン(シャーヒド・カプール)は、王妃である妻のための真珠を求めて南の島のシンハラ王国に赴き、王女パドマーワティ(ディーピカー・パードゥコーン)と出会います。パドマーワティはラタン・シンを誤って傷つけてしまい、傷が治るまで彼女の元で過ごしたラタン・シンは、パドマーワティと恋に落ちて結婚します。そして、パドマーワティをメーワール王国に連れ帰るのですが、その美しさを目の当たりにした王国の僧侶がデリーに赴き、アラーウッディーンにそれを告げてしまったことから、アラーウッディーンの征服欲が呼び覚まされてしまいます。自らの領地を広げ、美しいパドマーワティを手に入れるために、アラーウッディーンは腹心の部下マリク・カーフール(ジム・サルブ)と共にメーワール国を手に入れる策を練り始めます...。


(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

このあと、ラタン・シンがアラーウッディーンによりデリーの王宮に幽閉されたり、その夫を取り戻すためにパドマーワティが大作戦(?)を繰りひろげたりと、様々な見せ場が続きます。その中にアラーウッディーンの妻メヘルンニサの活躍も盛り込まれて、女性たちの強靱さがしっかりと描かれているのは、さすが21世紀の歴史映画。演じるディーピカー・パードコーンとアディティ・ラーオ・ハイダリーも熱演で、とても魅力的です。それだけに、男性主人公2人--アラーウッディーンとラタン・シンの描き方が気になります。

(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

アラーウッディーンは、登場した時から美女と見ればすべて手を出し、邪魔者は親友と言えども即息の根を止める、といったように、「鬼畜」のごとき描き方がされているうえ、後年アラーウッディーンに代わって南部の王国を攻めたりするマリク・カーフールはずる賢くて残忍と、イスラーム勢力の男性たちは「インドへの侵略者」という視点で「悪」の存在として描かれています。一方、ラタン・シンの臣下たちは、裏切りを行う僧侶のような人物もいるものの、他は忠臣で、名前すら憶えてもらえないような役柄でも要所要所で忠誠心の発露が見える演出になっています。むしろ、ラタン・シンの方が印象が薄く、王としての威厳が出ていないように感じましたが、アラーウッディーンの「悪」に対する「正義」、激烈な「狂気」に対する「静謐」といった演出が考えられていたとすれば、それは成功したと言えるでしょう。

(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

本作を巡って事態が紛糾している、ということは知っていたのですが、この作品を初めて見た時には上記のような印象から、「イスラーム王朝の人々の描き方が偏っている、とイスラーム教徒から抗議が出て紛糾したのだろうか?」と一瞬思ったほどでした。ですが、インドでのこの作品に対する抗議は一貫して、「ヒンドゥー教徒やラージプート族を侮辱する内容が含まれている」というものでした。『パドマーワト』を巡る問題は、ポポッポーさんのこちらのサイトに『パドマーワト』の紹介と共に詳しく書いてあるのでぜひ読んでいただきたいのですが、まだ映画が出来上がる前に憶測が広がり、「ヒンドゥー教徒やラージプート族を侮辱する内容が含まれている」「この映画は歴史をゆがめている」として監督やディーピカーへの「殺すぞ」脅迫にまで発展した、ということのようです。さらには、「ラージプートの王族の女性は人前では絶対に踊らない」といったこじつけのような非難まで出てきた頃、裁判所が元のタイトル「パドマーワティ」を、「パドマーワト」という物語に依拠しているのだからと『パドマーワト』への変更を命じて(ポポッポーさんのサイトに使われているポスターは以前の『Padmawati』になっています)フィクションであることを強調するよう指示。その他、「サティー(夫への殉死)」等の問題点への弁明を作品の冒頭で示したうえで公開されたのでした。

(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

『パドマーワト』は2018年1月25日に公開されてみると、見た観客の誰もが「どこにヒンドゥー教徒やラージプート族を侮辱する内容があるんだ?」と思ったに違いなく、以後は歴史的事実と違う点(ジャラールッディーンは本当は民衆に慕われた人物だった、等々)の指摘がいくつか出たぐらいで、観客には問題なく受け入れられ、最終的には『SANJU/サンジュ』に続く2018年第2位の興収を上げたのでした。ただ、王妃パドマーワティ(実際の名前はパドミニーで、歴史文書にはほとんど記述されていないようです)に関してはフィクションであることを強調したとしても、これだけヒットすれば映画の内容が真実と受け取られかねないのも事実で、このあたりの恐さもよく自覚して、サンジャイ・リーラー・バンサーリー監督は映画の構成を考えるべきだったのではないかと思います。

(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

歴史劇としては非常に豪華で、かつ重厚な作りで見応えがあります。ただ、最近のサンジャイ・リーラー・バンサーリー監督は、映画の内容よりもむしろ道具立てにこだわりすぎている感があり、それが本作でも目立ちました。反対に言えば、『パドマーワト』は豪華な道具立ての頂点を極めた作品とも言え、インド歴史映画の最高峰を目撃できます。光量の少ないシーンも多いので、ぜひ劇場でご覧になることをお勧めします。最後に予告編を付けておきます。

映画『パドマーワト 女神の誕生』予告編

 

 

週一『SANJU/サンジュ』<5>ダット家とカプール家の因と縁

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インドの映画界は、ボリウッドだけでなくどこでも俳優同士の結婚率がきわめて高いです。まあ日本でもそうなのですが、インドでは特にファンの憧れ度が高いため、共演作が多かったりするとすぐにカップルにされ、結婚を期待されるからかも知れません。今、ボリウッドのカップルで一番結婚に近いとされているのが、本作『SANJU/サンジュ』の主演男優ランビール・カプールと、日本では『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』(2012)で知られるアーリアー・バットですが、この2人も両親は共にスターまたは映画監督。ランビール・カプールの両親は、1970年代・80年代のトップスターであるリシ・カプールとニートゥー・シン。当時の人気カップルでした。アーリアー・バットの方は、父が人気監督のマヘーシュ・バット、母が女優のソーニー・ラーズダーン。リシ・カプールは現在ガンの治療のためニューヨークに滞在中ですが、アーリアー・バットはランビールと共に治療の初期からリシ・カプール夫妻を支えてきた、という記事が出ていました。

『SANJU/サンジュサンジュ』のランビール・カプール

©Copyright RH Films LLP, 2018

前回の記事に書いたように、ナルギスもニューヨークでガン治療に取り組んだのですが、実はナルギスと夫スニール・ダットが築いたダット家と、ナルギスが一時は真剣に結婚を考えていたラージ・カプール、つまりはリシ・カプールの父でランビール・カプールの祖父であるラージ・カプールのカプール家とは、直接の婚姻関係はないのですが、ある因縁がのちに生じるのです。今日はそのお話をちょっとしておきたいと思います。(映画スチールでない写真は、いずれも1979年~81年の1月1日に撮影したものです)


ラージ・カプール(上の上写真手前左)には、息子が3人(本当はあと2人いたのですが、幼い時に亡くなりました)と娘が2人います。前にも書いたように、奥さんのクリシュナー(上写真2枚の白いサリー姿)はやはり俳優であるプレームナートの妹で、1980年頃にはカプール家の文字通りの「主婦」として、一家をまとめていました。親族だけでなく、ラージ・カプールの友人も仕事仲間もR.K.フィルムズのスタッフも、みんなが「バービー(兄嫁、嫂さん)」と呼んで、とても尊敬し、慕っていました。白いサリーを好むことでも有名でした。そのバービーは誕生日が1月1日で、従って元旦にはいつも、ラージ・カプール家で盛大なお誕生日パーティーが開かれたのです。ラージ・カプールの息子たち、長男ランディール(カリシュマーとカリーナーの父)、次男リシとその妻ニートゥ-・シン(ランビールの両親/下の写真)、次女でまだお嫁に行っていなかったリーマー(最近デビューしたアルマーン・ジャイン、アーダル・ジャインの母)、そして三男で末っ子のラージーウがいつもパーティーに集っていました。


ラージ・カプールと親しい芸能人としては、妻クリシュナーの妹と結婚しているプレーム・チョープラー、親友であるラージェーンドル・クマール、女優で司会者としても有能なシミー・ガレーワール、歌手のアーシャー・ボースレーとその夫の作曲家R.D.バルマンらがいて、パーティーの常連でした。下の写真は左から、長男のランディール、ラージェーンドル・クマール、そしてプレーム・チョープラーです。


1981年頃、ラージェーンドル・クマールの息子クマール・ゴゥラヴとラージ・カプールの末娘リーマーは婚約していて、親友同士が親戚にもなる、というので、ラージ・カプールの周囲の人たちはとても喜んでいました。リーマーはラージ・カプール似の色白で青い瞳のきれいな人で、末っ子らしいちょっと気の強いところもありましたが、みんなから可愛がられていました。下は1979年の写真なのでまだ少女っぽいですが、ポラロイド・カメラを持っていたりして、さすがお金持ち、と思ったものです。


リーマーの婚約者となったクマール・ゴゥラヴは、サンジャイ・ダットと同じ年、1981年に『Love Story(ラブストーリー)』という映画でデビューし、甘いマスクで一躍人気者になりました。そして『Star(スター)』(1982)を大ヒットさせたあと、マヘーシュ・バット監督作『Janam(誕生)』(1985)での演技力が認められ、将来を嘱望されるスターとなります。下は『Janam』のビデオカバーで、左からクマール・ゴゥラヴ、シャルナーズ・パーティル(のちに名脇役として活躍)、アヌパム・ケール、アニーター・カンワルです。この作品が公開される直前に、クマール・ゴゥラヴは結婚式を挙げるのですが、1984年12月9日に彼が結婚した相手はリーマーではなく、サンジャイ・ダットの妹ナムルターでした。


クマール・ゴゥラヴとリーマー・カプールの婚約が解消されたのがいつだったかは定かにはわかりませんが、それが原因でラージ・カプールとラージェーンドル・クマールの仲にもひびが入ります。そしてその後、クマール・ゴゥラヴとナムルター・ダットが結婚したことで、さらに2人の亀裂は決定的になりました。ラージ・カプールのナルギスへの仕打ちが、回り回ってこんなしっぺ返しになったように、映画ファンには思われたのでした。『Mother India(インドの母)』(1957)でナルギス、スニール・ダットと共演したラージェーンドル・クマール(下写真真ん中)は、息子の結婚以降特に、スニール・ダットの親友として、彼の政治活動やナルギス亡き後のダット家を支えていきます。クマール・ゴゥラヴとサンジャイ・ダットも、その後マヘーシュ・バット監督作『Naam(名前)』(1986)でダブル主演して大ヒットさせ、こちらも義兄弟であると同時に親友同士となります。

Courtesy: National Film Archive of India

こんな因縁のあるダット家とカプール家。その軋轢は、ランビール・カプールがサンジャイ・ダットを演じたというところで、やっと穏やかな着地点を迎えたように思います。過去の様々ないきさつを知りながらも、ランビール・カプールをキャスティングしたラージクマール・ヒラニ監督。リーマー叔母さんを巡る過去のゴタゴタを水に流し、全力でサンジャイ・ダット役に取り組んだランビール・カプール。どちらもすごい映画人魂ですね。


こんなまるで映画みたいな因縁があって出来上がった『SANJU/サンジュ』。いよいよ6月15日(土)から新宿武蔵野館ほかで公開されます。公式サイトはこちらです。最後に、最新版予告篇(ラージクマール・ヒラニ監督のコメント付き!!)も付けておきますので、ぜひ劇場に足をお運び下さい!

『SANJU/サンジュ』ヒラニ監督コメント映像♪

なお次回は、ソーナム・カプールが代表して演じた「サンジャイ・ダットのガールフレンド像」についてです。さて、うまくまとまるかどうか。何せ実際の数がすごいので...。


「インドネシア&タイ 映画におけるフォークロアとファンタジー」のお知らせ

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国際交流基金アジアセンターの方からお知らせをいただきました。以前、7月2日(火)にあるイベント「響きあうアジア2019:サタンジャワ  SETAN JAWA~サイレント映画 + 立体音響コンサート A silent film with a live 3D sound concert」をこちらでご紹介しましたが、その関連イベントというかプレイベントが6月21日(金)に行われるそうで、いただいたご案内等をそのまま貼り付けておきます。

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6月21日(金)に、国際交流基金アジアセンターの主催により映画上映&トークショーイベント「インドネシア&タイ 映画におけるフォークロアとファンタジー」を開催いたします。

本イベントは、「『サタンジャワ』サイレント映画 + 立体音響コンサート」プレイベントとして、「『サタンジャワ』サイレント映画 + 立体音響コンサート」の音楽・音響デザインの森永泰弘氏と批評家・金子遊氏をゲストに迎え、進行中の音楽制作のプロセスやガリン・ヌグロホ監督の作品世界について語っていただきます。

森永泰弘氏©Takashi Aria

また、『サタンジャワ』のガリン・ヌグロホ監督の初期傑作『天使への手紙』を上映します。
あわせて、<響きあうアジア2019>『フィーバー・ルーム』東京公演を控えるアピチャッポン・ウィーラセタクン監督(タイ)の長編第一作『真昼の不思議な物体』も上映します。

ガリン・ヌグロホ監督©佐藤基

アピチャッポン・ウィーラセタクン監督

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「インドネシア&タイ 映画におけるフォークロアとファンタジー」

 日時:2019年6月21日(金) 16時30分~21時(開場16時)
 会場:アテネ・フランセ文化センター アクセス
    東京都千代田区神田駿河台2-11 アテネ・フランセ 4階
 入場:無料。事前予約不要(先着順 ※定員130名)
 問合せ:国際交流基金アジアセンター 文化事業第1チーム(担当:高橋、森宗)
      jfac_film@jpf.go.jp
 主催:国際交流基金アジアセンター

<プログラム>
 16時    開場
 16時30分 『真昼の不思議な物体』上映(83分)
 18時30分 『天使への手紙』上映(118分)
 20時30分 トークショー(30分)

<上映作品>
 『真昼の不思議な物体』
   監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
   タイ/2000年/モノクロ/35mm/83分/フィルム提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭


 『天使への手紙』
   監督:ガリン・ヌグロホ
   インドネシア/1993年/カラー/35mm/118分


※さらに詳しくはこちらの公式サイトへ

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アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の『真昼の不思議な物体』(上)は同監督の作品上映などで何度か上映されているのですが、ガリン・ヌグロホ監督の『天使への手紙』は1994年の東京国際映画祭・京都大会で上映された後、NHKで放映されたのみで一般公開はなかったと思うため、今回の上映は朗報です。1990年代、ガリン・ヌグロホ監督は首都ジャカルタではない、インドネシアの周縁部に関心を持ち続けており、本作もスンバ島で撮影されています。スンバ島はジャワ島から東へ、大きな島だと4つ目に当たる島で、フローレス島の南に位置します。島の言語はスンバ語で、主人公のレワ(Lewa)少年始め、その父親らはスンバ語で話していますが、学校ではインドネシア語が教えられ、インドネシア語のセリフも飛び交います。


レワ少年は母親をバスの事故で亡くしているのですが、父が事故現場にまだ放置されているバスの残骸に連れて行ってくれた時、そこに貼ってあった西洋人の女性のポスター(「マドンナ」という字が見えましたが、ちょっと顔が違うような...)を母親だと思い込んでしまいます。ですので、学校のインドネシア語の授業で、「Ini ibu(イニ・イブ/これは母です)」という例文が出て来た時、そこにある挿絵がサロン・クバヤを着た女性だったため、先生に「これは母ちゃんなんかじゃない!」と反発してしまいます。そんなことから、天使に手紙を書いて亡き母親に届けてもらおうとする、というのが物語の前半です。そのほか、レワの仲良しで海岸に不時着した戦闘機に住んでいる男や、「ニッポンじいさん」と呼ばれる男が登場し、第二次世界大戦の記憶も呼び覚まされます。様々な面を見せてくれるとても興味深い作品ですので、ぜひ今回、ご覧になってみて下さい。

なお、アジアセンターの公式サイトでは「Lewa」は「ルワ」と表記されています。インドネシア語やマレーシア語は「e」を[u]の音で読む場合もあり、「Lewa」は東京国際映画祭・京都大会のカタログでも「ルワ」になっていました。ですが、NHKでの放映時の字幕は「レワ」で、また、インドネシア映画に詳しい小池誠さんの論文(これは映画をご覧になったあとでお読み下さい)でも「レワ」の表記でしたので、拙文中では「レワ」にしました。貴重な映画が上映され、次のイベント「響きあうアジア2019:サタンジャワ  SETAN JAWA」に関するトークも聞ける盛りだくさんなこのイベント、ぜひお見逃し&お聞き逃しなく、アテネフランセ文化センターにお運び下さい。

 

東京外国語大学でアジア映画関連の催し続く

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府中市にある東京外国語大学。私のハーフ母校(大学院中退なんです;)で、かつハーフ旧職場(移転前の北区西ヶ原キャンパスの時に勤務してたんです、20年も!)なんですが、最近のTUFS-Cinemaを始めとする様々なアジア映画がらみのイベントは、ほんとに「私の在籍/在職中にやってほしかった!」と思ってしまうほど。7月にあるインド映画『マントー』の上映はこちらでご案内しました(TUFS-Cinemaの公式サイトはこちら)が、東南アジア映画関連や香港映画関連の催しも、ちょっとまとめてご紹介してしまいましょう。

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「東南アジアの音楽と芸能」特集

「東南アジアの音楽と芸能」特集(第1回)
『タクスゥ – 魂の踊り子』
2019年6月26日(水)18:30開映(18:00開場)
@東京外国語大学 アゴラ・グローバル プロメテウス・ホール
入場無料、先着501名、申込不要

「東南アジアの音楽と芸能」特集(第2回)
『チョーミン楽団が行く!』
2019年6月29日(土)14:00開映(13:30開場)
@東京外国語大学 アゴラ・グローバル プロメテウス・ホール
入場無料、先着501名、申込不要

(予告編?と思われるものがYouTubeにあったので付けておきますby cinetama)

チョーミン楽団が行く!

「東南アジアの音楽と芸能」特集(第3回)
『影のない世界』
2019年7月6日(土)14:00開映(13:30開場)
@東京外国語大学 アゴラ・グローバル プロメテウス・ホール
入場無料、先着501名、申込不要

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公式サイトでは「詳細準備中」とのことですが、実は昔からの友人でミニコミ誌「台湾流行極点」を出したりしていた石谷崇史さんからメールをもらい、「僕は最近は”音楽ライター”より、消えゆく伝統音楽のドキュメンタリーを作る方にシフトしてきています」として、石谷さんが監督したドキュメンタリー映画『チョーミン楽団が行く!』の上記上映会を教えてもらったのでした。このブログを読んで下さっている方の中には、「台湾流行極点」(↓何と、1993年の号です。あれからもう25年....)を憶えていらっしゃる方もいるはずでは、と思い、ご紹介した次第です。


音楽に詳しい石谷さんが撮ったのなら、きっとセンスに溢れた面白いドキュメンタリー映画になっているはず。詳細がアップされたら、ぜひ東京外大までお運び下さい。

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それから、もう一つの香港映画関連の催しは、映画の上映会ではないのですが、広東語講座の中で香港映画を使った特別講座がこの夏開講されるのです。下記のクラスです。

東京外国語大学TUFSオープンアカデミー2019夏 

「香港映画で学ぼう〜広東語(レベルフリー)」
 開催日(回数):2019年08月27日(火)~08月29日(木) (全3回)
 時間:10:00~12:35
 受講料:9,000 円
 講師:郭 文灝
 定員:21 名
 会場:東京外国語大学 府中キャンパス 

さらに詳しくはこちらのサイトを見ていただければと思いますが、教材になるのが何と『五個小孩的校長(邦題:小さな園の大きな奇跡)』。日本では映画祭上映を経て一般公開もされたのですが、残念ながらDVDにはなっていないようです。でも、2015年の香港映画興収第1位に輝き、アジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映された時には観客賞を受賞したという、見応えのある作品です。主演が楊千「女華](ミリアム・ヨン)と古天樂(ルイス・クー)という豪華版であるうえ、5人の生徒の中にはインド系の姉妹も含まれている、という、もろ私向きの作品でした。私が香港で見た時の紹介はこちらです。子供たちに向かってミリアム・ヨン先生がしゃべる言葉など、平易でわかりやすいので、いい教材になると思います。予告編で聞いてみて下さい。

閉園危機の幼稚園を救えるのか!?映画『小さな園の大きな奇跡』予告編

白状すると、講師の郭文灝先生は現在私たちのクラスも教えて下さっていて、その教え方はまことに見事! 私が取っている広東語のクラスは、東京外語大本郷サテライトで開かれている「初中級Ⅰ」で、ヒマになったし、錆び付いた広東語を何とかしようと4月から通い始めたのですが、郭先生のアグレッシブな教え方に大きな刺激を受けています。毎回、次々とあてられてしゃべる練習をいっぱいしているうちに、あれよあれよという間に90分の授業時間が終わる、という、こんな授業を1回ヒンディー語でやってみたい!と思わせられる授業なのです。ネイティヴの方だからできるのだと言うこともできますが、先生の語学の知識と反射神経の良さを上手に生かした、楽しい授業なんですね。ですので、この夏の短期講座も、きっと楽しく充実したものにして下さると思います。平日の午前中3日間ですが、夏期休暇を取ってでも(マジです)ぜひどうぞ。

LittleBigMaster


「地理を読む!」で出来上がった『バーフバリ』の地図

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インド映画連続講座第Ⅲ期「インド映画を読む!」の<第3回>「地理を読む!」が終了しました。3回開催した講座にそれぞれおいで下さった皆様、本当にありがとうございました。特に今回の講座は初めてお越し下さった方が多く、終了後のアンケートを見ると、インド映画をすでに50本、100本と見ておられる方がほとんどで、びっくりしました。過去のレジュメをお求め下さる方もいつもにも増して多数あり、コピーしたり、付属するプレゼントを用意したりすることにも追われました。

「地理」のお話自体は、広いインドを駆け足で説明する形になってしまって、ちょっとあわただしかったのですが、インドの地名の作り方(単語に「~プル」「~ナガル」「~ガル」「~アーバード」などを付ける)とか、映画の空間での地理の話で、デリーからピラミッドにワープする表現とか、楽しんでいただけたのでは、と思います。私自身としては、この機会に『バーフバリ』の地図を作ってみることができたのが、大きな収穫でした。

『バーフバリ』の地図は、『バーフバリ 伝説誕生』(2015)のオープニングタイトルの所に現れます。あの地図を頭の中に入れて見ると、『バーフバリ 王の凱旋』(2017)と合わせたバーフバリの空間的世界がとてもよくわかるのです。ところが当初はそれに気がつかず、『~王の凱旋』の完全版が上映されたあたりから、あの地図を見直すようになりました。そして、昨年、ラーナー・ダッグバーティがゲストとして来日した時にこう語っていたことで、私の「あの地図がほしい!」熱は一挙に上昇しました。


「ラージャマウリ監督とは初対面だったのですが、彼は初めて会った時に映画のストーリーを語るのではなくて、地図を取り出して広げたんですね。それで、これがマヒシュマティ王国だ、三方が山に囲まれていて、残る一方からは水が流れ落ちている。その滝の下には人々が住んでいて...とか説明されて、それを聞いただけで心を奪われました」(舞台挨拶全文はこちらです)

その後、ネットを一生懸命探したのですが、そんなもの、どこにも出ていません。で、この映画講座の第Ⅲ期のラインアップを決める時に、「地理」もテーマの一つにして、『バーフバリ』の地図を自分で作ってしまおう、と決心したのです。でも、CGなど全然できない私なので、ものすごいアナログ方式で作りました。『バーフバリ 伝説誕生』の冒頭画面をカメラ撮りし、それを貼り合わせたのです。その地図がこちらです。


しかしながら、あの画面ではカメラは(というか、実際に地図があってそれをカメラで撮っているわけではなく、すべてCG上の動きなのですが)最初真上からの俯瞰で動いていたものが、途中からは角度が違ってきています。従って、単純に貼り合わせることができないのです。上の地図に続く箇所はこちらです。


さらにカメラ目線は地表に近くなり、最後はこんな形になったあと、大滝がアップになって物語へと続いていきます。

CGができる方が作って下さると、きれいな平面図になるのでは、とも思うのですが、いかに『バーフバリ』ファンのインド人と言えども、CGまで試みた人はいなかったようです。ただ、私と同じような発想をした人はいるようで、さっき「Baahubali Maps Images」で検索したら、下の地図が出てきました。出典サイトはこちらです。この人は、隠された手がかりをいろいろ探すのがお好きなようですね。

『バーフバリ』はインド本国でいろいろグッズが出ていたので、地図として完成したものをグッズとして売り出して下さればよかったのになあ、と思います。これからもしノベライズ本など出るようでしたら、完全な地図をぜひ付けて下さいね、ラージャマウリ監督。(下の写真は昨年4月末に来日した時のもので、右隣はプロデューサーのショーブ・ヤーララガッダさんです)

というわけで、インド映画講座は毎回、私にとってもすごく勉強になる、楽しい講座となっています。次回のテーマは「歴史を読む!」です。拙ブログでのご紹介はこちらで、会場であるスペース・アーナンディのサイトからお申し込みになれますので、ご興味がおありの方はぜひどうぞ。

 

響きあうアジア 2019「東南アジア映画の巨匠たち」

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「サタンジャワ」に続き開催される「東南アジア映画の巨匠たち」のラインアップが決まりました。ガリン・ヌグロホ監督の『メモリーズ・オブ・マイ・ボディ』以外は、日本のどこかの映画祭等で上映された作品なのですが、東京は初お目見えだったり、ずっと以前に上映された作品だったりして、見逃された作品も多いはず。この機会に、ぜひご覧になって下さい。情報が膨大なので、いただいたプレスリリースをスキャンして貼り付けました。なお、『メモリーズ・オブ・マイ・ボディ』は、このブログではこちらで簡単に紹介しています。

上映日程が掲載されている公式サイトはこちらです。しかし、7月上旬に、どうしてこうもアジアのイベントや上映が重なるのやら。「アジアのイベント&上映・調整さん」とか、ないのかしら...。前売り券も当日券も席は自動指定のため、自分で選べないのが残念ですが、U-25&シニア前売り券がこの安さならしょうがないかも知れません。前売り券は、6月8日(土)12時から発売です。


週一『SANJU/サンジュ』<6>「寝た女は350人」(byサンジュ)に含まれるのはだれ?

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あと2週間ほどで公開されるインド映画『SANJU/サンジュ』。今日は、サンジュことサンジャイ・ダットを巡る女性関係のお話です。

Photo by R.T. Chawla

1981年に22歳でデビューして以降、いい意味でも悪い意味でもずっと注目される男優だったサンジャイ・ダット(以下、サンジュ。上の写真は1990年代半ば頃)。本作の最初では、2013年に武器不法所持罪で再び収監されようとしていたサンジュ(ランビール・カプール)が、妻マニヤタ(ディヤー・ミルザー)の勧めもあって、有名な女性伝記作家ウィニー・ダイアス(アヌシュカ・シャルマー)に会いに行くシーンがあります。いい加減なライターが書いた自分の伝記本に懲りたサンジュが、収監前の猶予期間、1カ月の間に何とか自分の口から真実を語っておきたい、とライターを探していたところ、妻がウィニーの力を見込んで推薦したのです。サンジュは彼女と会って、話を1時間聞いてもらう約束を取り付けますが、その後ウィニーに接触してきたサンジュの旧友であり、悪友でもあるズビン・ミストリ(ジム・サルブ)が、ウィニーにこう言います。「サンジュはとんでもない女たらしだぜ。これまでに寝た女の数を聞いてみろ。200人以下の数だったら大嘘つきだ」

©Copyright RH Films LLP, 2018

で、サンジュの自宅を訪ねたウィニーがサンジュに質したら(上写真)、その答えが「プロの女を除くと308人か? いや、忘れた人もいるかも知れないので350人にしとこう」というもの。このあたり脚本がとてもうまく、ウィニーだけではなく観客も、「サンジュって、ホントにダメな奴」と「案外いい奴かも」の間を行き来して、すっかり物語に引き込まれて行きます。そのあたりの見事な呼吸、ぜひ楽しんで下さいね。

©Copyright RH Films LLP, 2018

こうしてサンジュはウィニーに「1時間」という約束で半生を語っていくのですが、その中に登場する恋人がルビー(ソーナム・カプール/上写真)です。明確には語られていませんが、グジャラーティー語が母語であるパールシーの家庭の娘という設定のようです。ここで、見ている人はあの女優がモデルだな、と気がつきます。その女優はティナ・ムニーム。サンジュのデビュー作『Rocky(ロッキー)』で相手役をした、当時人気上り坂のモダンな感じの美女でした。ティナ・ムニームの家庭は、グジャラーティー語が母語のジャイナ教徒ということで、ちょっと設定は変えてあるのですが、雰囲気は少し似せてあります。下が、ティナ・ムニームの当時のブロマイド写真です。


ティナ・ムニームは1975年、17歳の時にティーン対象のミスコンで優勝して注目され、当時の、というか一時代前の大物俳優兼監督デーウ・アーナンドの作品で1978年にデビューしたのでした。当時すでに55歳だったデーウ・アーナンドと、若いティナ・ムニームという取り合わせはずいぶん奇妙だったことを憶えていますが、当時は今の状況―50歳台の3人のカーン作品に若手女優が起用されて相手役を演じる、という状況と似た、若手男優が育っていないヒンディー語映画界だったのです。『Rocky』で共演したティナ・ムニームとサンジュはたちまち恋に落ち、つきあい始めます。ですが、サンジュは酒とドラッグに溺れることが度重なる上、ティナの相手役に嫉妬したサンジュが相手役リシ・カプールの所に乗り込んで事件を起こすなど、問題行動も目立つようになります。さらに、他の女優との噂は出るは、泥酔して発砲事件を起こし(銃所持の許可証は持っていたらしく、事件後没収されたと伝えられています)逮捕されるは、ということで、結局ティナはサンジュのもとから去ってしまったのでした。その後ティナは、大財閥アンバーニー兄弟の弟の方、アニル・アンバーニーと1991年に結婚し、現在では大実業家夫人として日々を送っています。こんな大物の奥様なので、あまりあからさまに描くわけにもいかなかったのか、サンジュの恋の相手を凝縮したキャラクターとして、ルビーが登場したようです。

©Copyright RH Films LLP, 2018

その後サンジュは実際の生活では、ティナと並ぶ人気若手女優ラティ・アグニホートリーと恋仲になったりもしますが、ドラッグ中毒から脱するためにアメリカで治療を受けたりしているうちにその恋も終わり、その後彼に大きなチャンスが訪れます。マヘーシュ・バット監督作『Naam(名前)』(1986)への出演です。1984年に妹ナムルターと結婚したクマール・ゴゥラヴとのダブル主演で、サンジュの方はネガティヴな主人公でしたが、映画がヒットして注目されたのはサンジュの演技でした。そしてこの映画の撮影期間中に、サンジュはデリー生まれでアメリカ育ちの新人女優リチャー・シャルマーと出会います。映画の成功が後押しをする形で、サンジュとリチャー・シャルマーは1987年10月にニューヨークで結婚、サンジュは28歳、リチャーは23歳でした。そして1988年には、女の子も誕生するのですが、その後間もなくリチャーには脳腫瘍がみつかり、闘病生活を余儀なくされます。リチャーを見舞うためたびたびニューヨークに飛んでいたサンジュでしたが、その陰では共演の女優と次々と浮き名を流し、やがて1992年頃になると、サンジュは離婚を考え始めます。その原因となったのは、下の女優との恋愛でした。

Photo by R.T. Chawla

この人は、そう、今も活躍している人気女優、マードゥリー・ディークシトです。サンジュとは1991年の『サージャン 愛しい人』で共演、2人は恋に落ちます。


『サージャン』の物語は、養護施設育ちで、足が不自由なアマン(サンジャイ・ダット)と、幼い時からアマンをかばってくれる金持ちの息子アーカーシュ(サルマーン・カーン)という親友同士が主人公。アーカーシュの両親に引き取られて大学を卒業したアマンは、「サーガル」というペンネームで詩を書き始め、多くのファンができるようになります。一方、大学を卒業してもフラフラと女の子と遊んでばかりのアーカーシュでしたが、プージャー(マードゥリー・ディークシト)と出会い、真剣に恋するようになります。ですがプージャーはそれ以前にアマンと出会っており、「サーガルの詩が大好き」というプージャーにアマンもいつしか惹かれていたのでした...という三角関係の恋物語で、最後は身を引こうとしたアマンにサーガルが恋を譲り、めでたしめでたしとなります。インドでは大ヒットした作品で、少し前に日本公開された『めぐり逢わせのお弁当』(2013)でもこの映画の主題歌が効果的に使われていましたが、日本でも1996年にNHKで放映されました。


さらに『サージャン』のあと、サンジュとマードゥリー・ディークシトの共演作が大ヒットします。『Khalnayak(悪役)』(1993)です。まるで、その後テロ準備罪と武器不法所持で逮捕されるサンジュを暗示したようなタイトルですが、サンジュは刑務所から脱走する悪人役、マードゥリーは踊り子に化けて彼を捕まえようとする女性看守役でした。この映画を特に有名にしたのが、サンジュを前にマードゥリーが意味深な歌詞を歌い、セクシーな踊りを見せる「Choli Ke Peeche Kya Hai(ブラウスの下には何がある)」のソング&ダンス・シーンでした。

Choli Ke Peeche Kya Hai - Khalnayak | Alka Yagnik & Ila Arun | Sanjay Dutt & Madhuri Dixit

この作品で2人の仲は決定的になったようで、サンジュは離婚を考え、1993年には離婚申請をします。一時は脳腫瘍を克服していたリチャー・シャルマーでしたが、この頃またガンが再発し、闘病していたことも知りながら、サンジュは離婚を切り出したのです。しかしながら、その直後にサンジュは逮捕され、マードゥリーとの仲も自然消滅。傷心のマードゥリーは兄を頼って渡米、そこでお見合いをしたアメリカ在住の医師シュリーラーム・ネーネー氏と1999年に結婚します。今は子供もできてすっかり家庭婦人となっているマードゥリーですが、最近も『Total Dhamaal(大騒ぎ総決算)』をヒットさせるなど、まだまだ女優として活躍するようです。また、先日公開の『Kalank(汚点)』ではサンジュと共演、人々をアッと言わせました。


サンジュの方は、リチャー・シャルマーが離婚後の1996年に病死したあと、1998年にはモデル兼女優のリア・ピッライと再婚します。ですが、リア・ピッライとも2008年に離婚し、同年に今の妻マニヤタ(マニャター)と結婚しています。マニヤタはディルナワーズ・シェイクが本名のイスラーム教徒で、マニヤタは女優として映画に出演した時の名前です。なかなか賢夫人のようで、その姿は『SANJU/サンジュ』の中でも好意的に描かれています。

©Copyright RH Films LLP, 2018

とまあ、やはり長ーくなってしまいましたが、本当にサンジュの半生はジェットコースター人生で、女性遍歴一つを取っても350人の1、2%を紹介するだけでこの長さです。『SANJU/サンジュ』でリチャー・シャルマーとの結婚・離婚や、マードゥリー・ディークシトとの恋愛について取り上げられていない、という点を批判するむきもあるようですが、ラージクマール・ヒラニ監督は本作を、父と息子の愛情物語、親友カムレーシュ(このキャラも、何人もの友人を落とし込んで作られたようです)との友情物語にしぼり、時代と映画界の裏面を背景に描いて見せたかったのでしょう。まずは、6月15日(土)からの劇場公開でご覧になってみて下さい。公式サイトはこちらです。ヒラニ監督のコメントの入った予告編を付けておきます。

『SANJU/サンジュ』ヒラニ監督コメント映像♪

 



中国映画上映と討論会、講演のお知らせ

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専修大学の土屋先生よりお知らせをいただきました。間もなく1989年の6月4日、天安門事件から30年を迎えますが、それに関連する催しが6月8日(土)と6月9日(日)に行われます。いただいたお知らせを貼り付けておきます。

『亡命』上映会と討論
 翰光監督作品/ 90 分 特別バージ ョン/日本語字幕
 6月8日(土)14 時半 〜 上映後に 監督の トーク あり
 専修大学神田校舎1号館3階302 教室
 資料代500円
 主催:週間読書人 
 後援:視覚文化研究会

講演
廖亦武「銃弾とアヘン―天安門大虐殺後の地下記憶」
 6月9日(日)15時~
 東京大学駒場キャンパス21KOMCEE East K011
 主催:東京大学阿古研究室


 ★  ★  ★  ★  ★

6.4天安門事件から、もう30年になるのですね。1989年に香港で買った、中国の民主化を願うマグカップをいまだにペン立てとして使っている私です...。


 

5月と6月は 『神と共に』<その2>『 第二章:因と縁』もすごい!!

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『神と共に 第一章:罪と罰』は、皆さんもうご覧になったことと思います。あの、豪華絢爛なメンツの裁判長たちが仕切る地獄巡り、堪能できましたでしょうか。一瞬しか出て来ない、キム・ハヌルにキム・スアン(『新感染 ファイナル・エキスプレス』や『軍艦島』の名子役です)、キム・ヘスクという、キム3女史の使い方のもったいないこと! 判官も、オ・ダルスにイム・ウォニというシブいコンビで、閻魔大王イ・ジョンジェに負けない存在感でした。『神と共に 第二章:因と縁』は、ド派手な裁判官たちは出て来ず、判官2人のうちオ・ダルスがチョ・ハンチョルに変わるなど、ちょっと地獄に変化あり、なんですが、それ以上に筋立てが豪華になります。ではまずは、作品データからどうぞ。

 

『神と共に 第二章:因と縁』 公式サイト
 2018年/韓国/韓国語/141分/原題:신과함께: 인과 연
 監督:キム・ヨンファ
 出演:ハ・ジョンウ、チュ・ジフン、キム・ヒャンギ、マ・ドンソク、キム・ドンウク、イ・ジョンジェ、ド・ギョンス(D.O.)
 配給:ツイン
※6月28日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー

© 2019 LOTTE ENTERTAINMENT & DEXTER STUDIOS All Rights Reserved

『第一章:罪と罰』で、消防士キム・ジャホン(チャ・テヒョン)を無事に生まれ変わらせることができた冥界からの使者、カンニム(ハ・ジョンウ)、ヘウォンメク(チュ・ジフン)、そしてドクチュン(キム・ヒャンギ)の3人でしたが、ジャホンの件はまだ終わりではありませんでした。ジャホンの弟キム・スホン(キム・ドンウク)が怨霊になってしまった案件が残っていたのです。スホンは、軍勤務の中で面倒を見ていた後輩ウォン・ドンヨン(ド・ギョンス)の銃誤発砲で倒れ、死に到ったのですが、その過程が理不尽だったことから怨霊となってしまったのです。ところが、カンニムはこのスホンを自分が担当する、と言い出します。カンニムら3人は、使者となってから1000年の間に18人を転生させ、もう1人転生させることに成功すれば、彼ら3人も生まれ変われる、というところまで来ていました。

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閻魔大王(イ・ジョンジェ)は、カンニムの願いを聞き届ける代わりに、ヘウォンメクとドクチュンには別のミッションを与えます。それは、もうとっくに冥界に来ていなくてはならないのに、いまだに下界にいる老人ホ・チュンサムを冥界に連れてくるように、というものでした。チュンサム老人が下界に留まっていられるのは、老人とその孫息子ヒョンドンを屋敷神のソンジュ神(マ・ドンソク)が守っているからでした。下界にやってきたヘウォンメクとドクチュンはあれこれ試みますが、ソンジュ神には歯が立ちません。それもそのはず、1000年前にヘウォンメクとドクチュン、そしてカンニムを冥界に連れてきた使者こそ、ソンジュ神だったのです。ソンジュ神との再会によって、3人の過去の記憶が徐々に蘇りますが、それはとてもつらい記憶でした....。

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今回の『神と共に 第二章:因と縁』は、「一粒で三度おいしい」構造となっています。まずは、強力な怨霊となってしまったスホンの死の謎を解き、彼を何とか転生させようとする、カンニムによる地獄巡りのパート。そして第二は、下界にやってきてソンジュ神と出会う、ヘウォンメクとドクチュンのパート。ソンジュ神に貫禄負けしているヘウォンメクとドクチュンですが、なぜかソンジュ神の腰が引けてしまう場面もあり、ファンの期待に応えてヘウォンメクも大活躍。ユーモラスな、心がなごむパートでもあります。そして最後は、ソンジュ神の存在によって記憶が蘇ってしまった、1000年前、高麗時代のヘウォンメクとドクチュン、そしてカンニムのパート。この第三のパートだけでも1本の映画にできそうなぐらいのボリュームがあり、『マトリックス』もどきの衣装姿とは違う、3人の姿が見られて大満足です。下の写真はヘウォンメクの出で立ちで、配給会社さんにご無理をお願いして提供していただきました。ロン毛のヘウォンメク、使者姿と雰囲気が全然違ってこれまたステキでしょう?

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そうだったのか! の驚きの展開もあり、また、超ベテランスターも顔を見せる第三パートですが、本作の最後にあるどんでん返しの下敷きにもなっています。よって本作は、最後の最後までよーくご覧になって下さいね。こんなサービス過剰とも言える2部作を作ったのはキム・ヨンファ監督ですが、初監督作『オー!ブラザーズ』(2004)の時からうまいと思ってはいたものの(イ・ボムスの早老症の弟とそれに振り回されるイ・ジョンジェの兄コンビが忘れられません)、こんな大作を手がけるまでになるとは予想外でした。前作『ミスターGO!』(2013)も、CGでゴリラの野球選手を登場させるなどの手腕を見せてくれましたが、ほぼ全編CGの『神と共に』を、原作のウェブコミックがあったとはいえここまでの作品に仕上げたのはまさに監督の力。今後も楽しみな監督さんになりました。

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『第一章:罪と罰』には登場しなかったマ・ドンソクも、全然神様に見えない意表をついたキャスティングながら、見事にソンジュ神を体現しています。ソンジュ神とは「成主神」と書くようで、家の守り神なんだとか。というわけで屋敷神とも呼ばれるのですが、どっしりしたマ・ドンソクはまさにハマリ役。『新感染 ファイナル・エキスプレス』(2016)で大ブレイクして以来、『犯罪都市』(2017)、『ファイティン!』(2018)等主演作の日本公開が相次ぐマ・ドンソクですが、本作を皮切りに今年も「マ・ドンソク祭り」が控えています。ファンの方はお楽しみに。

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EXOのD.O.ことド・ギョンスや、子役から大人の俳優へと脱皮しつつあるキム・ヒャンギなど、これからが楽しみな若手もじっくり見られて、様々な楽しみ方ができる『神と共に』2部作。ぜひ大スクリーンで、大迫力の映像と音と共にお楽しみ下さい。最後に、チュ・ジフンのファンの皆様、オマケですっ!(ツイン様、ご提供정말 감사합니다 (チョンマル・カムサムニダ))

ヘウォンメク[現在]

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ヘウォンメク[1000年前]

(しばしお待ち下さい)




 

週一『SANJU/サンジュ』<6>魅力的なキャストについて

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『SANJU/サンジュ』の公開も、いよいよ来週土曜日、6月15日に迫りました。この連載も、最後のまとめに入ろうと思います。というわけで、本日はまずキャストのご紹介から。パンフレット風に書いてみましたが、人名のカタカナ表記は公式サイトに倣っています。顔写真等のクレジットは、特に明記していないものはすべて「©Copyright RH Films LLP, 2018」です。

 

ランビール・カプール Ranbir Kapoor(サンジャイ・ダット=サンジュ役)

ボリウッド映画界のサラブレッド中のサラブレッド。曾祖父はインド映画界黎明期の大俳優プリトヴィーラージ・カプール、祖父ラージ・カプールは「インド映画界のキング」と呼ばれた1950~80年代の人気俳優兼人気監督、そして父は祖父の映画でデビューし、1970年代から80年代にかけてトップスターとして活躍したリシ・カプールで、母も女優。さらに、従姉にはカリシュマー・カプール、カリーナー・カプールがいるなど、回り中映画人だらけの中で育ったランビール・カプールは、1982年9月28日ムンバイ生まれの現在36歳。

助監督経験を経て、俳優デビューは2007年のサンジャイ・リーラー・バンサーリー監督作品『Saawariya(愛しい人)』。ハリウッドのメジャー会社ソニーのインド現地製作第1号で、相手役にはやはりデビューのソーナム・カプールが起用されたが、この作品は大コケとなる。翌年の『Bachna Ae Hasino(美人さん、ご用心)』ではディーピカー・パードゥコーンら3人の美女と共演、本作のヒットで若手人気スターの仲間入り。その後、『Rockstar!(ロックスター)』(2011)と『バルフィ! 人生に唄えば』(2012)で演技力が認められ、若手のトップスターに。この2作の演技が評価されてフィルムフェア誌賞主演男優賞を受賞しているほか、本作『SANJU/サンジュ』の演技でも同賞を受賞している。日本公開作品ではほかに、『若さは向こう見ず』(2013)や、ラストシーンにゲスト出演した『PK/ピーケイ』(2014)がある。

デビュー当初から今まで、ディーピカー・パードゥコーン、カトリーナ・カイフ、マヒラー・カーンら多くの女優たちと浮き名を流してきたが、現在はアーリア-・バットとの結婚が秒読み、と言われている。

 

ソーナム・カプール Sonam Kapoor(恋人ルビー役)

日本では、『パッドマン 5億人の女性を救った男』(2018)や『ミルカ』(2013)の出演で知られるソーナム・カプールは、1985年6月5日生まれ。父は1980年代のトップ男優で、今も活躍しているアニル・カプール。その兄が大物プロデューサーのボニー・カプールなので、『マダム・イン・ニューヨーク』の主演女優で昨年亡くなったシュリーデーヴィーは伯母に当たる。さらに、父アニル・カプールの弟サンジャイ・カプールも俳優という、映画人一家に育つ。
ランビール・カプールの項でも述べたように、彼と共に2007年『Saawariya(愛しい人)』でデビュー。続く2009年の『デリー6』での、アイドルになりたいデリー下町の女の子役で人気が出、以後順調にキャリアを重ねる。ダヌシュと共演した『ラーンジャナー』(2013)、『プレーム兄貴、お城へ行く』(2015)などがヒットし、トップ女優の1人に。また、2016年の『ニールジャー』と2018年の『親友の結婚式』では、その演技が高く評価された。これら邦題のある5作品は映画祭公開だったが、『パッドマン 5億人の女性を救った男』の全国公開で日本でも多くのファンを獲得した。
2018年に実業家のアーナンド・アフージャーと結婚。次作『The Zoya Factor(ゾーヤー因子)』は、南インドの人気男優ドゥルカル・サルマーンを相手役に撮影中で、9月公開が予定されている。現在では、弟のハルシュワルダン・カプールのほか、従弟のアルジュン・カプールやその妹ジャーンヴィー・カプールらも俳優として活躍しているという、カプール・ファミリー第二世代の中心的存在である。

 

パレーシュ・ラーワル Paresh Rawal(父スニール・ダット役)

インド映画には欠かせない名脇役。1955年5月30日ムンバイ生まれ。1984年のデビュー以降悪役が多かったが、2000年のコメディ映画『Hera Pheri(ごまかし)』の大家さん役でアクシャイ・クマールおよびスニール・シェッティーを手玉に取り、以後名脇役としてボリウッド映画界には欠かせぬ存在となった。俳優として250本超の作品に出演しており、『オー・マイ・ゴッド~神への訴状~』(2012/Netflix)のような主演作品も何本かある。2014年にはインド人民党(BJP)から出馬して当選、国会議員となった。

 

マニーシャー・コイララ Manisha Koirala(母ナルギス役)

日本でも、『ボンベイ』(1995)や『インドの仕置き人』(1996)、『ディル・セ 心から』(1998)の清純な主演女優として知られているマニーシャー・コイララは、1970年8月16日、ネパールのカトマンズ生まれ。祖父がネパールの首相も務めた名家の出身で、ネパール映画でデビューしたあと、1991年『Saudagar(商人)』でヒンディー語映画界にデビュー。インド人女優とは異なる清楚な美しさでたちまち人気を獲得、特にアニル・カプールと共演した『1942・愛の物語』(1993)は大ヒットとなった。続いて、マニラトナム監督の『ボンベイ』と『ディル・セ 心から』で世界的にも名前が知られるようになる。その後も多くの作品に出演したが、2010年に結婚したネパール人実業家との婚姻生活が2年で破綻し、その直後の2012年には卵巣ガンがみつかって闘病するなど、不幸に見舞われた。2014年にはガンを克服、現在では再び映画女優として様々な作品に出演している。

 

ヴィッキー・コウシャル Vicky Kaushal(親友カムリー役)

(撮影時の写真ですが、劇中の写真ではありません)

現在、最も注目されている男優。1988年5月16日ムンバイ生まれ。パンジャーブ州出身者の父は、映画のアクション監督やスタントマンをしており、ヴィッキーと弟のサニーは映画界を身近なものとして育った。父は息子たちが固い職業に就くことを望み、ヴィッキーを工科大に入れたが、ヴィッキーは自分が勤め人に向いていないと自覚し、演技者養成学校に入る。『血の抗争』(2012)での助監督経験を経て、『Luv Shuv Tey Chicken Khurana(恋愛とかとクラーナー家のチキン)』(2012)で主人公の青年時代を演じてデビュー。その後、2015年の『生と死と、その間にあるもの』(Netflix)の大学生役で注目され、多くの賞を受賞して出演オファーが相次ぐ。日本版DVDが出ている『ラマン・ラーガブ2.0』(2016)、『平方メートルの恋』(2018)、『慕情のアンソロジー』(2018)(いずれもNetflixで配信)等に続き、本作『SANJU/サンジュ』で再び助演男優賞を多数獲得。その後、日本でも映画祭上映された『同意』(2018)がヒット、さらに2019年年明けに公開された『Uri: The Surgical Strike(ウリー:ピンポイント攻撃)』がスーパーヒット、一躍トップスターに名を連ねることになった。現在は映画賞の司会者やパーティーの花形としても引っ張りだこで、ついにはトップ女優カトリーナ・カイフとの恋の噂も出て、大物俳優に上り詰めつつある。

 

ディア・ミルザ Dia Mirza(妻マニヤタ役)

Dia Mirza photoshoot for World Environment Day.jpg(写真はWikipedia "Dia Mirza"より)

1981年12月9日、南インドのハイダラーバード生まれ。父はドイツ人、母は西ベンガル州出身者で、2人ともインテリア・デザイナー。カレッジ卒業後ミスコンで優勝、その後2001年にマーダヴァン、サイフ・アリー・カーンと共演した『Rehnaa Hai Terre Dil Mein(君の胸に住む)』で正式に女優デビュー。以後、ゲスト出演も含めて多くの作品に顔を見せている。日本公開作では『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』(2007)の、映画賞授賞式シーンでシャー・ルク・カーンと共演している。2014年の結婚以降は映画出演は減ったが、プロデュ-サー業に進出、ボリウッド・セレブの1人として輝きを放っている。

 

アヌシュカ・シャルマ Anushka Sharma(伝記作家ウィニー・ダイアス役)

日本では、『PK/ピーケイ』(2014)のヒロインとして人気のあるアヌシュカ・シャルマは、1988年5月1日、インドUP州アヨーディヤ生まれ。父親は陸軍士官というお堅い家に生まれたが、南インドのベンガルールで育って大学を卒業したのち、ムンバイに出てモデルとなる。その後、オーディションでシャー・ルク・カーン主演作『神が結び合わせた2人』(2008)のヒロインに抜擢され、女優としてのキャリアをスタート。ランヴィール・シンと共演した『Band Baaja Baaraat(花婿行列が賑やかに)』(2010)や、再びシャー・ルク・カーンと共演した『命ある限り』(2014)をヒットさせたあと、プロデューサー業にも進出。現在は女優とプロデューサー両方の分野で活躍している。2017年12月にクリケットの花形選手ヴィラート・コーフリーと結婚、2人で仲良く出演するCMも話題になった。

というような、とーっても魅力的な俳優たちが顔を揃えています。大画面でじっくりとご覧下さい。公式サイトはこちらで、全国の上映劇場が徐々に増えつつあります。ラストのランビール・カプールとサンジャイ・ダットによるMVまで2時間39分、「サンジュ・コースター」に乗ってた~っぷりとお楽しみ下さいね。

 

ところで、昨日から、『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』(公式サイト)と『パドマーワト 女神の誕生』(公式サイト)も劇場公開中です。もうご覧になりましたか? 『クローゼット~』のほうはこんな映画評や、子役のハーティー・シン君が気になった人にはこんな紹介があります。拙ブログでのご紹介はこちら。一方『パドマーワト』は、「BANGER!!!」のこちらで紹介されたり、拙ブログでもこちらこちらでご紹介していますので、ご参照の上ぜひ劇場へGO!

 

映画祭関係上映のアジア映画あれこれ

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今年も、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019が開催されます。先日ラインアップが発表されたのですが、それを見てびっくり! 私の大好きな韓国の俳優キム・ユンソクが、何と監督作品を作っているではありませんか! 主演ではありませんが、準主演もしていて、これは見逃すわけにはいきません。そのほか、日本と中国の共同製作作品もあって、ちょっとこの2本だけご紹介しておこうと思います。

 

SKIP シティ国際D シネマ映画祭2019(第16 回)
■期 間: 2019 年7 月13 日(土)~ 7 月21日(日) 9 日間
■会 場: SKIP シティ 映像ホール/多目的ホールほか 〔 埼玉県川口市上青木 3-12-63〕
     メディアセブン 〔埼玉県川口市川口1-1-1 キュポ・ラ7F〕
■公式サイトはこちら

国際コンペティション 10 作品中の、次の2作品だけのご紹介ですみません。映画祭の全容詳細は上記公式サイトをどうぞ。

©SHOWBOX

『未成年』

2019/韓国/96分/英語題名:Another Child/原題:
 監督:キム・ユンソク
 出演:ヨム・ジョンア、キム・ソジン、キム・ヘジュン、パク・セジン、キム・ユンソク

©SHOWBOX

複雑な関係の二人の女子高生を描く、韓国の人気俳優キム・ユンソク監督(下写真)デビュー作。
女子高生のジュリは、父が同級生ユナの母ミヒと浮気をしていることを知り、ユナに忠告するが、逆にミヒが父の子を妊娠していることを知らされる。口論の末、ユナはジュリの母に夫の浮気をばらしてしまう。(公式サイトより)

 

キム・ユンソク監督、来日するのでしょうか? 公式サイトの上映スケジュールには、7月20日(土)の上映に「Q&A」が入っているのですが、彼の舞台登場なら、ぜひお顔を拝みたいです。


© 旅愁2019

『旅愁』
2019/日本・中国/90分/英語題名:Travel Nostalgia
 監督:呉 沁遥(ウー・チンヤオ)
 主演:朱賀、王一博、呉味子

© 旅愁2019

異国の日本で出会った中国人の青年ふたり。彼らのやるせない思いの行方とは?
東京で民泊を営む李風は、近所で個展を開いていた画家の王洋と出会う。李風は、王洋に民泊で絵を飾ることと接客の手伝いを提案し、二人の同居生活が始まる。ある日、王洋の元カノが泊まりに来るのだが…。(公式サイトより)


 呉 沁遥監督のプロフィールは、「中国四川省生まれ。2015 年に来日後、2017年立教大学大学院に入学。万田邦敏教授の元で映画演出を学び、修了作品として本作を製作した。現在はフリーランスで映像関係の仕事をしている」とのこと。将来が楽しみな若手監督の誕生です。

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もう一つの映画祭関連上映は、Periploさんに教えていただいた次のものです。本年4月末から5月にかけて、<カナザワ映画祭「田舎ホラー超大全科」>という催しが名古屋で開催されたようなのですが(ノーチェックですみません)、このたびそれが、東京池袋の新文芸座でも開催されるとのことです。詳細はこちらのブログ「カナザワ映画祭主催者のメモ帳」に掲載されていますので、

開催は8月9日(金)~11日(日)で、その中で「亜細亜怪談オールナイト」と銘打って、アジア映画の旧作が4本上映されます。作品のデータを、上記のブログからコピペさせていただきました。

『アマン』
1995年 インド 129分
監督:コーディー・ラーマクリシュナ
脚本:サッティアナンド
出演:サウンダリヤー、ラムヤー・クリシュナ、ベイビー・スナヤーナ

[注]原題は『Amman(アンマン)』(タミル語)または『Ammoru(アンモル)』(テルグ語)のようです。今は亡きサウンダリヤの主演作で、シヴァガミ役で知られたラムヤ・クリシュナも出演、下のような女神様(アンマン、アンモル)が出現するようです。上映されるのは、タミル語版かも知れません。

Ammoru / Amman

『首だけ女の恐怖』
1981年 インドネシア 85分
監督:H・ジェット・シャリル
製作:アブダイル・ムイス・ソフィアン
原作:プトラ・マダ
特撮:エル・バドラン
出演:イロナ・アガテ・バスティアン、ソフィア・ウェデ、ヨス・サント、シンシア・デウィ

[注]ここに付いているポスターはタイ語版のようなのですが、タイで上映された時のもの、とかなのでしょうか? IMDbをいろいろ調べてみたら、恐らくこの映画では、というのが出てきました。英語というか、ローマナイズのデータを付けておきます。

 

Title: Leak(aにアクサン)
Director: H. Tjut Djalil
Writers: Putra Mada (novel), Jimmy Atmaja (scenario)
Stars: Ilona Agathe Bastian, Yos Santo, Sofia W.D

Leák Poster

『妖獣都市 香港魔界編』
1992年 香港 90分
監督:マック・タイ・キット
製作・脚本:ツイ・ハーク
原作:菊地秀行
脚本:ロイ・ツェト
撮影:アンドリュー・ラウ
音楽:荻野清子
出演:レオン・ライ、ジャッキー・チュン、ミシェール・リー、ユエン・ウーピン、仲代達矢、葉山麗子

『怪屍』
1980年 韓国 85分
監督:ガン・ボング 
出演:ユグァン・オク 、ガン・ミョン、バク・アム 、ワンオク・ファン

ご興味がおありの方は、詳細が新文芸座のサイトに出たら時間等を確認して、いらしてみて下さい。

 

週一『SANJU/サンジュ』<7>いよいよ明日公開です!+オマケ情報『KESARI』

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長らくお待たせしました、ラージクマール・ヒラニ監督作品『SANJU/サンジュ』、いよいよ明日から公開です。もうたびたび、の三乗ぐらい紹介してきたので、ちょっとオオカミ少年気分ですが、いや、これを見逃すとインド映画ファンの名折れです。ぜひ劇場で、目撃して下さいね。今日は基本データのご紹介と、スタッフ側のご紹介をちょっとだけ。

『SANJU/サンジュ』 公式サイト

©Copyright RH Films LLP, 2018

2018年/インド/159分/ヒンディー語/原題:Sanju/字幕翻訳:藤井美佳
 監督・脚本・編集:ラージクマール・ヒラニ
 脚本:アビジャート・ジョーシー
 音楽:A・R・ラフマーン、アトゥル・ラニンガ、サンジャイ・ワンドレーカル
 出演:ランビール・カプール、アヌシュカ・シャルマ、ソーナム・カプール、パレーシュ・ラーワル、マニーシャー・コイララ、ヴィッキー・カウシャル
配給:ツイン
※6月15日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開!(劇場情報は公式サイトをご覧下さい)

(2017年3月ボーパールでの撮影現場にて)

監督:ラージクマール・ヒラニ

1962年11月22日、マハーラーシュトラ州ナーグプル生まれ。大学卒業後プネーの国立映画研究所で編集を学ぶ。その後広告会社に勤務。その時に、監督でありプロデューサーでもあるヴィドゥ・ヴィノード・チョープラー(V.V.チョープラー)と出会い、彼の監督作『アルターフ 復讐の名のもとに』(2000)の編集を担当して才能を認められる。V.V.チョープラーの製作により、2003年『Munna Bhai M.B.B.S.(医学生ムンナー兄貴)』で監督デビュー。『アルターフ』の主演俳優サンジャイ・ダットにヤクザの兄貴分を演じさせ、その父役をスニール・ダットに演じさせるという意外なキャスティングに加え、父子の愛情物語と共に医学界の腐敗をコメディ・タッチで追及した本作は大ヒット、たちまち人気監督となる。続いてシリーズ2作目『Lage Raho Munna Bhai(その調子で、ムンナー兄貴)』(2006)を発表、今度はムンナーを導く存在としてマハートマー・ガーンディーを登場させて、またまた観客を驚かせた。さらに、2009年の『きっと、うまくいく』では点数主義の大学教育を批判し、これまたスーパーヒットとなる。『きっと、うまくいく』が日本でも大ヒットしたのはご承知のとおり。続いて、『PK/ピーケイ』(2014)ではエセ宗教への批判を巧みに展開してみせるなど、毎回ユニークなテーマに切り込むインドを代表する監督である。2018年に『SANJU/サンジュ』が公開され、これもインド国内外で大ヒットした後、一時#MeToo(セクハラ批判)事件に巻き込まれたが、しばらくして何らかの勘違いとわかったようで、今春以降はヒラニ監督支持ムードが広がっている。先日マレーシア国際映画祭の審査員を務めたばかりだが、現在は上海国際映画祭でメイン・コンペの審査員を務めるなど、海外からもひっぱりだこ。本人は、そろそろ次作の構想に取りかかりたいと言っている。

(2017年3月ボーパールでの撮影現場にて。左は本作でサンジュが陳情に赴く大臣を演じるアンジャーン・シュリーワースタウ。彼がかますボケ演技は必見!)


(2017年3月ボーパールでの撮影現場にて)

脚本:アビジャート・ジョーシー

1969年12月1日、グジャラート州のアフマダーバード生まれ。父親は大学教授で、アビジャート自身も文学修士号を取り、大学で教鞭をとっていた。そのかたわら、演劇活動にも従事して脚本を書き、また作家でもある多才な人物である。1998年に、V.V.チョープラー監督の映画の脚本を初めて執筆、続いて『アルターフ』の脚本も担当した。ヒラニ監督とは『Lage Raho Munna Bhai(その調子で、ムンナー兄貴)』(2006)でタッグを組んで以来、全作品で脚本を共同執筆しており、ヒラニ監督のよき相棒である。撮影現場でも常に張り付いて見守っている人で、この二人三脚によって素晴らしいヒラニ監督作品が生まれると言っても過言ではない。弟のサゥミャ・ジョーシーも、作家、詩人、映画監督、俳優として、グジャラーティー語映画界で活躍している。


(2016年9月の来日時のもの)

音楽:A.R.ラフマーン

1966年1月6日チェンナイ生まれ。インド映画界の天才的音楽家であり、至宝的作曲家。父も映画の音楽監督だったが、ラフマーンが9歳の時に死去。幼い時から楽器に親しみ、キーボード奏者として様々な音楽家と一緒に仕事をする。その後CF界で働いていた時に、姉の難病を機に一家全員がヒンドゥー教徒からイスラーム教徒に改宗、A.R.ラフマーンという名前になる。1992年、マニラトナム監督のタミル語映画『ロージャー』の映画音楽でブレイク。以後マニラトナム監督作品を中心に、多くの映画音楽を担当する。『ムトゥ 踊るマハラジャ』(95)、『ボンベイ』(95)、『ジーンズ 世界は二人のために』(98)、『Dil Se 心から』(98)、『ロボット』(10)、『命ある限り』(12)等々、担当した映画音楽でヒットしたものは枚挙に暇がない。イギリス映画『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)では、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞の作曲賞を受賞した。作曲家以外に歌手としても活動し、プレイバックシンガー(映画音楽の吹き替え歌手)のほかポップス歌手としても活躍を続けている。

東京近辺の皆様、上映館新宿武蔵野館のサイトはこちらです。「一週間限定上映」なんてものをブチやぶるべく、どんどん劇場に見に行って下さいね!!


で、明日見に行って下さる皆さんに、たった今、情報解禁になったばかりのニュースをお伝えしましょう! アクシャイ・クマールのこの映画が、8月に公開されます!


『KESARI/ケサリ 21人の勇者たち』8月16日(金)より新宿ピカデリーほか1週間限定公開! 

うぬぬ、また「1週間限定公開」とな!? いくら『バーフバリ 伝説誕生』(2015)がそれで始まって、『バーフバリ 王の凱旋』(2017)の大ヒットへと繋がったからといって、ツインさん、そんなゲンをかつがなくても! 詳しいご紹介は後日また、ですが、この3月にインドで見た時の記事はこちらです。今年は、暑くてチョー忙しい夏になりそうですね~。


 

インド映画自主上映会:テルグ語ラーナー・ダッグバーティ主演作2本上映

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Periploさんからお知らせをいただきました。今回は何と、『バーフバリ』のバラーラデーヴァ役ラーナー・ダッグバーティ主演作2本を連続上映する企画だそうです。合計約290分。5時間近い上映ですが、ファンなら何のその、ですね。がんばってご覧になってみて下さい。

『Krisnam Vande Jagadgurum(宇宙のグル、クリシュナを讃えよ)』

Krishnam Vande Jagadgurum Wallpaper.jpg

 2012/テルグ語/139分/英語字幕
 監督:クリシュ
 主演:ラーナー・ダッグバーティ、ナヤンターラ
■日時:2019年6月29日(土)午後 0:30~
■会場:埼玉県川口市SKIPシティ、彩の国ビジュアルプラザ アクセス 
■料金:大人2,400円
■主催:インドエイガドットコム HP 
    日本語による特設サイト

 Krishnam Vande Jagadgurum Photos

Periploさんのご紹介サイトはこちら。カーヴェリ川長治さんの以前のご紹介ブログ記事はこちらです。

Krishnam Vande Jagadgurum Photos

予告編もどうぞ。

Krishnam Vande Jagadgurum Theatrical Trailer l Rana l Nayantara l Krishh l Suresh Productions

 

続いて....

『Nene Raju Nene Mantri(私は王、私は宰相)』

Nene raju Nene mantri.jpg

 2017/テルグ語/150分/英語字幕
 監督:テージャ
 主演:ラーナー・ダッグバーティ、カージャル・アグルワール
■日時:2019年6月29日(土)午後 4:00~
■会場:埼玉県川口市SKIPシティ、彩の国ビジュアルプラザ アクセス 
■料金:大人2,400円
■主催:インドエイガドットコム HP 
    日本語による特設サイト 

Nene Raju Nene Mantri Photos

Periploさんのご紹介サイトはこちら。カーヴェリ川長治さんの以前のご紹介ブログ記事はこちら

 Nene Raju Nene Mantri Photos

予告編もどうぞ。

Nene Raju Nene Mantri Theatrical Trailer | Rana | Kajal Aggarwal | Catherine Tresa | #NRNMTrailer

まさに、ラーナー祭り。盆と正月が一緒に来たような上映会、お楽しみ下さい!


今年も嬉しいカンヌ映画祭のおみやげ+インド映画人来日の話題など

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先月行われた、第72回カンヌ映画祭。今年も参加なさった石坂健治さんから、データ本「MARCHÉ DU FILM 2019」をいただきました。毎年、本当にありがとうございます~。このブックレットのデータ、いろんな面で役に立ってくれて、ホントに伏し拝みたいぐらいです。カンヌ映画祭の公式カタログではないものの、映画祭の公式配布物なので、信頼できるデータとして使えて大変ありがたいです。時おり前年度や前々年度のデータが訂正してある(昨年の記述では「不明」になっていたのに、今年の記述では昨年度にも数字が出ていたりする)こともありますが、これはむしろ、編集側の誠実さの表れ、ということができるでしょう。


今年も、3年間の記録にまとめてみましたので、ご覧下さい。さすがのインドも製作本数が落ちていますが、反対に中国はまたまた増加。スクリーン数や観客動員数、自国映画占有率も軒並みアップで、中国映画の勢いが止まりません。


ところで、昨年のカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞したのは、日本映画の是枝裕和監督作品『万引き家族』でしたが、今年この最高賞をものにしたは韓国映画『パラサイト』。ポン・ジュノ監督の作品で、主演は我らがガンちゃん、ソン・ガンホです。この作品を絶賛するのが、先日来日したインドのラージーヴ・メーナン監督。昨年の東京国際映画祭で上映された『世界はリズムで満ちている』(2018)の監督ですが、カンヌには毎年のように参加しているそうで、「『パラサイト』は庶民が主人公なんだけど、格差社会で生きている世界の人々にアピールすると思う」とべた褒めでした。監督は今回もタミル語映画の件で来日し、1週間あまり滞在。「一緒にご飯でも」ということで私と友人が合流したのですが、監督は本当にお話がお上手で、こちらが笑い転げるようなお話もいっぱいして下さいました。


『世界はリズムで満ちている』は、現在開催中の上海国際映画祭で上映されており、そこには監督の代わりにプロデューサーである奥様のラターさんが参加中だそうです。この上海国際映画祭では、中国の提唱する「一帯一路」経済圏構想にのっとって、そのルート上の国々の作品を「”一帯一路”電影周」として一挙上映。インドの作品は20数本選ばれているのだとか。また、現在の中国はインド映画にとって重要なマーケットとなっており、インド本国の興行収入順位が、中国での興行収入が加わることでひっくり返ることもしばしば起きています。というわけで、上海国際映画祭にインド映画人の熱い視線が注がれているのでした。



また、昨年のカンヌ映画祭批評家週間で話題になったインド映画『あなたの名前を呼べたなら』も8月2日(金)から日本で公開されます(詳しくは作品公式サイトをどうぞ)が、この作品のロヘナ・ゲラ監督も先日来日して、マスコミの取材を受けました。写真からもわかるように、モデルさんかと思われるような美しくて雰囲気のある人(衣装提供:ne Quittez pas@ヌキテパ青山)で、質問にも丁寧に答えて下さいました。

 (c)2017 Inkpot Films Private Limited,India

オマケでお願いしたミーハーな質問(「ステキなマーケット↑が出てきますが、ムンバイのどこにあるのですか?」など)にも笑って答えて下さった、とても感じのいい監督さんでした。インタビューは7月に入ってから「BANGER!!!」のサイトにアップされる予定で、動画も配信される予定です。


©Copyright RH Films LLP, 2018

その「BANGER!!!」のサイトでは、6月15日から公開された『SANJU/サンジュ』↑の紹介記事が現在アップされています。こちらもご覧になってみて下さい。インド映画界と反社会的勢力との結びつき、今はもうあまり表面には出て来ないのですが、かつての関係が本作では具体的に描かれています。『SANJU/サンジュ』上映劇場等は、公式サイトでご確認いただければと思いますが、当初1週間だけの予定で始まった新宿武蔵野館での上映は、「6月28日(金)まで【好評につき延長決定!】」となりました。やっぱり、日本のインド映画ファンはわかってらっしゃいますね! 現在、上海国際映画祭で審査員を務めている、ラージクマール・ヒラニ監督もお喜びでしょう。ご覧になった皆様、Twitter等でもっともっとこの映画の面白さを広めて下さいね!



必見!!『シークレット・スーパースター』&『ヒンディー・ミディアム』

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蒸し暑くなってきましたね。夏のインド映画どっと出し、すでに公開されている3本はご覧になったことと思います。6月公開の『クローゼットに閉じ込められた僕の奇想天外な旅』、『パドマーワト 女神の誕生』、そして『SANJU/サンジュ』(お陰様で、新宿武蔵野館での上映が1週間延長となりました!)が第一弾、さらにこれに、8月&9月公開の3本が第二弾として続きます。ちょっぴりご紹介した8月2日(金)公開の『あなたの名前を呼べたなら』と、8月9日(金)公開の『シークレット・スーパースター』、そして9月6日(金)公開の『ヒンディー・ミディアム』なんですが、ここのところいろんな仕事であたふたしているため、後者の2本をまずはデータだけでも先にご紹介しておきます。

 

 © AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

『シークレット・スーパースター』 公式サイト
 2017年/インド/ヒンディー語/150分/原題:Secret Superstar
 監督:アドヴェイト・チャンダン
 出演:ザイラー・ワシーム、メヘル・ヴィジュ、アーミル・カーン
 配給:フィルムランド、カラーバード
※8月9日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

 © AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

この作品、試写の時もう、泣きました! 歌手になりたい中学生女子のがんばりの物語、と言ってしまえばそれまでなんですが、彼女を阻むものは何か、それを彼女がどう克服していくか、周囲の人々は彼女をどう手助けするか...等のプロットが実に上手に作ってあって、物語に引き込まれます。彼女の住まいを、グジャラート州のヴァローダラーという地方都市に設定したのもグッド・アイディア。女子の力を侮るな! というメッセージがビンビンで、これは中国で大ヒットしたのもうなずけます。アーミル・カーンのちょっぴりアホな役どころもグー。親指立てたくなりました。また後日、もう少し詳しくご紹介しますので、お待ち下さい。予告編を付けておきます。

『シークレット・スーパースター』予告編

 

『ヒンディー・ミディアム』 公式サイト(準備中)
 2017年/インド/ヒンディー語/132分/原題:Hindi Medium
 監督:サケート・チョードリー
 出演:イルファーン・カーン、サバー・カマル
 配給:フィルムランド、カラーバード
※9月6日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

英語で授業してくれる学校(イングリッシュ・ミディアム校)に娘をやるか、それともヒンディー語で授業してくれる学校(ヒンディー・ミディアム校)にやるか――インドのお受験は、日本でも「カンニング」報道でその一端が伝えられましたが、ほ~んとに大変。小学校お受験のドタバタをかなり極端に描いて、インドでみんなが拍手喝采した本作は、インドの教育制度の予備知識があるとわかりやすいです。それも含めて、後日また。何せ、あの演技派イルファーン・カーンが「金持ち父さん・貧乏父さん」をやってみせるのですから、これは見逃す手はありません。

というわけで、必見中の必見2本、どうぞお楽しみに!



熱い男マ・ドンソクの夏が来た!<1>『無双の鉄拳』

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熱い夏に似合う男、といえば、これはもうマ・ドンソクに決まっています。熱いというより暑苦しい?? いやいや、最近は硬軟取り混ぜたキャラクターにいろいろと挑戦していて、最後に男のマグマが噴射するまで、結構さわやかだったりします。この夏は、そんなマ・ドンソクがてんこ盛り。まず、『神と共に 第二章:因と縁』と『無双の鉄拳』が6月28日(金)から公開。そして、8月2日(金)からは『守護教師』が公開という、夏中ずーっとマ・ドンソク漬けになれるのが今年の夏なのです。『神と共に 第二章:因と縁』はこちらですでにご紹介したので、今日はまず『無双の鉄拳』をご紹介し、少し先で『守護教師』をご紹介することにします。どちらの作品も、ちょっとカワイイ(?)マ・ドンソク転じて大暴れ、そして共演者も味があってストーリー運びもなかなかグーという、「絶対ご損はさせません!」作品です。

 

『無双の鉄拳』 公式サイト
 2018年/韓国/韓国語/116分/原題:성난황소/英語題名:Unstoppable
 監督・脚本:キム・ミンホ
 出演:マ・ドンソク、ソン・ジヒョ、キム・ソンオ、キム・ミンジェ、パク・ジファン
 配給:アルバトロス・フィルム
※6月28日(金)よりシネマート新宿・シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー

©2018 SHOWBOX, PLUSMEDIA ENTERTAINMENT AND B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.

水産市場で働くドンチョル(マ・ドンソク)は、腰が低く、誰にでも愛想がいい男。ところが、ドンチョルはかつて「怒れる雄牛」と呼ばれていたほど血の気が多く、「一度キレたら誰にも止められない」男なのです。それを知っているのは相棒のチュンシク(パク・ジファン)のみ。もちろん、最愛の妻ジス(ソン・ジヒョ)も知ってはいますが、うまい投資話に後先考えずお金を出したりしてしまうドンチョルが頼りなくて、しょっちゅう小言を浴びせているジスにとっては「どこが雄牛よ」という次第。ジスの尻に敷かれながらも、それが幸せのもと、と考えているドンチョルでしたが、ある日ジスが誘拐されてしまいます。やがて誘拐犯はドンチョルを呼び出し、その場に大金の入ったバッグをあらかじめ置いておいて、スマホを通じて「それが奥さんの代価だ」と告げてきます。この奇妙な誘拐犯は、ヤクザの実業家ギテ(キム・ソンオ)でした。彼の卑劣なやり方に、ついにドンチョルは「怒れる雄牛」と化してしまいますが、ギテの悪事は相当大規模なものでした...。

©2018 SHOWBOX, PLUSMEDIA ENTERTAINMENT AND B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.

『無双の鉄拳』の見どころはたくさんありますが、何と言っても冒頭の「恐妻家」ドンチョルが見もの。美しくて気が強い妻ジスにやり込められる情けない姿は、本作の秀逸な助走部分となっています。やり込められるのも当たり前で、ドンチョルは変な運動器具とか、30万ウォンで売れる巨大ガニとか、怪しげな投資話にすぐ乗っかってしまう、世間智ゼロの男なのです。この「怒れる雄牛」の欠点は相棒チュンシクもよーく知っていて、ジスが誘拐された時には、自分が信頼する私立探偵「社長」(キム・ミンジェ)の所にドンチョルを連れて行って助力を頼みます。「恐妻家」ドンチョルに続く見どころがこの「三バカトリオ」で、ドンチョルとチュンシクとのボケとツッコミの漫才かと思うような掛け合い(もちろん、ドンチョルがボケです)に加え、ギャグがすべってる社長の登場で、さらにあれこれ楽しませてくれます。しかしながらこの社長、なりきり名人でもあって、目を見張らせてくれるシーンも出てきますので、お楽しみに。

©2018 SHOWBOX, PLUSMEDIA ENTERTAINMENT AND B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.

もちろん、最大の見どころはドンチョル変じて「怒れる雄牛」になるシーンですが、『無双の鉄拳』での見どころは、悪の側のギテも憎々しくて素晴らしいこと。狂気と紙一重の悪人キャラは、ドンチョルの鉄拳が繰り出されるためのお約束シーンを盛り上げてくれ、観客の鉄拳を待ちわびる気持ちをいや増してくれます。伏線も上手に張ってあって、なかなか出来のいい脚本です。脚本も担当するキム・ミンホ監督は本作が監督デビューらしいのですが、登場人物のキャラ設定がうまい上に動かし方も心得ていて、見る者を映画に引き込んでくれます。

©2018 SHOWBOX, PLUSMEDIA ENTERTAINMENT AND B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.

そして、マ・ドンソクのアクションはもう文句なし! あの丸太ん棒のような腕が、うなりをあげてとんでもないアクションを見せてくれます。今回も目新しいアクションがいくつかあり、悪役の俳優さんが気の毒になるほど。大技はもちろんですが、小技も工夫されていて、それをあとで解説してくれるシーンもあったりと、サービス精神溢れるアクション・シーンが繰りひろげられます。導入部の人のいいドンチョルに代わり、黙々と相手を叩きのめしていく不死身の大迫力ドンチョルが見られる「一粒で二度おいしい」本作は、まさに韓国アクション映画の王道を行っています。

©2018 SHOWBOX, PLUSMEDIA ENTERTAINMENT AND B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.

そして、ラストもしゃれています。まあ、ちょっとご都合主義すぎるっちゃそうなんですが、途中妻のジスもアクションでがんばったりしたので、これくらいはご褒美としてOKでしょう。それにしてもマ・ドンソク、『新感染 ファイナル・エキスプレス』(2016)に始まる、「恐妻家」キャラで作品成功、というレシピが今回も生きましたね。今回はさらに相棒の2人、チュンシクと社長がコメディ・リリーフとしていい仕事を見せてくれ、作品が単調になるのを防いでいます。いろんな見どころ満載の『無双の鉄拳』、後味もいい作品ですのでどうぞお見逃しなく! 最後に予告編を付けておきます。

『新感染』のマ・ドンソクが拳ひとつで誘拐犯に立ち向かう!/映画『無双の鉄拳』予告編

 

インド映画自主上映会:マラヤーラム語映画『Virus(ウィルス)』

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Periploさんからお知らせをいただきました。マラヤーラム語映画の上映会のお知らせです。

Virus Malayalam Movie.jpg

『Virus(ウィルス)』
2019/マラヤーラム語/152分/英語字幕
 監督:アーシク・アブ
 主演:クンチャーコー・ボーバン、パールヴァティほか
■日時:2019年7月6日(土)午後 2:00~
■会場:埼玉県川口市SKIPシティ、彩の国ビジュアルプラザ  アクセス
■料金:大人2,000円
■主催:セルロイドジャパン HP


periploさんの詳しいご紹介ページはこちら。いただいたメールによると、「『沈黙のラーガ』のレーヴァティ、『チャーリー』のパールヴァティ、『ナイジェリアのスーダンさん』のサウビン・シャーヒルなどが出演するパニック系群像ドラマです。決して楽しいストーリーではないと思いますが、現地では大変に好評で、今も売り上げを更新中とのことです」だそうです。レーヴァティは、ヒンディー語映画『マルガリータで乾杯を!』(2014)のお母さん役でもお馴染みですね。サウビン・シャーヒルは『チャーリー』(2015)ではコソ泥役をしていましたし、この春インドで見た私のお気に入り作品『Kumbalangi Nights(クンバランギの夜)』(2018)では、長兄役で貫禄ある名演技を見せてくれていました。こういう主役級の人々がどかどか出ている豪華作品のようですが、下の予告編を見るとパンデミックものかな、という感じです。

Virus Official Trailer | Aashiq Abu | OPM Records

Periploさんのご紹介ページを読んでみると、何と昨年ケーララ州で起きたニパ・ウィルス(Nipah Virus)による感染症の流行を描いたもので、その対応に追われた医療関係者や政府関係者の姿を、実話を元に描いた作品でした。うーむ、こんなことが昨年起きていたとは。昨日、「原因は果物のライチ? 脳炎で子ども130人以上死亡 インド東部」という新聞記事を見たばかりだったので、これも何かのウィルスが原因では? などと思ってしまいました。


サスペンス映画としても出来がいいらしい『Virus(ウィルス)』、ご興味がおありの方はぜひお出かけ下さい。

週一『SANJU/サンジュ』<最終回>:劇場で見てきました!

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公開期間が1週間延長された『SANJU/サンジュ』@新宿武蔵野館。本日、6月28日(金)までなので、最終日前日に見に行ってきました。館内は6~7割の入り。時折笑い声があがり、とても反応のいいお客様と一緒に、大きなスクリーンで日本語字幕付きの画面を楽しんできました。


この作品に関しては、これまでもこのブログでいろいろ書いてきました(「週一『SANJU/サンジュ』<1>ラージクマール・ヒラニ監督とサンジャイ・ダット、<2>サンジュ=サンジャイ・ダットって誰?、<3>もう一人の主役・父スニール・ダット、<4>サンジュの母ナルギスはインド版原節子、<5>ダット家とカプール家の因と縁、<6>「寝た女は350人」(byサンジュ)に含まれるのはだれ?、<7>魅力的なキャストについて、<8>スタッフ情報/いよいよ明日公開です!)し、先日は「BANGER!!!」のサイトにも掲載してもらいました。でも、また作品を見てみると、書きたいことがむらむらと。ラージクマール・ヒラニ監督作品はいつもそうで、ながーく楽しめるのです。

 

©Copyright RH Films LLP, 2018

特に気になったのが、中で引用されているインド映画の懐メロの数々。元ネタをちょっと付けておきたいと思います。

①サンジュのデビュー作『Rocky(ロッキー)』(1981)の歌「Kyaa Yahi Pyaar Hai」

最初の方で、父スニール・ダットが監督し、サンジュが主演する『Rocky』の撮影シーンで使われます。あまりにもサンジュの演技がダメダメなので、父やカメラマン、雑用係などが協力して、女優の写真を見せたり(1975年の『炎』のヒロイン、ヴァサンティー=ヘーマ・マーリニーの写真を見せるのですが、手元が狂って途中から同作の悪役ガッバル・シン=アムジャド・カーンの写真になってしまいます...)して、やっと無事に撮影が終わります。実際のシーンはこちら。相手役は、<6>にも名前を出したティナー・ムニームです。

- Kya Yahi Pyar Hai-Rocky Love Song [HD] (1981).flv

♫Kyaa yahi pyaar hai(キャー・ヤヒー・ピャール・ハィ/これこそが愛なのか)、Haan yahi pyaar hai(ハーン・ヤヒー・ピャール・ハィ/その通り、これこそが愛なのだ)、 Ho dil tere bin kahin lagataa nahin(ホー・ディル・テーレー・ビン・カヒーン・ラグター・ナヒーン/おお、心は君がいないとどこにも向いていかない)、 Vakt guzarataa nahin(ワクト・グザルター・ナヒーン/時は過ぎていかない)♫


©Copyright RH Films LLP, 2018

②父が「師」と仰ぐ歌<1>『Imtihaan(試練)』(1974)の歌「Ruk jana nahin tu kahin haar ke」

開始1時間ぐらいのところで、ドラッグに溺れたサンジュが、送りこまれたアメリカの施設から脱走するシーンがあります。ボロボロになってニューヨークのヴィッキーの所に辿り着き、そこで父と遭遇したサンジュは、母の入院中に録音された両親の会話を聞かされます。その中で母は楽しげに映画音楽の話をし、父が昔勤務していたラジオ・セイロンのライブラリーにあった曲の中から、勇気を与えてくれる曲を「師(ウスタード)」として崇めていたことを思い出させます。その最初に出てきた曲が、上記の曲でした。作詞はマジュルーフ・スルターンプリー。著名なウルドゥ詩人で、1960~80年代に多くのヒンディー語映画音楽に彼の作詞が提供されました。

RUK JANA NAHIN TU KAHIN HAAR KE KANTON PE (The Great Kishore Kumar) Laxmikant Pyarelal.flv

♫Ruk jana nahin tu kahin haar ke(ルク・ジャーナー・ナヒーン・カヒーン・ハール・ケー/立ち止まるんじゃない、何かに負けたままで)、Kaanton pe chalke(茨の道を歩いてこそ)、Milenge saaye bahaar ke(手に入るのだ、春のぬくもりの陰は)♫


©Copyright RH Films LLP, 2018

③父が「師」と仰ぐ歌<2>『Humraaz(秘密を共有する人=仲間)』(1967)の歌「Na munh chhupa ke jiyo」

開始2時間になろうかというところで、父スニール・ダットがサンジュに、母との結婚時に起きた事件を語って聞かせるシーンがあります。当時のボンベイ・マフィアの総元締め、ハジ・マスターンがスニール・ダットに対し「ナルギスはムスリムの誇りだ。ナルギスと結婚する異教徒など許さん。殺してしまえ」と言ったというのです。父はハジ・マスターンに電話して逢い、「愛することが罪なら撃ち殺せばいい」と言ったそうなのですが、その時勇気をくれたのが上記の歌なのでした。作詞はサーヒル・ルディヤーナヴィー。この人も高名なウルドゥ詩人で、詩集もたくさん出ています。映画音楽の作詞も膨大な数にのぼり、この間インドに行った時も、ファンだった出版社社長から延々彼の素晴らしさを聞かされたのでした。これは『Humraaz(ハムラーズ)』で出演者の1人スニール・ダットが歌う歌で、舞台の踊り子ではヘレンの姿が見えます。

HUMRAAZ (1967) na moonh chhupa ke jiyo aur na sar jhuka ke jiyo Mahendra Ravi Sahir

♫Na munh chhupa ke jiyo(ナー・ムンハ・チュパー・ケー・ジヨー/顔を隠して生きていくな)、Aur na sar jhuka ke jiyo(アウル・ナー・サル・ジュカー・ケー・ジヨー/そして、頭を垂れて生きていくな)、Gamon ka daur bhi aaye to(ガモーン・カー・ダゥル・ビー・アーエー・トー/悲しい時がやってきても)、Muskra ke jiyo(ムスクラー・ケー・ジヨー/笑って生きていこう)♫


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④父が「師」と仰ぐ歌<3>『Haathi Mere Saathi(象は僕の友達)』(1971)の歌「Duniya mein rahana hai to」

上記のシーンの少し後、仕事に対する態度が不真面目なサンジュに父が「師匠No.2の歌を紹介しないといかんな」と言ってヘビロテで聞かせるよう運転手に命じる歌。1971年の大ヒット映画で、ラージェーシュ・カンナー(トゥインクル・カンナーの父)とタヌージャー(カージョルの母)が主演した『Haathi Mere Saathi(象は僕の友達)』で象の演技シーンに流れた歌ですが、この歌よりも「Chal chal chal mere hathi, o mere sathi(行け行け行け僕の象、僕の友達)」が大ヒットしました。しかし、「俺は芸をする象かよ」とサンジュはくさったことでしょうね。作詞はアーナンド・バクシーで、この人も1970~90年代、いっぱい映画音楽の作詞をした人です。アーナンド・バクシーの名前は、このあと「第3の師匠」として父の口から出て来ます。

Duniya Mein Rehna Hai Toh (Video Song) | Haathi Mere Saathi | Rajesh Khanna & Tanuja

♫Duniya mein rahana hai to(ドゥニヤー・メーン・ラフナー・ハィ・トー/この世で生きていくためには)、Kaam karo pyaare(カーム・カロー・ピャーレー/仕事をしろ、愛しい者よ)♫


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⑤父が「師」と仰ぐ歌<4>『Amar Prem(不滅の愛)』(1972)より「Kuchh to log kahenge」

ウィニーが書くサンジャイ・ダット伝記本のタイトルになった歌です。ピッタリだなあ、と思ったのですが、このあたりはヒラニ監督の創作でしょうか。ホントにヒラニ監督と共同脚本のアビジャート・ジョーシーは懐メロをよく知っていて、どの映画でも縦横無尽に使い回しています。

Kuch Toh Log Kahenge Logon Ka Kaam Hai Kahana | Amar Prem | Rajesh Khanna, Sharmila Tagore

♫Kuchh to log kahenge(クチュ・トー・ローグ・カヘーンゲー/人は何かと言うものさ)、Logon ka kaam hai kehnaa(人々の仕事なんだよ、あれこれ言うのは)♫


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⑥カムリーの友情に対して流れる歌:『Yaarana(友情)』の「Tere Jaisa Yaar Kahan(お前のような友はどこに)」

アミターブ・バッチャンのヒット映画からです。画像があまりよくないのですが、こちらです。

Tere Jaisa Yaar Kahan | Kishore Kumar | Yaarana 1981 Songs | Amitabh Bachchan

♫Tere jaisa yaar kahan(テーレー・ジャイサー・ヤール・カハーン/お前のような友はどこに)、Kahan aisa yaarana(カハーン・アイサー・ヤーラーナー/どこにこんな友情が)、Yaad karegi duniya(ヤード・カレーギー・ドゥニヤー/覚えているだろう、世間は)、Tera mera afsana(テーラー・メーラー・アフサーナー/お前と俺の物語を)♫

♫  ♫  ♫  ♫  ♫  ♫  ♫

というわけで、『SANJU/サンジュ』をご覧になったら、パンフレット代わりにこのサイトをご訪問下さい。そして、次のツインさん配給作品、8月16日(金)公開の『KESARI/ケサリ』と10月18日(金)公開の『ガリーボーイ』を楽しみにしていて下さいね。今年の2、3月にインドで公開されたばかりの作品です!

 


今週は『マントー』とナンディタ・ダース監督がやって来る!

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うっとうしい雨の日が続きますね。九州の皆さん、大雨は大丈夫でしたか? インドもムンバイが大雨被害に見舞われています。そんなムンバイがまだ「ボンベイ」と呼ばれていた頃、多くの文学者がインド映画の現場に関わっていました。ある人は脚本家として、ある人は作詞家として、またある人はダイアローグ・ライター、つまりは、実際に俳優がしゃべるセリフを書き上げる人として。そんな時代を切り取った映画が、今週無料で見られます。以前こちらでお伝えした、TUFS Cinemaで上映される『マントー』(2018)です。もう一度、主要な情報を載せておきます。

 

映画『マントー』上映(2018/インド=フランス/日本語字幕付/上映時間118分/原題:Manto)

(1)東京
日時:2019年7月4日(木)18:00から、および同7月7日(日)16:00から
場所:東京都府中市朝日町3-11-1 東京外国語大学アゴラ・グローバル内プロメテウス・ホール(定員501)
どちらの回も予約不要。入場無料。先着順。
(2)大阪
日時:2019年7月5日(金)18:00から
場所:大阪大学中之島センター(大阪府大阪市北区中之島4-3-53)(定員192)
大阪会場については、入場無料、事前予約制といたします。
予約専用メール・アドレス: manto2019osaka@gmail.com (おひとりさま2席まで) 

※どの回も、映画上映終了後、ダース監督(下写真)による解説(通訳付き)を実施します。

 

©Aditya Varma

ワークショップ開催 

テーマ: 現代インド女性をめぐる問題:女優として、活動家として
日時:2019年7月9日(火)18:00から
場所:東京外国語大学(東京都府中市朝日町3-11-1)100番教室(定員60)
使用言語:英語(通訳なし)、入場無料、予約不要、先着順.

©Aditya Varma

『マントー』は1946年(インド独立1年前)のボンベイから始まり、1912年生まれのサーダト・ハサン・マントー(ナワーズッディーン・シッディーキー)がウルドゥ語作家としての地位を確立し、妻サフィア(ラシカー・ドゥッガル)と共に作家仲間のイスマト・チュグターイー(ラージャシュリー・デーシュパーンデー)やクリシャン・チャンダルらと語り合うシーンが写されます。彼はまた、映画界でも脚本家として名を馳せており、当時の人気スター、アショーク・クマールら映画界の友人も多くいました。

©Aditya Varma

そして、映画製作の現場ややり手プロデューサー(特別出演:リシ・カプール)とのやり取りなどが登場し、人気女優ナルギスやその母ジャッダン・バーイー(イラ・アルン)が顔を見せるパーティーも開かれたりしますが、やがて1947年8月15日のインド・パキスタン分離独立が到来。当初インドに留まると決めていたマントーも、様々な事情からボンベイを離れ、1948年にパキスタンのラホールに移り住むことになります。ラホールにもファイズ・アフマド・ファイズら文学者仲間がおり、またその後「ロリウッド」と呼ばれるようになるラホールの映画界もあったのですが、マントーは生活困窮を始め次々に困難と遭遇します。その一つが、彼の作品「冷たい肉」を猥褻だとして起こされた裁判で、その様子が劇中ではリアルに再現されています。また、「冷たい肉」の一シーンのほか、マントーの作品が再現されたシーンも、本作には随時挿入されています。

©Aditya Varma

マントーのストレスのはけ口は酒とタバコへと向かい、やがてアルコール依存症の治療のため入院した時にはすでに手遅れで、1955年1月18日、42歳で亡くなったのでした...。

©Aditya Varma

と、こんな風に1946年からの約10年間を描く意欲的な作品で、当時の様子も丁寧に再現されており、見応えがあります。一度見ただけでは人間関係や当時の情勢など、わかりにくいところがあるかも知れませんので、ぜひ事前の予習をしてお出かけになって下さい。事前の予習としては、こちらでマントー作品が読めますのでトライしてみて下さい。 

「黒いシャルワール」 サアーダット・ハサン・マントー 著 鈴木斌、片岡弘次 編訳 

「グルムク・スィングの遺言」 サアーダット・ハサン・マントー 著 鈴木斌、片岡弘次 編訳     ©Aditya Varma   また、英語版wikiなども充実しているのですが、日本語で彼の生涯を詳しく辿っておきたい、という方は、こちらのブログ「インド小説に万歳三唱」でAyesha Jalal "The Pity of Partition: Manto's Life, Time and Work across the India-Pakistan Devide" Princeton Univ., 2013の詳しい内容が日本語で紹介されています。   ©Aditya Varma   映画『マントー』には、主演のナワーズッディーン・シッディーキーを始め、ゲスト出演で実力派、あるいは旬の俳優たちがたくさん顔を見せています。パレーシュ・ラーワル(『SANJU/サンジュ』)、ティローッタマー(ティロタマ)・ショーム(『あなたの名前を呼べたなら』)、ヴィジャイ・ヴァルマー(『ガリーボーイ』)、ディヴィヤー・ダッター(『ミルカ』)、ランヴィール・ショーリー(『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』)等々、インド映画ファンの方なら、登場人物の顔の確認に忙しいことでしょう。こちらもご期待下さい! インド版予告編を付けておきます。
 Manto - Official Trailer | Nawazuddin Siddiqui | Nandita Das | In Cinemas 21st September 2018

 

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