今回はKLでインド映画の新作を3本も見てしまったために、シンガポールではあまりインド映画を追いかけなくてすみました。あと残っているめぼしいヒンディー語映画は『Rustam(ルスタム)』のみ。というわけで、いつも行くビーチ・ロードのショウ・タワーにあるボンベイ・トーキーズに出かけました。入り口を入ると、早くもアーミル・カーン主演作『Dangal(レスリング)』の看板が置いてあります。12月23日の公開予定だというのに、気が早いですね。『スルターン』の向こうを張るようなこの作品は、自分の娘たちにレスリングを教えてメダリストに育て上げた実在の人物、マハーヴィール・シン・フォーガトをモデルにしているそうです。
ボンベイ・トーキーズはロビーの様子がちょっと変わっていました。そして、右手にあったDVDショップにはほとんど品物がなくなり、その代わりに表に映画関連本が並べてあります。その本を売っていた中年の女性の話では、オーナーが変わった、とのことでした。DVDを3枚買って、60代半ばに見えるオーナーと値段の交渉をしたのですが、ちょっと投げやりな感じで、このあと経営は大丈夫なのかな、と不安がきざします。その反面、パキスタンにもコネがあるようで、パキスタン映画『Actor in Law』の予告編がかかったりしていました。
さて、肝心の『ルスタム』ですが、タイトルは主人公の名前で、これだけでパールシー教徒とわかります。ペルシャの有名な物語「シャー・ナーメ(王書)」の登場人物の名前ですね。ペルシャ語読みは「ロスタム」となりますが、インドでは『フェラーリの運ぶ夢』の主人公が「ルーシー」と呼ばれていたように、「ルスタム」という発音になります。日本でも自主上映されたようなので、ご覧になった方もいるかも知れませんね。
お話は、1959年に起こったある殺人事件を巡って展開します。インド海軍の士官であるルスタム(アクシャイ・クマール)は美しいシンティア(イリアナ・デクルーズ)と知り合って恋に落ち、結婚します。ところが、ルスタムが航海に出ている間にシンティアはヴィクラムという社交界に顔がきくプレイボーイと不倫関係に陥ってしまい、予定より早く自宅に戻ってきたルスタムはその不倫現場を見てしまうことに。シンティアが帰宅した後、乗り組んでいる艦からピストルを持ち出したルスタムは、ヴィクラムの家を訪問して彼を銃弾3発で撃ち殺してしまいました。ルスタムはすぐさま逮捕されましたが、ヴィクラムの姉で社交界の花的存在のプリーティ(イシャー・グプター)は激怒し、ルスタムに極刑を、と敏腕弁護士(サチン・ケーデーカル)を雇って裁判に備えます。ルスタムの知人たちも対抗して、同じパールシー・コミュニティの彼を助けようと大物弁護士を雇いますが、なぜかルスタムはそれを断り、自ら弁護人として裁判を戦う、と宣言します。こうして、裁判員裁判が始まりますが、こんなルスタムに不審を抱いたのは、事件を扱ったヴィンセント・ロボ警部(パワン・マルホートラー)でした。彼は事件の背景を探るためデリーに飛び、やがてその背後には海軍の一大スキャンダルが隠れていたことがわかってきます....。
ソング&ダンスシーンのないサスペンス映画で、1950年代のレトロなボンベイを描くことにも力が入れられています。イリアナ・デクルーズとイシャー・グプターのファッションや、当時を再現したインテリアなどは見もので、雰囲気がよく出ています。サスペンス部分は、裁判の進行に従って二転三転していくのですが、脚本もまずまずの出来で、飽きずに最後まで見られました。実際に起きた事件をベースにしているそうで、そのせいか、結末がいまひとつ曖昧な部分もありますが、どうやらこれがデビュー作らしいティヌー・スレーシュ・デーサーイー監督、手堅くまとめたと言える作品でした。予告編はこちらです。
Rustam official trailer|Akshay Kumar|2016
(続く)