Quantcast
Channel: アジア映画巡礼
Viewing all 2373 articles
Browse latest View live

秋の二重丸オススメ韓国映画<その3>『ベテラン』

$
0
0

この秋の二重丸オススメ韓国映画、『尚衣院-サンイウォン-』『技術者たち』に続く3作目は、リュ・スンワン監督作品『ベテラン』です。これがまあ、まさに痛快作そのもので、リュ・スンワン監督の新境地に思わず拍手したくなる面白い作品になっています。日本語の「ベテラン」という地味な発音よりも、韓国語の激音化した「ベッテッラン!」がよく似合う本作、まずはデータをどうぞ。


 『ベテラン』 公式サイト

2015年/韓国/123分/原題: 베테랑
 監督・脚本:リュ・スンワン
 主演:ファン・ジョンミン、ユ・アイン、ユ・ヘジン、オ・ダルス、チャン・ユンジュ 

 配給:C J Entertainment Japan
 宣伝:中目黒製作所、田中館 

※12月12日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー

 

 ©2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

 主人公は、ソウル警視庁広域捜査隊の刑事ソ・ドチョル(ファン・ジョンミン)。けんかっ早くて品が悪いのですが、刑事としての使命感は人一倍、という熱血刑事です。彼の仲間は、そんな部下を持って愚痴ばっかり言っているチーム長(オ・ダルス)に、ハイキックが得意技の紅一点ミス・ボン(チャン・ユンジュ)、立派なガタイのワン(オ・デファン)、そして若くてイケメンのユン(キム・シフ)。今日もドチョルとミス・ボンがガラの悪い金持ちと愛人に化け、高級車窃盗犯事件を追って、車販売会社に来ていました。販売会社の社員が実は窃盗犯で、彼らは売った車に発信器を付け、顧客の所から盗み出してはロシア人一味に売り飛ばしていたのです。ドチョルたちは韓国人一味を捕らえ、彼らと共にプサンに赴いてロシア人たちも一網打尽。ミス・ボンのキックが決まり、「ミス・ボン、ナイスぅ!」と叫ぶドチョルらは、実にいいチームでした。

©2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

そんなドチョルが次に直面したのは、この時プサンまで盗難車を運んでくれたトラックの運転手(チョン・ウンイン)が、賃金未払いで抗議に行った先の大企業で引き起こした自殺未遂事件。調べていくうちに、その企業は大財閥シンジン・グループの中核であり、財閥の御曹司チョ・テオ(ユ・アイン)が事件と関係がありそうなことがわかってきます。テオの異常さをその目で見て、確信を深めるドチョル。テオの腹心であるチェ常務(ユ・ヘジン)は何とか事件をもみ消そうとしますが、チェ常務の悪辣な工作に対し、ドチョルはますます闘志を燃やしていきます....。

©2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

本作の見どころはまず、何と言ってもファン・ジョンミンのはみ出し刑事ぶり。汚い言葉は吐くは、血の気が多くて大暴れするは、上司の言うことは聞かないは....。それでいて、実に魅力的な人物像を創り出しているのですから、ここのところ『国際市場で会いましょう』(2014)、『新しき世界』(2013)、『生き残るための3つの取引』(2010)などで磨いてきた演技力が、さらにパワーアップしていると言えるでしょう。他の役者にはマネのできない、「ファン・ジョンミン・スタイル」が出来上がりつつある感じです。

©2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

さらに、それを受けて立つユ・アインのヒール役がまた見事。「ナッツ姫」ならぬ「ドーベルマン王子」を、アクの強い演技でグイグイと見せていきます。これまでの『ワンドゥギ』(2011)などで見せたさわやかな若者像とは180度違う根っからのワルで、親戚でもある年上のチェ常務をあごで使い、笑顔の裏に潜む酷薄さを思う存分見せつける....。ぶちキレる演技などはまだちょっとかわいく見えてしまいますが、ユ・アインのこの悪役ぶりによって、ファン・ジョンミンの演技がいっそう引き立ちました。ユ・アインも、成長著しいですね。

©2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

そして、リュ・スンワン監督と言えば、やはりアクション。いつも組んでいる武術監督チョン・ドゥホンと共に、本作でもイタいアクションの数々を見せてくれます。車窃盗団一味のアジトでの闘いから始まって、クライマックスの繁華街明洞(ミョンドン)での大アクションシーンまで、見ている観客の生身にこたえるアクションの数々はさすがリュ・スンワン監督ですが、本作ではこれまでと違う点も。本作ではガチのアクションの中に、笑いがいっぱい盛り込まれているのです。リュ・スンワン監督作品では、これまでもコメディとして作られた作品の中ではアクションの中に笑いが上手に取り込まれていましたが、シリアスな作品ではこれが初めてかも。

©2015 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved

それがどんな効果を発揮しているかは、画面を見てのお楽しみ。私が特に好きなのはミス・ボンの活躍するアクションで、主人公ドチョルの声と合わせて、「ミス・ボン、ナイスぅ!」と叫びたくなります。ミス・ボンを演じるチャン・ユンジュ、これがスクリーン・デビューというから驚きです。また、チェ常務を前に、アクションシーン以上に胸がすくようなシーンを見せてくれるのが、ドチョルの妻を演じるチン・ギョン。このシーンは脚本のうまさが際立つシーンともなっており、そこ、リプレイして、と願ってしまったほど。リュ・スンワン監督、これまで男優の使い方がうまい人だとは思っていましたが、実はなかなかのフェミニストでは、と認識を新たにしました。

そのリュ・スンワン監督は、現在来日中。本日新宿で行われたイベントに登場したはずで、こんなレポートが早くもアップされています。武田梨奈、カッコいいですね~。事前にご案内できずすみません。

『ベテラン』の過激な予告編はこちらです。本編はこの何倍も面白いので、ご期待下さい!

映画『ベテラン』予告編

 


明日から開幕第16回東京フィルメックス

$
0
0

以前概要をお伝えした第16回東京フィルメックスが、いよいよ明日から始まります。上映作品に関してはこちらでご案内したのですが、蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督特集の作品が増えています。というわけで、あらためてツァイ・ミンリャン監督特集の上映作品一覧を付けておきます。

<特集上映 ツァイ・ミンリャン>

『青春神話』


台湾/1992年/106分/原題:青少年[口那][口乇]/英語題名:Rebels of the Neon God
主演:陳昭榮(チェン・チャオロン)、李康生(リー・カンション)、苗天(ミャオ・ティエン)

『愛情萬歳』


台湾/1994年/118分/原題:愛情萬歳/英語題名:Vive L'Amour
主演:楊貴媚(ヤン・クイメイ)、陳昭榮(チェン・チャオロン)、李康生(リー・カンション)

『河』


台湾/1997年/115分/原題:河流/英語題名:The River
主演:李康生(リー・カンション)、苗天(ミャオ・ティエン)、陳湘(チェン・シアンチー)

『ふたつの時、ふたりの時間』


台湾、フランス/2001年/116分/原題:你那邊幾點/英語題名:What Time Is It There?
主演:李康生(リー・カンション)、陳湘(チェン・シアンチー)

『楽日』

台湾、フランス/2003年/82分/原題:不散/英語題名:Goodbye, Dragon Inn
主演:李康生(リー・カンション)、陳湘(チェン・シアンチー)

『ヴィサージュ』


フランス、台湾、ベルギー、オランダ/2009年/141分/原題:瞼/英語題名:Face
主演:李康生(リー・カンション)、ジャン=ピエール・レオ

短編集

『無色』


台湾/2012年/20分/原題:無色/英語題名:No Form
主演:李康生(リー・カンション)

『行者』 


香港/2012年/27分/原題:行者/英語題名:Walker
主演:李康生(リー・カンション)
※ブログでの紹介記事はこちら。 

『無無眠』 


台湾、香港/2015年/34分/原題:無無眠/英語題名:No No Sleep
主演:李康生(リー・カンション)、安藤政信
※ブログでの紹介記事はこちら。安藤政信ファンの方はお見逃しなく。

上映スケジュールをスキャンしました。Q&Aの赤い印がある上映は、終了後ゲストが登壇する作品です。


では、いつものように、「有楽町で会いましょう!」


 

第16回東京フィルメックス:私のDay 1

$
0
0

昨日より始まった第16回東京フィルメックス、本日より有楽町に出勤です。今年からチケットのシステムが変わり、QRコードによる入場となりました。プレスカードもそれに準ずる形になったため、午後3時からの本日一番上映の前には少々混乱も。でも、係の方の対応がとても丁寧で、あとの人がつかえているのにと思いつつも、ついこちらも丁寧になってしまいます。そんなこんなで上映開始が何分か遅れましたが、ほぼ満員の会場で、ジャファル・パナヒ監督のイラン映画『タクシー』(2015)を楽しんできました。

『タクシー』

イラン/2015年/82分/原題:/英語題名:Taxi
 監督:ジャファル・パナヒ(Jafar PANAHI)
 出演:ジャファル・パナヒ、ハナ・サエイディ
※2015年ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作品

ご承知のように、ジャファル・パナヒ監督は2010年に、イラン当局から「20年間映画製作は禁止、国外に出ることも許可しない」と申し渡されました。でもその後も、あの手この手を使って映画を撮っているパナヒ監督は、2011年には『これは映画ではない』という人を喰った題名の作品を製作し、この作品もフィルメックスで上映されました。そして、これもフィルメックスで上映された『閉ざされたカーテン』(2013)に続き、今回は監督がタクシー運転手になるという驚きの作品『タクシー』が登場。『これは映画ではない』に倣うと、「私は監督ではない」とでも名付けたい作品です。

冒頭では、黄色いボディーのタクシーの、フロントガラスから見えるテヘランの風景が写し出されます。ははあ、カメラがタクシーの正面席に据え付けてあるんだな、などと思っていると、乗客が次々乗ってきて(イランのタクシーは今も乗り合いタクシーのようです)人声が聞こえてきます。と思ったら、カメラがぐるっと反転して、乗客の顔が写し出されるのです。

その乗客たちが実に個性的です。いやもう個性的すぎて、大笑いできます。そして、カメラは運転席に座るパナヒ監督に向き、すると乗客が「ジャファル・パナヒ監督でしょ?」と言い始めます。見ている側は、この乗客たちは偶然タクシーに乗ってきた人たちなのか、それとも仕込まれた俳優たちなのか、と、このあたりから頭を悩ませることになるのです。とてもトリッキーで、ウィットとユーモアに富んだ作品です。

Taxi Teheran (aka Taxi) Movie Poster #2 - Internet Movie Poster Awards ...Filmplakat: Taxi Teheran (2015)

上のポスターに出てくる、金魚やバラを持った人も乗ってきます。金魚を持ったおばさんたち、「チャシュメー・アリー(アリーの泉)に行って」と言うのですが、郊外のチャシュメー・アリーまではだいぶあると思うのに、金魚など持って大丈夫かしら、と思っていたら案の定...。そうそう、一人だけ出演者に名前が出ているのでかわいい乗客も乗ってきます。パナヒ監督の姪である、小学生のハナ・サエイディちゃんです。このハナちゃん、とってもかわいくて、とってもおしゃまで、とってもおしゃべりで、ジャファルおじさんもたじたじ。上に使ったスチール写真の右側がハナちゃんです。モフセン・マフマルバフ監督の娘のハナちゃんと同じ名前だけあって、映画も撮ったりしているのですが、それが「上映許可が下りないの」とか言って、大いに笑わせてくれます。

そんな、深読みできるセリフも満載ですし、見事なオチも付いてます。さすが、ベルリンの金熊賞。そうそう、金熊賞を受賞したベルリン国際映画祭では、出国できないパナヒ監督に代わって、ハナちゃんがトロフィーを受け取ったそうです。おしゃべりハナちゃんの映像、予告編でチラ見してもらいましょう。ここに出てくる人々、実際に本編で見ると面白さ100倍なんですよ。

JAFAR PANAHI'S TAXI Trailer | Festival 2015

『タクシー』はもう1回、11月29日(日)の午後9時15分から上映されます。フィルメックスの公式サイトはこちらです。 ぜひご覧下さいね。



第16回東京フィルメックス:私のDay 2

$
0
0

昨日は書く時間がなかった23日の上映とイベントの報告です。この日見たのは、カザフスタン映画『わたしの坊や』。実はその後にあるフィルメックス恒例のイベント、「字幕翻訳セミナー」でこの映画が取り上げられると聞いて、見ることにしたものです。本当は、中央アジアもアジアの一部として、カザフスタンやタジキスタン、キルギスなどの国の映画もカヴァーしないといけないのですが、このあたり、旧ソ連領ということでまったく研究対象からはずしていた私は、これまで見るのを極力サボっていたのでした。というわけで、久々のカザフ語の映画です。

『わたしの坊や』

カザフスタン/2015/78分/原題:Bopem
 監督:ジャンナ・イサバエヴァ(Zhanna ISSABAYEVA)
 出演:ルスラン・アビブラエフ、ベカレィス・アブディガッパル


ジャンナ・イサバエヴァ監督(上写真)は1968年生まれ、現在47才の女性です。しかし、本作はかなりきつい作品というか、人を殺すシーンが何度か登場する、復讐劇なのです。舞台は、カザフスタンにあるアラル海沿岸の街。でも、アラル海自体がもう全面積の9割以上干上がってしまい、砂漠化しているので、元アラル海が舞台と言ってもいいかも知れません。干上がった土地には多くの船がうち捨てられているそうで、そんな船の1つを根城にする14才の少年ラヤンが主人公です。ラヤンは病院で余命宣告を受け、あと2、3ヶ月しか生きられないだろうと医者に告げられます。彼の中には、5才の時に亡くした母との思い出が色濃く残っており、その母を死に追いやった警察官を許すことができません。自分は間もなく死んでいく身だとわかったラヤンは、その警察官や恨みに思う人々を手に掛けて行きます....。

この復讐劇の合間合間に、幼いラヤンと母の回想シーンが何度か差し挟まれます。回想シーンによく登場するのは、芥子の花のように見える真っ赤な花が咲き乱れるの野原で、上映後のQ&Aでは監督が質問に答え、母親の存在した肯定的なイメージの世界を表し、母のいない厳しい世界と対比させるためにあのイメージを使った、と答えていました。回想シーンでは母と幼い息子のゆったりした会話が流れ、反対に現実のシーンでは死の宣告、見捨てられたような町、朽ち果てた廃船、ボロボロの赤旗、火事、殺人など、ひりひりするようなシビアなシーンが続きます。本作の物語は特にこういう事件があったわけではなく、オリジナルのストーリーなのですが、アラル海の環境問題は十分に意識して作った、と監督は述べていました。

それと、原題の「Bopem」はカザフスタンではよく知られた子守歌の歌詞で、日本語で言うと「ねんねんころりよ~」に当たるような、子守歌を象徴する言葉だとか。


そして、字幕翻訳セミナーのテキストに使われたのは、回想シーンのうちの一つ、母親がラヤン少年を抱いて歩きながら、彼の名前の由来を教えてやる場面でした。東京フィルメックスの字幕翻訳セミナーは、中国語映画の字幕翻訳家である樋口裕子さん(中国語通訳としては渋谷裕子さんのお名前で知られています/下写真左側)がプロデュースして数年前から始まったもので、当初字幕制作会社の方のお話などを聞いたあと、字幕翻訳家の斉藤敦子さん(下写真右)を講師にした講座がここ4年ほど続いています。過去のセミナーの紹介は、こちらをどうぞご覧下さい。斉藤さんがどんな方かというご紹介もしてあります。


テキストは毎回、みんながわかるように英語字幕台本が使われます。今回の『わたしの坊や』の英語字幕は、ジャンナ・イサバエヴァ監督自身が制作したそうで、斉藤さんはできるだけ監督の意図を生かして、英語字幕に忠実な訳を心がけたとのことでした。母親と幼い息子の会話ではもっぱら母親がしゃべっているのですが、「あの線は”地平線”と言うのよ」から始まって、「天国にはアル・ラヤン(ar-Rayan)という名の門があるの/天国の門から入る人は渇きに苦しむことはない/”ラヤン”は渇きを覚えない人のことよ/お前の名前は自分の運命を表しているの」というような会話でした。ここに書いた訳は私の訳ですが、21ある英語字幕を参加者が順番に訳していきます。そして、その都度斉藤さんがコメントし、会場からも意見が出て、議論が弾みます。最後の字幕などは、「子供に”運命”と言ってもわからないのでは?」というような異論も出て、斉藤さんが考え込む場面もあったりしました。


その後、斉藤さんが「仮ミックス」と呼ばれる段階で付けた字幕を見せてもらい、さらに本番用に付けた字幕も見せてもらえるという、実に贅沢なセミナーです。今回はそれに加えて、字幕のフォントの話なども出て、いろいろ勉強になりました。


なお、「ar-Rayan」は、あの時アラビア語の冠詞が付いた形の「al-Rayan」ではないか、と発言しておいたのですが、帰宅後調べてみるとその項目がウィキにありました。その項目では「Al Rayyan」となっていて、「灌漑の水源」「イスラーム教では天国の門のこと」となっていました。きっと英語字幕は、実際の音に合わせて表記されていたのですね。

字幕に興味のある方、映画の好きな方は、次の東京フィルメックスではぜひ斉藤敦子さんの字幕翻訳セミナーに参加してみましょう。映画がさらによく理解できて、面白いですよ~。


第16回東京フィルメックス:私のDay 3

$
0
0

ここのところ1日遅れのご報告ですが、24日(火)はネパール映画の日でした。ミン・バハードゥル(フィルメックスのカタログの表記”バハドゥール”は間違い)・バム監督の『黒い雌鶏』です。フィルメックスの公式サイトはこちらです。

『黒い雌鶏』


ネパール、フランス、ドイツ/2015年/91分/原題:Kalo Pothi/英語題名:The Black Hen
 監督:ミン・バハードゥル・バム(Min Bahadur Bham)
 出演:カドカ・ラージ(パンフの”ラジュ”よりこちらの方が適切)・ネパリ、シュクラ・ラジュ・ロカヤ、バハードゥル・マラ、ハンシャ・カドカ、ベニシャ・ハマル


物語は2001年のネパール北部の村が舞台となります。ロケはミン・バハードゥル・バム監督(上写真)の出身地で行われ、あとのQ&Aで監督が語ったところによると、監督の小学校時代のの先生たちが、村長役や村の雑貨店の店主役を演じているそうです。

映画の幕開けでは、マオイスト(毛沢東思想を信奉する武力闘争派)との戦いが停戦となり、村に国王(2001年6月にビレンドラ国王の殺害事件があったので、その後に即位したギャネンドラ国王でしょうか)がやってくる、というので、村長の家はご馳走の食材集めに大わらわ。各家庭から鶏が買い上げられ、それを届けに来る人などで大騒ぎです。村長の孫娘ウジャーレ(ベニシャ・ハマル)は小学校の先生をしており、教え子には彼女の弟キラン(ハンシャ・カドカ)やその親友プラカーシュ(カドカ・ラージ・ネパリ)もいました。村には時折マオイストの宣伝活動隊がやってきて、文化活動と称して人々に寸劇や映画を見せ、自分たちの思想を広めていました。

プラカーシュの家は貧しく、父(ジート・バハードゥル・マッラ)が雑多な仕事をして何とかその日を暮らしています。鶏を提供してがっかりするプラカーシュに、姉(ハンシャ・カドカ)は自分の奨学金で白い雌鶏を買い与えてくれ、プラカーシュはその雌鶏に「カリシュマ」という名前を付けてかわいがっていました。ところがある夜村にマオイストの人狩りがやってきて、姉を始め、村の若者たちを連れ去って行きます。自分たちの軍隊に加えるためです。残されたプラカーシュは姉のことを心配しつつもキランと共にカリシュマをかわいがっていたのですが、そのカリシュマを父が勝手に売ってしまったために、2人は雌鶏を追って行くことになります...。


終了後のQ&Aでは、右からプロデューサーのデバキ・ライさん、ミン・バハードゥル・バム監督、女優のベニシャ・ハマルさん、そして同じくプロデューサーのアヌープ・タパさんが登壇。一番左は司会の市山尚三さんです。最初の挨拶を除き、あとの質問は監督が1人で全部答えてしまったのがちょっと残念でしたが、いろんな質問が出て監督も燃えたようでした。


まず、「ネパールにおけるマオイストの立ち位置、そして、雌鶏はどういうメタファーで使われているのでしょうか」という質問が出ました。監督は「マオイストは現在政権を取っています」と彼らに関して簡単に説明し、雌鶏については、「女性を象徴しています。白い雌鶏が黒く塗られるのは女性に対する差別を表し、社会の暗部を示しているのです」とのこと。

また、村長の孫息子であるキランと貧しいプラカーシュは親友なのですが、実はカーストが違います。映画の中では「不可蝕民」カーストに対する差別なども描写されており、それに対して、「映画を見たネパールの人からはどういう反応がありましたか」という質問も出ました。「ネパールではまだ上映されていませんが、海外の映画祭での上映時に見てくれたネパール人は、泣きながら私の所に来て、内戦時代のことがよく描かれている、と言ってくれました。カーストに関しては、ネパールには200以上のカーストがあります。この映画では、カーストが違う主人公の子供たちが親友になっていますが、カースト間の差別も歴然として残っています。カースト制度というものが社会的な問題なのか、それとも文化なのか、どちらだと捉えるかは難しい問題ですね」と監督は答えていました。


「出演者は皆さんアマチュアでしょうか? どこかの村人がまとまって出演とかなのですか?」という質問に対しては、「プロの俳優は、ここにいるベニシャと、マオイストの司令官を演じた男優だけです。あとは皆さんアマチュアです。撮影した村の人たちは、ほとんどの人が映画すら見たことがないと思います。主人公の少年たちは4ヶ月余りかけて、17の村から選び出しました」と答え、冒頭に述べたように「私の小学校の先生も出演しています」と語ってくれました。

あと私が気になったのは、一つはプラカーシュの夢のシーンで、仏教、ヒンドゥー教の僧侶、そしてイスラーム教信者がずらりと登場するシーンです。イスラーム教徒は羊を犠牲に捧げているような描き方がしてあり、彼らの前をマオイストが横切っていったりする、メタファーと言うにはわかりにくい夢のシーンでした。それと、主人公たちの名前がプラカーシュ(光)、キラン(光線)、ウジャーレー(ウジャーラー=夜明けの光)という光のオンパレードなので、これには何か希望を持たせるというような意味があるのかしら、ということでした。質問してみると後者に関してはやはり意図的にこういう名前が選ばれたとのことでした。夢のシーンに関しては、「子供が見る夢としてはちょっとキツイのでは、といろいろ悩んだのですが、どのような宗教であってもすべてはつながっており、その中にテロもあったりするし、マオイストも入り込んでくる。それが子供にどう見えているか、ということで撮りました。別のシーンでは、マオイストが花を持っている、というシーンも入れてありますよ」という答えでした。その夢のシーンも出てくる予告編はこちらです。

Kalo Pothi Official Trailer

あと、「カーストがある中で、映画俳優にはどんな人でもなれるのか」という質問も出ました。それに対しては、「下のカーストの人は学校に行けない人も多く、教育を受けていないからやはり俳優になるのは困難だ」という監督のしごくまっとうな答えが。どの質問にも、熱心に答えてくれたミン・バハードゥル・バム監督でした。


実はこのほかにも何人かの関係者が来日していたのですが、本作上映中にスマホを見ていた人がいたようで、上映中何だか明るいな、と私も気になって見たら、他の観客から注意を受けていました。インドの商業上映映画館ではこういう悪いマナーが横行しているのですが、ネパールでも同じなのかも知れません。ゲストの皆様、日本ではダメですので、気をつけて下さいね。


その後、ホールの外ではいつものようにサイン会が行われ、監督を前から知る人やネパール好きの人が監督を取り囲んでいました。その隙に、私は美しい女優のベニシャ・ハマルさんにお願いして何枚か写真を撮らせていただきました。Q&Aでも何か答えて下さるとよかったのに。


ベニシャさんによると、ロケ場所の言葉はムゲリ語という彼女にはまったくわからない言葉だったそうで、しゃべるのが大変だったとか。技術的には今一歩の作品でしたが、この作品がネパール映画を変えていってくれるといいですね。

この上映のあとは、ちょっと京橋まで移動してフィルムセンターでやっている「韓国映画1934-1959」で『半島の春』(1941)を。日本語と韓国語のセリフの混ざり具合が非常に興味深い作品でした。こちらの上映は12月26日まで続きますので、こちらをご参照のうえフィルムセンターへもぜひどうぞ。


第16回東京フィルメックス:私のDay 4(前半)

$
0
0

Day 4は充実の1日でした。3本見たのですが、1本目と3本目が好みの作品で、しかも見応えたっぷり。特に1本目のチベット語映画『タルロ』が、多分今回の私的ベストワン作品になりそうです。順番にご紹介していきましょう。

『タルロ』


中国/2015年/123分/原題:塔路/英語題名:Tharlo
 監督:ペマツェテン(万瑪才旦/Pema Tseden)
 出演:シデニマ、ヤンシクツォ


『オールドドッグ』(2011)も私の大好きな作品ですが、ペマツェティン監督(上写真)、初めてお顔を拝むことができました。今回の『タルロ』もすごい映画で、どうしたらこんな作品が撮れるのか、と見ながら圧倒される思いでした。

『タルロ』の冒頭は、チョー長回し映像です。チベットの小さな町の警察署で、男が毛沢東の文章を読み上げています。「人民に奉仕せよ、1944年、毛沢東」から始まるその長い文章を、男は抑揚を付けてえんえんと語っていきます。警察署の壁に書かれているのは、まさに「人民に奉仕せよ(為人民服務)」の文字。ずっと聞いていた警察署長(字幕には「所長」と出ていましたが、派出所というには大きな規模の警察署なので、やはり「署長」では? とこんな重箱の隅が気になる字幕翻訳者のサガ...)は「すばらしい記憶力だ」と褒め称えます。

男の名は通称「三つ編み」で、本名が「タルロ」。羊飼いをしていて、自分が世話をしている375頭のひつじの特徴をみんな言うことができます。そのうちの100頭ほどがタルロ自身の羊で、普段は人里から遠く離れた牧草地で暮らしているのでした。タルロは身分証を作らないといけないと言われ、警察署に出向いて来たのですが、通達からだいぶ遅れてやって来たためにすでに警察署では写真を撮る用意がなく、タルロはバイクで大きな町へと向かいます。

この警察署のシーンがワンカットなのです。モノクロの映像とも相まって、冒頭から強烈な印象を与えてくれます。そして、署長が紹介してくれた町の写真館でのシーンも秀逸です。今のチベットを象徴しているかのような、撮影背景画や写真を撮っている夫婦のコスプレ。タルロの番になったのですが、髪があまりにボサボサで、写真館の女主人は向かいの理髪店で洗ってこいと言います。その理髪店にいるのは若い女性ヤンツォ。この彼女と出会ったことで、タルロの運命は大きく動いていくのです....。

本当に、どのシーンもくっきりと印象に残っていて、隅から隅まで語りたくなってしまいます。終了後のQ&Aに登場したペマツェティン監督は、とても物静かな感じの人。通訳はお馴染みの渋谷裕子さんです。


Q:東京国際映画祭で、監督の以前の作品で撮影監督だったソンタルジャさんの『河』を見ました。今回の作品では、ソンタルジャさんは関わっていないのですか? それと、長回しにこだわりがあるのはなぜですか?

監督:ソンタルジャは、第1作から『オールドドッグ』まで、3作品を一緒にやってきました。その後彼は監督として独立し、『陽に灼けた道』と『河』を撮りました。今回のカメラマンのリュ・ソンイエは、ロシアで6年間撮影を勉強してきた人です。以前彼が撮影した短編映画を見て素晴らしいと思い、いつか一緒にやりたいと思っていました。今回の脚本を見せて気に入ってもらったので、一緒にやることになりました。

長回しですが、何を語るかという映画の内容によって、撮影方法は違ってくると思います。独り暮らしで孤独なタルロという人物を写すには、長回しがピッタリだと思ったです。周囲とほとんど関係を持たない彼の孤独な生き方、彼という人間の存在を表すためには、長回しを使うのが最適でした。


Q:タルロが三つ編みを剃られて人が変わっていく、というのは、旧約聖書のサムソンを思い出させます。理髪店の彼女が別れ際にキスをするシーンがありましたが、2人の顔が画面から切れているという演出には何か意味があったんでしょうか? あと、身分証を持っていなくてもバイクの運転ができるのでしょうか?

監督:『タルロ』は、私が3年前に書いた短編が元になっています。まず浮かんだのは弁髪姿の男のイメージで、それに引かれるようにして物語を作り上げていきました。この映画は、自分は何者であるかという自分の身分を探す人物が主人公です。彼の場合、身分を示すものがまさに弁髪だったわけです。この映画が台湾で上映された時にも、聖書の話と似ている、と言われましたが、私自身はその話は知りませんでした。

タルロという人物は、山の中で独りで暮らしています。その彼が町に出てくると、町の中ではどういう存在なのか、というのを示すために、理髪店でのシーンはすべて鏡に写った姿になっていますし、一部が切れたような構図になっています。そういうことであのキスシーンも切れているわけですが、もう一つ、チベット族の伝統では、ああいう男女の出来事をあからさまに示すことはあまりないのです。2人はカラオケのあと一緒に夜を過ごした、その彼らの間に何が起きたのか、というのが間接的にわかるような構図にしてあるわけです。

カラオケでは、タルロはラーイーと呼ばれる歌を歌いますが、あれはまさに「情歌」で、愛情関係にある男女の間で歌われる歌です。それをタルロが歌うことで、2人の間柄を表現しています。

身分証に関しては、中国では2004年に次世代の身分証が発行されました。それ以前は、チベット族の人々に関して言えば、身分証は誰もが持っているという状況ではありませんでした。それが2004年以降は全員が身分証を持ち、それがないと免許も取得できない、ということになりました。


Q:オープニングの毛沢東の言葉の語りは、ヒップホップみたいだと思いました。このリズムには意味があるのでしょうか?

監督:これは毛沢東語録のうちの「人民に奉仕せよ」という部分なのですが、これを語ることで彼の背景がわかるようになっています。つまり、40代で、特殊な年代を経てきた人、ということがわかり、また、彼が記憶のいい人物である、ということも証明しています。タルロがこれを憶えたのは小学校時代で、しかも中国語で憶えているわけですね。

この語りのリズムは読経のリズムです。チベット族がお経を暗誦する時のリズムそのものです。

Q:タルロが土を地面に撒くところで、かかしのようなものが出てきますが、あれは死者を弔う何かなのでしょうか?

監督:あれはまさにかかしです。劇中にもあったように、タルロの住む周囲には狼が出没します。かかしは狼を驚かすためのものですが、あれが画面に登場することで、狼がいる、あとで狼が羊を食べてしまうに違いない、という伏線となっています。

それから、土を地面に撒いていたのではなく、あれは羊の糞です。集めた羊の糞を乾かして、燃料にするのです。こういったシーンにタルロの生活のディテールが現れているのですが、ああいう所で生活をしたことのない人にはわかりにくいかも知れませんね。


Q:女性にだまされたあと、警察に行ったところでは、毛沢東語録が言えなくなってしまいます。あれはどう解釈したらいいのでしょうか?

監督:ラストシーンは、冒頭のシーンと合わせ鏡のようになっていて、逆のことが行われています。だから、「為人民服務」という文字も裏返しになっているんですね。自分の身分を探していたのに、女性に欺されて何もかも失ってしまうわけですから、冒頭と逆になっていることになります。


Q:全編モノクロで撮られているのは?

監督:この質問は、どこの映画祭に行っても真っ先に聞かれます(笑)。タルロを取り巻く外在的要因と、彼の内面、内在的要因を表現したかったのです。外も内もとてもシンプルな人間であり、毛沢東語録が彼の規範になっている。モノクロにすることによって映画美学的に、タルロという寂しくて突出した人物をよく描けると思ったのです。


Q:鏡を使う撮影がたくさんなされていますが。

監督:鏡は、タルロが理髪店に行ってヤンツォと会ってから登場します。これは、ヴァーチャルな世界に行った、逆さまに写っているから不安定な世界に行った、ということを表現しています。山の中の世界から町へとやってきて、幻想的な世界に入ってしまった、ということを示しているのです。

Tharlo by Pema Tseden - trailer

上に予告編を付けましたが、最後の質問は東京国際映画祭のプログラミング・ディレクター矢田部吉彦さんからのものでした。矢田部さん始め、行定勲監督など、フィルメックスには大物映画人の姿もちらほら。上映後のQ&Aが終了しても、ホール外では監督を囲んでサイン会やら質問やらがいつまでも続き、この映画の人気ぶりを示していました。

ちょっと長くなったので、あとの2作品のご紹介はまた明日(つづく)。


第16回東京フィルメックス:私のDay 4(後半)

$
0
0

前回書き切れなかった2作品のレポートです。

『消失点』

タイ/2015年/100分/原題:วานิชชิ่ง พอยท์/英語題名:Vanishing Point

 監督:ジャッカワーン・ニンタムロン(Jakrawal NILTHAMRONG)
 出演:オンアート・ジアムジャンルーンボンクン、ダランポップ・スリヤーウォン、チャーリー・チュアヤイ、スウィーラヤー・トーンミー


冒頭に交通事故の現場写真がいくつか提示されるのですが、そのうちの一つがジャッカワーン・ニンタムロン監督の両親が重傷を負った事故現場のもので、親戚の人がその写真を監督の部屋に貼ったため、ずっとそれを見ながら成長してきたのだそうです。本作もそこから生まれた作品と言えるようですが、若いジャーナリストと中年の実業家という2人の主人公の話が並行して、しかも断片的に語られていくため、パズルの断片がただ置かれているようでわかりにくかったです。不思議な世界も展開して、ちょっとァピチャッポン・ウィーラセタクン監督作品に似たような雰囲気もあるものの、カットつなぎがあまりうまくないこともあって、ああいう世界が醸し出される以前の作品になっていました。というわけで、Q&Aでは会場しばし沈黙...。


オランダに長く住んでいたという監督のQ&Aは、英語で行われました。予告編を付けておきますので、映画の雰囲気を味わって下さい。

Vanishing Point - Trailer for Thai Cinema


『コインロッカーの女』


韓国/2015年/111分/原題:/英語題名:Coin Locker Girl
 監督:ハン・ジュニ(HAN Jun-hee)
 出演:キム・ヘス、キム・ゴウン、パク・ボゴム、コ・ギョンピョ、オム・テグ、チョン・ソギョン
配給:「コインロッカーの女」上映委員会

すでに日本での来年公開が決まっている作品ですが、見たあとでいろいろ調べてみると、韓国では『チャイナタウン』というタイトルで本年4月に公開されているようです。その後、カンヌ国際映画祭の批評家週間でも上映されました。すさまじい作品なのですが、主演女優2人の演技で、ビシッと締まった、見応えある作品になっていました。下は韓国版のポスターですが、美人女優キム・ヘス(下)がまるで別人のようなのに気がつかれると思います。

2015年4月&5月公開の韓国映画 韓国映画 韓国の映画館 ソウルの映画館 上映中の韓国映画 2015年4月の韓国映画 2015年5月の韓国映画 舞台挨拶 ソウルで映画を観よう 映画館映画情報

舞台は仁川のチャイナタウン。そこで”オンマ(母さん)”と呼ばれている金融業を営む女性(キム・ヘス)は、孤児の中から見どころのある子を引き取り、成長すると自分の手足として働かせていました。ハイティーンのイリョン(キム・ゴウン)は生まれてすぐコインロッカーに捨てられ、路上生活者に育てられたあと、”母さん”に引き取られました。借金を取り立て、借金が返せない時は死んでもらってその臓器売買で借金をチャラにする、という”母さん”のやり口を実行に移すのは、イリョンら若者4人でした。しかしイリョンは、借金を取り立てにいった先で、借り主の息子ソッキョン(パク・ボゴム)から思いがけない親切を受け、初めての経験に心乱されてしまいます....。


Q&Aに登壇したハン・ジュニ監督はこれが初めての長編劇映画で、カタログの顔写真より幼い感じの人でした。通訳はお馴染みの根本理惠さんです。

Q:三代にわたり”母”が出てきますね。あと、食事が大事なモチーフになっていますが。

監督:韓国では「家族」という言い方以外に、「食口(シック)」も一つの家族として考えられています。韓国のお母さんが一番よく使う言葉は「ご飯食べた?」というもので、食事は大切なものです。本作では、組織の中に置かれた母と子という存在に、不思議な暖かみを与えた作品にしました。

Q:主人公の女の子は「10番」のコインロッカーに入れられていたので「イリョン(イル/1+ヨン/0)」という名でしたが、”母”の名「ウヒ」にも何か意味が?

監督:私の母の名前がマ・ウンヒと言いまして、”母”の名マ・ウヒと似たような名前なんですが、母の名前から着想を得てこの名にしました。でも、私の母はあんなに残酷な人ではありませんが(笑)。脚本を書いている時は、母親が抱える哀しみといったものを思い浮かべつつ、あのキャラクターを書きました。


Q:雨のシーンが多かったですね。印象的なシーンの時はいつも雨だったような気がします。

監督:本作では、重要な事件が起きる時、感情を表現したい時には、雨を使いました。雨を見ると、それらしい気分になるからです。韓国映画では、少し強い感情を見せる時には雨が登場すると思います。

Q:イリョンが変化していくきっかけが男性に対する感情になっていますが、あれはソッキョンに対する一目惚れだったんでしょうか、それとも、父親に対して彼が言った言葉などに惹きつけられたのでしょうか。

監督:2人の間に恋愛感情があった、というわけではありません。ただ、イリョンにとっては、自分の傷に初めて手を当ててくれた人、ということで、相手が子供であっても老人であってもよかったのだと思います。最後の方のイリョンのセリフで、「彼がやさしかったから」と言っていましたね。あれは”惚れる”という感情ではなかったと思うのですが、皆さんの感性にお任せしたいと思います。


Q:私は日本映画のカメラマンなのですが、昔のフィルムでちゃんと撮ったような、、最初から最後まで一貫した色調で素晴らしかったです。移動撮影もタイミングが見事でしたが、カメラマンとよく話し合われたのですか?

監督:撮影のイ・チャンジェは、『チェイサー』や『哀しき獣』でB班のカメラを担当したカメラマンです。イリョンは赤、”母”は緑の色調で撮りたいと思い、事前にかなり話し合いをしました。ポスプロもその線で、話し合いながら仕上げました。トラッキング(レールを使った移動撮影)にも長けたカメラマンだったので、本作は撮影監督に助けられて出来上がったものです。

Q:劇中で主人公たちが見る映画として『美術館の隣の動物園』が使われていたが。

監督:この映画をご存じだなんてびっくりしました。『美術館の隣の動物園』は、私が好きな少々古典的な作品なんです。それと、2人が気楽に見られる作品ということで使いました。


Q:デビュー作でキム・ヘスを主演に起用し、しかもあの髪型とはすごいですね(笑)。キム・ゴウンらのキャスティングは?

監督:本作は結果的にメジャー作品になりましたが、脚本を書いている段階では、女性2人が主人公の作品なので、製作費を集めるのは難しいだろうと思っていました。インディーズ系で製作費2~300万円で撮ろうと思っていたのです。

キム・ヘスさんには最初、「ストーリーが残忍なので」と断られ、その後3回ほど手紙を書いたりして頼み込み、やっとOKをもらいました。でも、いざ撮り始めると作品に入り込んでくれて、ラストシーンを撮る前日には「もう終わっちゃうのね~、残念」と言われたほどです。キム・ヘスさんのあの髪型を担当してくれたのは、『オールドボーイ』のヘアメイクを担当していた人です。キム・ヘスさん自身も、自分のイメージが壊れていくことに関して全く躊躇がなく、あんな形になりました。

キム・ゴウンやそのほかの若者のキャスティングは、オーディションではなくて、最初からオファーしました。

????? Chinatown, 2015 ?? ??? Main Trailer - Korean Movie Trailer

上は予告編で、本作は2016年2月16日より、ヒューマントラスト渋谷で上映されるそうです。ぜひご覧になってみて下さい。


南インド映画上映会のお知らせ

$
0
0

師走もやります、南インド映画上映会。何と、アンコール上映も出現しました。Periploさんからお知らせいただいたのですが、『Vedalam(妖魔)』の「アンコール上映」というのを見落として、「え、11月15日の上映が12月5日に変更になってたの!?」とあせってしまいました。11月15日の上映をお知らせした記事はこちらです。川口で見逃した方は、市川へ走りましょう。でもこの日、TUFS Cinemaもあるんですよねー。12月5日(土)は、『ミルカ』を見るか、『妖魔』を見るか....。

『Vedalam(妖魔)』~アンコール上映
(2015/タミル語/152分/英語字幕) 


 監督:シヴァ
 主演:アジット・クマール、シュルティ・ハーサン、ラクシュミ・メーノーンほか
■日時:2015年12月5日(土)午後3:00~
■会場:千葉県市川市、イオンシネマ市川妙典 アクセス 
■料金:大人2,200円
■主催:indoeiga.com HP 

Periploさんが書き直されたプレビューはこちら。川口ですでにご覧になった方は、ご感想などお寄せ下さい。予告編をもう一度付けておきます。

Vedalam Official Teaser | Ajith, Shruti Hassan | Anirudh , Siva


『Su..Su...Sudhi Vathmeekam(ス、ス、スディ・ヴァートミーガム)』
(2015年/マラヤーラム語/134分/英語字幕)

 監督:ランジット・シャンカル
 主演:ジャヤスーリヤ、シヴァダ・ナーイル、ムケーシュほか 

■日時:2015年12月6日(日)午後3:00~
■会場:千葉県市川市、イオンシネマ市川妙典 アクセス
■料金:大人1,800円
■主催:セルロイド HP 


Periploさんのご紹介ページはこちらです。吃音に悩む主人公なので、こんなタイトルなのですね。タミル語映画『妖魔』と正反対のほのぼの路線ではないかと思われます。言語もテイストも違う2作品、2連チャンでぜひどうぞ。予告編を付けておきます。

Su Su Sudhi Vathmeekam Official Trailer HD

 

 




第16回東京フィルメックス:私のDay 5 & 6(シルヴィア・チャン)

$
0
0

フィルメックスも11月28日に受賞結果が発表されたのですが、まだ「特集上映 ツァイ・ミンリャン」が継続中なので、報告の続きを書いてしまいます。なお、有楽町スバル座で上映中の「特集上映 ツァイ・ミンリャン」に関しては、フィルメックスのサイトをご覧下さい。12月4日(金)まで上映があります。

さて、残る報告は11月26日(木)と27日(金)に関してなのですが、どちらにも張艾嘉(シルヴィア・チャン)関連の作品があったので、まずその2本をご紹介しましょう。

『華麗上班族』
中国、香港/2015年/118分/原題:華麗上班族/英語題名:Office

Office 2015 poster.jpg

 監督:ジョニー・トー(Johnnie TO)
 主演:周潤發(チョウ・ユンファ)、陳奕迅(イーソン・チャン)、張艾嘉(シルヴィア・チャン)、湯唯(タン・ウェイ)、王紫逸、郎月婷、車婉婉(ステファニー・チェ)、張兆暉(エディー・チョン)、洪天明(ティミー・ハン)

元々はシルヴィア・チャンの原案・出演による舞台劇だったそうで、それをジョニー・トー監督が映画化したものです。そのあたりの経緯については、上映後のQ&Aでシルヴィアが語ってくれました。出演者たちもほぼ全員が自分で歌っているのですが、チョウ・ユンファの歌うシーンがない理由はQ&Aでシルヴィアがいきさつを暴露してくれていますので、そちらをどうぞ。

全体としては、舞台劇ミュージカルのためストーリーに深みはないものの、現在の中国、あるいは香港のオフィスにおける人間模様をよく捉えていて楽しめます。何よりも張叔平(ウィリアム・チャン)のセットが斬新で、それが目に楽しいのです。一番素敵だったのは、スケルトンの地下鉄車両。うまくボディを切り抜いてあって、出てくるたびに目が引きつけられました。さらに、斬新なセット空間を生かす撮影や、場面転換のうまさなども、やはりジョニー・トー監督ならではと言えます。多分、撮っていたトー監督自身が一番楽しんでいたのでは、と思える作品でした。


出演者もハマリ役と思える人が多く、イーソン・チャンはイヤミな副社長で、シルヴィア・チャン扮する社長と肉体関係もある役を大熱演。破滅に向かう時に、車を運転しながら歌うナンバーは印象に残りました。シルヴィアの役は、会長のチョウ・ユンファの愛人としてのしあがってきた女性社長なんですが、年下のイーソンも手玉に取っている凄腕女性。こんないわば悪女役を演じさせても、実にうまいですね。タン・ウェイ始め、脇を固めるトー監督組のステファニー・チェ(もともと歌手ですもんね)やエディー・チョンも達者に歌っていました。

ただ、私的に不満だったのは、主人公とも言える新入男性社員李想役の王紫逸がいまひとつのご面相だったこと。「残念なカン・ドンウォン」(笑)というか、東MAXというか....。女性新入社員役の郎月婷の方は、清楚系の美女でよかったんですけれど。それで、彼が出てくると気分が盛下がってしまい、ちょい残念でした。

というわけで、シルヴィア・チャンのQ&Aをどうぞ。通訳はいつもお馴染み、でもフィルメックスでは初登場のサミュエル周先生です。


Q:(まず、司会のフィルメックス・プログラム・ディレクター市山尚三さんから)この作品は、どういう経緯で映画になったのですか?

シルヴィア・チャン(以下”A”):2008年に、台湾の監督林奕華さんが、舞台劇をやりたい、と私にアプローチしてきたのです。何を描こうかと考えて、サラリーマンを主人公にすることにしました。(調べてみると、舞台劇のタイトルは「華麗上班族之生活與生存」)それで、2008年に上海で上演した時にジョニー・トー監督が見に来て、「これ、僕が監督して映画にしたい」と言い出したんです。その時は、「冗談でしょ」と思いました(笑)。映画にするなら私自身が監督したいと思っていたのですが、なぜかトー監督がメガホンを取ることになってしまいまして。


Q:セリフは普通話(標準中国語)と広東語が混じっていますが、どう使い分けられているのですか? 中国で上映の時もこのままの言語で?

A:トー監督とも話し合ったのですが、舞台はどこか大都会、ということで、香港でも上海でも北京でもあてはまる場所です。だから、出演者たちがぞれぞれ自分の言葉をしゃべればいい、ということになりました。セット撮影ですが、音声をそのまま取ることができない場合もあったので、一部はアフレコです。中国での公開時は、中国側の希望により全部北京語(=普通話)のヴァージョンで上映しましたが、それ以外の所での上映はこのヴァージョンです。


Q:昔の作品『過ぎゆく時の中で』(1989)以来の、ジョニー・トー監督作品でのチョウ・ユンファとの共演ですね。久しぶりに共演なさってどうでした?

A:2人とも変わりましたからね。もちろん年を取りましたし、ユンファはさらにインターナショナルな俳優になっていますし。でも、映画が大好きというのは2人とも全然変わっていません。10日ほどの撮影のうち、ユンファの撮影の時は、時間がオーバーするとギャラをよけいに払わないといけない(笑)からというので、出番が終わったら「どうぞどうぞ、お帰り下さい」と彼は言われていたんですが、でもよく現場に残って見ていました。残念だったのは、私と彼との共演場面が少なかったことで、次にはもっと長く共演できる作品をやってみたいです。


Q:キャスティングはどのようになされたのでしょうか?

A:トー監督からは、「歌は歌ってもらうけど、ダンスは要らない。中国人はダンスが下手だから」と言われました。ダンスをするシーンがあったとすると、すごく練習をしないといけなかったでしょう。歌に関してユンファは、「絶対歌いたくない。殺されても歌いたくない」(笑)と言ってました。

というわけで、会長が歌わないわけですから、副社長のキャスティングが重要になってきます。そう考えると、イーソン・チャンしかいない、ということで彼になりました。タン・ウェイも最初歌うのを心配していて、できるかしらと言っていたのですが、いざ歌ってみると楽しくなったようで、自分でやり遂げました。

Q:スケルトン・セットのアイディアはどなたが?

A:トー監督のアイディアです。最初舞台をどこにするかという話し合いをした時、場所は大都会のオフィスで、何でも見えてしまうというセットにしよう、というアイディアが提示されました。心の中にしか秘密がない、というのを表すために、全部スケスケのセットになったのです。もう一つ大事だったのは階段で、2008年の舞台劇の時もしつらえられていたのですが、登場人物の上昇志向を象徴するものです。それをウィリアム・チャンがうまく取り込んでくれました。全体として、鉄の網目の中にいる人間、動物のように檻の中にいる人間に見えるように、ああいうセットになったのです。

Q:トー監督は昔、『シェルブールの雨傘』が好きだ、と言っていらしたと思うのですが、映画もミュージカルにしたのはトー監督の判断ですか?

A:ミュージカルに、というのは私のアイディアです。私はミュージカルがとても好きなんです。中国人はいつも話し方が曖昧ですが、歌にするとハッキリ言わざるを得なくなる。舞台は3時間30分のものだったのですが、映画は2時間に縮めたので、撮る時はまるでアクション映画を撮っているみたいでした。

『華麗上班族』の予告編はこちらです。

 [電影預告]《華麗上班族》(OFFICE),9月24日,華麗獻映

『念念』
台湾、香港/2015年/119分/原題:念念/英語題名:Murmur of the Hearts

Murmur of the Hearts film poster.jpg

 監督:張艾嘉/シルヴィア・チャン(Sylvia CHANG)
 主演:梁洛施(イザベラ・リョン)、張孝全(ジョセフ・チャン)、柯宇倫(クー・ユールン)


こちらの作品の感想は、以前香港国際映画祭で見た時にアップした記事をどうぞ。この日Q&Aに登場したシルヴィア・チャンは、前日とは変わって鮮やかなブルーのお洋服。この日の通訳は渋谷裕子さんです。

Q:(口切りの質問は、司会のフィルメックス・ディレクター林加奈子さんから)脚本のクレジットがシルヴィア・チャンさんんと蔭山征彦さんというお名前になっていますが、日本人の方ですか?

A:この映画を撮るのは、運命だったと思っています。なぜかこの脚本が私の机の上に乗っていたんですよね。それを読んだ時、心が痛くなりました。若い男性の家族への思い、そしてわだかまりというものが幻想的に表現されていて、私も1人の母親としてとても惹きつけられました。(蔭山征彦さんは台湾で俳優として活躍している人で、元々は彼が書き上げた脚本だったのだとか)


Q:女優さんのキャスティング、特に主役のイザベル・リョンさんのキャスティングについてうかがいたいです。また、母親役のアンジェリカ・リーさんが「絵画」のところにもクレジットされていますが、これは?

A:まず2つ目の質問にお答えすると、映画に登場する油絵はすべて、アンジェリカ・リーが描いたものです。最初は地元の画家にお願いしようと思ったのですが、男性画家なので女性の心をうまく表現できず、ダメでした。続いて女性画家に依頼したものの、今度は母性が出ていなくて不満に思いました。それでアンジェリカに頼んだら、さすが画家だけあってピッタリの絵を描いてくれました。

1つ目の質問ですが、ヒロインを誰にするかで、ずっと悩んでいたんです。ちょうどその頃イザベラ・リョンがカナダから帰ってきて、話をしてみたところ、「長い間脚本も読んでないし、映画にも出ていない」という心情をひしひしと感じました。そして、「ここに私のヒロインがいる!」と思ったわけです。心の芯の強さを感じさせてくれる、理想的なヒロインでした。

Q:膨大な物語があって、いっぱい撮ってから編集して切ったような感じを受けました。元の脚本とはどのくらい違っているのでしょう?

A:内面というか、感情を描いた作品なので、ストーリーテリングは念頭に置いていません。ですので撮影の時は脚本の存在を忘れて、役者が醸し出す雰囲気に従って撮っていこうと思いました。今回の映画製作では、これまでになかったようなことが不思議といろいろ起きました。いつもは二度撮りなんてしたことないのに、舞台となった緑島に情景だけ再び撮りに行くことになったり、日本人の経営するバーのシーンも、4回も撮り直しに行ったり。撮り終えてから9ヶ月間を編集に費やしたのですが、日本人のバーでは何度も撮り直しをお願いしたせいで、「また来たのか」と嫌がられました(笑)。


Q:緑島は「緑島小夜曲」でも知られていますし、あと「火焼島」としても知られていますが、あそこを舞台にしたのはなぜですか?

A:「緑島小夜曲」の「緑島」は台湾全体のことを指しています。必ずしもあの緑島ではないので、本作の中ではあの曲を使用しませんでした。映画の中で使った曲は、「台北の空」という1980年代初めの曲です。これは、主人公たちの母親の夢と希望、緑島から出て大都会=台北に行きたい、という気持ちを托す歌として使いました。

緑島という設定は元々の脚本には書かれていなくて、当初の舞台は台湾と北海道でした。でも、実際に撮影するには離れすぎていて難しい、ということで、台湾島の東側にある離島の緑島にしました。緑島は以前は刑務所がいくつもあり、「火焼島」とも呼ばれましたが、今は刑務所も1つだけになっています。観光化が進んで、ダイビングの名所ともなっている所です。


(「台北の空(台北的天空)」(1984)はこちらで聞けます)

王芷蕾 - 台北的天空 / Taipei's Sky (by Jeanette Wang)

Q:イザベラ・リョンが演じるユーメイの衣裳が気に入りました。何かこだわりとかあったのでしょうか。また、日本人経営のバーの名前が「藤」でしたが、それにも何か意味が?

A:出演者1人1人のキャラクターを決めるデザインには凝りましたが、イザベラは何を着ても似合う人でした。でも私が一番好きな衣裳は、ジョセフ・チャンが着ていた何の変哲もない、うすいピンク色のTシャツです(笑)。

「藤」は台湾で30年以上にわたって、日本人が経営している会員制のバーです。私はそれまで連れて行ってもらったことがなかったんですが、30年前の内装を変えずにそのまま使っているので、昔の姿を残しているお店です。最近はさすがに客が減ってきていたようでしたが、この映画に登場したので、また客が増えたそうです(笑)。

 

時にユーモアも交えて、はきはきとかつ気さくに答えてくれるシルヴィア・チャン監督。とってもチャーミングな人でした。『念念』の予告編はこちらです。

念念 Murmur of the Hearts (2015) Official Hong Kong Trailer HD 1080 Isabella Joseph Chang HK Neo


 

 

マサラワーラー武田尋善さんの個展「インドのてん」開催

$
0
0

前にも個展のご紹介をしたことがある、インドユニット「マサラワーラー」のお一人武田尋善(ひろよし)さんの個展が開催されます。今度の会場は、これも私の友人である櫻子さんが主宰するスペース「ギャラリー ディープダン」。井の頭線池ノ上駅からちょっと歩いた所にある、住宅を改造した素敵なスペースです。詳しくは、ギャラリー ディープダン(ディープダン=ディープ(灯明)+ダン(捧げる))のサイトか、武田さんのHPを見て下さいね。期間は12月3日(木)~9日(水)、オープン時間は12:00~19:00で、会期中無休です。お勤めのお帰りに、休日のお出かけ時に、ぜひお運び下さい。

武田さんから届いたご案内状はこちらです。



今回のお題は「インドのてん」。「てん」って、「点」? 「貂」?(いるよね、インドにも) それとも「天」? 上のご案内を読むとどうやら「点」のようですが、はてさて、どんな「点」が見られるのでしょう? 武田ワールドにあなたも飛んでみて下さい。 

 

IFFJ2015@キネカ大森

$
0
0

10月に開催されたインディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン(IFFJ)で、いくつか作品を見逃した方に朗報です。IFFJのお手伝いをしていらしたせんきちさんから情報をいただいたのですが、キネカ大森で下のように5本の作品の再上映が行われ、またマサラ上映も実施されます。マサラ上映には、『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』も参戦! 再びあの興奮が戻って来ます!

IFFJ2015@キネカ大森

【日程】2015年12月26日(土)~2016年1月8日(金) 19:00~1日1回日替わり上映
    ※12/31、1/1は休映

【各作品上映スケジュール】キネカ大森のサイトでご確認下さい。

【劇場】キネカ大森 アクセス  03-3762-6000
    〒140-0013 東京都品川区南大井6-27-25西友5階

【上映作品】

①『銃弾の饗宴・ラームとリーラ』 Goliyon Ki Raasleela: Ram-Leela(2013)


   監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー
   主演:ランヴィール・シン、ディーピカー・パードゥコーン

ヒーローのオレ様ソングはこちら↓

Tattad Tattad (Ramji Ki Chal) - Full Song - Goliyon Ki Rasleela Ram-leela


②『バン・バン!』Bang Bang!(2014)

Bang Bang (2014 Film).jpg

   監督:シッダールト・アーナンド
   主演:リティク・ローシャン、カトリーナ・カイフ

大ヒットした「トゥー・トゥー・トゥー・トゥー・メーリー」の歌はこちら↓

Tu Meri Full Video | BANG BANG! | feat Hrithik Roshan & Katrina Kaif | Vishal Shekhar


③『ピクー』Pikoo(2015)

Piku.jpg

   監督:ショージート・サルカール
   主演:ディーピカー・パードゥコーン、アミターブ・バッチャン、イルファーン・カーン

予告編はこちら↓

PIKU Motion Se Hi Emotion Official Trailer | Amitabh Bachchan, Deepika Padukone, Irrfan Khan


④『ファニーを探して』Finding Fanny(2014)

Finding Fanny.jpg

   監督:ホーミー・アドジャーニヤー
   主演:アルジュン・カプール、ディーピカー・パードゥコーン、ディンパル・カパーディヤー

ドールハウスMVはこちら↓

Shake Your Bootiya - Finding Fanny | Deepika Padukone, Arjun


⑤『ヨイショ!君と走る日』Dum Laga Ke Haisha(2015)

... Ayushmann Khurrana's Dum Laga Ke Haisha Is 'Heavy-Duty'! - MissMalini

   監督:シャラト・カタリヤー
   主演:アーユシュマーン・クラーナー、ブーミ・ベードネーカル

予告編はこちら↓

Dum Laga Ke Haisha - Trailer

本作のアイディアの元になったかと思われるような、アーユシュマーン・クラーナー司会によるクマール・サーヌとアルカー・ヤーグニクのパフォーマンスはこちら↓

Alka Yagnik Live Performance in the 5th Royal Stag Mirchi Music Awards 2013


+特別上映『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』(2007)


      監督:ファラー・カーン
  主演:シャー・ルク・カーン、ディーピカー・パードゥコーン

クラッカーポイントがいっぱいあるMVはこちら↓

Dhoom Taana Full HD Video Song Om Shanti Om | Deepika Padukone, Shahrukh Khan


【上映時間】未定(夜の予定)1日1回日替わり上映

【イベント】
12月26日(日) 夜 (予定)
 マサラシステム上映『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』
   料金は同じ! チケットは当日朝10時より発売

1月8日(金) 夜 (予定)
 マサラシステム上映『バン・バン!』
   料金は同じ! チケットは当日朝10時より発売
   (26日の『恋する輪廻』の時に先行発売される可能性あり)

詳しい情報は、キネカ大森のサイトをチェックしてみて下さいね。正しいインド映画ファンの年末年始の過ごし方は、これでキマリです!


南インド映画上映会でヒンディー語映画『Bajirao Mastani』上映

$
0
0

Periploさんからいただいた情報です。これまでタミル語映画の上映会を主催してきた組織SPACEBOXが、初めてヒンディー語映画を上映することになりました。しかも、12月18日(金)に公開予定の大作『Bajirao Mastani(バージーラーオとマスターニー)』をその2日後に上映するというすばやさ。ボリウッド映画ファンは見逃せませんね。詳細は下の通りです。

『Bajirao Mastani(バージーラーオとマスターニー)』

Bajirao Mastani Poster 2.jpg

(2015/ヒンディー語/156分(予定)/英語字幕)
 監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー
 主演:ランヴィール・シン、ディーピカー・パードゥコーン、プリヤンカー・チョープラー 

■日時:2015年12月20日(日)午前11時30分~/午後3:00~(開場は両方とも30分前)
■会場:埼玉県川口市、SKIPシティ・彩の国Visual Plaza アクセス
■料金:大人2,300円(予約)、2,500円(劇場窓口)
■予約はこちらから 
■主催:SPACEBOX FB

物語の舞台は、18世紀前半のマラーター王国。1674年にシヴァージーの即位と共に成立したマラーター王国は、現在の西インド、マハーラーシュトラ州を中心に勢力を広げますが、18世紀には王よりもペーシュワーと呼ばれる宰相の力が強くなります。中でも第5代のシャーフー王の時には、第2代のペーシュワーであるバージーラーオ1世(在位1720~40)がプネーにペーシュワー政権を樹立し、王は監禁同然の身となってしまいます。バージーラーオは生まれが1700年と言いますから、ペーシュワーとなった時は弱冠20才であったと思われるのですが、彼は1740年に急病死するまで大きな勢力を持ち続けたのです。

本作では、バージーラーオ(ランヴィール・シン)と最初の妻カーシーバーイー(プリヤンカー・チョープラー)、そして第二夫人となるマスターニー(ディーピカー・パードゥコーン)が登場し、三者の関係が描かれていくようです。マスターニーに関しては、その出生や経歴に関して様々な伝説があると言われており、本作ではそれらも生かしながらマスターニー像が作り上げられているのでは、と思われます。予告編を付けておきます。

Bajirao Mastani Official Trailer with Subtitles | Ranveer Singh, Deepika Padukone, Priyanka Chopra

『銃弾の饗宴・ラームとリーラ』(2013)に続く、サンジャイ・リーラー・バンサーリー監督+ランヴィール・シン+ディーピカー・パードゥコーンのトリオによる超豪華な時代劇。ぜひスクリーンでご覧下さい。



TUFS Cinema『ミルカ』に行ってきました

$
0
0

11月28日(土)から上映が始まったTUFS Cinema。TUFSとはTokyo University of Foreign Studies、つまり東京外国語大学の英語名の略称ですが、その名の通り東京外語大が費用を負担し、映画の上映を行うものです。会場の提供のほか、チラシ制作などの宣伝費、ならびに初上映作品作品の字幕制作代、すでに上映されたことのある作品のレンタル代等々が予算から支出されています。こういった大学での映画上映は、教育・研究の一環となり、また近くに住む皆さんが見に来てくれることで地域に開かれた大学となるなど、様々なプラス側面を持っています。もちろん私たちにとっては嬉しい無料上映となって、大いにプラスです。

上記チラシの「インド映画特集」が今進行中ですが、11月28日(土)に上映されたタミル語映画『カーンチワラム サリーを織る人』は首都圏初上映だったせいか、130人もの観客がいらしたそうでびっくり。でも、『ミルカ』はすでに公開済み、DVD発売済みのため、観客が少ないかもと思い、行ってみたのでした。


うちから東京外語大に行くには、南武線に乗って南多摩で下車、多摩川にかかる是政橋(上写真)を渡って西武多摩川線是政駅まで行き、そこから3つめの多磨駅で降りるのが一番近道です。昔非常勤講師をしていた頃は、日傘さして暑い橋の上をてくてく歩いたなあ(前期の授業だった)、とあれこれ思い出しながら渡りましたが、その頃に比べると橋の周辺がきれいに整備されていて、渡りやすくなっていました。そして渡り終えた是政側は、実は富士山ポイントとなっています。交差点の所から、冬期は富士山がきれいに見えるのです。午後遅い時間で逆光なのが残念でしたが、こんな感じです。


こんな寄り道をしながら、東京外語大のアゴラ・グローバルという建物のプロメテウスホールへ。塀や門がない(そこが好き!)東京外語大ですが、敷地に入ってすぐ左という便利な場所にこのホールがあります。多目的ホールなのでスクリーンが舞台の奥になってしまうものの、前半分の席ならそんなに距離感はないし、また後ろ半分の座席はかなり傾斜があってこれも見やすいです。座席の前には、天板が引き出せるボックスがあって、机も使えるという学習には最適の施設。この日も、『ミルカ』の背景がよくわかる資料が配付されました。

 (c)2013 Viacom18 Media Pvt. Ltd & Rakeysh Omprakash Mehra Pictures

人数が少ないかと心配したこの日も、100名前後の方がいらしていて結構盛況でした。『ミルカ』はシネスコ作品なので、もうちょっと画面が大きくなると嬉しかったのですが、プロジェクター上映だとこれが限界かも知れません。上映前には、ラーケーシュ・オームプラカーシュ・メーヘラー(ラケーシュ・オームプラカーシュ・メーラ)監督によるビデオメッセージも上映され、一般公開よりもさらにおまけ付きの豪華版。上映中は皆さん結構笑ったり、「おお」とどよめいたり、反応のいいお客様揃いでした。


終了後は、東京外語大大学院総合国際学研究院の萬宮健策(まみや・けんさく)准教授による解説がありました。ご覧のようにパワポを使って下さり、その内容は前述したように事前配布されるという至れり尽くせり。ミルカについて、シク教について、パンジャーブについて、インドパキスタンについて...と、いくつかの項目ごとに簡潔にまとめてあり、映画を見たあとで萬宮先生の解説を聞くとさらによく理解できます。これで無料とは安すぎる!


先生のお話のあとはQ&Aがあったのですが、ここでもたくさんの質問が出たのにはまたびっくり。「ミルカの恋愛が出てきますが、彼はその後結婚したんですか?」とか、「シク教徒が主人公なのに、恋愛シーンの歌の歌詞に”アッラー”が出てくるのはなぜ?」(下の歌)とか、鋭い質問がいろいろ寄せられて、とても充実した解説タイムとなりました。

 (c)2013 Viacom18 Media Pvt. Ltd & Rakeysh Omprakash Mehra Pictures

♪ Mera Yaar Hai Rab Warga, Dildaar Hai Rab Warga
♪ Ishq Karoon Ya Karoon Ibaadat, Ikko Hi Gal Ai..
♪ Alif Allah, Alif Allah, Alif Allah Hooo… 

TUFS Cinemaの「インド映画特集」はあと2回続きます。私もがんばって、12月12日(土)14:00~のベンガル語映画『シャモルおじさん 灯りを消す』と、1月23日(土)16:00~のマラーティー語映画『ファンドリー』を見に行こうと思いますので、会場でお目にかかることがあったらお声を掛けて下さい。TUFS Cinemaのインド映画特集のサイトはこちらです。

あら、別の日に原節子の『新しき土』(1937)の上映もあるようです。がんばってますねー、TUFS Cinema。インド映画とは関係ないんですが、輝くばかりの原節子が見られる『新しき土』の予告編を付けておきます。

映画『新しき土』予告編

 


特別講座/「インド映画完全ガイド」発売記念:インド映画を極める!<第2回>

$
0
0

11月21日の第1回「インド映画のクライマックス・アクションと舞踊」に続く、特別講座の2回目です。

スペース・アーナンディー/インド映画特別講座
「インド映画完全ガイド」発売記念:インド映画を極める!
<第2回>インド映画のファッションを読み解く

第1回講座には、たくさんの方にご参加いただきありがとうございました。「インド映画完全ガイド」が世に出たのを記念して開催する、本書の第5章をテキストにした連続講座。第2回はファッションに焦点を当てます。

 日時:2016年2月6日(土) 15:00~17:00
 場所:スペース・アーナンディ
    (東急田園都市線高津駅<渋谷から各停で18分>下車1分)
 定員:20名
 講座料:¥2,000(含む資料代)
 講師:松岡 環(「インド映画完全ガイド」監修者&編集者)
 TEXT:原千香子「インド映画の美を支えるファッションのパワー」(P.144)
      (カッコ内は「インド映画完全ガイド」のページ数です)

実はインド映画界、特にボリウッドと呼ばれるヒンディー語映画界には、ハリウッドにも見られない特殊なファッションの掟があります。そんなお話から始まって、映画の衣裳が誕生するまでの過程や、映画のファッションが庶民の服装に与える影響、さらには映画における服装の記号論などのお話をしたいと思っています。場所は前回と同じく、ヨーガの先生をやっている友人のお宅スペース・アーナンディ。今回も、皆様と膝を突き合わせて、インド映画のお話をじっくりとやりましょう。

ご予約は、スペース・アーナンディのHPのこちらからどうぞ。ご予約下さった方には、ご予約確認と共に、スペース・アーナンディの地図をメール送付致します。床におザブトンをひいて座っていただく形になりますので、楽な服装でお越し下さい。(申し訳ないのですが、スペースの関係上イス席はご用意できません。悪しからずご了承下さい) 今回も、皆様とお目にかかれるのを楽しみにしております。

今回は、原千香子さんの文章に出てくるこんな映画を取り上げたいと思っています。

English Vinglish poster.jpgJab Tak Hai Jaan Poster.jpg

Student of the Year Poster.jpgOmshantiom.jpg

Chennai Express.jpgDevdas.jpg

また文中にも出てくる、ボリウッド映画の衣裳デザイナーとしては第一人者のマニーシュ・マルホートラーについても、お話をしたいと思います。ヴォーグ・インディアがちょうどいい画像をアップしてくれていますので、彼の仕事についてはこちらをどうぞ。

Celebrating 25 years of Manish Malhotra

あと、取り上げたいのが『PK』のお話。宗教における服装記号論をうまく説明してくれているシーンがあるのです。それと、下の予告編でラストに出てくるシーンが「最優秀衣裳賞」に取り上げられたというジョークも好きなので、この映画のお話をしたいと思っています。

PK Official Teaser I Releasing December 19, 2014

今、リンクを張るためにスペース・アーナンディのHPを見たら、「残席わずかです。お申し込みはお早めに」の文字が。そういえば、前回参加して下さった皆様のうち何人かの方が、お帰りになる時に「次回も」とお申し込み下さったのでした。第2回も楽しんでいただける講座にしますので、皆様のお越しをお待ちしています。


タミル語映画の日本版DVD新発売

$
0
0

以前にもタミル語映画DVD2タイトルが発売された「ポンガル」から、新しいタイトルが2本出ました。『咲いて咲いて野花たち』と『あっぱたん』です。それぞれの情報を書いておきます。

商品の詳細

『咲いて咲いて野花たち』
1992年/タミル語映画/126分/原題:Vanna Vanna Pookkal(野に咲く花々)
 監督:バル・マヘンドラ(バール・マヘーンドラ)
 主演:プラシャーント、マウニカー、ヴィノーディニ
 DVD発売元:ポンガル
 価格:2,000円(アマゾンのサイト

Vanna Vanna Pookkal DVD cover.svg

バール・マヘーンドラ監督作品は日本でも<大インド映画祭1988>で、カマルハーサンとシュリーデーヴィが主演した『三日月』(1982)が上映されています。バール・マヘーンドラは1970年代末から1990年にかけて、ヒット作、話題作をたくさん世に出した人気監督であり、少し変わったテイストを持つ恋愛映画を得意としました。2014年に亡くなりましたが、様々な賞での受賞歴も多く、本作も1991年度国家映画賞の最優秀タミル語映画賞を受賞しています。

主演のプラシャーントは、日本では『ジーンズ 世界は2人のために』(1998)でのアイシュワリヤー・ラーイとの共演で知られていますが、1990年代から2000年代前半はタミル語映画の二枚目トップスターとして活躍しました。本作では、デビューして間もない頃の初々しい演技が見られます。YouTubeにアップされていた歌のシーンを付けておきます。歌を聴いているカップルの男性がプラシャーントです。

 Chinna Mani Kuyile - Vanna Vanna Pookal

実は本作のDVDは、大変珍しい右側黒味に字幕が出る、という方式になっています。そのため、わが家ではビデオ機器で再生すると右端が少し切れてしまいます。パソコンでは問題ないのですが、なぜこんな字幕表示方式になったのか謎です。

また、以前のポンガル制作DVD『希石』や『カマラージ』でも思ったのですが、字幕の日本語がいまひとつ上手ではなく、そのために映画を見る楽しみがそがれます。特に歌の歌詞が文語調にしてあるのですが、とてもわかりにくく、まったく成功していません。たとえば、上に画像を付けたシーンの歌詞訳字幕を一部書いてみると次のようになります。 

 小さな鐘 古寺で
 舞うたび 音啓(ひら)く
 世の華(はな) かざすべく
 叡智巻いた 鬼火焚く
 天が帰す道へ
 南風来るも
 泥炭火の煤さえ
 棚引くも

う~ん、まるで判じ物です。訳者の頭の中ではイメージが繋がっているのでしょうが、もう少しパッと見てわかる字幕にしてほしいものです。せっかく市販DVDとして世に出るのですから、訳者や制作者の自己満足だけではもったいないですね。


商品の詳細

『あっぱたん』
2000年/タミル語映画/166分/原題:Vaanathaippola(空のように)
 監督:ヴィクラマン
 主演:ヴィジャイカーント、ミーナ、プラブデーヴァ
 DVD発売元:ポンガル
 価格:2,000円(アマゾンのサイト

こちらはウェルメイドな兄弟愛を描いた作品。ヴィジャイカーントはラジニカーントやカマルハーサンと同世代の男優で、トップ男優2人に続く位置につけていたサラトクマール、サティヤーラージら世代のうちの1人です。その後国会議員も経験し、今も政治家として活躍中。本作も、家長あるいは兄貴としての彼の芸風を生かした作品になっています。

本作でヴィジャイカーントは長兄と成長した次男を二役で演じますが、脇も豪華で、次男の嫁には『ムトゥ 踊るマハラジャ』(1995)のミーナが、また一番下の弟である四男にはプラブデーヴァが扮しています。


日本語タイトルの「あっぱたん」は、どうも「おばあちゃん」というような意味らしいのですが、祖母は全編に登場するもののごく普通の脇役でしかなく、どうしてこういう日本語タイトルになったのか、これも謎です。もう少し、祖母に見せ場があるのなら納得ですが...。また、字幕の状態は『咲いて咲いて野花たち』と同じで”残念”レベルなのですが、本作はそれを補って余りあるよさがあり、感動的なシーンにはグッときてしまう作品です。ちゃんとした字幕なら評価も高くなったのにと、映画に同情してしまいます....。

ミーナが美しいソング&ダンスシーンを付けておきましょう。

Kaadhal Vennila|Vanathai Pola|Vijayaganth Meena|Tamil Song.

本作のDVDには、なかなか読み応えのあるソング&ダンスシーンの撮り方を分析したパンフが差し挟まれているのですが、これを読む限りではしっかりした日本語が書ける人が制作しているようです。なぜに字幕だけあのレベル? まだまだ謎の深い、「ポンガル」制作のDVDなのでした。


 


インド映画界の稼ぎ頭は誰?

$
0
0

いつもチェックしているYahoo Indiaに、「フォーブス・インディア」が発表した「2015インド人セレブ100人」の記事が掲載されました。記事はこちらで、元になった「フォーブス・インディア」の記事はこちらです。

その記事にも載っている、トップ10の名前を挙げておきましょう。名前の次に書いてあるのは稼いだ額で、順位が必ずしも金額通りになっていないのは、金額ランキングと知名度ランキングの総合成績による順位となっているからです。金額ランキングと知名度ランキングは、前述した「フォーブス・インディア」の元記事に掲載されています。知名度は、ツイッターのフォロワーがどのくらいいるか、とか、いろんな側面から分析されて判断されているようです。なお、インドルピーのレートは現在1Rs=1.8円なので、日本円で考える時は2倍弱として下さいね。

Dilwale.jpgPrem Ratan Dhan Payo Release Poster.jpg

1.シャー・ルク・カーン     25億7500万ルピー
2.サルマーン・カーン     20億2750万ルピー
3.アミターブ・バッチャン    11億2000万ルピー
4.マヘーンドル・シン・ドーニー 11億9330万ルピー
  (クリケット選手)
5.アーミル・カーン      10億4250万ルピー
6.アクシャイ・クマール     12億7830万ルピー
7.ヴィラート・コーフリー    10億4780万ルピー
  (クリケット選手)
8.サチン・テーンドゥルカル   4億ルピー
  (クリケット選手)
9.ディーピカー・パードゥコーン  5億9000万ルピー
10.リティク・ローシャン     7億4500万ルピー

ほとんどがボリウッド俳優とクリケット選手なのですが、南インドのスターで一番最初に登場するのは36位のマヘーシュ・バーブー。ただし、次に付けている37位のダヌシュは今年41位アップの大躍進だとか。俳優以外で一番最初に名前が出てくるのは14位の作曲家A.R.ラフマーン、監督では44位のカラン・ジョーハル、歌手では29位のヨー・ヨー・ハニー・シン、テレビタレントでは27位のカピル・シャルマーとなっています。さて、あなたの好きなスターは何位にランクインしているでしょう? 

 

奈良にお邪魔します@なら国際映画祭シネマテーク『マダム・イン・ニューヨーク』

$
0
0

「奈良尾花劇場」さんがツイッターでつぶやいて下さったのに便乗して、ちょっと告知を。来年早々、1月9日(土)に奈良にお邪魔します。

奈良では、なら国際映画祭が毎年9月に開催されています。始まったのは2010年で、奈良と縁の深い河瀬直美監督をエグゼクティブ・プロデューサーに迎え、隔年に映画祭を開催しています。インド映画も上映されており、2014年の第3回なら国際映画祭ではナワーズッディーン・シッディーキー主演の『Liar's Dice/ライアーズ・ダイス』(2013)と、『Papilio Buddha』(2013)が上映されました。拙ブログでも、こちらで紹介しています(ありゃ、盛大に文句も書いていますね、スミマセン)。そのほか、本年のプレイベント「星空上映会」では、『デリーに行こう!』(2011)が上映されています。なら国際映画祭の公式サイトはこちらですが、これまでの上映作品などはこちらのWiki記事の方がわかりやすいかも知れません。

そのWikiの記事にもあるように、なら国際映画祭では2013年から毎月、奈良市内のいろんな施設を会場に「シネマテーク」という名前の上映会を行っています。その、2016年幕開けの作品に選ばれたのがインド映画『マダム・イン・ニューヨーク』(2012)で、上映が行われる1月8日(金)、9日(土)、10日(日)のうち、9日の2回の上映時に私がお邪魔してトークをすることになりました。上映の詳細はこちらをご覧下さい。

(C)Eros International Ltd 

トークの内容はまだ打ち合わせをしていないのですが、映画について、インドにおける英語について、女性の地位について、主人公シャシがとっかえひっかえ着て現れるサリーについて、主演女優シュリデヴィ(下2枚は昨年の来日時の彼女です)について等々、この映画ならいくらでもお話ができます。多分Q&Aもあると思いますので、ぜひいろいろ聞いて下さいね。


そして、今回奈良に行く楽しみのもう一つは、今はなくなってしまった映画館尾花座の足跡を辿ること。実は、なら国際映画祭のスタッフの方の中に関係者がおいでになり、そのご縁で宿泊先も尾花座跡にあるホテルにしていただけるのです。そこには、「われらが尾花座ここにあり」という、桂米朝さんの揮毫による碑があるのですが、今は亡き米朝さんは私の出身校の先輩であるという、まあいろんなご縁がありまして。


尾花座に関する詳しい情報はこちらをご覧いただくとして、読んでおられる皆さんは、「あれ、尾花座ってこの記事の最初に出てきた名前では?」と思われたに違いありません。そうなんです、実は実は、『マダム・イン・ニューヨーク』(と、あと大胆不敵にも『ダバング 大胆不敵』も)を買ってしまった方のツイッターが「奈良尾花劇場」なんですね。この方のブログ「ボリウッド映画を買ってみました」には、尾花座とのご関係を解き明かす記述もあります。というわけで、奈良とは縁の深い『マダム・イン・ニューヨーク』なのでした。

ところで、私と奈良のご縁は、と考えてみると、京都ほどには行っていないんですね。初めて奈良に行ったのは多分就学前で、歴史研究をやっていた父親に連れられて、何か展覧会を見に行ったのだと思います(下写真)。約60年前ですね~。それから、小学校の卒業旅行で行きましたっけ。

私の初奈良。残念ながら小雨模様でした

大阪にいた大学時代は、周辺部はうろちょろしたものの奈良市内には行かなかったように思うし、先日今井町に行った時も奈良市内には時間がなくて行けなかったし。というわけで、久々の奈良市内訪問に期待も高まるのでした。どこかオススメのスポットや、おいしいお店があったらぜひ教えて下さいね、奈良にお住まいの皆様。 

 

今年最後の?南インド映画上映会

$
0
0

20日の『Bajrao Mastani(バージーラーオ・マスターニー)』の上映で終わりかと思っていたインド映画自主上映会、まだまだ年内がんばります。Periploさんからいただいた情報ですが、『バージーラーオ~』の上映を主催するスペースボックスがもう1本、年内にタミル語映画を上映することが決まりました。詳細は以下の通りです。 

『Thangamagan(黄金の息子)』
(2015年/タミル語/140分/英語字幕)

CQ9ZUU0UkAAFPkg.jpg

 監督:ヴェールラージ
 主演:ダヌシュ、サマンタ、エイミー・ジャクソンほか

■日時:2015年12月23日(水・祝)  14:00~
■会場:埼玉県川口市、SKIPシティ・彩の国Visual Plaza アクセス
■料金:大人2,300円

■主催:スペースボックス HP 予約はこちらから。

監督のヴェールラージはカメラマンとして活躍してきた人で、タミル語映画だけでなく、ヒンディー語映画、マラヤーラム語映画、カンナダ語映画の撮影も担当してきています。監督としては本作が2本目で、監督第1作は今回と同じダヌシュ主演の『Velaiilla Pattadhari (失業中の大卒男)』(2014)。これは昨年8月にシンガポールで見ましたが、なかなかうまい作りの映画でした。こちらでご紹介してあります。さて、お相手がエイミー・ジャクソンに代わった今回の作品はどうでしょうね~。予告編を付けておきますので、ダヌシュ・ファンの方はぜひどうぞ。

Thangamagan - Official Trailer | Dhanush, Amy Jackson, Samantha | Anirudh Ravichander

『Thangamagan(黄金の息子)』の現地公開は12月18日(金)の予定、ということは、『Bajrao Mastani』や『Dilwale(心ある人)』と同時公開なんですね。ちょっと分が悪いですが、「チェンナイ水害の影響で封切りは来年になるかと思っていましたが、やはり現地で待ち望む声が高いのだと思います」とはPeriploさんのお話。ご存じの方も多いかと思いますが、先月末から今月初めにかけてチェンナイ付近では雨が降り続き、各所で洪水被害が出ました。2週間ほど前のチェンナイは、こんな状況だったのです。

Rescue with Fishermen @ Ramapuram, Chennai | Tamil The Hindu

今は水もほぼ引いたようですが、日本の保険会社によるこちらの報告書のように、今後衛生面などでまだまだ南インドの人々の苦労は続きそうです。ダヌシュやラーナー・ダッグバティー、シッダールトらが救援活動に従事、というこんな記事もあり、ダヌシュの本作がタミルの皆さんを力づけてくれることを願っています。彼らのほか、ダヌシュの義父であるラジニカーントを始め、多くの南インド映画スターも救援活動や募金活動に立ち上がっています。がんばれ、タミルの皆さん!


 

そろそろ年末総決算:ボリウッド映画主演女優賞候補

$
0
0

先日のYahoo! Indiaの配信記事に、「Striking Female Performances of 2015!(2015年に目を奪った女優の演技)」という紹介があり、5人の女優が選ばれていました。なるほど~とかなり納得できるラインアップでしたので、ちょっとご紹介したいと思います。まずはそのラインアップをどうぞ。番号は特に順位というわけではありません。

1.アヌシュカー・シャルマー 『国道10号線(NH10)』
2.ディーピカー・パードゥコーン 『ピクー(Piku)』
3.リチャー・チャッダー 『Masaan(焼き場)』
4.カングナー・ラーナーウト 『Tanu Weds Manu Returns(続・タヌはマヌと結婚する)』
5.カルキ・ケクラン 『マルガリータで乾杯を!(Margarita with a Straw)』

3作品は日本でも公開、あるいは映画祭上映されたので、ご覧になった方も多いかも知れません。でも、未見の方もいらっしゃるかと思うので、次にそれぞれの予告編をアップし、ちょっと説明を書いておきます。

1.アヌシュカー・シャルマー

Official release poster

  『国道10号線(NH10)』
   監督:ナウディープ・シン
   共演:ニール・ブープラム、ディープティ・ナヴァル、ダルシャン・クマール

NH10 Official Trailer | Anushka Sharma, Neil Bhoopalam, Darshan Kumaar | Releasing 13th March

サスペンス映画ばやりのボリウッドで、女性が主人公となったサスペンス映画として話題をよんだ作品です。トップスターはアヌシュカー1人と言ってよく、製作者としても本作にかかわったアヌシュカーはインドでの公開にあたっても大活躍でした。都会の新婚夫婦が田舎に旅行に行き、正義感からつい関わってしまった村の出来事ゆえに大変な目に遭う、というストーリーで、かなりイタい描写も。「目には目を」をあからさまに描いていてあまり好きな作品ではないのですが、アヌシュカーの演技は一見に値します。


2.ディーピカー・パードゥコーン

Piku.jpg

  『ピクー(Piku)』
   監督:シュジート・サルカール
   共演:アミターブ・バッチャン、イルファーン・カーン

PIKU Motion Se Hi Emotion Official Trailer | Amitabh Bachchan, Deepika Padukone, Irrfan Khan

ディーピカーの最近の活躍ぶりはもう言うことなし。大作から、ちょっとクセのある『ピクー』のような作品まで、軽やかに境界を越えて作品に溶け込んで行きます。頑固な父親と暮らす建築デザイナーに扮した本作も、ベンガル娘に見えないところはちょっとマイナスであるものの、ディーピカーにしか出せない味で大物2人を相手に映画をリードしていきます。


3.リチャー・チャッダー

Masaan poster.jpg

  『Masaan(焼き場)』
   監督:ニーラジ・ガーイワン
   共演:ヴィッキー・カゥシャル、サンジャイ・ミシュラー

Masaan Official Trailer | Richa Chadda, Sanjay Mishra, Vicky Kaushal & Shweta Tripathi

アート系作品で、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で上映されたほか、プサン国際映画祭など多くの映画祭で上映されました。舞台はガンジス川沿いの聖地ベナレスとアラーハーバード。冒頭ホテルでベッドインしようとしていたリチャーたちのところに警察が踏み込み、相手の男は自殺してしまう、というショッキングな事件が起きます。リチャー演じる女性はその後様々な苦難に直面するのですが、この彼女と共にもう1人の主人公がベナレス出身でアラーハーバードの大学で学ぶ青年。彼はベナレスの焼き場で働く家系の出、ということで、重い背景を抱えた2人の主人公が描かれていきます。リチャーの押さえた演技が光る作品です。


4.カングナー・ラーナーウト

Tanu weds Manu poster.jpg

  『Tanu Weds Manu Returns(続・タヌはマヌと結婚する)』
   監督:アーナンド・L・ラーイ
   共演:R.マーダヴァン、ジミー・シェールギル

Tanu Weds Manu Returns | Official Trailer | Kangana Ranaut, R. Madhavan

『Tanu Weds Manu(タヌはマヌと結婚する)』(2011)の続編で、前作ではカングナーのぶっ飛んだ演技が素晴らしかったのですが、そのぶっ飛びキャラでマーダヴァンを見事に射止め、結婚するまでが描かれました。そして今回は何と二役で、それぞれのキャラを見事に演じ分け、タヌとスポーティーなクスムとでそれぞれに見せ場を作っていく彼女の演技はさすがです。これ1作ではいまいち面白さがわからない方は、ぜひ前作と一緒にご覧になることをオススメします。


5.カルキ・ケクラン

  『マルガリータで乾杯を!(Margarita with a Straw)』
   監督:ショナリ・ボース
   共演:レーヴァティ、サヤーニー・グプター、ウィリアム・モーズリー

本作は皆さん、もうご覧になったはず。9月にはカルキ・ケクランがショナリ・ボース監督と共に来日、多くのインタビューに登場しました。このブログでも取り上げましたので、こちらをどうぞ。脳性マヒの女子大学生で、でも障がいをまったく感じさせない魅力的な主人公像は、カルキの演技があったればこそ。シネスイッチ銀座での上映は12月18日で終わりましたが、まだまだ全国での公開が予定されています。公式サイトをご覧の上、まだの方はぜひお近くの劇場にお運び下さい。

インド発の感動作が日本上陸!映画『マルガリータで乾杯を!』予告編

さて、来年早々行われる様々な映画賞での主演女優賞の行方は? 賞レースも含めて、年末年始の「2015年アジア映画総決算」の記事を随時アップしていきますのでお楽しみに。


 

2016年アジア映画の幕開けは『最愛の子』で

$
0
0

2015年もあとわずかとなりました。今年もたくさんの秀作を見られて幸せでしたが、来年も見応えのある作品が次々と公開される予定です。まずはその中から、中国と香港の合作である『最愛の子』をご紹介しましょう。すでに第16回東京フィルメックスでご覧になった方も多いかと思いますが、ピーター・チャン監督の本作は見事フィルメックスで観客賞を獲得しました。映画のデータは以下の通りです。

『最愛の子』   公式サイト
 中国・香港/2014年/中国語/130分/原題:親愛的

 

 監督:陳可辛(ピーター・チャン)
 主演:趙薇(ヴィッキー・チャオ)、黄渤(ホアン・ボー)、佟大為(トン・ダーウェイ)、郝蕾(ハオ・レイ)、張譯(チャン・イー)
 配給:ハピネット、ビターズ・エンド
 宣伝:ビターズ・エンド、シャントラパ
※2016年1月16日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

(C)2014 We Pictures Ltd.

最初の舞台は、先日大規模な土砂崩れがあった中国南部広東省の都市深圳。香港に隣接したこの都市は経済特区になっており、21世紀に入って発展著しい場所です。そこでネットカフェを営むティエン(ホアン・ボー)は妻ジュアン(ハオ・レイ)と離婚し、3歳の息子ポンポンを引き取って2人で暮らしています。ジュアンは離婚後再婚していますが、息子ポンポンと週1回会う権利を行使し、この日も一緒に過ごしたあとポンポンをティエンの店まで送ってきました。母が去ったあとポンポンは近所の友達に誘われてスケートを見に行き、そこで母が車で帰る姿を見かけて、つい追いかけてしまいます。

(C)2014 We Pictures Ltd.

夕方になっても帰宅しないポンポン。心配したティエンは必死で探しますが、警察は誘拐かどうかまだわからないからと動いてくれません。連絡を受けたジュアンも一緒になって捜したにもかかわらず、手がかりはまったくなし。2人は激しく自分を責めます。こうして消えてしまったポンポンの行方を追って、ティエンとジュアンは同じような体験をしている親の会に参加したり、似ている子がいる、と連絡を受けると遠くまで確認に行ったりと、悪夢のような日々を過ごすことになります。そして3年後、確実な情報を得て親の会の世話役ハン(チャン・イー)と共に安徽省の村に向かったティエンとジュアンは、農家の主婦リー・ホンチン(ヴィッキー・チャオ)の息子になっているポンポンを見つけ、連れ戻そうとするのですが....。

(C)2014 We Pictures Ltd.

以前、このブログで劉徳華(アンディ・ラウ)が主演した『失孤』(2015)という映画を紹介したことがありますが、それと同じ問題、誘拐による子供の失踪を扱った作品が『最愛の子』です。私が『失孤』を見たのはまだ『最愛の子』を見ていない時で、『最愛の子』は今夏東南アジアへ旅行した時に機内で見たのですが、『失孤』以上に胸しめつけられる作品で小さな画面に見入ってしまいました。今回スクリーンで見直してみてさらに深く引きつけられたのですが、それは実に巧みな脚本のせい。本作では、前半は子供を突然奪われた親たちの側に立って、理不尽な事件への悔しさ、哀しみ、焦燥感などを描いていきますが、後半は奪った側の親を主人公に据え直し、その心情をかっちりと描いていくのです。

(C)2014 We Pictures Ltd.

ヴィッキー・チャオが演じる農婦ホンチンは、夫が連れ帰ったポンポン、それからもう1人の女の子を、愛情を込めて育てています。子供ができなかったホンチンにとっては、自分のお腹を痛めていなくても、2人とも自分の元にやってきた大事な我が子。特に夫が死亡してからは、大切な家族として2人を慈しんできたのです。それゆえに、ティエンとジュアンの行為はホンチンにとっては無理矢理の連れ去り、つまり誘拐にほかならなかったのでした。下の女の子まで警察に連れ去られ、児童養護施設に入れられてしまったホンチンは、弁護士(トン・ダーウェイ)を雇い、子供を取り戻そうとします...。

(C)2014 We Pictures Ltd.

こんな風にピーター・チャン監督は、どちらが善でどちらが悪という描き方をせず、翻弄される親子の関係とそれによる彼らの葛藤を丁寧に辿っていきます。それもそのはず、本作は実際にあった事件に基づいており、描かれたエピソードもほぼ事実のようで、唖然とするシーンもしばしば登場します。俳優陣も、コメディ演技を封印したホアン・ボーに、ノーメイクで安徽省訛りの中国語をしゃべるヴィッキー・チャオ、さらにハオ・レイやチャン・イーも含めて泥臭いまでに主人公たちになり切って迫真の演技を見せてくれ、見る者の心に強く訴えかけてきます。驚きが待つラストまで、ぐいぐいと引っ張られてしまう作品でした。

(C)2014 We Pictures Ltd.

中国で行方不明になる子供は、年間20万人にも及ぶとか。幼児誘拐は様々な社会的要因があって起こる事件だと思いますが、絶対に起きてはいけない事件と言えます。『最愛の子』や『失孤』のような作品が世に出ることで、人々の関心が高まってそんな事件が根絶されるといいのですが。

生みの親と育ての親の葛藤が胸に突き刺さる!映画『最愛の子』予告編

今年相次いで起きた大事故といい、まだまだ成熟しているとは言いがたい中国社会ですが、子を思う親の気持ちは日本と同じ。いや、日本以上に強いとも言え、本作での表現は親子の情愛の深さを見せつけてくれます。新しい年の初めに見ておきたい、ズンと心に響く作品です。


 

Viewing all 2373 articles
Browse latest View live