本日5月3日(土)からいよいよ、渋谷シネマライズにて、『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』が公開となりました。公式サイトはこちらです。劇場のサイトはこちらで、上映時間、マサラ上映のご案内など、詳しく出ていますのでご参照下さい。
本作の監督はボリウッド映画界のセレブにして人気者のカラン・ジョーハルですが、彼の絶大なる信頼を得て、『マイ・ネーム・イズ・ハーン』 (2010)に続いて編集を担当しているのがディーパー・バーティヤー。以前、『スタンリーのお弁当箱』でアモール・グプテー監督とその息子で主演のパルソー君にインタビューした時、パルソー君ママであるディーパー・バーティヤーにもちらと登場してもらいましたが、3月にインドに行った時に機会をつかまえて、アモール・グプテー監督の事務所でインタビューをお願いしました。
Q:大学で映画学のコースを選択なさったそうですね。
ディーパー:昔から映画を見るのは好きだったんですが、映画を自分の研究対象として自覚したのは、大学卒業後に大学院に入ってからです。広報、広告、映画学のうちどれかのコースを取らなくてはいけなかったんですが、私は映画学を選び、古典的な作品や名作とそこで初めて接しました。それまでは、アミターブ・バッチャンやリシ・カプールらの娯楽作品を見ていたわけですね。ジャン・ルノワールや黒澤明などの優れた映画に接してみて、まるでそれらの作品が自分を迎え入れてくれるように感じ、もう映画の世界以外には自分の居場所が考えられなくなりました。この時に見た作品にはいろいろ影響を受けましたね。『大地のうた』とか『羅生門』とか、そういう作品を見るたびに自分が自由になっていく感覚を味わいました。
Q:その後編集という仕事を選ばれたのはどうしてですか?
ディーパー:卒業後は、しばらくゴーヴィンド・ニハラーニー監督(注:カメラマンから出発した、芸術映画系の監督)のもとで働いていたんです。監督助手の仕事をしていたんですが、ある時そこに新しい編集システムが導入されました。ところが、編集担当者がとてもルーズで、勝手に休んだりして、編集が全然進まなかったんです。そしたらニハラーニー監督から、「君、編集をやってくれないか」と言われて。編集なんてやったこともないので、とりあえず1日編集室にこもってみました。私が編集したものを見た監督は、「いいじゃないか。君は編集者になるべきだよ」と言ってくれたんです。ですので、編集の才能を発見したのは私自身ではなくて、ニハラーニー監督なんですね。
Q:それで、編集者としての最初の作品が、ゴーヴィンド・ニハラーニー監督の『1084号囚人の母(Hazaar Chaurasi Ki Maa)』(1998)になったわけですね。ニハラーニー監督はどんな人ですか?
ディーパー:素晴らしい人です。いつもスタッフ全員を家族のように遇してくれます。1日の撮影が終わると、全員を彼の車で家まで送ってくれるんです。こんな業界なのに、まるでみんなを子供のように守ってくれる、やさしくて心の広い人ですね。私は彼のお陰で一人前になれたと思っています。
Q:編集者としてデビューして以降はどうでした?
ディーパー:『1084号囚人の母』の次は、同じくニハラーニー監督の映画『タクシャク神(Takshak)』(1999)、それから彼のテレビ映画やもう1本の映画も担当しました。この4本が、私のキャリアの出発点と言えますね。
Q:続いて、ジャヌー・バルア監督の『私はガンディーを殺していない』(2006)の編集を手がけてらっしゃいますね。
ディーパー:そうです。ニハラーニー監督との仕事のあと、自分の編集は感覚だけでやっているのでは、と思うようになったんです。正式に編集を勉強したわけでもないし、もっと技術を身につけないと、と思って、自分自身を訓練する必要性に駆られました。本をたくさん読んで、映画もいっぱい見て研究しました。いろんな訓練を自分に課して、やっと編集とは何かがわかったように思います。ちょうどその頃息子も生まれて(注:パルソー君は2001年生まれ)、その後に仕事を再開したのです。
Q:それから、『地上の星(Taare Zameen Par)』(2007)、『ロック・オン!(Rock On!)』(2008)と続きますね。
ディーパー:『地上の星』は、メインストリーム映画(注:商業映画の主流作品)への第1歩となりました。1人の大スターを中心に映画を作っていくという、メインストリーム映画のやり方を初めて体験することになったわけです。でも、その次の『ロック・オン!』もそうですが、『チェンナイ・エクスプレス(Chennai Express)』(2013)のような作品とはちょっと違っています。『チェンナイ・エクスプレス』のような作品のオファーもいっぱい来るのですが、それとは違った、もっと自分に近しい文法の映画というか、そういうものの方が自分には向いているみたいです。あまりにも商業主義的すぎる作品よりは、何か意味のある内容を持つ映画の方が、私は愛情を込めて編集することができるんです。『ロック・オン!』のアビシェーク・カプール監督作品などは、まさにそうですね。
Q:そして次に、『マイ・ネーム・イズ・ハーン』(2010)でカラン・ジョーハル監督からお呼びがかかったわけですね?
ディーパー:(笑って)その通りです。『ロック・オン!』を見て私の編集が気に入ったそうなんですが、カラン・ジョーハル監督の作品はメイン・ストリームの王道作品じゃないですか。豪華絢爛な映画、という感じで、そんなのとてもできないわ、と思いました。でも、カランは、『マイ・ネーム・イズ・ハーン』ではこれまでの作品とは違ったものを目指していたんです。それを聞いて納得しましたし、9.11事件で多くのイスラム教徒がつらい目にあったことも知っていたので、この作品は絶対に作られるべき重要な作品だと思いました。
それで一緒に仕事をし始めてみると、カランがとても素敵な人だということがわかったんです。本当に驚くべき人で、もうすっかり彼という人物に惚れ込みました。この人のためなら何でもやろう、と思いますし、一緒に仕事をするのがすごく楽しいんです。『マイ・ネーム・イズ・ハーン』でも全面的に任せてくれて、充実した仕事ができました。
Q:編集者として映画に関わる時は、どの辺りから参加なさるのですか?
ディーパー:製作の、かなり早い時点から加わります。実際には、撮影が始まる前からですね。脚本を読んで、アクションシーンが長すぎるとか、脇の話が効いていないとか、いろんな意見を言います。いったん撮影が始まってしまうと、脚本を修正することは難しく、それはあとでの編集にも響いてきますからね。撮影が始まると、1日に6〜9シーンが撮られるわけですが、それらを繋ぎながら、監督からの「どんな感じ? どう見える?」という質問に答えていきます。重要なシーンでは監督にラッシュを見せて、「ここがよくわかりませんね」とか言ったりもします。
でも、普通、その監督をよく理解していれば、編集もスムーズに行くものです。お互いにいい関係で、相手を尊敬していたら自分のエゴは出さないわけですし、そうするといいものが出来上がっていきます。自分の我を通そうとすれば、作品の質も下がってしまいますからね。幸いなことに、私はそんな監督には一度も当たったことがなくて、いつもいい仕事をさせてもらっています。映画というのは監督のものでもなく、編集者のものでもありません。全員が一緒に作り上げるもので、それぞれがベストを尽くし、いい関係を作り上げて、完成させるのが映画です。
ⓒ2012 EROS INTERNATIONAL MEDIA LIMITED
Q:『スチューデント・オブ・ザ・イヤー』ではデーヘラードゥーンでロケが行われましたが、その時も参加なさったんですか?
ディーパー:私はムンバイにいて、送られてくる映像を編集していました。カランとはお互いにすごくよく知っているので、彼の映像をどう編集すればよいのかもすっかりわかっています。どうすれば滑らかな編集になるかを考えながら、私はただ眺めて画面を楽しむだけでよかったんです。私がつないだのをカランが戻った時に見せて、お互いに意見を交換し合い、何シーンか完成したところで全体のミーティングを開き、また検討します。そして全体を撮り終えてから、また細部に磨きをかけていくわけです。そこが編集者の腕の見せどころというか、一番やりがいのある期間でもありますね。それぞれの独立したシーンを繋ぎ合わせて、エンターテインメント性などを持たせる、それはとても素敵なプロセスで、まさにマジックと言えます。
Q:編集期間は、普通どのくらいかかるんですか?
ディーパー:編集だけだと、6〜8ヶ月というところでしょうか。映画製作自体は、撮影を始めてから完成まで1年ぐらいかかりますね。でも、豪華な作品だと撮影自体にも長く時間をかけることになりますから、もっと時間がかかりますね。
ⓒ2012 EROS INTERNATIONAL MEDIA LIMITED
Q:インド映画で特徴的なのは、ソング&ダンスシーンがあることだと思いますが、この「ミュージカル」シーンの編集はどうですか?
ディーパー:(笑いながら)私、ソング&ダンスシーンの編集がとーっても好きなんです! 芸術系の映画では味わえない、大いなる楽しみというところですね。ソング&ダンスシーンは、心底楽しめる、ユニークな様式だと思います。今は歌もリップ・シンクロ(注:画面で主人公が歌うのに音を合わせる)よりも、『わが人生3つの失敗』(2013)のようなBGM使用が多くなっています。欧米の映画のように、ストーリー上歌が必要とされない作品が増えているわけですね。だからよけいに、ソング&ダンスシーンの編集があると嬉しくなるんです。『スチューデント・オブ・ザ・イヤー』は豪華なソング&ダンスシーンがいっぱいあって、尺も長かったから、これはすごい、と思いました。他の映画では真似できませんよね。あのディスコの曲とか、音楽も振り付けも大好きです。
Q:ああいう歌のシーンの編集は、どうすれば可能になるんですか?
ディーパー:それは、歌を聞いてイマジネーションを膨らませると同時に、客観的にそれを眺めてみて、どうすればこれまでにないシーンにできるかを考えてみるんです。全体の流れと、その中で浮かぶ斬新なものを掴んで、それを発展させていくという感じで、何かを掴まえる、というのが一番難しい作業かも知れません。うまく言葉では言えないんですが、それを捉えることが大事なんです。自分と素材との間で起こる、とても個人的な闘い、という感じでしょうか。一生懸命やってみていれば、何かが掴める瞬間がやって来ます。それで、他の人とは違った仕事ができることになるんですね。
Q:『スチューデント・オブ・ザ・イヤー』の編集の時は、特に気をつけた点とかありましたか?
ディーパー:この作品は、そんなに深刻な映画じゃないでしょ。何もかも忘れて楽しめる映画で、技術さえあれば誰にでも編集出来る作品だと思います。カランとの人間関係があったので私も引き受けたんですが、彼のスタイルを重視すればそれでいいという作品でした。全体をクールに仕上げて、ソング&ダンスシーンをうまく繋いで、レースのシーンを盛り上げて....。だから、全然大変じゃなく、楽しんでやりました。
ⓒ2012 EROS INTERNATIONAL MEDIA LIMITED
Q:カラン・ジョーハル監督作品は、ソング&ダンス・シーンにいつも力が入ってますよね。
ディーパー:特に『スチューデント・オブ・ザ・イヤー』のソング&ダンスシーンは、たくさん入ってますからね。カランはソング&ダンスシーンを見せ場にしたいので、山ほど素材を撮影するんです。セットも豪華ですしね。見せ場なので編集にも時間をかけて、カラン・ジョーハル・スタイルというか、派手なシーンにするよう心がけました。特にクラブ・シーンは、エネルギーいっぱいのキラキラした撮り方だから、それが出るような編集にしたりとか、これまでの編集経験を総動員して完成させました。
Q:カラン・ジョーハル監督は、ダンスシーンでいつも手前に人とか柱とかを入れますよね。
ディーパー:スケール感を出すためですね。前の方に何かがあると、奥行きが出るでしょ。カランはすごく才能のある監督です。登場人物のキャラクターを深く理解していて、何かが足りないと思うと、必ずピッタリのものを出してきてくれます。彼が描こうとするものはいつだってドンピシャで、映画が要求するものをとてもよく知っている監督です。優れた商業映画監督だと思うし、それ以上のものを持っている賢い人だと思います。『ボンベイ・トーキーズ(Bombay Talkies)』(2013)(注:インド映画百年を記念して作られたオムニバス映画)の編集も担当しましたが、カランのパートはホモ・セクシュアルを扱ったとても難しい作品でした。でも、それを美しく観客に呈示するなど、彼はインド映画にとって本当に重要な監督だと思います。監督の仕事の一方で、自分の製作会社では作品を作り続けているし、とても才能のある人ですね。
Q:テレビ番組のホストもしてますし、才能ありすぎですね。
ディーパー:本当にそうです。それから彼は、いろんな人に援助の手も差し伸べてくれるんです。『スタンリーのお弁当箱』(2011)の時だって、配給の目処がつかなくて困っている私たちに、たくさんの配給会社を呼び集めて試写をしてくれたのは彼でした。素晴らしい映画だと気に入ってくれて、それだけで、どうしていいかわからなかった私たちを助けてくれたんですよ。彼の助けがなかったら、『スタンリーのお弁当箱』は世に出なかったと思います。友人や知人を助けるのが、彼の生き方のモットーみたいですね。
ⓒ2012 EROS INTERNATIONAL MEDIA LIMITED
Q:『スチューデント・オブ・ザ・イヤー』撮影時で、何か面白いエピソードとかありましたか?
ディーパー:忘れられなかったのは、シッダールト・マルホトラとヴァルン・ダワンのケンカのシーンですね。シッダールトが力を入れて殴りすぎたものだから、ヴァルンが鼻をケガしてしまって、3週間撮影がストップしてしまいました(笑)。まあ、撮影ではよくあることですけど。でも、この映画で主演した3人は、すぐに続いて主演作が作られています。アーリアー・バットは『ハイウェイ(Highway)』、シッダールトは『美女にご用心(Hasee Toh Phasee)』、ヴァルンも『僕は君のヒーロー(Main Tera Hero)』が控えています。『スチューデント・オブ・ザ・イヤー』がとてもいいスタートになった、という証拠ですよね。これからみんな、大スターになると思います。
Q:ところで、ご主人のアモール・グプテー監督の新作はどうなりました?
ディーパー:今、編集しているのがそれです。タイトルは『ハワー・ハワーイー(Hawaa Hawaai)』になりました。
Q:あら、シュリデヴィ主演の『Mr.インディア』(1987)の歌の題ですね。
ディーパー:アハハ、そうです。インライン・スケートに夢中になる子供たちの話なんですが、インライン・スケートなんてお金持ちの遊びでしょう? 村から出て来た、パルソーが演じる少年とかがやってみたいと思って、いろんな物を集めて手作りをするんです。そしてそのスケートに「ハワー(風)・ハワーイー(風の)」と名付ける、という物語で、パルソーは村の生活を体験したりしてがんばりました。公開は、5月9日からの予定です。
Q:ぜひ、見てみたいです〜。今日はお忙しいのに、どうもありがとうございました。
『スチューデント・オブ・ザ・イヤー』に少し遅れてインドで公開される『ハワー・ハワーイー』、予告編はこちらです。日本でも公開されるといいですねー。